「今日はロマンチックに過ごしたかったのに・・・何かピンクなムードになっちゃったね」
やっぱり俺は突っ込む。
「そういう方向に持っていったのは誰かな?」
「はい・・・僕です」
しゅんとする歩。それがまたやっぱり可愛い。俺は吹き出しそうなのをこらえるのに必死だった。
「ま、今日は許してあげる。歩の色っぽい姿が見れたから・・・。誘惑というすばらしいプレゼントももらえたからね」
「う〜・・・ひょっとして夏目、僕をからかって遊んでる?」
「当たらずしも遠からずといったところだね。でも、歩が色っぽいのはほんとだよ?」
「でも、夏目も結構色っぽいよね。何かあれ見てると僕も押さえが・・・」
「・・・・・そうですか。それじゃ、今度俺に入れてみる?」
すると歩は目を輝かせる。
「ほんと?いいの!?一度夏目をこの手で泣かせてみたいと思ってたんだ。フェロモン全開の夏目をこの手で・・・ふふふ。あ、言っておくけど一度だけだよ。やっぱり僕は抱いてもらうほうが・・・」
「いい訳ないでしょ・・・。全く・・・俺は歩にはずっと泣かされてるよ・・・」
俺はすっかり呆れてしまった。結局そういうオチにたどり着いてしまう。
これじゃロマンのかけらもない・・・かと思ったけど、歩が俺に寄りかかる。
さっきとは違う顔だ。切なさを含んだ顔をしている。
「夏目はどう思っているかは知らないけどさ、僕倉科を探すの来年で諦めることにする。
それで頼みがあるんだけどね、もし見つからなかったらそのときはさ・・・恋人にしてくれない?」
なぜ諦める必要があるのか。見つかるまで探せばいいではないか。
もし今ここで諦めたら、全てが無駄になるじゃないか。それよりも・・・
「恋人にするってどういうことよ・・・」
そっちのほうが非常に重要だった。倉科さんのほうは歩が決着をつければいい。
だけど、恋人については俺にも関わってくるのだ。歩は途端に無邪気な顔になって言う。
「考えてみたら、夏目っていう素敵な男が恋人になってくれたら僕は幸せになれるだろうと思うわけです。
あっちのほうもしてくれるかもしれないからね」
「せっかく感動したのに・・・実に不純な動機だね」
「もちろん後半は冗談だよ?だけどね、時々考えるんだ・・・。
もし夏目が僕のことを好きだったらどれだけうれしいのかなってね・・・。
時々見るんだ・・・。僕と夏目が恋人同士である夢を・・・。
夢の中ではとても幸せなんだけど、目が覚めるといつも僕は泣いている。
すごく寂しい気持ちになるんだ。
夢に終わりがあるのと一緒で、僕たちの関係にも終わりが来ると思うと・・・。
最近になって、倉科の夢も見るようになってきた。いつも近くにいるんだけど、近づくと消えてしまうんだ・・・。だから、もう倉科には会えないのかな・・・」
「歩の事は好きだけど?」
歩が寂しそうに言った。それは時間、場所をも越えた何か果てしなく遠くを見つめているようだったので、俺にはその一言しか言えなかった。
「その好きじゃなーい」
「あぁ、そうですか。じゃ、倉科さんを諦めたらもらってあげるね。でも、探す前に諦めるのは許さないよ」
「うん・・・分かってるよ。今諦めたらずっと支えてくれた夏目に悪いからね。それで恋人同士になったらそのときは・・・夏目の初めてを」
「・・・さっきの言葉、取り消そうか?」
歩くんはどうもそっちの話題から離れないようだ。さっきからずっと・・・。ま、一回くらい俺が受けるのはいいけどさ。歩にあれをされるとどうもそっちのほうがいいと思ってしまう。って、そんなことはどうでもいい。
「取り消そうたって無駄だよ。だって、僕はずっと夏目のものなんだから。例え倉科とくっついても、それはずっと変わらない・・・。だから、夏目は僕のことを好きにしていいんだよ。夏目は僕のことを抱くつもりはないようだけど、いつまでも僕は待ってる・・・」
「そういわれてもちょっと困るんだけど・・・」
「困るな!せっかく一生ものの覚悟で言ったんだからね。夏目には責任を取ってもらいます」
「ありがとね・・・わかった。そのときは責任取る」
「うん・・・素直でよろしい・・・って、何でここで泣くの!」
「しょうがないじゃないか〜勝手に出て来るんだもん」
俺の涙腺は壊れているのだろうか。次々と涙があふれてくる。嬉しかったのだ。
それが恋からくるものでないにしろ、歩は真剣に俺のことを愛してくれる。俺は何て幸せものだろう・・・。
「一応言っておくけど、泣くのは僕の前だけにしてね。こんな犯罪級のものを他の人に見せたくなんかない・・・」
「分かってるよ・・・。俺が泣けるのは歩の前だけだよ」
「そう言われると何か愛されてるって気がする〜」
非常に大喜びをする歩。だけど、しばらく考え込む。
「考えてみたら、僕は夏目のものだけど、夏目はそうじゃないんだよね・・・」
「何言ってるの?俺は既に人生を歩のために無駄に費やすことに決めてるんだけど」
「無駄とは失礼な・・・」
「冗談だよ」
お互い爆笑した。どうやら俺たちには恋人というものよりはまだ親友のほうが合っているのかもしれない。こうやって馬鹿げたことで笑うのがとても楽しい。別に歩が恋人でなくてもいいんじゃないかと思ってしまう。
だけど、歩の言ったことは忘れることはできない。
もし倉科さんが見つからなかったら、俺は告白をしよう。
歩に恋をしているということを。
喜んでくれるか、困った顔をするかは分からない。
歩は倉科さんのことで頭がいっぱいだろうから・・・。
俺は歩には悪いと思っていたけど、倉科さんが現れないことを心から願った。
そして歩が俺のほうを向いてくれることを願った。
俺は中学だけでなく、親友という立場からも卒業したかった。
だけど・・・。
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