フジはキレイ。やさしい。ふわり微笑まれると、胸の中で、ことりと音がする。 そう言ったら、それは恋じゃないの? と、姉ちゃんに言われた。 雪の中のひまわり「オレってフジに恋してんの?」 「──どうしてそれを僕に聞くかな」 フジが笑う。くすくす、揺れる肩と一緒に髪の毛が、さらさら、きらきら、陽に透ける。 「だってフジ、オレよりオレのことわかってそうなんだもん」 冬は好き。寒いからって言い訳して、フジにくっついていられる季節。ほんとはフジは体温が低いから、抱きついてもカイロの代わりにはならない。逆にオレがフジのことあっためてあげられてるみたいだからいいけど。 それに。冬はひとつオトナになる季節。オレは、フジより少しだけ先にオトナになって、フジを待つ。 でもそれももうすぐ終わり。もうすぐ、フジの誕生日が来る。──ううん。フジの、誕生日、は、今年もないんだ。もう一年早く会えてたら、せめてあと数ヶ月早く会えてたら、会ったその年に祝えたのに。十六歳になる前に中学校生活は終わってしまう。 「エージ。何さみしそうな顔してるの」 優しく聞かれて、こつん、おでこがぶつかった。 「さみしいの」 「どうして? ──僕に恋してるから?」 「ううん、それはさみしくないよ。不二の誕生日がないから」 「そう。……ありがとう、エージ」 脈絡のない言い方だったのに、お礼を言って目を伏せて、長い睫毛を揺らしてフジが微笑った。胸の中で、またことりと音がした。 暦の上ではもう春だけど、今の季節が一番寒い。今日もやけに寒いと思ったら、昼過ぎから雪が降りだした。二月二十八日。今日は不二の誕生日の代わりの日だ。 「なんだか神様にプレゼントもらっちゃったみたいだね」 「う? ──雪?」 「ううん。それもあるけど、今日は部活ナシだろ。その分エージと一緒にいられる」 フジが笑う。嬉しくなって、オレも笑った。 灰色の空に手を伸ばす。ぼたん雪が降ってくる。ふわふわ、キレイ。 「フジみたいだ」 「雪が?」 「うん」 「そんなんじゃないよ」 「そうかにゃ。──あ。やっぱ雪じゃなくていい」 フジが雪だったら触れない。溶けて消えちゃったら困る。 「ねぇ、フージ?」 「なに?」 「キスしてい?」 「──ダメ」 「なんで?」 「溶けちゃったら困るから」 「なんだよそれ! 雪じゃないって自分で言ったんじゃん!」 「あははっ、やっぱりそれでだったんだね」 フジが声を出して笑った。珍しい。見とれてたから、おくれをとった。フジの顔が近づいて、ほっぺたの真ん中、一瞬だけあったかくなった。 「はい、おしまい」 「な……っ! ずっ、る……っ!」 「フェイント」 僕の勝ち。練習試合の後みたいに、イタズラっぽい笑い方。フジは手加減してるかも知れないけど、オレはいつでも本気だよ? たまにはフジの、本気が見たいよ。 「むっか〜っ。──えいっ! コンソレーションだ!」 細い手首を掴んで引っ張る。小さく悲鳴を上げた口に、唇を押しつけた。 「────信じらんない」 オレに掴まれてない方の手で口元を覆ってフジが呟く。睨まれても怖くない。赤くなってるフジなんて初めて見た。 「にへへ♪」 「僕がホントに溶けちゃったらどうするつもりだったんだよ」 「なんで? フジは雪じゃないから溶けないでしょ」 「雪じゃなくても一定以上の高温になったら溶けるんだよ」 「オレそんな熱くないっしょ。今だってフジの腕掴んでるけど溶けてないじゃん」 でもいつもより熱い。オレが触ってるから? オレがキスしたから? フジが大きなため息をついた。 「はぁ……。僕もいい加減慣れればいいのにね」 「え?」 「エージの笑顔にいちいちときめいてたら、心臓保たないよ」 「──ウソ」 びっくりした。世界がひっくり返ったってこのことかと思った。 「ウソ言ってどうするのさ、こんなこと」 「ねぇフジ」 「何」 「もしかして、オレ、おひさま? 太陽? だから溶けちゃうって?」 「……」 「ねぇ、フジ」 フジは答えない。ねぇフジ、違うって言わないのが答えだって思ってもイイ? 「ね、フジ。聞いて。──オレ、太陽じゃないよ」 そう思ってくれるのは嬉しいけど、オレ、そんなんじゃない。 そんなんじゃない、って、フジもさっきこんな気持ちだったのかって気がついた。 「太陽じゃなくて……」 太陽じゃないけど、でも太陽みたいになりたい。オレの近くで、不二の髪がきらきらするみたいな。 ああ、そうだ。 「太陽じゃなくてね、似てる花なの。オレね、実はひまわりなんだ!」 目を大きく見開いて、びっくりした顔でフジがオレを見上げた。 「だから触ってもイイでしょ?」 「……それでエージが枯れちゃったら困るな……」 「枯れないってば! 知ってる? フジ、ひまわりって夏の花だけど、雪の中でも咲くんだよ」 だから触って。ふんわりぼたん雪みたいに、優しい笑顔で、オレに触って。 「エージ。僕、雪じゃないよ……?」 フジが笑う。ふわり、オレの花びらの上に落ちて、溶けて消えないでそのまま残る。 手首を掴んでいた手を、一度離して繋ぎ直した。 fin. |
こめんと(byひろな) 2003.2.3 周助くんはぴばすで〜いvv ──の記念に出した、こっちは菊不二2年前本(笑)。 2/2のTPOPENで無料配布(正確には0円〜50円でお任せ・笑)にしたのですが、塚不二スペースで置いてある本みんな塚不二で、これ1コだけ菊不二置いても誰も持っていってくれませんでした(涙)。ごめんよ、菊ちー。 この話、塚不二とはまた違う意味でイタイ話になってしまいました……(苦笑)。ていうか菊ちー…………、──いや、何も言うまい。 そんだけ周助のことが好きなのねってことで。他のこと何にも見えてないみたいだからねこの子。 菊丸英二、中1にして道を踏み外す。──姉ちゃんのせい(笑)。ていうかこの姉ちゃん私の分身?(爆)。いや、姉ちゃんよりむしろこの英二が……(^^;)。 ──言い訳ばっかになりそうなのでそろそろ逃げよう。すちゃっ! |