■2020年8月号

今月の潮流
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バイオジャーナル

ニュース


●生物多様性条約
●COP15で新たなコロナ対策の提案

 生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)は、今年10月に中国昆明で開催予定であったが、延期されることになった。そのCOP15に、同条約事務局長代理のエリザベス・マルマ・ムレマ(Elizabeth Maruma Mrema)が、新型コロナウイルスをもたらしたとされている野生動物の売買を世界的に禁止する提案を行い、今会議の最大のテーマになりそうだ。タンザニア出身の同氏は、事務局長辞任後、代理として実質的に事務局を担っている。今回、新型コロナウイルスの発生にかかわったとされる野生動物は、絶滅危惧種に指定され国際的な商取引が禁止されているセンザンコウである。将来の感染症を防ぐためにも野生動物の売買を禁止する必要があると提起した。しかし狩猟を禁止すると、アフリカなどの先住民の生活や社会に大きな影響が出るとして、そのような地域への配慮が必要だとも指摘している。〔CBD 2020/4/7〕

●欧州で市民団体が遺伝子ドライブで意見書を提出

 6月30日、ヨーロッパの78の農民団体、環境保護団体などが「遺伝子ドライブ技術の一時停止」を求める声明を欧州委員会に提出した。この技術は、ゲノム編集の仕組みを世代を越えて受け継がせるため、種の絶滅をもたらし、生物多様性に甚大な影響が出る危険性があり、科学者の間でも批判が強まっている。現在EUでは、欧州食品安全庁(EFSA)の専門家会議が、同技術の規制に関する勧告を策定中である。声明では、今秋開催予定のCOP15で、EUが世界に向けて一時停止を働きかけるよう求めている。今年1月、同じ農民団体などが欧州議会に働きかけ、世界に向けて一時停止を求める決議を上げさせており、欧州委員会がその議会決議に従うよう求めている。また、欧州理事会の議長国であるドイツに対しては、欧州委員会で決議を上げるためのイニシアティブをとるよう求めている。〔EURACTIV.com 2020/7/3〕

●ヒト胚
●ヒト胚へのゲノム編集でオンターゲット発生

 英国フランシス・クリック研究所のキャシー・ニアカン(Kathy Niakan)らによる研究で、実験に用いた胚の多くに染色体異常が起きていたと、「bioRxiv」(2020年6月5日)に発表された。
これまでゲノム編集では、意図しない箇所を切断して起きるオフターゲットが問題になっていたが、今回問題となったのは、従来は見過ごされていた、切断箇所付近で起きる大規模なDNAの欠落や挿入といった、オンターゲットである。ヒト胚を用いたこの研究は、胚の初期段階での遺伝子の役割を調べるためにゲノム編集技術を用いた。研究に用いた胚は全部で25個で、ゲノム編集胚18個、対照群7個を設定した。その18個の胚のうち10個は正常に見えたが、8個に染色体異常が起きていた。
キャシー・ニアカンは、2016年2月に、英国で最初に研究目的でゲノム編集技術を胚に使用する許可を受けた。また、2019年12月には、人間に応用する際には多くの手続きが必要である旨を述べている。〔Medium OneZero 2020/6/16〕

●ヒト胚ゲノム編集への市民参加の議論の場を求める

 専門家と市民で構成されるゲノム問題検討会議(代表・島薗暹・東京大学大学院名誉教授)が、政府や学会に対して「ヒト胚ゲノム編集についての広範な研究者・市民の参加による討議の場の設置に関する要望書」を提出し、7月13日、衆議院第二議員会館で記者会見が行われた。島薗代表は、ヒト胚へのゲノム編集技術の応用は倫理的に大きな課題があり、しかも社会的コンセンサスづくりが不十分であり、市民も参加した討議の場を設定すべきである、と述べた。日本では、この問題での市民の発言の場はない。