■2018年9月号

今月の潮流
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バイオジャーナル

今月の潮流●ゲノム操作食品、EUはGM食品同様に規制へ



 7月25日、EUの司法機関である欧州司法裁判所は、ゲノム編集やRNA干渉法など新しいバイオテクノロジーで開発した生物について、作物や食品として扱う場合、遺伝子組み換えと同様に扱うという判断を下した。これによりヨーロッパでは、ゲノム編集などで開発した作物や家畜などは、従来通り生物多様性影響評価、食品としての安全性評価、食品表示、その表示が正確かどうかを裏付けるためのトレーサビリティを行わなければならない。


企業や研究者は一貫して規制を嫌っており、裁判所の判断が注目されていた。欧州でも「新しいバイオテクノロジーを応用した作物は遺伝子組み換え作物とは異なる」と規制を免れようとする動きが企業や研究者にみられたからである。この判決を引き出したのは、農家や消費者、科学者が一体となって取り組んだ成果だといえる。なおEUでは、新しいバイオテクノロジーで開発した作物の栽培に関して、GM作物同様に各国の判断で禁止できることになる。


ではどのようなものが規制の対象になるのか。EUで新たに規制対象となったバイオテクノロジー応用食品は、「新植物育種技術(NPBT)」と呼ばれ、ゲノム編集以外にオリゴヌクレオチド指定突然変異導入技術、シスジェネシス・イントラジェネシス、RNA依存性DNAメチル化、接ぎ木との組み合わせ、逆育種、アグロフィルトレーション、合成生物の計8種類である。


EUでこのような規制が可能な理由の一つに、トレーサビリティが確立していることがあげられる。それでも今後、NPBTの検査方法をめぐって論争が起きると予想される。遺伝子組み換えの場合、導入したDNAにある共通の部分を見ることで、遺伝子組み換えを行ったかどうか判定が可能である。しかしゲノム編集やRNA干渉法は、DNAを切断するだけでDNAの挿入がないため検査が難しく、分子レベルでの変化を見る必要があるからだ。〔European Court of Justice 2018/7/25ほか〕


この判決を受けて、ドイツのバイエル社とBASF社は、欧州での新植物育種技術を用いた作物開発を断念することを明らかにした。BASF社は研究拠点を米国に移していたが、この間進められたバイエル社によるモンサント社買収で、バイエル社の欧州での種子部門の多くがBASF社傘下になったことから、この判決がもたらしたダメージは大きいとみられる。〔Euronews 2018/7/27〕