プレゼント−タカフジside


「ねーフ〜ジ」
「……何?」
 いつも以上に弾んだ声で、英二は不二の机の上に肘をつき、上に乗せた顔ににんまり企み笑顔を浮かべてみせた。朝練で汗をかいて乱れた髪もまた綺麗に整えられて、気まぐれな言動に合わせて揺れている。──なんで今更朝練にまで参加しているのかと言ったら、それはもう、身体と心の栄養補給としか、言いようがない。
「あんさ、もーすぐタカさんの誕生日じゃん。フジは何あげんの?」
「…………ひみつ」
 にっこり返した不二に、英二が唇をとがらせた。
「えーっ、なんでだよ、いいじゃん減るモンじゃないし! ──って、え、まさかナンか減るモン!?」
「……減るものって、いったい何を想像してるんだか……」
 ため息をついて、不二は色の薄い瞳で大げさに驚く英二を見やった。
「そういえば、英二ももうすぐ誕生日だよね」
「うん、そー。タカさんの10日後だよ、覚えといてねん♪」
「──ああ、そうか。そういう前振りだったんだね……」
「ん?」
「期待してるトコ悪いけど、僕の答えは参考にならないと思うよ」
「ふぇ?」
「とぼけてもダメ。僕が河村にあげるプレゼント訊いて、自分の誕生日に越前君におねだりしようと思ってたんじゃないの?」
「う゛。……やっぱバレたか」
「当然」
 咎める眼差しを向けられても、英二は悪びれた風もなく笑みを浮かべている。不二は微かに苦笑して、顔をうつむけたまま英二の額に自らのそれをくっつけて、まだやわらかい頬をむにっと摘んでひっぱった。
「──った! 痛い痛いフジ!」
「英二、分かってるだろうけど僕たちまだ中学生なんだよ。越前君にいたっては一年生、ちょっと前までランドセル背負ってた小学生だったんだからね」
「おチビはアメリカいたからランドセルじゃにゃいよ」
「減らず口言わないの」
「……いふぁい」
「だからね、『誕生日プレゼントはボクだよv』なんてことはありえないから、英二も可愛い後輩くんを困らせるようなことしちゃダメだよ」
 ダメだよ、のところで不二はまた指に力を込めた。女の子のような、とまではいかないが、小さな手をしているクセに不二は意外と力が強い。声にならない悲鳴を上げて、英二の大きな猫目に涙が滲む。
「わかったかな、発情期の仔猫ちゃん?」
「うう゛〜っ、だって恋の季節なんだからしょうがないじゃんかぁ〜〜っ!」
 喚く英二は夜な夜な鳴き喚くサカリのついたネコそのものだ、不二は思った。ちょっと変わったところのあるこの友人は、何を血迷ったか同じ男子テニス部の期待のルーキーくんにマジ惚れしているのだ。──とは言え、不二もあまり人のことは言えない。2年の終わり頃から何度かダブルスを組んだ河村と、言うなれば“恋人”の関係にあるのだから。
 不二は姉の影響かもともと恋愛に性別を問わない質だったが、手塚・大石に次ぐ常識人間の河村が、まさか同じ種類の想いを返してくれるとは思っていなかった。と、いうか、先に言ったのは河村だった。それが余計にびっくりした。
 地区予選、不動峰戦。何度目かのダブルスを組んで出場した試合で、河村は不二をかばって負傷した。なんであんなことを、と、珍しく不二が怒る口調で言ったら、河村は気がついたら身体が動いていたと答えた。不二には少しでもケガなんかさせたくないと。大きな体をちぢこませて、好きなんだと言われた。
 ──あれから半年。不二は、河村の大きな手がどんな風に自分の頬を撫でるのかを知っている。息を詰めた、一瞬だけのキスを知っている。
「恋の季節、ねぇ……」
 どうせいずれ知ることなんだから早く知りたいと思う反面、いずれ知るなら、まだ知らない状態を楽しみたいという気もある。強いと評判の相手と試合をしてみたいと思うのに似ている。思ってしまって、不二はため息をついた。
「フジ? どしたの、フジもオトシゴロ?」
「──なんでも自分の尺度でモノを考えないように」
「っ、たい! だからつねるなってばぁ〜! フジってむっつりスケベだろ!!」
「エージ、朝練のメニュー、足りなかったんならもう10周くらい走ってくれば?」
「ええっ、やだよ! どうせなら打ち合いしよーよ!」
「残念だけど、僕は振り払いたい煩悩なんか持ち合わせていないよ。越前君でも誘えば?」
「それって全然イミないじゃんか〜!」
 喚く英二に苦笑を返す。しょうがないな、と呟いて、不二は立ち上がった。結局自分は、いつのまにかこんなにもテニスを好きになっている。青学に来て良かった、と不二は思った。


