opaque 〜不透明な渇望〜


「無闇に挑発するのは得策とは言えないな」
 背後からの声に、不二は驚いた様子もなく振り向いた。
「乾。見てたんだ」
「ああ。お前達の動向を、見逃すわけにはいかないんでね」
「やだなあ、そんな要注意人物みたいな言い方」
「自分がどれだけ注目されているか、わかってるのか?」
 乾の言葉にも、不二の微笑みは崩れない。
「うん、わかってるよ。僕が、手塚が、越前君が、──青学テニス部全体が、どれほどの注目を集めているか」
「それなら」
「だから、さ」
 微笑みを不敵なものに変えて、不二は乾の言葉を遮る。
「彼はもっと強くなるよ。今以上に、もっと。僕や……手塚さえ脅かすほどに」
「いずれ、の話だ」
「それじゃ遅いよ」
 強い声が、即座に返る。
「それじゃ遅い。僕らはもう3年なんだ。──これから半年足らずで、彼がどこまで強くなるか、乾は見てみたいと思わない?」
 厚いレンズを隔ててぶつかる視線を逸らし、乾は大きくため息をついた。
「──顔に似合わず好戦的な奴だな」
「うん、そうだね。だってそれくらいじゃないと、青学のレギュラーなんて獲れないだろう?」
 あっさり答えて不二は笑った。乾が再びため息をつく。
「お前はそれでいいのか」
「いいよ。それで強くなるなら」
 ──あの人を、打ち負かすほどに。
「僕も負けるつもりはないけどね」
 強い光を宿す瞳を、笑顔の下に閉じこめる。不二のそんな姿を見るのは何度目だろう、乾は手繰り寄せた記憶の中で、不二の笑顔を数えていた。
「君だって同じじゃないの。海堂によくアドバイスしてるよね」
「求められたから応じただけだよ。お前と違って、そんなお人好しなことはしない」
「僕には声をかけたのに?」
 言外の非難に、乾は眼鏡を押し上げた。
「声をかけて欲しそうだったからそうしたんだけど、ハズレだったかな」
 無言の瞳が乾を見上げる。
「別にこれはデータとして取ったんじゃない。俺が個人的に覚えていることだよ」
「──君は、僕に勝ちたいの?」
「そうだな、負かしてみたいね」
「負かしてみたい……か」
 繰り返して、不二は微笑んだ。
「楽しみにしてるよ」
 遠ざかる小柄な後ろ姿を見送って、乾はコートの方角を振り返った。



                               fin.





こめんと(byひろな)     2002.5.31

零夜さんにさしあげた『filament〜透明な欲望〜』の、裏話(?)。
『filament』は、不二先輩によって、純粋に勝ちたいと思っていたはずの部長にあまり純粋じゃない思いを抱いていることを気づかされてしまったリョーマ君、って話だったので「透明」ですが、今回は最初っからいろいろ腹にイチモツもニモツも抱え込んでる人達なので、「不透明」です。タイトル『opaque』、「不透明な」って意味ですが、「わかりにくい・曖昧な」とか「愚かな」って意味もあったりします。いろんな意味込めて、opaqueな二人、ってことで。
登場人物がそんななので、より陰謀めいた感じになっておりますね(^^;)。さて彼等は何の話をしているのでしょう〜?(冷汗笑)
まあ、乾さんは原作でも「利用する」発言していますからね、これくらいはオッケイじゃないかと。
さて、青学レギュラー新No.1〜3の三つ巴かと思いきや、元No.3の乾さんと、さらには海堂君の名前まで出てきています!? 読む人によって、乾不二にも乾海にも、はたまた乾塚にもとっていただけたらなと(笑)。『filament』の中の会話も、部長(表向きテニス・笑)を巡ってリョvs不二ですが、不二リョ(リョ不二)にも見ることはできますし。もちろん、あくまでテニスの話、と思うこともできます(笑)。
しかしこんな中学生いたらイヤですね、関わりたくないです(^^;)。


☆このお話は、零夜サマへの贈り物ですので、他の方は勝手に持ち帰ったりしないでくださいね。





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