「何でこうなるんだよ・・・」
自分の愚かさをしつこいほど呪う。
どうしてあの時嫌いじゃないって言えなかったのか。
本当は楽しかったのだ。
だけど、つまらないプライドがそれを認めさせなかった。
倉科といると、自分がただのガキみたいで、悔しかった。
手の上で遊んでいるみたいで、倉科に傾いている自分を、上から見られているみたいで。
しかし、それは自分の思い込みだった。倉科は倉科なりに努力していたのだ。
どうしてそれを気付いてやれなかったのだろう。
「何でこんなものが流れるんだよ・・・」
気がつくと双眸から大量の涙があふれている。拭いても拭いてもそれは止まらない。
夏目の前で泣いた時よりも胸が苦しい。締め付けられるような、引き裂かれるような。
晶はようやく分かった・・・いや、認めた。夏目のことが過去になったことを。
写真でつられたのは、照れくさかったのだ。素直に行きたいと言えない自分がそこにはいた。
もう一つ分かったことがある。
それは・・・倉科に恋してしまったこと。抱きしめられたあの日、既に恋してしまったのかもしれない。
自分の気持ちに気付いたところで、どうしようもなかった。
倉科が好きなのは、歩のように可愛く素直な子なのだ。自分は可愛くないし、素直じゃない。
倉科に好きになってもらう資格などない。
「ははは・・・俺ってこんなに女々しいのな」
倉科は歩ほどではなくても、それなりに自分を気に入っていたようだ。
おとなしく好意に甘えておけばよかった。意地ばっかり張っているからいけなかった。
この日晶は、一晩中泣き続けると同時に、自分を呪い続けたのだった。
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自分を嫌いだとはうすうす分かっていたが、ここまで嫌われているとは気付かなかった。
おとなしく抱きしめられているとき、嫌そうではなかった。
しかし、「俺が嫌いだろ?」という言葉に否定しなかった。それどころか、大肯定だった。
失恋を知っている晶は、自分と重ね合わせたから拒まなかったのかもしれない。
想像以上に晶のことを気に入っている自分に気付き、ショックを受ける。
「俺はどうすればいいんだろうな・・・」
歩の時みたいに、諦めればいい。もう誰も好きにならなければいい。そうすれば何も傷つかない。
でも、それでいいのか。
せっかく手に入れた恋のチャンス、今諦めてはいけないような気がした。
それなら、晶は嫌がるだろうけど、友達からやり直そう。
「と、いうわけだ。やり直させて欲しい」
素直に謝る。しかし、晶も謝ろうと思っていた。嫌いだと言ってしまったこと。
まだ好きだとは認めたくないので言えないが、せめて嫌いじゃないとは言いたい。
倉科と一緒にいるのは楽しいと言いたい。しかし、先に謝られてしまったため、またもや素直になれない。
「ったく、あんたは謝れば何でも許してもらえると思ってるのか?ふざけるな!」
そんなことを言いたいわけではないのに、晶の口は思っていることとは違う言葉が出てくる。
心の中で自分を罵倒し続ける。
「言葉でなら、なんだって言えるだろ!」
「じゃぁ、どうすれば許してくれる?お前の前から姿を消せば許してくれるのか?
そういう関係を断ち切って教師と生徒に戻れば許してくれるんだな?
分かったよ・・・。お前の望むとおりにしよう。俺はこれ以上お前に嫌われたくない」
晶は崩れ落ちる。倉科は自分のことはどうでもよかったのだ。
もし本当に自分を気に入っていれば、諦めたりはしないはずだ。もう何もかもどうでもよかった。
「先生は・・・夏樹のことが好きなんだろ?
夏目だってそうだ。皆夏樹を好きになる。
俺はあいつのように可愛くも素直でもない。
どうして俺はこんなに素直になれないんだろうな。
一言嫌いじゃないって言えればいいのに、あんたと一緒にいるのは楽しかったと言えればいいのに・・・あいつだったら何もためらいもなく言うんだろうな。
でも・・・あんたは俺のことなんてどうも思ってないんだろ?
俺のことなんか、どうせ遊びなんだろ?
適当に抱ければ、それでいいんだろ!」
自分の性格は、倉科と付き合う前からコンプレックスになっていた。
誰からも好かれる歩と自分とでは大違い、夏目に恋していたため、そんな事実は晶を苦しめ続けていた。
そのため自然と独りでいることが多かった。それを知られたくないため、いじめられキャラを「装っていた」。
だけど、ずっと寂しかった。本当は自分を必要としてくれる存在が欲しかった。好きだと言ってほしかった。でも、それは認めたくなかった。
それを認めると、歩との違いを認めなければいけなかったから・・・それで苦しむなら、一人で生きたほうがいい。
「外山、『もし』お前が俺を嫌いでないなら、俺と付き合わないか?俺は遊びで言うつもりはない」
今ので晶の内側が少し見えた気がした。突っ張っているが、やっぱり中は子供。
愛情に飢えているのかもしれない。晶には悪いが・・・手放す気は全くなくなった。
「俺は夏樹と違う。それを分かってんのか?」
やっぱり素直になれない。ここで何も考えずに即答すればいいのだ。
「そのくらい知ってる。歩は歩で、お前はお前だ。でも、お前と付き合いたい」
だけど・・・言いかけたところでやめた。いい加減素直になろう。
「いいぜ。あんたと付き合ってやる。ありがたく思えよ」
結局ひねくれてはいるが、それでも晶にとっては精一杯だった。倉科も晶の本心を受け取ってくれたようだ。
「あぁ、ありがたく思ってる」
それから愛しそうに晶を抱きしめる。それだけで力が抜けてしまう。
これでは自分ばかり好き「みたい」で反則だ、そう思いながら晶は口を開く。
「やっぱりあんたが攻なのか?」
「当然だ」
即答。少しは「お前が望むなら下をやってもいい」と言って欲しかったが。でも、
「ま、いいや。あんたが俺だけを見てくれるなら」
つまらない拘りは捨てた。自分が受身になることで倉科が手に入るなら、それでいい。
まだ、倉科に好きだと言えないけれど、いつかきっと好きだと言いたい。
そんなことを思いながら、倉科の背中に腕をまわした・・・。
臆病で、手探りで〜好きだと言いたくて〜
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