出会ってから、もう、八年の時が過ぎた。
 物心ついてから今までの、約半分の時を、ともに過ごしている。


   FUTURESCAPE - Engagement -



 ふたり寄り添って、時計の針を見ていた。ここサンフランシスコでの時刻で、もうすぐ日付が変わる。二月二十九日。──四年ぶりにやってくる、不二の本当の誕生日だ。十七時間前の今朝七時、東京で日付が変わる瞬間にも一度祝ったけれど、今ふたりで過ごしているこの地の時間で、もう一度祝う。
 数ヶ月前に先に手塚が二十歳になったときにも同じことをした。誕生日になる瞬間を二回祝う。テニスを続けていて良かった、直接の要因ではないけれどそう思った。いや、きっとテニスをしていなかったら二十歳の誕生日をサンフランシスコで迎えることはなかっただろう。何よりそうしたら手塚と出会っていない。
 秒針のかすかな音をBGMにそんなことを考えている不二を包む腕に、微かに力がこめられた。応えるように、背を預けていた胸にさらに頭をもたせかける。
 刻々と動く秒針と同じ幅で、長針が揺れた。
 あと一分。
 ふいに腕の力が緩み、不二は訝しげに手塚を振り向こうとした。右頬に手が触れた。ラケットを握る、左手。
「てづ……、?」
 頬を滑り降りた手が顎を捉えた。眼鏡をかけたままの顔が間近に迫り、目を閉じるより先に唇が触れる。中途半端に身を捻った姿勢のまま、反らせた喉がこくりと震えた。
「──誕生日おめでとう」
 唇を離し、低い声が告げる。半ばぼうっとした頭を動かし時計を見ると、ふたりの身長差に似たふたつの針はすでに重なっていて、刻々と秒針が時を刻み続けていた。
「まさか、時間測ってたりしてないよね」
「そこまでの余裕は残念ながらないな」
 優しい口づけに溺れ、半ば自失した状態で日付が変わった瞬間を迎えてしまったことに八つ当たりじみた抗議をした不二に、手塚は苦笑しつつも悪びれずに言葉を返す。いつだったか、すっかりふてぶてしくなったと言ったら、それくらいでないとお前とはやっていけないだろうと返されたのを思い出した。
 不二は小さくため息をついた。頬が微笑に緩むのがわかる。つられたように、手塚の眼差しが優しくなった。
「誕生日おめでとう、周助」
「うん……、ありがとう」
 国光、と、その名前を口の中で呟く。出会ってからずっと互いに名字で呼び合っているせいで、こんな時、ふいに名前を呼ばれるのはひどく恥ずかしい。言いにくいからというのは言い訳で、本当は、くにみつ、と呼んだその口の形のまま、キスを望んでしまいそうになるからだとは、まだ当分言えそうにないと不二は思った。
「それから……」
「──うん?」
 未だ捻ったままだった身体を向かい合う形に変えられる。正面から真っ直ぐに不二を見つめて、手塚は真摯な眼差しで告げた。
「結婚しよう」
「──────え……」
 何を言われたか、一瞬わからなかった。
「結婚しよう、周助」
「え、てづ……」
 まさか冗談ではあるまい。たちの悪い夢でも。
「冗談でも夢でもないぞ」
「……まさか。君がそんなこと言う人だなんて思ってないよ。──びっくりした」
「それで、返事は聞かせてくれないのか?」
 真面目な顔で、手塚は話を先に進める。
「日本の法律では、男は十八にならないと結婚できないからな。それから一番近い、二月二十九日がくるのをずっと待ってたんだ。無論、法律上は無理だが、ここでなら式を挙げることはできる」
「式って……まさか、結婚式?」
「ああ。言っておくが、別にお前にドレスを着させるつもりはないからな」
「そんなの僕だってないよ。──っていうか、ちょっと待って。なんでさっきから僕がイエスの返事をすることが前提で話が進んでるんだよ」
「しないつもりなのか?」
 真顔で問われ、不二は言葉を失った。
 全身でため息をつく。脱力した身体を目の前の胸に預けた。当然のように、背に腕が回される。腕を少しだけ持ち上げて、シャツの裾を掴んだ。
「はあ……。──もう、君ってそういう人だよね」
 しないつもりなのか、と来た。してくれないのかじゃないのだ。なんて傲慢な奴、不二は内心悪態をついた。
 やっぱり勝てないなぁ。身体の奥から、くすりと笑いが零れた。
「──不二?」
 訝しげに問う声に顔を上げる。反撃開始、そう顔に出して微笑むと、手塚の眉がぴくりと揺れる。
「何もかも君の思い通りになるのは悔しいから、」
 今もまだ勝てないけれど、ずっと負けたままでいるつもりはない。
「結婚、してあげるよ。──国光」
 名前を呼んだ、その口の形のまま自分からキスをした。



 出会ってからもう八年の時が過ぎた。
 今から八年後にも、同じように、こうしてふたり、同じ景色を眺めていよう。



                               fin.





こめんと(byひろな)     2003.2.3

周助くんはぴばすで〜いvv
──の記念に出した、塚不二5年後本。 お誕生日(29日……は今年はないので28日)はまだ先だけど、2月に参加するテニプリイベントはTPOPEN2003だけだったので。ほとんど無料配布だったので、お約束、サイトでもフリー配布ですv(詳しくは下記をご覧ください)

お誕生日ネタ、お誕生日ネタ……と思っていたら、ふと浮かんだのはこんな話。『FUTURESCAPE』は塚不二数年後シリーズの共通タイトルにしようかなどと思ってみたり。
ていうか。
いきなりプロポーズするってどうなの、手塚さん?(笑)
塚不二なのに不二よりむしろ手塚さんがドリーマーっていうのはどうなの?
20歳の誕生日、2月29日がある貴重な年な上に、日本の法律で親の承諾を得ずに結婚できる年になる、その日にプロポーズとは……なんてロマンティストなんだ、手塚国光……っ!(笑) ていうか恥ずかしい奴(笑)。
すごーく久しぶりにテニプリ書きましたが、なんだかとっても楽しかったです。つか今年の初書きテニ。──それがこんな、ある意味イタイ話でイイのでしょうか?(苦笑)

ま。何はともあれ。
周助くん、お誕生日おめでとう! 手塚さんと末永く幸せにね〜♪








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