sweet-s-hot 2


 
「宍戸さん、誕生日おめでとうございます」
「……まだ時間あるぜ」
「そうですけど。──15年前の今頃、宍戸さんはこの世に生まれ出ようと一生懸命がんばってたんですよね」
 囁く鳳の腕の中は暖かい。夕食の後、一休みしてからもう一度温泉に浸かり、身も心もほぐれたふたりは、久しぶりにのんびりしたひとときを過ごしていた。
 代替わり直後でもあり、まさかの関東大会初戦敗退という夏の結果を受けて、新部長・鳳の重責はかなりのものだ。この休日が終わればまた鳳は部活に、宍戸は高等部進学へ向けての勉学に励むことになるのだと思うと、この誕生日プレゼントのために無理を通した鳳への感謝の思いが強くなる。かといってそれを面と向かって告げるのは気恥ずかしく、その代わりに宍戸はいつもなら照れ隠しに振り払ってしまう鳳の腕を、今日は自分から抱き締め返した。鳳は、驚きに目を瞠ったものの、すぐに宍戸の思いを読みとったように微笑み腕の力を強くした。年下のはずの鳳が見せるこの懐の深さに、何度救われただろうと宍戸は思う。彼がいなければ関東大会で再びレギュラーとしてコートに立つこともなかったのだ。
「宍戸さん、誕生日おめでとうございます」
 同じ言葉を繰り返し、鳳の唇が首すじに触れた。
 更なる口づけを誘うように顔を仰向ける。ちらりと視界の隅に捉えた時計は、2本の針が数字ひとつ分ほど離れている。
「あと……5分あんぜ」
「知ってます。でも……もう待てません」
 言葉とともに唇を塞がれた。ゆっくり布団の上に押し倒されながら、やはりそのつもりだったのかとこっそり笑みを洩らす。だがすぐに深くなった口づけに舌を絡め取られて、宍戸は反らせた喉を震わせた。
「宍戸さん……」
 囁く声は熱く低く、そしてわずかに掠れている。こういうときの鳳の声は、宍戸の官能をひどく刺激する。耳から入り込んで、全身を甘く痺れさせる。
「ん……長太郎……」
 鼻にかかった甘ったるい声が、鳳の名前を呼んだのが聞こえた。強請るような声になったとどこか冷静に自分を見ながら、反対に頬が熱くなるのを感じる。
「宍戸さん…………、そんな声出されたら、俺……」
 わずか顔を離した鳳が、きゅっと眉根を寄せた。浴衣の裾はすでに半ばはだけていて、キスだけで熱を持ち始めている中心が宍戸の腰に押しつけられている。腰を抱いた手をぴくりと震わせて、鳳は自らを落ち着かせるように小さく息をついた。
 触れるだけのキスが、頬に、目元に、額に落ちる。力を入れずに表面を撫でさするような手の動きに、宍戸も同じように鳳の背や脇腹を撫でる。
 もどかしさに身を震わせながら、互いにただ触れるだけのキスと愛撫を続けていると、どこか遠くから振り子時計がぼぉんと鳴るのが聞こえた。玄関先にあった時計が、時を告げているのだろう。100年以上前に作られた童謡に出てくるような、古い歴史を感じさせる大きな時計だ。積み重ねられた時の重みを感じさせる時計の、そんな音だ。
「宍戸さん……、誕生日おめでとうございます」
 キスの合間に鳳が囁いた。
「ああ……」
 続けようとした礼の言葉は音になる前に鳳の口の中に飲み込まれて消えた。腰を緩やかに撫でていた手に力がこもる。
「プレゼントですけど……、好きなだけ、俺をあげます」
「え……?」
「宍戸さんが欲しがってくれるならいくらでも。──誕生日プレゼントなんだから、遠慮しないで好きなだけ欲しがってくださいね」
「なっ……!? っば、ばっかやろ……っ!」
「馬鹿ですよ。宍戸さんが好きすぎて馬鹿になっちゃったんです、俺。宍戸さんの好きなもの、欲しがってるもの、いろいろ考えて……。CDとか、他の人でもあげられるようなものじゃ俺があげる意味ない。俺が宍戸さんにあげられるもの、何がいいだろうって思って、──これしか思いつかなかったんです」
 仕方ないと言うように、鳳は笑った。ごめんなさい、なんて耳元で囁きながらキスをされて、焦らされてばかりの身体に火が灯る。振り子時計の音が遠くに聞こえる。
「誕生日だからって口実で、全部そのせいにして、遠慮したり恥ずかしがったりしないで、俺の全部、もらってやってください」
 優しいキスと裏腹の強引な台詞。呆れながらもどこか嬉しく思う自分がいる。
「せっかくだから、もらえるだけもらっとかないと損ですよ、なんて。──宍戸さんが欲しがってくれるなら、俺いくらでもがんばりますよ。打ち止め覚悟で」
「ばか。その前に俺が壊れんだろ」
「壊さないように優しくします」
 即答する鳳の笑みは優しく、包容力に満ちていた。見とれていると、またキスをされる。頬に、目尻に、額に、鼻の頭に、唇に。啄むキスが、浴衣の合わせからのぞく鎖骨に落とされ、撫でる手を追うように下に降りていく。
 優しい感触は逆にもどかしい。
「長太郎……」
 宍戸は腰をせり上げるようにして愛撫を強請った。我を失いかけた状態で、知らずにしてしまったことは何度かあるが、意識してしたのは初めてだ。ひどく淫らな気分になる。思わず目を瞠った鳳の喉が、音を立てて上下した。
「宍戸さん……」
 名を呼ぶ声が上擦っている。常に比べて宍戸もすでに余裕がないが、鳳はそれ以上ならしい。中2とは思えぬ巧みな愛撫にいつも翻弄されているだけに、そんな鳳の姿は宍戸に優越感にも似た喜びを抱かせ興奮させた。
『誕生日だからって口実で』
 鳳の言葉がよみがえる。2月に鳳の誕生日がくるまでの半年ほどの間、二人の年齢差は2歳になるのだ。
 余裕なんかない。だが、試合でも何でも、ハッタリは有効な手段だ。
「長太郎……来いよ……」
 鳳が再び息を飲む。全身で相手を誘惑するということを、宍戸はこの日、生まれて初めて実行した。
「もっとしていい……。──壊しても、いいから……」
「宍戸さん……っ!」
 熱く掠れた声が吐息ともに注ぎ込まれた。



