夏だからね! 〜青学イチの“食えない奴”〜


「う゛ーにゃーっ! あーづーいいーっ!!」
 けっこうなハイペースで走りながら、菊丸が元気にグチをこぼす。
「英二、暑い暑い言ってると余計に暑くなるぞ」
「だって暑いんだもん! オレ冬生まれだから夏苦手なのにー!」
「いや、夏生まれだって暑いモンは暑いっすよ」
 根拠のない訴えに、桃城は思わず冷静にツッコんだ。そう言う口調も蹴り出す足もしっかりしていて、口で言うほど暑さに参っている様子ではない。
 そのまま周りを数名巻き込んでぎゃいぎゃい騒いでいると、後ろからぽつりと零れた言葉があった。
「──みんな元気だね。僕、さすがにおしゃべりに加わる余力はもうないかも」
 それだけ言うのが精いっぱいといった不二に、隣に並んだ河村が心配そうに声をかける。儚げにも見える笑みを返して、それでも不二は同じペースで走り続けた。そういえば、この人もまた冬生まれである。
「がーもぉあっつー! コゲそう! これじゃあ菊の丸焼きになっちゃうよ!」
「菊丸先輩、うるさいっす」
 横からぼそりと越前が呟く。もともと黙々と物事をこなすタイプではあるが、やはり暑さがツライのか、いつもより口数が少ない。
「にゃにーっ!? おチビ、お前なんか越前焼きの備前焼だぞ!?」
 よりギャンギャンと喚きたてる菊丸に、越前はあからさまに顔をしかめて、耳を塞いだ。
 対照的な二人の様子に、何食わぬ顔で走りながらも、大石と乾が笑いを洩らす。
「あはは、そりゃ食えないな」
「確かに。英二にしては良い例えだ」
「ひっでーっ、乾なんか、煮ても焼いても食えないだろ!」
「食われたくもないけど。でも不二なら旨いって言うかも知れないよ」
「え? 僕?」
 話を振られて不二が顔を上げた。日に焼けない性質なのか、汗の浮かぶその頬の色は、冬場とほとんど変わりない。
「うーん、乾汁は旨いけど、乾はどうだろう? どうせ食べるなら、何か体力つくものがいいな」
「あっ、そんじゃー海堂! マムシだもんよ、夏バテなんて一気に解消!」
「ダメっすよ、エージ先輩。こんなヤツ食ったらハラ壊しますよ」
「んだと……?」
「ああ゛っ、やるかぁっ!?」
 炎天下のグラウンド30周、ノルマの8割をすでに越えたところとは思えない元気さで、一年越しのライバル達はケンカがてらにスピードを上げた。後に続くメンバーも、イヤそうな顔をしたものの仕方なしにペースをあげる。
「んじゃさ、マムシ食ったらフジはマングース?」
「英二、それを言うならマムシじゃなくてハブ」
 苦笑しつつ訂正してやる副部長の隣で、乾が興味深げに頷いた。
「ハブ対マングースか。──言い得て妙だな」
「乾、それどういう意味?」
「お、聞こえてたのか。バテてるようだったから大丈夫かと思ったんだけど、失敗したかな」
「海堂がハブなら、マングースは僕じゃなくて乾だろ」
「そうかな。お前達の試合見てると合ってると思うよ。──ね、越前」
 唐突に振られ、越前がコクリと頷いた。その首すじにも玉のような汗が浮かび、走る振動に合わせて肌の上を滑り落ちていく。
 言い返そうと口を開きかけ、不二はしかしため息をついた。乾の指摘どおり、そろそろ惰性にまかせて走るのみになっている。言葉を発するのは体力の消耗を早めるだけだ。
「うん、でもマングースって可愛いよね」
 代わりに口を開いたのは河村だった。ぎょっとして振り返った皆の視線が集中し、河村も驚いて皆を見つめ返す。
「タカさん……」
「河村……」
「え? な、なに?」
「いや……。────ナイスフォロー、タカ」
「??」
 ワケがわからず首を傾げると、河村の隣を走るマングースが小さく笑った。
「おーいしは?」
 また唐突に菊丸が口を開く。どうやら意識を暑さから別のものへと切り替えたいらしい。
「大石は? 食うならダレがいい?」
「ダレ? 何じゃなくて誰なのか?」
「うん。だって今そーゆーハナシだもん」
 丸焼き食うの。どこまで本気かわからない顔で、菊丸が頷いた。
「そうだなぁ……。──英二なんか、意外とおいしいかもよ」
「オレぇっ!? なんで!」
「うん、このほっぺたとかさ」
 小さく笑って大石の手が伸び、まだ丸みの残る頬をむにっとつまむ。
「あっ、大石先輩、それ俺も賛成ッス!」
「──オレも」
「に゛ゃーっ!? 桃、おチビ、お前らまでー?」
「そう言えば、どこか猫の肉が食用になってる国があったな」
 呟いた乾に、興味を引かれて不二が加わる。
「そうなの? 中国で犬食べるのは知ってるけど。──犬って言ったら桃だよね。ああ、桃食べたら体力つくかな」
「代わりに知力が落ちるよ」
「それはヤダなぁ」
「ちょっとちょっと先輩方、さっきから聞いてりゃイタイケな後輩を……」
 後輩いじめはいけねえなぁいけねえよ。桃城の呟きは見事に抹殺された。
「でも僕、桃よりホントの桃がいいな。冷たい桃食べたい」
「あーっそれ賛成! キーンて冷たいの食いたい。あっ、シャリシャリかき氷!! 終わったら食べて帰ろうぜ!」
「ははっ、英二、部活はまだ始まったばかりだぞ」
 今日はまだボールに触れてもいないのに、菊丸の心はすでに部活後の寄り道に飛んでいるようだ。
「うっわーっ、早く食いたいかき氷!」
「エージ先輩、じゃあ、ビリだったヤツが奢るってコトで」
「なに、コレ? ──よっしあと3周! ラストスパート!!」
 レギュラー全員エントリー必須ね! 勝手に決めて宣言すると、賛同とも非難ともつかない声が次々に上がった。
「じゃあ俺は参加しなくて良いのかな」
「何言ってんスか。こんな時ばっかり」
「お、マムシもたまにはイイコト言うじゃねーか」
「うるせぇ」
「二人ともジャマっす」
「「んだとぉっ!?」」
 ケンカするなら後ろでやれとばかりに、小柄な身体が間に割り込む。こういう場合は話が別だ、珍しく、桃城と海堂の息がぴったり合った。
「おっ、おチビやる気じゃん!」
「──まあね」
 勝ち気な笑みを閃かせる越前に、菊丸も同じように口端を引き上げる。
「あ、手塚だ」
 大石の声に視線を動かすと、腕を組んで佇む部長の姿があった。
「ホントだ。生徒会、終わったんだね。──で、なんだか嫌な予感がするよね」
「ああ、95パーセントってトコロかな」
 もともと無表情の仏頂面で知られる手塚部長だが、心なしか、普段よりもさらに表情が険しい。
「菊丸。力が有り余っているようだな」
「え゛っ…………」
「レギュラー全員、プラス乾! 10周追加だ!」
「え゛え゛──っ!?」
 てんでバラバラ、自己中心ばかりの青学レギュラー陣、しかし全員分の非難の声が綺麗に揃った。
「──決まりだね」
 ぽつり、不二が呟いた。並ぶ河村が聞き返し、乾も眼鏡越しの視線を向ける。
「ん? 何が」
「食えないヤツ」
「ああ……」
「僕が倒れたら手塚のせいってコトにしといてね」
 倒れるはずもないのにそんなことを言う。何やら仕返しを胸に秘めているらしいマングースに、乾は協力するよと笑みを返した。




