そう言って彼らは射的をしに行った。しかし、真琴はやったことがないらしく、見ることに徹している。
夏祭りには行ったことがないのか?と聞いたところ、今は亡き両親とはないけれど、巌となら行ったことがあると言った。社内では鬼と恐れられる元会長も孫みたいな少年を溺愛していることを改めて知る。
年不相応のバイタリティを持つ老人は、もし彼の囲碁仲間が遊びに来なければ、自分達のデートに割り込んだのでは?と思い、一瞬背筋が凍った。






「越谷さんって上手いですね」

そんなおぞましき疑念を払うかのごとく、越谷さんは次々に標的を落としてしまった。
1000円で抱えきれないほどの商品を得てしまい、店の主に泣きつかれてしぶしぶ出ていくことになる。


「当然だ。俺を甘く見てもらっては困るな」

真顔で吐くその台詞はかっこいい。しかし、抱えているものが問題だった。
それは、招き猫、猫のぬいぐるみ等、猫グッズがわんさかあったのである。そればっかり置いている店主もどうかと思うが、それを抱えている越谷もどうかと思う。


「何でそんなに猫ばっかなんですか?」

それは当然の疑問だったわけで、真琴が聞く。越谷はそれを想像していたのか、あっさりと答える。

「真琴はこういうのは好きだろ」

事実、真琴はそういう可愛いものが好きなのである。だが、そこまでねこづくしにする必要があるのだろうか。まさか・・・冗談半分で言ってみた。

「ひょっとして、越谷さんが好きだったりして」





見事に越谷の動きが止まり、おまけに真っ赤になる。冗談ではなくて、本当に猫好きであるようだ。

「そーだよ。悪いか。昔から猫を飼うのが夢なんだ。だけど、アパートだから飼えないし、実家でも飼うのは許されなかったからな」

越谷はすでに開き直っている。しかし、真琴はふと疑問に思う。
それだけ好きなら、部屋中にグッズがあふれていてもいいのに、そんな様子はまったくなかった。
まぁ、立派な大人の男ならおいそれと置けないのは当然であるが、一つくらい持っていてもいいだろう。
ひょっとして、今まで恥ずかしくて買えなかったのか?それで真琴のせいにして買っているのか。

そう思えばすべてのつじつまが合う。

越谷さんって案外子供と思いつつも、真琴は安心する。それだけ身近に感じられるようになったから。






恋人として付き合うようになっても、まだ越谷のことを雲の上の人と思っているところもあった。
相手はやり手の商社マンであり、いつでも出世できそうな人であるのに対して、自分は高校すら入っていなく、何にもとりえもない
(と本人は思っている)。だから、真琴にとって越谷は冗談抜きで「完璧」なのだ。
だから、こうして子供っぽさを見せられると、そんなコンプレックスが払拭されるような気がしてうれしいと思っている。とはいえ、子供っぽい越谷よりも子供であることは真琴自身認めてはいるけれども・・・。


そこで真琴は越谷が猫を飼った図を想像してみる。アパートでは無理だから、一軒家のシチュエーションだ。
会社から帰宅すると、飼い猫
(茶トラか三毛)が越谷の足に擦り寄ってくる。
それを抱えて自分のひざに乗せて、ゆっくりとなで、猫は甘い声を出す。それはそれで実に似合っている。



だが、何か腹がたつ。



もやもやした気分が真琴を襲う。それに気付いたようで越谷が聞く。


「気分悪いのか?人のないところに行こうか」

いいえ、真琴は大きく首を振る。自分が生み出した想像に妬いてるなんて言いたくなかったのだ。
表には出さないけれど、真琴はとても焼餅焼きだ。本当は仕事中もくっついていたい。
だけど、そんな自分を見せたら越谷がうっとうしく思って自分から離れてしまいそうで不安なのである。



もっとも、越谷自身はもっと真琴には焼餅を焼いてほしいと思っているのであるが・・・それを彼が知る由は無い。









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