さわさわと光が流れて。
 咎めはすまい。彼らに罪はないだろう。
 ただし――ちょっとお仕置きはするかもしれないけれど。




僧侶連盟




【 全てのものの母と赤眼の魔王 】

 ――L様ッ! ありがとぉございますぅぅうぅううぅっ!
 ――何が?
 ――助けてくれなければ、もぉどぉなっていたことかッ! ほんっとーにありがとぉございますぅぅぅぅぅうぅっ!
 ――あたしはあんたを助けるつもりでやったわけじゃないんだけど。
 ――は――?
 ――あたしはね、あの人間たちの、あの世界のためにやったのよ。
    あの世界はもう少し続いてもらわなくちゃいけないの。
    長い長い――つまらない、退屈な時の中で、あたしを楽しませてくれた世界ですもの♪
    バランス崩しちゃいけないのよ。よーするに。
 ――だから、あんな無理までしてこちらの世界に顔だしたんですね……
    って、それじゃあどうして『さっさと世界滅ぼさんかいッ! この根性なしッ!』とかって言うんですかぁぁぁぁぁッ!
 ――ふっ。そんなの決まってるでしょ。あんたに根性がないからよ!
 ――………………………L様ぁぁぁあぁぁぁあぁぁぁぁあぁ……




【 『魔を滅すものたちデモン・スレイヤーズ』と人を模したもの、それに高位魔族二人 】

「覇王、無事だったんですって?」
 ざわっ――
 あたしの言葉に、飯屋の客達は一瞬ざわつき、次に沈黙したが、酔っ払いのたわごとと思ったか、はたまた聞き違いと思ったか――それは解らないが、またそれぞれの雑談に戻ってゆく。
 セイルーンから半日ほど離れた、小さな村の飯屋――どうやってあたしたちを探り当てたのか、ゼロスとグロゥはちゃっかり同じテーブルについていた。
 彼はあたしの問いにこくりっ、と頷くと、
「ええ。それどころか、魔力の不足もなくなっていたんです。魔王様も無事でしたし――ま、魔王竜の方はかなり被害が出たそうですが。
 ――でも、そんなこと誰に聞いたんです? このことは魔族の中でも知らない方が多いんですが……」
 あたしは食事を一時中断し、ぴっ、と人差し指を立て、
「あのディノって奴がね、それはそれはもう嬉しそうに、フェイトに教えてたわよ」
「あああああああああああああああああああああああ。」
 頭を抱えるグロゥ。横でゼロスが何かを諦めたかのようにため息をついていた。
「――んで、魔族はどう考えているわけ?」
 あたしの問いに、ゼロスは口篭もる。
「それが……その……」
「はっきりしないわね。さっさと言いなさいよ」
「……それが――魔王様が、お顔を真っ青にされて、『この件に関してはこれ以上追求するなッ!』とおっしゃったらしいんです……」
「北の魔王がそう言ったの?」
「はい……獣王様がそう――」
 ゼロスにそのことを伝えた獣王も、顔色がよくなかったんだそうな。
 …………………それってやっぱり……
「それってやっぱり、ロード・オブ・ナイトメ……」
「あああああああああッ! みだりにその名を口にしないで下さいってばッ!」
 あたしの考えをなぞるようにアメリアが呟きかけると、ゼロスが絶叫して止めた。客の中には何事かとこちらを向く人もいるが、大体は『またか』――といった顔をして無視する。
「……ていうか、何でそんなことしたんだろネー。僕、あのお方は世界には何の干渉もしてこないと思ってたヨ」
「お前の目が腐ってたんじゃないのか。アレ信仰者」
「あのお方の名前をアレ呼ばわりしないでってばッ! だって、ゼロス様だってそう思うよネ。今までだってそうだったんだモノ」
 さくらんぼの乗ったヨーグルト食べながらのヴィリスの言葉に、グロゥが少しムキになって言う。
「て言うかあんた、グロゥ。それ、何……?」
「納豆御飯」
「いや……そりゃ、わかるけど……
 ………………凄い……臭いなんだけど……」
「好きなんだヨネ。これ」
 さいですか。
 臭いがたまらなかったのか、フェイトは既にさっさか飯を切り上げて、外に出てしまっている。ちなみにゼロスはお茶だけ。
 アメリアはセイルーンに残ったし、フェリアさんは偶然居合わせたということで事後処理の手伝い。フィルさんもこれから結構忙しくなりそうである。シルフィールはもう元気になったようだし――ゼルガディスはセイルーンを出て早々、どこかに行ってしまった。夜さんもそうである。
 なので、ここにいるメンバーは、あたし、ガウリイ、ヴィリス、ゼロス、グロゥ――という風になっている。
「……ヨーグルトと納豆の臭いが混ざってるぞ……」
 ガウリイがげんなりとした表情で言う。あたしはテーブルから顔をそむけつつ、
「――それはともかく、これからどうなるわけ? 覇王はやっぱりあたしに仕返しに来るのかしら?」
「……………それが……」
 グロゥは沈んだ声で言う。
「覇王様、獣王様と仲悪いんだヨネ。
 それで、そこの人形と、あのフェイトとかいう奴を、覇王サイドに引き入れろって……」
『はぁッ!?』
 グロゥの台詞に、思わず声を上げるあたしとヴィリス。
「ちょっと待てちょっと待てッ! それは間違いなく覇王の言葉だなッ!?」
「そうダヨ……」
「こ、子供のケンカかあぁああぁぁあぁあぁぁッ!」
 沈痛な面持ちで頷く覇王神官に、あたしは思いっきり怒鳴りつけた。
「と、ゆーワケで、仲間になってくれないかナ」
「な・る・かぁぁあぁぁぁぁぁぁッ! それがついこの前私の腹光線で貫いた奴の台詞かッ!」
 真顔で問うグロゥに、当然ながら叫ぶヴィリス。彼はそれにむっとした表情を形作る。
「台詞ダヨッ! しょうがないでしょ僕だって仕事なんだかラッ! こっちだってイヤだヨ!」
「どういう意味だよッ!」
「そのままの意味サッ!」
 ……はぁぁぁぁぁぁぁ。
 とりあえず、あたしは大きくため息をついて、こちらを困ったような目で見やるガウリイに頷きかけると、ゆっくりと立ち上がり、飯屋の外に出て行った。
 ゼロスに『ここのお勘定頼む』と言い残して……




