■2018年8月号

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バイオジャーナル

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●ゲノム編集
●CRISPR-Cas9が大きな遺伝子損傷を引き起こす

ウェルカム・サンガー(Wellcome Sanger)研究所の研究者たちは、CRISPR-Cas9が従来考えられているより遺伝子に大規模で複雑なダメージを引き起こすことを明らかにした。この研究は、「ネイチャー・バイオテクノロジー」誌7月16日号に掲載された。また、この遺伝子のダメージは、現在オフターゲットを検出するために用いられている標準的な手法では見逃されてしまうことも指摘している。

同研究所のマイケル・コシキ(Michael Kosicki)、ケルト・トムベック(Kart Tomberg)、アラン・ブラッドリー(Allan Bradley)らが、マウスのES細胞やヒトの網膜の細胞に、CRISPR-Cas9を用いてゲノム編集を行ったところ、DNAを切断した後の修復の際に、多くの細胞のDNAに数千塩基にも達する大きな欠失が起きたり、遺伝子の複雑な再配列がもたらされていた。しかも、それらの変化は標準的な判定箇所から離れており、従来の検査方法では引っかからないこともわかった。研究者によると、これはCRISPR-Cas9による予期しない事象の初めての体系的評価であり、これまでこのような予期しない現象は過小評価されてきた、と指摘している。

この実験について英国の分子生物学者マイケル・アントニオ(Michael Antoniou)は、この大規模な遺伝子の欠失や再編成がそれぞれ独立して起きていることに注目して、NHEJ(非相同末端連結)修復の際に起きていることが考えられると指摘し、食品として利用する際にも、そのメカニズムの解明が安全性評価に欠かせない、と述べた。〔Nature Biotechnology 2018/7/16ほか〕

●遺伝子組み換え作物
●スタック品種でラットの胃に穴が

複数の遺伝子を導入したGM作物品種「スタック品種」を用いた実験で、ラットの胃に穴があき、遺漏度が強まる異常が起きていたことが明らかになった。

研究に用いたGM作物は、除草剤耐性と殺虫性の3種類(MONFS3、MON810、NK603)の遺伝子を導入したトウモロコシである。実験を行ったのはオーストラリア・アデレード大学のイリーナ・M・ヅジアスキ(Irena・M・Zdziarski)らで、投与群と対照群それぞれに雄のラット10匹ずつを用いた。胃の細胞は通常、互いにしっかりとつながった「タイトジャンクション」を形成するが、投与群は胃の細胞間に多数の隙間が生じ、遺漏度が増していた。対照群はしっかりつながっていた。遺漏度が強まるとアレルギーや感染症への懸念が強まるという。〔Food and Nutrition Sciences 2018/6/29〕
●欧州事情
●スロバキアがGMO栽培を中止

数少ない欧州のGM作物栽培国スロバキアで、GMトウモロコシの栽培を中止したことが米国農務省の世界農業情報ネットワークにより明らかになった。2006年から栽培を開始し、2008年には同国最大の1930ヘクタールに広がっていた。2016年まで栽培を継続してきたが、近隣のオーストリア、ハンガリー、ドイツなどがGM作物の購入を控えたため、トウモロコシの輸出が減少し、Non-GMOへの全面切り替えとなった。〔WORLD-GRAIN.com 2018/7/6〕


●アイルランドがGMOフリー堅持

アイルランド政府は、環境大臣デニス・ノーテン(Denis Naughten)が提案したGMOフリー政策の堅持案を承認した。これによりアイルランドのGMOフリー政策は続くことになった。大臣は「GMOフリー政策は環境にやさしく、持続可能な食料生産国としての国際的評価の重要な要素である」と述べた。〔AgriLand 2018/7/10〕
●北米事情
●メキシコ政府がモンサント買収で厳しい条件を提示

米国、EUが相次いで条件付きで独バイエル社による米モンサント社の買収を承認し、世界的に承認が進むなか、メキシコ政府が待ったをかけた。同国政府は、この買収を承認する条件に、反独占法に基づき、バイエル社に対しGM綿の種子部門と野菜種苗部門の放棄を求めたのである。〔March Against Monsanto 2018/6/28〕


このところメキシコでは、モンサント社の栽培申請に対して厳しい対応が目立つ。とくに際立つのがGMOフリー政策をとる、養蜂とトウモロコシ栽培など食料生産の活発なユカタン州で、ここは先住民族が多い。2014年に連邦下級裁判所が「先住民などの権利を侵害している」として、モンサント社の同州での栽培申請を取り消す判決を下した裁判では、同州政府も強い支援を行った。モンサント社は救済措置を求めて最高裁に上訴したが、最高裁も栽培禁止を支持した。〔The Yucatan Times 2018/6/30〕