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今月の潮流●iPS細胞とゲノム編集で加速する臓器移植
文部科学省が動物性集合胚を用いて、移植用ヒト臓器の作製を許容する姿勢をとったのに続き(本誌2019年4月号参照)、臓器移植の世界では、これまで禁忌とされてきた領域に入り始めている。
東京慈恵医大と大日本住友製薬は4月5日、iPS細胞(人工多能性幹細胞)とブタの胎児組織を使って腎臓の元となる組織を作り出し、患者に移植して腎臓に成長させる、腎臓再生医療に取り組むことを明らかにした。まず、患者本人の細胞などからiPS細胞を作る。ブタの胎児から腎臓の元になる組織を取り出し、iPS細胞を注入して腎臓の種を作り出す。その種を患者本人に移植して、腎臓に成長したら尿管につなぎ機能させる、というのがそのシナリオである。この場合、ブタ由来のウイルスなどをなくすためにゲノム編集技術が使われる可能性が高い。〔中日新聞 2019/4/6〕
これとは別に、日本医学会がこれまで禁忌としてきた子宮移植へ向けて動き出した。4月3日、同学会は子宮移植の解禁に向けて、生殖医療や移植医療などについて検討する委員会を設置した。代理出産を認めるかどうかも合わせて検討される。これらの課題について2年以内に結論を出す予定である。すでに2018年11月に慶応大が親族間での子宮移植を目指した臨床研究計画を日本産科婦人科学会に提出している。東京女子医大もサルを用いた子宮移植の実験を開始した。別のサルから移植した子宮に体外受精で作成した受精卵を入れ、妊娠と出産を目指す。これらの動きが重なり、日本医学会は検討を開始したと思われる。〔毎日新聞 2019/4/4〕
iPS細胞の応用も広がっている。厚生労働省は3月5日、大阪大が提出していたiPS細胞から作成した角膜細胞の患者への移植を承認した。移植の対象は、角膜上皮幹細胞疲労症の患者4人である。〔朝日新聞 2019/3/6〕
iPS細胞を用いた目の移植手術では、以前に問題が起きている。2018年1月に神戸市立医療センター中央市民病院が滲出型加齢黄斑変性症の患者に対してiPS細胞を用いて作成した網膜を移植したところ、網膜浮腫が発症した。iPS細胞の移植はまだ人体実験の段階である。
2月23日には、横浜市立大がiPS細胞からミニ肝臓を作り出し、乳児に移植する申請を今夏にも出す予定と報道された。iPS細胞から肝臓前駆細胞、血管内皮細胞、間葉系細胞の3種類の細胞を作り、それらを組み合わせてミニ肝臓を作り、OTC欠損症(生まれつきアンモニアを分解できない病気)の乳児に大量に移植して肝機能を補うという。〔朝日新聞 2019/2/24〕
臓器移植の最大の壁である拒絶反応をおさえるために、免疫細胞が異物ととらえる、提供臓器の細胞の表面にあるマーカー遺伝子をゲノム編集技術で破壊し、異物と認識させないようにするなど、ゲノム編集技術の登場によって移植医療は一気に進みそうである。
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