歩のおかげでドイツに行く決心のついた俺だった。それを父さんに伝えることにした。

「俺・・・」

すると父さんは俺の言葉をさえぎった。

「お前は日本に残れ」





は?





どういうこと?せっかく決めたのにそういわれても困るんだけど。
すると父さんはちょっと困った様子を見せた。


「・・・歩君に泣きつかれたよ。士郎を日本に残してくださいってな。
お前は行く気があるらしいけど、どうも歩君のほうが行かせたくないらしい。
あそこまでされたら俺もお前を行かせるわけには行かないし、お前のほうも本当は離れたくないんだろ?」




「うん・・・分かっちゃった?」



「一応俺はお前の父だぞ?分からないはずがないだろ。お前が歩君にベタ惚れだってこともな」



「えっと・・・」



父さんが意味深に、しかも、にやりとしながら言うので俺も困ってしまった。どう返せばいいのか分からない。

「お前、歩君のことが好きなんだろ」





ひたすら隠していたつもりなのに、そこまで俺は分かりやすかったのだろうか。俺は言い訳に困った。

「そりゃ、歩の事は大好きだよ」

「ごまかそうとしているな?そんな事をしても無理だよ。周りは仲がいい親友同士にしか思っていないようだけど、俺はお前が歩君に恋をしているようにしか見えない」

「・・・やっぱり反対するつもり?」

「お前たちが付き合うかどうかはともかく、人の想いに反対することはできないさ。
お前が歩君を悲しませない限り、俺には反対する理由も権利もない。
だけど、お前が俺についていくと歩君が悲しむことになる。だから、お前は日本に残るんだ。費用のほうは心配するな」


何か途中から話題が変わってるんだけど、俺は突っ込まなかった。日本にいていいのならそれに越したことはない。

「ありがとう、父さん・・・」

父さんは何故か照れていた・・・。

「う・・・うん。歩君によろしく言っておいてくれよ」

こうして俺のドイツ行きは取りやめになったのだった。





「うちの父に働きかけたんだってね?」

俺は歩に詰め寄った。歩はとぼけようとしたけど、俺がそれを許さなかった。

「働きかけたんだよね?」

逃げようとするのを遮り、俺はにっこりと微笑んで(だけど目は笑っていない)歩に言った。
次第に歩が慌てだした。


「どうしてくれるの?せっかく決心したのに。え?」

歩はじりじりと後ろに下がった。顔全体から冷や汗を流し、笑いも引きつっている。だけど、やっと諦めたようだ。

「ごめん!だってあの時行きたくないって決めると思ったから〜。ああいえば行かないと思ったのに、逆に行くことにしちゃうんだもん」

引き止めてくれたのは嬉しいのだけど、それじゃ、俺の決心はなんだったんだ。少しいじけてみることにする。

「はぁ、ドイツ行きを楽しみにしていたのに・・・。親たちは俺を置いてくことにしちゃったし、既に歩の両親には俺の事を頼むとも言ってるみたいだし」

すると歩が申し訳なさそうにする。

「ごめんね・・・。また僕の我侭で夏目を縛っちゃったね。どうして僕は夏目の足を引っ張ってばっかなんだろう・・・」

そこまで言われると、逆に俺のほうが申し訳なくなってくる。

「冗談だよ。ほんとは歩が止めてくれたのは嬉しいんだ。俺だって歩と離れるのはいやだったから」

そう言って俺は歩に抱きついた。歩は・・・照れているらしい。

「だったら、一緒に同じ高校行こうね・・・」

彼はどうもそこから離れないようである・・・。





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それから俺たちは一緒に受験勉強をした。
遊びたいときも多々あったけど、我慢してひたすら勉強に励んだ。
まぁ、そうはいっても歩の専属家庭教師と化していたような気はするんだけど。

そして入試。

俺たちはベストを尽くした。結果はどうなんだろう・・・その日がやってきた。






俺たちは会場に急いだ。そこには無数の数字の羅列が並んでいた。
歩は249で、俺は250。その数字を探す歩。だけど、歩が崩れ落ちた。


「どうしたんだ!歩?」

歩は蒼白い顔で言う。まさか・・・。

「ごめん・・・僕、落っこちたみたい・・・ははは、夏目を巻き込んだのに、その僕が落ちるなんて、笑い話にもならないよね」

「まだ諦めるなよ。補欠があるじゃないか・・・って・・・。歩くん?」

呼びかけてみるものの、歩は自分の世界に行ってしまっている。俺は急いで現実に引き戻した。

「君、どこ見てんの?そこ、一桁違うんだけど」

よくみると歩が見たのは1200番台だった・・・。

「あ、ほんとだ。どうも僕緊張してたから1が見えなかったみたい」

歩はさっきからずっと緊張していたから、まぁ、それは仕方ないか。
俺は苦笑しながら歩を引っ張っていった。今度こそは200番台だろう。246、248・・・


「あ・・・あったよ・・・」

感極まった声で歩が言う。本当だ。確かに俺たちの番号が書いてある。

「よかった・・・これで歩と一緒にいれるね」

「うん!愛の力だね!」

そう言われても俺としてはちょっと複雑なんだけど。だけど、それ以上に嬉しかったので、俺も素直に喜んだ。

「まぁ、愛の力ということにしてあげるよ」

言葉は素直ではなかったけど。すると、歩は拗ねた。

「・・・こんなに愛しているのに僕のことが信じられないんだね?」

「好きな人がいる奴に言われても説得力がないよ?」

すかさず俺は突っ込んだ。風向きが悪くなりそうなことを感じ取ったのか、歩は急いでまとめた。

「と、とにかく、一緒に行けるってのはいいことだよね」

「そうだね。俺も歩も受かったことだし、ご褒美」

そう言って俺は歩のほっぺにキスをする。困ったことに、キスは俺たちの中で習慣となってしまったのである。いつも歩の方が催促して、いつも俺が逃げる(結局のところは捕まってせがまれるのがオチ)のだけど、今日くらいはサービスしてあげてもいい、そんな気分だった。だけど歩は絶対不満を言うに違いない。苦笑しながら見てみると、案の定歩は不満そうな顔をしていた。

「・・・するときは口にって言ってるでしょ!」

「こんなとこで?だったら、帰ってからゆっくりじっくりと深いのをあげるから、今は我慢しなさい」

歩の間近で言ってみた。すると何故か歩の顔が赤くなる。一体どうしたんだ。しどろもどろになりながら言う。

「そのかっこいい顔をどアップしないでよ。文句言えなくなるじゃないか・・・」

・・・言うつもりだったんだね?それより、この顔はどこにでもある顔だと思うけど。すると俺の考えを読んだのか、歩が呆れる。

「ひょっとして自覚ない?夏目ってもてるんだよ?僕だって油断してるとなんかぽーっとしちゃってこんな風に・・・」


そう言って抱きついてくる。そうはいっても結局いつもと変わらないんじゃないか。苦笑するしかない俺だった・・・。





卒業まであとわずか、最後の中学生活を楽しむことにしよう・・・。





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