【 姫と魔剣士 】

「……で。お前はどうしてここにいるんだ」
 ゼルガディスの言葉に、アメリアはえへへ、と笑った。
 宿屋――ゼルがディスの取った部屋には、セイルーン王女殿下のアメリア姫が、椅子にちょこんと腰掛けていた。
「だって、ゼルガディスさん、わたしを置いて言っちゃうんですもの。
 父さんは説得したし、これからついていくことにするからv」
「う……」
 笑顔で言われては、反論のしようもない。
 ――というか。
 説得されるな。フィル殿下。
 彼は思いながらも、とりあえず部屋を出る。
 ――宿屋の主人に、部屋をもう一つ取る、と告げるために。




【 黄金竜長老と灰色の魔王竜 】

 …………はぁ。
 カタート山脈に連なる『竜たちの峰ドラゴンズ・ピーク』。
 水竜王ゆかりの黄金竜たちの群れを統べる長老ミルガズィアの元に、魔王竜の青年が客として来ていた。
 大きく一つため息をつくと、ヨルムンガルドは顔を上げる。
「彼らは――反省していますか」
「ああ。さすがに『母』が相手では、反省するしかないだろう――それよりも、魔王竜よ。落ち込んでいるようだが――」
「……私は……喜ぶべき――なのでしょうか……」
 ミルガズィアの問いに、灰色の魔王竜――ヨルムンガルドは呟いた。
「……父が死に、原因と、黒幕がわかったとき、正直言って、私は魔族派の竜たちを憎悪した――いつか必ず殺してやる。そう思った――
 そして、結果――今回の覇王の暴走によって、カタートにいた魔王竜たちの大半が死に至りました。魔族派の連中も、それ以外の竜たちも――」
 うつむいたままのヨルムンガルドの話に、ミルガズィアは黙って耳を傾けている。
「……それで……お前は喜んでいるのかね?」
「いいえ」
「それならば、無理をして喜ぶ必要はないだろう?」
 問いに、彼はしばし沈黙し、
「――そう……ですね……
 ところで、その『反省している』若い竜たちがいませんが――」
「ああ、彼らは旅に出た。自分を見つめなおすとか言っていたものもいたな。
 己のギャグセンスを磨く為にな……」
「そうですか……」
 真顔で言うミルガズィアに、遠い目をして言うヨルムンガルド。
 …………………………………………………………ここにツッコミ役がいなかったのを悔やまねばなるまい。
 まぁ、それはともかく。
「――行くのか?」
「ええ。魔王竜たちの復興の手伝いをしてきましょう。
 私は、そうしなければならないでしょうから」
 ミルガズィアは黙って頷いた。
 そして、灰色の竜――ヨルムンガルドは空に飛んでいった。




