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今月の潮流●米国食品医薬品局、GM鮭を承認
11月19日、米国食品医薬品局(FDA)は、遺伝子組み換え(GM)動物食品としては初めてとなる、成長スピードを早めたGM鮭を承認した。
2010年8月、食品としての安全性も含むGM鮭の環境影響評価作業が開始され、2012年5月にまとめられた。だが発表は大統領選挙後の12月21日だった。発表まで半年以上かかったのは、オバマ大統領が消費者から嫌われないように先延ばししたからといわれている。ニューヨーク・タイムズ紙が当時(2013年1月)、1052人の成人を対象に行なったGM食品表示についてのアンケート調査では、GM野菜、果物、穀類については約半数が食べないと回答。GM動物については懸念の度合いがさらに強く、GM魚は4分の3が食べないと回答している。
「問題なし」との評価を受けFDAは、2013年に入り一般からの意見募集(パブリックコメント)を求めた。開始早々30万もの意見が寄せられたため、2月末としていた募集期限は60日間延長された。最終的に4月26日に締め切られ、200万におよぶ承認反対意見が寄せられた。GM鮭への消費者の反発を受け、トレーダー・ジョズやアルディ、ホールフーズ・マーケットなど米国大手スーパーマーケット・チェーンが次々と、GM鮭不売を宣言した。
GM鮭は、米国のベンチャー企業アクアバウンティ・テクノロジーズ社(以下、アクア社)が、研究所のあるカナダ・プリンスエドワード島で開発し「アクアドバンテージ」と名づけられている。このGM鮭は、通常のアトランティック・サーモンに、2メートル大と巨大になることから「キング・サーモン」と呼ばれるチヌーク・サーモンの成長ホルモンを作る遺伝子を導入した。加えて、通常の鮭は冬の間は成長せず、成魚になるまでに3年を要するが、寒くなってもホルモンを分泌し続けるように、ゲンゲと呼ばれるウナギに似た魚の遺伝子を導入した。この2つの遺伝子によって、1年半で鮭は成熟する。
アクア社は、この鮭は繁殖不能にしてあるため、安全に養殖できると主張してきた。しかし、繁殖不能であっても、巨大な魚が環境中に逃げ出せば、魚類全体の生育環境に悪影響を及ぼす可能性がある。不妊の技術として用いられている三倍体作成法(染色体を通常の2組ではなく3組にする方法)は絶対とはいえず、繁殖能力が回復する可能性を開発した研究者も認めており、そうなると組み換え遺伝子の拡散が起きることになる。同社は、魚そのものを販売するのではなく、卵を養殖場(パナマ)に販売する予定だと述べている。しかし、当初はパナマだけかもしれないが、その後世界各地でGM鮭が養殖されれば、環境中に逃げ出す可能性はいっそう強まる。
FDAの承認が遅れたため、アクア社は経営危機に陥ったが、モンサント社で牛成長ホルモン剤を開発したトーマス・カッサーが上席副社長を務めるバイテク・ベンチャー企業のインテクソン社が救いの手を差し伸べた。事実上、モンサント社の傘下に入ったのである。インテクソン社は、ファイザー、マクドナルドなどにいた人物で構成されていて、政治的な力でGM鮭市場化を急がせ、今回の承認に至ったと見られる。
米国では、いったん承認されると規制も表示もないため、今回、反対意見の多かった消費者に配慮した政策が提示された。食品医薬品化粧品法の動物薬として管理することと、任意の表示制度を設けることである。しかし消費者は実効性に疑問をもっており、市民団体食品安全センターは承認取り消しを求めて提訴することを明らかにした。〔New York Times 2015/11/19ほか〕
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