■2019年1月号

今月の潮流
News
News2


今号の目次へ戻る
ジャーナル目次へ戻る






























バイオジャーナル

ニュース


●アジア事情
●日本でGM綿の違法栽培発覚

 日本ではGM綿栽培は承認されていないが、12月7日、農民連食品分析センターが16検体を分析したところ、3検体がGM綿であった。3検体のうちの1つは、栽培を予定していた農家の依頼で洋綿を分析したところ、GM綿だった。もう1つは小学校で栽培していたもので、形状からおそらく洋綿であろうと推測されている。3つ目は、茎などの繊維を用いて紙製品を作ろうとしていた検体だった。これから農水省によって原因の究明が始まるが、以前日本で販売されたことがある、中国からの輸入GM種子由来ではないかとみられている。


●中国がグリホサート残留基準を引き下げる

 中国政府は2019年末までに、穀物、食品、原材料などすべての製品の除草剤グリホサート残留基準を0.2ppmまで引き下げることを決定した。これにより中国市場を目指す、米国やオーストラリアなどの食料輸出国に大きな影響を与えることは必至である。今後中国は、食料の輸入先をロシアに切り替えていく可能性が強まったといえる。他方、中国は世界最大のグリホサートの生産・輸出国であり、2017年の生産量は50.5万トンに達している。〔Sustainable Pulse 2018/12/11〕


●GM添加物
●GM飼料添加物が抗生物質耐性菌を拡大

 飼料添加物として使用されるGMビタミンB2に用いる抗生物質耐性遺伝子が、抗生物質耐性菌の拡大を招いている。このGM飼料添加物は2014年に欧州食品安全庁(EFSA)によって安全と評価され使われるようになったが、その評価が裏切られる結果となった。原因は、本来すべて取り除かれているはずの、微生物由来の物質が飼料中に残っていたためで、それにより耐性菌の拡大を招いた。2016年に欧州委員会が新たなリスク評価を求め、EFSAは「健康と環境に対して大きなリスクをもたらす」と結論づけた。その結果、欧州委員会は直ちに市場からの撤去を求めたが、2019年中ごろまで引き続き使用が認められた。〔Test biotech 2018/11/30〕


●GM昆虫
●英領でのGM蚊放出実験、撲滅できずに終了

 英領ケイマン諸島で行われてきたGM蚊放出実験が失敗にて終了する。このプロジェクトの推進団体「蚊の研究&制御ユニット(MRCU)」の責任者である環境健康大臣ジム・マクネリーは、代表着任時に計画がうまく機能していないことがわかったと述べ、実験終了を宣言した。実験にはこれまで58万ドルを費やし、一方、蚊は撲滅どころか増えている。〔Cayman News 2018/11/23〕

●ゲノム編集
●受精卵のゲノム編集で双子の赤ちゃん誕生

 中国の研究者が受精卵をゲノム編集技術で遺伝子操作し、女の子の双子が誕生した。受精卵への操作を行なったのは、深せん市にある南方科技大学の賀建奎准教授。当初は論文を投稿中とし、その後も論文を公表していないので、操作の内容や詳しい経緯は不明である。これまで発表された記事などをまとめると、概略、次のようになる。

11月25日、賀建奎准教授は、女の子の双子の誕生をユーチューブ(動画)で公開した。翌26日にはAP通信などが報道し、日本も含めて世界中から批判が起きた。27日には、中国科学技術省幹部が「人胚胎幹細胞研究倫理指導原則」に違反しており、関連法に基づき処分すると述べた。国家衛生健康委員会も事実関係を調査すると述べている。広東省の衛生局は深せん市とともに調査チームを設置し、調査を開始している。一連の実験に携わった深せん市の病院は、関与を否定する声明を発表した。

28日に香港で開催された第2回ヒトゲノム編集国際サミットで、准教授が操作の内容を発表した。それによると、最初はサルで実験を行ない、ヒトへ応用した。最初8組の男女が参加していたが、1組が抜け、7組の男女から受精卵を採取しゲノム編集技術を施した。男性はすべてHIV感染者であり、女性はすべて非感染者である。

ゲノム編集を行なった受精卵のうち31個が胚盤胞にまで成長した。操作はHIV感染を防ぐために、ゲノム編集技術を用いてウイルスが侵入する際に利用するCCR5というレセプターのタンパク質の遺伝子を破壊したという。HIVが感染できない体にする操作を行なったことになる。11月に女の子の双子が誕生し、生まれた双子の名前はルルとナナ。これから18年かけて追跡調査を行う。さらにもう1組も間もなく誕生する予定だという。

実験を行なった賀准教授は物理学者で、中国科学技術大学を卒業後、米国に留学しライス大学、スタンフォード大学を経て、中国政府肝いりの「千人計画」と呼ばれる海外で活躍する研究者を呼び寄せて国の科学技術の発展のために優遇するメンバーに選ばれ、現在、南方科技大学で研究生活を送っているが、まもなく退職して事業に専念するそうである。これまでゲノム編集にかかわる研究者としては無名で、実績も発表されていない。
このゲノム編集技術を用いた受精卵操作は経過そのものも不明瞭である。出産するまで秘密裏に進行しており、出産後も経過が示されていない。受精卵提供の男女へ、どのようなインフォームドコンセントが交わされたのかも明らかになっていない。

賀准教授は医者ではないため、病院や医者の協力が必須であるが、どこの病院で誰が協力したのか、発表されていない。研究や医療にかかった高額の費用を誰が出したのかもわかっていない。CCR5遺伝子を破壊すれば、他のウイルス感染に影響が出ることがわかっていながら、なぜ行なったのか。またHIV感染に関しては、子どもへの影響を最小限に防ぐ有効な治療法が確立しているのに、なぜリスクの大きな受精卵操作を行なったのか。

受精卵の遺伝子を操作すれば、次世代に受け継がれる。これは人間による人間の遺伝的改変である。この先には、理想的な子どもを作り出すデザイナーベイビーが想定され、さらにその延長線上には遺伝的改良による優生学的社会が想定されるなどの問題点が指摘されている。(BBC News 2018/11/29ほか)