■2002年9月号

今月の潮流
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今月のできごと


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バイオジャーナル

今月の潮流
●ゆらぐ遺伝子組み換え食品の安全性評価


 英国政府が、アーパド・プシュタイ博士の名誉を傷つけたことに関して、
誤りを認めた。過日、同博士は、遺伝子組み換えジャガイモをラットに投与
する実験で、ラットに異常が起きたことをテレビで発表した。王立協会が実
験そのものを批判したため、激しいバッシングが起き、博士は研究所から解
雇された。今回の「名誉回復」は、政府の公式のメモで述べられている。
〔ガーディアン2002/6/22〕
 また、胃液や腸液で遺伝子やタンパク質は分解されるので、安全性に問題
はない、と言いつづけてきた推進側に、大きなダメージをもたらす研究結果
が報告された。
 英国ニューキャッスル・アポン・タイン大学のハリー・ギルバートらの研
究チームは、大腸を切除した人工肛門をもつ被験者7人に、除草剤耐性大豆
を用いた大豆食品を与えて、大便を検査した。当然、大腸を経ない便という
ことになる。その結果、被験者全員の便中の細菌から、組み換えDNAが検出
され、食品中の遺伝子が腸内細菌に移行することが確認された。被験者の一
人からは、かなり多量のDNAが検出された。
 さらに正常な大腸をもつ12人の被験者にも同様の食品を与えたが、こちら
の便の細菌からは検出されなかった。なぜこのような違いが生じたのか原因
は明らかではないものの、少なくとも組み換えDNAが入った腸内細菌が大腸
にまで到達することは明らかである。
 たった1回の食事で、このような結果が出た以上、正常な大腸を持つ人に
も、繰り返しの食事で実験する必要があるといえる。
 この実験結果は、マーカー遺伝子として抗生物質耐性遺伝子を用いれば、
抗生物質が効かない体になる可能性があることを示している。さらには除草
剤耐性遺伝子や殺虫毒素をつくる遺伝子が、腸内細菌に移行してあらたな細
菌を作り出し、それが未知の問題を引き起こす可能性や、環境中に広がる可
能性もある。いずれにしても、安全性評価の基本である、人工胃液・腸液の
実験での有効性が失われたといえる。〔New Scientist 2002/7/18〕