休憩時間に守護者用サロンに行くと、何人かがソファに座ってテーブルにかがみこんでいた。
「おや、リアさん。ちょうどよかった、一緒に食べませんか?」
スクデーリアに気付いたランボが手招きする。スクデーリアは小走りに近づいて、クロームが隣にズレて空けてくれた場所に腰を下ろした。
「わぁ、苺!」
「今日の商談相手が、青果流通も手がけててな。土産にって、くれたんだ」
山本が自慢げに胸を張る。確かに、テーブルの皿に山積になっている苺は真っ赤で、まだ旬には早いというのに、見るからに美味しそうだった。
「あ、でも。さっきひとつ食べたら、やっぱり酸っぱかった。つけた方がいいかも」
クロームは手に持った小皿をスクデーリアに見せる。中にはコンデンスミルクが入っていた。
「甘いもの苦手な人は、観念して酸っぱいまま食べるしかないようですけどね」
ランボが苦笑いするのは、果物の酸味も甘いものも苦手な獄寺が、苺の方を見ないようにしているのが視界に入ったからだ。
「いーんだよ。オレの分はリアにやってくれ」
「リアちゃんが入ってきた時点で、獄寺さんの分はぜんぶリアちゃんの分になってるから、大丈夫」
クロームはそう言って、スクデーリアに小皿を渡した。受け取ったスクデーリアは、コンデンスミルクを皿に取ろうと、テーブルを見回した。
「あ、リアさん、どうぞ。ちょっと出が悪いので、気をつけてくださいね」
ランボが自分のところにあったコンデンスミルクのチューブを差し出す。クロームとランボが使って、もうそれほど残っていないのか、チューブは意外と軽かった。
「あれ、出ない」
「よく絞れば、まだあると思う。貸して?」
スクデーリアはクロームにチューブを渡すと、小皿を差し出して、クロームが残りのコンデンスミルクを搾り出してくれるのを待つ。
ビュルッ!
クロームがチューブを端から絞ると、口から勢いよくコンデンスミルクが飛び出した。それは角度が悪かったために、スクデーリアの持っていた小皿ではなく、スクデーリアの頬にかかる。
「あっ! ごめんね、リアちゃん」
クロームは慌ててチューブをテーブルに置くと、「おしぼり取ってくる」とサロンを出て行く。スクデーリアはいったいどこにどれだけかかったのかと、探るように頬を指で撫でて、ついたコンデンスミルクを掻き取った。
「…っ!」
直後、真っ赤になった獄寺が、サロンを飛び出していく。
「なんだ?」
「どうしたんですか?」
苺を食べることに気を取られて、周囲の様子を気にしていなかった山本とランボが、理由を尋ねようとスクデーリアを振り返った。
スクデーリアは、頬にかかったコンデンスミルクを指で拭って、おしぼりがないのでその指を舐めていた。
「ああ…」
状況が飲み込めた山本とランボは、獄寺に極めて同情的なため息をつく。
すぐに、おしぼりを持って戻ってきたクロームが、スクデーリアの頬を拭いて、顔と指を洗うために洗面所に連れて行った。
山本とランボは、2人だけぽつんと残ったサロンで、たぶん獄寺はしばらく復活できないだろうと思った。