■2017年9月号

今月の潮流
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バイオジャーナル

今月の潮流●米国で人の受精卵にゲノム編集操作


 ゲノム編集技術を人の受精卵に適用して遺伝子を操作し、成功したことが、8月2日付「ネイチャー オンライン版」に掲載された。研究は、米国のオレゴン健康科学大学とソーク研究所、韓国の基礎科学研究院が共同で行なった。人の受精卵にゲノム編集技術を用いたケースは、これまで中国で3例報告されている。

Shoukhrat Mitalipv率いる米国オレゴン健康科学大学の研究チームは、肥大型心筋症の男性の精子と、その遺伝子の働きを壊すように設計したCRISPR/Cas9を同時に卵子に注入した。58個の受精卵が作られ、そのうち42個には遺伝子の変異が見られなかったという。
研究チームは、受精卵は子宮に戻さず、臨床応用も考えていないという。また、ゲノム編集で問題になっている、意図しない遺伝子を壊す「オフターゲット」も見られなかったとしている。しかし、オフターゲットの有無をどのように確認したのかは述べられていない。〔Nature 2017/8/2〕


この実験について遺伝学・社会センターのMarcy Darnovskyは、「この実験は明らかに生殖細胞の遺伝的改変を目的としたもので、不妊治療の実践可能な方法を開発することにある」「実験をした研究者たちは、このような実験を行なうに当たっての民主的な手続きと市民参加の必要を認識しながら、それを無視している。また、遺伝子操作を必要としない既存の選択肢を無視したものであり、いったん商業利用が始まると、人の遺伝的改良をもたらすことになる」と述べている。〔Center for Genetics and Society 2017/8/2〕

生物医学者であり弁護士で、がん患者でもあるPaul Knoepflerは、次のような問いを発している。「いったいこの技術が安全で有効なことを立証するために、いくつの卵や胚が必要になるのだろうか。1000個なのか1万個なのか。エピジェネティクスの問題はクリアしたのか」〔ipscell.com 2017/8/2〕

多くの研究者が「遺伝的改変を次世代以降に伝えてはならない」と指摘している。国際テクノロジー・アセスメント・センターの研究者Jaydee Hansonは、「国は、ヒト胚を用いたゲノム編集技術の応用に対して、資金の提供を停止すべきである」と述べ、米国政府に要請した。
〔International Center for Technology Assessment 2017/8/2〕

遺伝子操作に反対する団体「ヒューマン・ ジェネティクス・アラート」の創始者で分子生物学者のデビッド・キングは、「ヒト受精卵へのゲノム編集の応用は、デザイナー・ベイビーをもたらし、おカネを持つ人と持たない人とのあいだの社会的不平等を拡大し、優生学の社会をもたらす。私たちはいま、このような遺伝子操作の競争の禁止を求める時期に来ている」と述べている〔The Guardian 2017/8/4〕