                               fin.





こめんと(byひろな)     2002.6.13

眩しいページでゴメンナサイ(笑)。だって夏色にしたかったんだもの……。
さて、このお話は、先日発行したテニプリ無料本と同じものです。無料配布本は本文サイトUPするのが当サークルの習わしなので(アンジェ・オリジナルでもやってます)。お届け企画、申し込んでくださった方、ありがとうございますv そして申し込み損ねてしまった方、本文内容だけでもこちらでお楽しみくださいませ。

今年のGW、スパコミ2日+コミティアと3日連続で海ッぺりに出かけたHIRONAサンですが(笑)、このお話も原型はその時に出来ました。たしか3日目かな? あまりの暑さに「あ〜づ〜いいい〜〜〜っ」と冒頭の菊ちゃん状態。つーか菊って暑いだの寒いだの文句言いそうだよねーと思ったところから話(と書いてモウソウと読む)スタート。
みんなでワイワイガヤガヤしつつ、でもいろんなカップリング裏読みしまくりなこのお話、ひそかに私が萌えていたのはタカフジ。──ひそかじゃないじゃん(笑)。タカフジピュアラブパワー炸裂です♪ タカさん優し〜v タカさんと手塚部長は周助オンリーラブ希望なので(笑)、他の人とは絡んでいませんが、あとはもう、恋のヤジルシ飛び交っています☆ あ、でもリョ不二入れられなかったんだよね、ちょっと残念。つーかリョーマくんの名言「まだまだだね」を入れ忘れていました私(^^;) なんてこと! ギャグのお約束でしょう決め台詞!! ああもうダメじゃん、失格じゃん。──くそう、いつかリベンジ! てゆうか後日談(?)で塚不二テイストなシーンがあって、そこでは「まだまだだね」言ってるんですが。書くかは謎。
しかしこの話もまた季節が謎です(^^;)。夏とか言っていますが乾さんレギュラーじゃないそうなので5・6月くらいだよね? それって夏なの? ……ま、気にせずに、つーか忘れてくださいオネガイシマス(^^;)。
次のテニプリ本(っつーか「初の」ですね、売り物は)は、早ければ夏コミで(塚不二orオールキャラ)。遅くても10月には出ます(塚不二vv)。お楽しみに〜♪







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