■2015年6月号

今月の潮流
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バイオジャーナル

今月の潮流●60か国参加の第10回GMOフリー欧州会議開催


 5月6日から8日にかけてGMOフリー欧州会議が開催された。10回目となる今回は、60か国約400人が参加した、事実上の世界大会であった。
 主催は、GMOフリーゾーン自治体で構成される「欧州GMOフリー地域ネットワーク」、大豆生産者のネットワーク「ドナウ大豆協会」、そしてこれまで会議を主催してきた欧州の「GMOフリーゾーンのためのNGO・科学者ネットワーク」。従来と異なり、自治体や業界が参加した点に大きな特徴がある。
 議論の1つが、3月に成立したEU加盟国が独自にGM作物栽培の禁止を可能とする新GMO協定についてであった。この協定は同時に、加盟国間の合意を経ることなくGM作物の栽培を可能にするため、新たなGM作物の流入を許すことにもなる。

 議論のもう1つが、RNA干渉技術やゲノム編集技術などの「新興バイオテクノロジー」。議論の中心であったゲノム編集技術は、「人工制限酵素」を用いてピンポイントで目的とする遺伝子の働きを止める技術である。人工制限酵素は、DNAを切断する部分と修復する部分を併せ持つ。そのため切断後、修復され、その際に一定の割合で遺伝子の働きが止まる。また、修復の際に、その部分に遺伝子を挿入することもできる。このように特定箇所の遺伝子の働きを止めて、そこに新たな遺伝子を挿入するという、これまでの遺伝子組み換え技術ではできなかった「遺伝子の入れ換え」が可能になったことにより、「ゲノム編集技術」と呼ばれる。GM食品の開発も「ゲノム編集技術」に変わる可能性が高くなったが、会議では安全性などの議論はもちろん、社会的合意もないまま、技術だけが独り歩きし始めていることへの警戒感が示された。

 主催者の1つであるドナウ大豆協会は「欧州タンパク質源戦略」を打ち出し、オルターナティブな大豆自給の動きが広がっている。現在EU内では、大豆のほとんどが輸入で、大半は米国やブラジル、アルゼンチンなど北南米の生産国に依存している。その北南米生産国ではGM大豆の生産が拡大し、非GM大豆の入手が困難になってきた。ドナウ大豆協会によると、欧州の大豆自給率は3%で、流通する大豆の85%以上がGM大豆だという。

 欧州の人たちにとって、肉、卵、乳製品などは毎食欠かさず食べる重要なものだが、飼料へのGM大豆の使用増加に対する危機感がある。そこで始まったのが大豆自給運動で、その中心的役割を担うネットワークがドナウ大豆協会である。2008年に大豆農家と加工業者が参加して設立したオーストリア大豆協会が基となり、ハンガリーやルーマニアの農家や加工業者、さらにはEUの大手食品加工業者が加わり、欧州15か国150企業が参加して2012年にドナウ大豆協会は設立された。今後5年で、非GM大豆を現在の5倍の500万トンに増やす計画だ。

 ドナウ沿岸のルーマニアでは以前、大豆の大半がGM大豆だったが、現在はすべて非GM大豆に切り替えられた。オーストリア大豆協会とドナウ大豆協会の両代表を務めるマティアス・クレンは「欧州における非GM大豆の生産・流通拡大のために、このGMOフリー欧州会議は大変有意義な会議だった」と挨拶した。