「っん……、ふ・っく…ぁっ……」
 洩れる声を止められない。ただ息を継いでいるだけのつもりでも、絶え間なく零れる声は、自分のものでありながら欲望を煽る。
「宍戸さん……宍戸さん、気持ちいいですか……?」
 荒い息の合間に紡がれる鳳の声もまた、感じていることを如実に伝えるもので、いつもならそんなこと聞くななどと睨み返しているはずの問いにも、揺さぶられ掻き回される思考のまま宍戸は素直に答えていた。
「ぁ…っ……はっ、あ、イッ…い……すげっ、イイっ……」
「俺も……、すごく、イイです。宍戸さん、なか、」
 脚を掴む鳳の手に力がこもる。指先が食い込むほど強く掴まれて、激しく突き上げられても痛みももう感じない。それ以上に、鳳と繋がっている身体の奥が、そこから身体中に広がる快感が神経のすべてを乗っ取っていた。
 鳳の言うとおり、もらえるだけもらっておけ、と言うわけではないが、今はただ、まだ欲しい、もっと欲しいと思う心のままに身体を動かすことしか頭にない。
「もっと、欲しいですか……?」
 耳元で低く囁かれ、宍戸はただ頷いた。
「欲しいって、言ってください。もっと奥まで、俺が欲しいって」
「ぁ……っ、はっ…ほっし、い……っ! も、っと、ちょぉたろ……、っ!?」
 突如変わった体勢に、宍戸は目を見開いた。
「っあ、あぁ……ッ!」
 喉から悲鳴が放たれる。声を抑えないといけないとか、もうそんなことを考えている余裕はなかった。与えられる衝撃がすでに苦痛よりも快感であるように、その声は嬌声だった。
 自分に覆い被さる鳳の身体と、上体につくくらいに持ち上げられた自分の脚が見える。視線を少し下にずらせば、リズミカルに抜き差しされる鳳と、抽挿に合わせて揺れるたび熱を振り零す自分の欲望が見えた。
 宍戸の足首を掴み、ほとんど真上から、鳳はまるで腕立て伏せでもするように、身体を上下に動かしている。その度宍戸の身体に食い込む楔は熱く膨れあがっていて、常以上の力強さで宍戸の中を掻き乱した。
 奥を突かれるたび声が洩れる。過ぎた快感に羞恥が突き崩されていく。
「アッ、アァ……ッ、ちょぉっ…た……っ」
 壊れると思った。熱すぎて身体の中が灼けて崩れてしまうと思った。──壊れても良いとさえ思った。
 気持ちよすぎてもう何もかもがどうでも良くなった。
 これ以上続けたら腰が砕けてもうテニスができなくなると言われたとしても、もうきっとやめられない。もう止まらない。
「ぅあっ、あ・も……イイッ、ちょ…たろ………っ」
「宍戸さん、宍戸さ……っ」
「っつ……はぁ……っ、んっ・く…ふ」
「はぁっ……、んっ……宍戸さ……」
 ゴメン、と聞こえた気がした。もう止まらないと。
「ばっ……かや……っ! 止めんな……っ、もっとっ……」
 律動が速さを増す。鳳の楔が力強く宍戸を抉る。熱いその穴には、もうじき同じくらいに熱い鳳の想いが注ぎ込まれる。熱く、重く、息苦しく、──そしてそれ以上に甘美な一時に向かって二人で駆け上がる。
「────っぁあああ……っ!!」
 身体の中、膨れあがった灼熱が弾ける。迸る衝撃に叫びながら宍戸も達し、自らの腹の上に欲望をぶちまけた。


