natural


 二人きりの部室は、とても静かだ。
 時々相手の視線を感じる。けれど、見られているという気はしない。ああ、いるな、ただそう思うだけだ。
 そんな時間は、時々訪れる。
 今日は足首を捻ったらしい菊丸を送って大石が先に帰ってしまったから、手塚は一人で部活の記録をつけていた。手に持った文庫本に微笑みかけているように見える不二は、姉が迎えに来るのを待っているのだと言う。
「部室が一番落ち着くからね」
 そう言って不二は穏やかな笑みを浮かべた。
 お互いに、相手に構わず自分の時間を過ごす。ただ、時々、相手の存在を感じる。
「──どうした?」
 視線を感じる時間がいつもより長い。顔を上げないまま、手塚は口を開いた。
「うん。──どうしてかなって思って」
「どうして?」
 聞き返すと、笑う気配。きっとわずかに首を傾げている。
「君のそばが一番落ち着く。──ヘンだよねえ。やっぱり僕って変わってるかな」
 手塚は手をとめ、一瞬だけ顔を上げて不二を見た。
「お前が変わっているというのには賛同するが、それと俺とは関係ないだろう」
「そう? だって手塚だよ?」
「──どういう意味だ」
 眉をひそめて問い返すと、怒られるから言わないと不二が笑う。手塚はペンを置いて不二に向き直った。
「手塚がそばに来ると安心する。ありのままって言うのかな、すごく、自然な感じ」
「──それが、お前のありのままなのか?」
「うん、そうだよ」
 何度となく見たその微笑み。手塚は小さく息をついた。
「ありのままっていうのは、もっとわかりやすいものを言うんじゃないのか?」
「僕、わかりにくい?」
「少なくとも、わかりやすいとは言わないと思うが」
「そう? 最近、こんなに単純な人間だったんだって自分を見直してるんだけど」
 単純。不二周助にこれほど似合わない言葉もそうはないだろう。鋭い闘志を隠す、つかみ所のない、穏やかな笑顔。
「俺にわかるのは、お前のそれが愛想笑いかそうじゃないかくらいだな」
 考えた末に口を開くと、不二は一瞬真顔になり、やがてふわりと微笑んだ。笑顔の花が咲くという表現はこういうときにも使うのだろうか、手塚は見とれながら考えていた。
「──じゃあ、今は?」
 皆といる時より、こうして二人でいる時の方が笑顔が綺麗だと思うのは、錯覚だろうか、それとも。
「……俺の自惚れかも知れないぞ」
「さっきから言ってるじゃないか、君のそばが一番落ち着くって」
「そうだな。──俺もお前といると、妙に肩の力が抜ける」
「そう? じゃあついでに頬も緩めてみたら?」
 ほんのついでといったその言い方に、手塚は思わず苦笑をもらしていた。




                               fin.





こめんと(byひろな)     2002.5.31

のんびり塚不二(笑)。ていうか塚不二一歩手前?(笑)
──────これでこの人たち告白したつもりなんですとか言ったらやっぱり怒られますかねぇ……?(^^;)
告白って言うか、君は大切な人なんだよ、って。──やっぱ告白じゃん(笑)。
ある意味、私の理想の塚不二像です。こんな感じ。自然にね、そばにいるの。それが当たり前のことのように。いないと不安なワケじゃなくて、でもいると、なんか安心、ちょっと嬉しい。いいな、そういう関係、憧れます。……つまり私の理想の“特別に大切な人”の在り方でもあります。

中学生だから、まだコドモだからさ、いろいろ悩んだり不安がったりがっついてたり(笑)するのもいいけど、こういうのも、たまにはいかがですか?





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