【 ノーストとディノとフェイト 】

 ――いい天気である。
 いつもだったら、さぞ眠くなったろう。そんな陽気である。
 ――吐き気がしなければ。
「ぅぇえ゛え゛え゛ぇぇえ゛……うううう……口の中が納豆臭いぃー……」
「大丈夫?」
 フェイトは身体を『く』の字にしたまま、
「何とか……う、ぇえ゛ぇ゛ぇ゛ぇぇぇ……」
「……グロゥか」
「そうみたい」
 ノーストの問いに、ディノがフェイトの背中をさすりながら答えた。
「……ぅえぷ。
 それで、君たちは何でここいるの?」
「勧誘」
 即答するノーストに、フェイトはしばし考えて、
「――今度は覇王の仲間に入れって? 僕らも人気者だねぇ。姉さんの方はあのピエロの奴が言うんでしょ?」
「うん。そうだよ。今はピエロじゃないけど」
「――ところで、何であいつは納豆好きなわけ?」
 フェイトの問いに、『パワー』二人は一瞬顔を見合わせて、そろって首を横に振る。
「知らない。前何かの任務でどっかに行ってから好きになったんだよね」
「確か豆腐も好きだったんだと思うんだが……」
「……一体どんな高位魔族さ……」
 フェイトはため息をついて、空を見上げた。
「――そう言えば、お墓参りいけなかったなぁ……」




【 魔道士協会評議長と姫の侍女 】

 ――とんっ。
 窓からふわりと浮遊レビテーションを使って飛び降りると、ハーリアはきょろきょろと辺りを見回し、警備の隙をついて――
 がっ!
「ふふふふ。逃がしませんよぉぉおぉぉおぉ。フェリア評議ちょぉぉぉぉ」
「い・や・だぁぁぁぁぁぁぁっ! 僕はアリドに帰るんだぁぁぁぁあっ!」
「だめですぅううぅぅぅぅぅッ! アメリア姫が城を出られてしまって、ただでさえ人手不足なんですからぁッ!」
「だったら僕引き止めるより姫様追ったらいいじゃないいいぃぃぃぃぃいぃッ!?」
「姫様が陛下を説得しちゃったんですよおぉぉおぉぉッ!」
「されるなぁあぁぁぁぁぁッ! ていうかそれなら僕も帰るッ!」
「だめですぅぅぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅぅうっ!」
「なんでさあぁぁぁぁぁあっ! 僕の仕事は事情聴取だけでしょーがあぁぁぁぁぁぁあッ!」
「でもダメなんですぅうぅぅうッぅうッ!」
 ――アメリア姫の侍女フラウンと、評議長ハーリアの戦いは、まだまだ続くようだった。




【 腹心三人 】

「……はぁぁぁぁぁぁ」
「落ち込まない方がいいわよ、ダイナスト。
 あの御方が出てきたからって、叱られるのは魔王様だけですもの」
「その発言は少々過激だな。海王」
「あら、そんなことはありませんわ。ゼラス――だって、事実でしょう?」
「そうなのだ……そこが一番恐ろしい――
 もし魔王様が滅んでしまったらどうする?」
「もっともな質問だがな、覇王。あの御方は『生かさず殺さず』と言っておられた。
 弱体化はされるかも知れないが、滅ぼされるよりはましだろう」
「……だが……」
「もういいだろう。
 ところで、お前はあの二人を自分の方に引き入れたいようだが、あの二人は私が先に目をつけたのだ。手を引いてもらおうか?」
「ふん。お前のところはまだ仲間にできてないではないか。そちらが先に仲間にすればそれでいいだろう? 仲間にしてから横取りするわけではないのだからな」
「だからお前はいけ好かんのだ」
「まぁまぁ、二人とも、それはともかく、私のお茶の実験台になってくれないかしら?」
『いや、遠慮しておく』
「そうなの。残念ですわ……」
「――というより、何故『実験台』なのだ……?」
「さぁ――それは私も解りませんわ――」
『…………………』




 と――まぁ、そんなわけで。
 とりあえず、あたしたちの旅はまだまだ続くらしい。
 この先何があるのか――というのは、あまり想像したくないのが事実だが……
 考えたってしょうがない。
 ともあれ、次の目的地が決まるまで、そこいらをぶらぶらすることになりそうである――




・(僧侶連盟 ―→ おわり)・




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