*     *     *


「不二、あのさ、……こ、今度の日曜、空いてるかな?」
 未だに河村は、不二に誘いをかけるとき、清水の舞台から飛び降りるように緊張するのだと言う。
「うん、空いてるよ。──けど残念、先越されちゃったな」
「え?」
「僕が誘おうと思ってたのに。前祝い」
 くすりと笑うと河村が顔を赤くした。河村と一緒にいるのはとても和む。まるで、大木に寄りかかってひなたぼっこをしているような気がする。
「え、と。も、もしかして、……なにか、計画立ててくれてたり、した?」
「ん〜、まあそれなりに。でも河村の希望があるならそっちが優先」
「俺の希望って言うか……、いや、俺の希望なんだけど」
「どっちだよ」
「あ、あのさ! 不二、……日曜日、うちに来ないか?」
「え……?」
「親父の信念で、ふだんは自分の寿司を自分ちの食卓には出さないんだけど、俺と妹の誕生日だけは特別なんだ。──それで、よかったら不二も一緒にどうかと……」
 不二はさらに驚いて、思わず河村の顔をまじまじと見つめ返してしまった。
「いいの? 家族水入らずなんでしょう?」
「え、平気だよ! 親父たちも歓迎してくれたし」
「…………あのさ、河村?」
 困った。おそらく今の困惑は人生最大級だと不二は思った。まだ15年も生きてないけれど。
「うん、なに?」
「……つかぬことを聞くけど……ご家族は、僕たちのこと、…………ご存じないんだよね……?」
 たっぷり数十秒、河村は不二の言葉を反芻して、──そして一気に赤くなった。
 この純朴さが好きなのだけれど(バーニング状態の河村も、もちろん好きだ)、ちょっと困ったなぁと思いながら、しゃがみ込んでしまった河村の肩をぽんと叩いた。


「やっぱりおいしいね、かわむらずし」
 ご満悦といった様子で微笑む不二に、河村が照れた表情を返す。自室の入り口であるふすまを閉めるのに、後ろ手でなくきちんと向き合うのが河村らしい。
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しいよ」
「けど、いいのかな。まるで僕がお祝いされてるような気がするよ」
「そう?」
「うん。だって、僕ばっかり得してない?」
「そんなことないよ! 俺は不二がいてくれたらそれで、──あ」
「あのね、河村。そんな風に途中で恥ずかしがられると、僕も恥ずかしいんだけど……」
「あ、う、うん、……ごめん」
 また一段と赤くなって俯いた河村に、不二は小さく笑みを向けた。
「河村、改めて誕生日おめでとう」
 そう言って、不二は鞄の中から小さな包みをとりだした。片手で持てるくらいの紙の袋だ。ラッピングと言うほどの包装もなく、無地の袋に小さなリボンのシールが貼られている。
「ありがとう。──なんだろう、開けてもいいかな?」
「うん、もちろん」
 袋を開けて、中身を手の上に受けとめる。
「……リストバンド?」
 呟いて、河村が瞬きをした。
「うん。──本当は手錠にしようかとも思ったんだけどね」
「え゛」
 思わず声を洩らした河村に、冗談だよと不二が笑う。
「君は高校ではテニスやらないから、あげても意味のないものかも知れないけど」
「そんなことないよ! 俺、嬉しいよ」
「うん……、ありがとう」
 力いっぱい伝えてくれる河村が好きだと思ったら自然に笑みが零れた。顔を赤くして、照れ隠しのように河村が新品のリストバンドを腕にはめる。
「……どうかな」
「うん、すごくよく似合う。──実はね、それ、僕も同じの持ってるんだ」
 色は違うけど、と言って鞄の中からとりだして、腕につけてから河村に差し出す。
「えっ、と、……もしかして、俺のラケットの……?」
 不二は頷いた。右腕の黄色いリストバンドに目を向ける。
「僕、いつのまにかテニスがすごく好きになってたんだよね。河村のおかげだよ。君とダブルス組んで、“勝って嬉しい”って久しぶりに思えたんだ」
「不二……」
 いつの間にか、同年代に敵はほとんどいなくなっていた。勝って当たり前、自他共にそれが当然の認識で。中学に入って、そう簡単には勝てない相手にも出会ったけれど、負けた悔しさこそあれ、勝ったときの喜びは、遠い過去のものでしかなかった。それが、河村と組んだダブルスで初めて勝ったとき……。喜びに満ちた河村の顔を見て同じように嬉しいと思えたことは、勝利以上の何かを不二の心にもたらした。
「君に出会えなかったら、僕、中学でテニスやめてたかもしれない。──だから、河村は責任とって、高校に上がっても僕の試合は見に来てくれないと」
「そっ……! そんなの、もちろん!! 応援に行くよ、当たり前じゃないか!」
「その先も?」
 もちろん、と頷きと共に力強い答えが返る。不二は笑って、伸ばした右手で河村の腕を掴んだ。
「ふ、──────っ!?」
「約束」
「ふ、不二……っ」
「ふふっ、だから“手錠”だって言ったのに」
 笑って手首のリストバンドを指差して、不二はすっと身体を離した。
「河村、ありがとう。──好きだよ」
「う、うん……」
「──河村は?」
 かあっと赤くなったその反応が、言葉より雄弁なその返事だ。不二は満足げな笑みを浮かべながら、これも『プレゼントはボク』ってことになるのだろうかとふと考えた。



おわり♪





こめんと(byひろな)     2002.12.2

これって…………タカフジ? フジタカ?(いやぁ〜っ)
ええいこれはタカフジなのよう!(言い聞かせ。いやむしろ洗脳)
つーことで(?)超遅ればせながらのタカさんBDすと〜り〜でございます。タカフジは清く美しく可愛らしく!!(笑)
なぜか裏カプは菊リョです(笑)。つーか発想的には逆。菊リョで、36セットで裏カプ作るなら……ってことで(もう、私、どうにもこうにも36好きで大好きで……)、じゃあケダモノ菊ちーと対照的に清らかな人をと思ったらタカさんが。菊ちゃんとタカさんも仲良いしね。この2カプならお誕生日もセットで出来るしね♪ と、いうことでこうなったのでした。

それにしてもタカさん、初々しすぎて涙が出てきます(泣くなよ)。ていうかマジにそのうち周助に襲われたりしないかと心配です(をい)。
ぜひとも菊リョsideのケダモノっぷりとの対比をお楽しみください〜☆(爆)





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