と、ゆうわけで、傷心の高校教師倉科息吹と、夢見る高校生佐野葵の、一方的でしかないラブラブ生活が始まってしまった。

勿論それは清風高校にとって巨大スキャンダルだった。

美少年大好きでありながら歩にしか興味がないあの倉科が他の男と付き合っているというのだから、話題にならないはずが無い。
当人は付きまとわれているだけだと必死に否定していたが、都合の悪い言い訳など生徒の耳に入るはずがない。
つまり、倉科×あおいちゃんの構図が出来上がってしまったのだ。
葵の片想いは勇名(有名ではない)だったらしく、祝福されまくったが、切ない視線を送る人もあった。歩である。




「倉科・・・他の人を好きになっちゃったんだね」

いつも学校では先生を使うようにしている。しかし、今日ばかりはそんな余裕もない。

「そんなに嫌なら、邪魔してきたら?」

あっさりと夏目が言う。しかし歩の心中はそんなに単純ではないようだ。

「あの時拒んでしまった僕にそれをできる権利はないよ」



歩はクリスマスに倉科を拒んでしまったことを未だに忘れることができない。
正式な恋人でない倉科との行為を拒むことは、傍から見れば正常に見えるが、歩と倉科の運命の糸は複雑すぎるほど絡まっているので、拒むことがいいことだとは素直に言えない。
夏目もそれを知っている。知った上で歩を好きなのだ。だからこそ、歩が邪魔者であるはずの倉科と親密であることに反対できるはずがない。


「そっか・・・。じゃ、俺が先生の分まで幸せにしてあげるね」

「夏目・・・夏目・・・」

こっちはこっちで二人の世界に入ってしまった。





倉科は突っ伏していた。ここ最近の大スキャンダルは、教師の格好の餌食となった。
清風高校はその点は『異常』なほど甘く、どうしてから知らないけれども教師と生徒の恋愛は大目に見られているが、倉科の場合、好奇の対象になりすぎるのだ。


「先生、どうしたの?疲れてるの?」

「・・・お前のせいだ。お前が俺達のことをカップルだと言うから俺はそこかしこで捕まったんだ・・・」

恨みがましい目で言う。倉科は本質的には平穏な生活を望むのだ。

「そっか、付きまとってごめんね。僕じゃだめなら代わりを探すから、期待して待っててね・・・」


「俺にどんな期待をしろと」


実にあっけない別れだった。





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「と言うわけだから、美鶴、先生の恋人になって」

「嫌にあっけなく身を引いたな。ま、賢明な選択だ。だが、俺は恋人になるつもりはない」

美鶴は冷静である。もともと葵が先生の心を射止めることが出来ないことくらい容易に想像がついていた。
葵も恋に恋している節があったので、放っておいたのだ。残酷だが、むやみやたらに人の恋路を邪魔する趣味は持っていなかった。


そんなつれない友人を諦め、外山翼に頼もうとしたが、視線を寄こしたところで即却下する。

「あ、俺パス。俺の心と身体は美鶴のモノだって決まってるんだ。他あたってくれ」

「そんな冷たいこと言わないでよ。寂しい先生のためにどうかしようって気はならないの?」

「俺、どうかされたい欲望はあるけど、どうにかしたいとは思わないから。いや、待てよ?あいつがいたか・・・」

心当たりを思い出した外山翼は、不敵な笑みを浮かべるのだった。





葵の短期間恋人として接してくれた御礼と称され、倉科は待ち合わせ場所にいることとなった。
どうやら素敵な彼氏を紹介してくれるらしい。そう言われても困る。
今は誰とも付き合いたくないので、会った途端で申し訳ないが、断ることにする。


しばらく待っていると、葵が男を連れてきた。
俺はゲイなのか?と自問自答するが、大きくなったもう一つの影を見て、絶句する。


「彼、外山晶は僕の友達の翼の弟なんだ。先生の教えている学年だから、面識はそれなりにあるんじゃないかな?じゃ、邪魔者は潔く身を退くから、二人で仲よくやってね」



面識どころか、歩の恋人、夏目に片想いだった男なんですけど、そう突っ込む暇も与えずに逃げ去る。

「何でお前なんだ・・・?」

「・・・その言葉、そっくりのしをつけて返していい?」

外山晶は不機嫌な顔を隠さない。この分だと何か理由をつけて騙されたんだろう。心底外山晶に同情した。

「この話はなかったことにしよう」

晶も同意するだろうと思いかけたが、ふと思う。晶は夏目のお気に入りだ。
うやむやになってしまったが、以前譲ってくれるようなことを言っていた気がする。
それならそれなりに価値のある子なのかもしれない。付き合ってみるのも面白い。


「やっぱり止め。俺達、付き合うことにしよう」

「あんた、何か変なの食った?」

「いや、最近は禁欲生活が続いている」

「俺は嫌だぜ。何で夏目のお気に入りと付き合わなきゃいけないんだ?」

倉科は乗り気だったが、晶はそうではない。そうなると、余計付き合ってみたくなるものである。
どうやってこの手に落とそうか。おそらくこの件には兄の翼が関わっているはず。彼は愛情狂で有名だ。そんな人間関係を整理したら、自ずと答えが出た。


「俺達がなかったことにするのは簡単だが、そうすると紹介してくれたあおいちゃんや、それを認めてくれた外山兄の心を踏みにじることになるんだけどな。それでもいいなら、どうぞご自由に」



晶は言葉に詰まる。正直言うと、倉科のことはあまり好きでもないし、付き合うのはもっと嫌だ。
しかし、これを断った後の兄の反応を考えると、ぞっとするのも事実。
兄は愛に飢えている男であるため、自分の行為を無碍にしたことが分かれば、下手すると血をみることになるだろう。それなら・・・もうヤケだった。




「はいはい、もう好きにしていいぜ。どうせ俺には拒否権はないんだろ?こうなったら何でもやってやるよ」



外山晶、高校一年、彼にとっては不幸であろう人生が始まることとなった・・・。



臆病で、手探りで〜好きだと言えなくて〜

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