*     *     *


 気がついたら朝だった。障子越しに射し込む朝陽が部屋をやわらかく照らしている。小鳥のさえずりが聞こえ、宍戸は窓の方へと頭を巡らした。
 肘をついて起きあがろうとして、身体に巻き付くあたたかな腕に気づく。
「……長太郎」
 宍戸を抱きしめると言うより抱きつくような形で鳳が眠っていた。あどけない寝顔は彼の幼さを表している。昨夜とはまるで別人だ。
 昨夜の痴態を思い出して宍戸は息を詰まらせた。布団を被ってはいるものの、その下はお互いに全裸のままだった。だいたい、いつ寝たのかも覚えていない。おそらく寝たと言うより気を失ったが近いのだろうと思い、宍戸はひとり顔を赤くした。
「ん……ししどさ……」
 呟いて、鳳が宍戸を抱く腕に力を込める。
「っとに……恥ずかしーヤツ……」
 苦笑交じりに呟いて、宍戸は目の前の鎖骨に唇をつけた。数度軽く啄んでから、舌先でぺろりと舐め上げる。
「っ、ん……?」
 びくりと身を震わせた鳳が、訝しげに鼻声をあげた。
「おい、長太郎、朝だぞ」
「ぅん……」
「長太郎、おい、起きなくてもいーからとりあえず腕どかせ。俺が起きらんねぇ」
「宍戸さん……、好きです。もう一生放しません」
「っは……、──ぁ? おい、寝惚けんな、ばか」
 眉をひそめながら、宍戸は顔が赤くなっているのを自覚する。
 まだしばらく鳳は目覚めそうにない。宿の人間が朝食の報せに来る前に風呂に入りたかったのだが、長太郎次第ということになりそうだ。
 時計を見ると、朝食の時間まではまだ間がある。身体を包む体温に眠気を誘われるまま、宍戸は再び目を閉じた。




                                Fin.





こめんと(byひろな)     2003.09.29

宍戸さんっ、お誕生日おめでとうございます!!!
やったー、今回はちゃんとお誕生日当日にUPできたよ! ──なんて、威張れることではありません(^^;)。ていうか一年越しですがなこの話……(^^;)。
大変お待たせいたしました……。宍戸さん、長太郎くん、そして貴重な当サイトの鳳宍FANの皆様。ようやく後半UPしましたー!
後半は見事にエロのみになっております(苦笑)。つか後半も半分くらいは去年の時点でできてたんだけどね、なんか、その後が続かんかった、エロパワー(ナニ)が切れた……。

とりあえず、これで、鳳宍に関してはひとまず今は思い残すことはない(いやアンソロあるから(自サイト用ではってコトね))。とか言いながらでもネタが浮かべばもちろん書きますが。今ちょっと銀色わんこ(ちょた)より金色(?)わんこ(外見ジロ似、名前はタロ・笑)に心が惹かれ気味でして……。





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