■2020年9月号

今月の潮流
News
News2


今号の目次へ戻る
ジャーナル目次へ戻る

























バイオジャーナル

今月の潮流●新型コロナウイルスのバイオワクチン開発狂騒

厚労省は7月31日、新型コロナウイルス・ワクチンの開発が成功した場合、米国ファイザー社から来年6月までに6000万人分の供給を受けることで基本的に合意した。さらに同省は8月7日、英国アストラゼネカ社とも、成功した場合、来年初頭から1億2000万回分の供給を受けることで基本合意した。ワクチンの確保に動いている先進各国同様、日本政府も積極的に確保に動いたことになるが、まだワクチンはできておらず、その有効性や安全性すらわからない段階での大規模合意である。

ワクチン開発は、以前はウイルスの毒性を弱めた生ワクチンが用いられていたが、毒性を回復して一定の割合で副反応が起きることから、ウイルスを働かないようにした不活化ワクチンが主流になった。その場合、効果が弱いため複数回接種と免疫力を高めるアジュバントが必要で、体への負担が大きかった。

それら従来の方法に代わり、現在では遺伝子組み換え技術などバイオテクノロジーを応用した開発へと移行している。HPV(子宮頸がん)ワクチンが先鞭をつけた「VLPワクチン」と呼ばれる、蛾の細胞を用い遺伝子組み換え技術を応用したものが登場した。開発に10年単位の歳月を必要とする生ワクチンや不活化ワクチンより短縮されたとはいえ、この技術でのワクチン開発でも最低4〜5年かかることから、さらに時間を短縮できるDNAやmRNA、あるいはウイルスベクターを用いたバイテクワクチンへと、開発の方法が大きく変化した。今回の新型コロナでも、大阪大学発のベンチャー企業アンジェスが、DNAワクチンや不活化ワクチン、VLPワクチンの開発を進めている。

米国政府など各国政府は多額の予算を付け、通常ワクチン開発で必要な審査を短縮するなど、規制を緩和してワクチン開発を急がせている。日本政府も基礎研究と動物実験、人間への臨床研究を並行して進めることを容認し、多額の予算を付けて開発を進めている。同時並行ということは、安全性や有効性がきちんと確認されない段階で人間に接種することになる。最初から安全性は軽視されており、まさに人体実験であり、ナチス・ドイツの経験を踏まえ先端医療における人体実験を禁止した、世界医師会によるヘルシンキ宣言(1964年)に違反する行為だといえる。

開発企業も変化している。今年2〜3月頃までの開発主体は米国や中国のワクチンメーカーやバイテク・ベンチャーだった。それがいま、多国籍製薬企業による多額の資金を注ぎ込んだ開発へと移行した。日本政府が供給合意した米国ファイザー、英国アストラゼネカなどがそれにあたる。これら2社は、新たな開発方法を用い、開発期間は1年前後である。少しでも早く開発した企業が巨額の利益を得ることができる、そういう思惑が見える。
いまワクチン開発の主流となっているバイテクワクチンに、DNAワクチン、mRNAワクチン、ウイルスベクターワクチンがある。基本となる考え方は、従来の生ワクチン、不活化ワクチン、VLPワクチンが、いずれもワクチンそのものを作って人間に接種するのに対して、新しいバイテクワクチンは、体内に導入された時にワクチンの機能を持つタンパク質を作るようにしたものである。すなわち、ワクチンの働きをする物質は、人間が体内で作り出すことになる。これは遺伝子治療の考え方である。

問題点をまとめると、第一の問題は、開発が優先され安全性が軽視されていることである。遺伝子治療が白血病の多発でとん挫したように、どのような新たな健康被害が起きるか予測がつかない。第二に、有効性にも疑問がある。いまだに新型コロナウイルスの実像は把握されておらず、感染者の免疫反応が急速に衰える現象がある。たとえワクチンが効果を発揮したとしても、すぐに有効性が失われることが考えられる。ずるずると多額の資金を投じてワクチンを買い続けることになりかねない。第三に、体内で遺伝子を働かせることになるが、それが生殖細胞に移行すれば、人間の遺伝子改造につながりかねない。本来ならば、遺伝子治療臨床試験のガイドラインに規定されるはずだが、それに関して何も示されていない。第四に、人間の遺伝子組み換えである以上、遺伝子を組み換えたすべての生物を対象とした生物多様性条約のカルタヘナ法の対象になるはずだが、これについても何も示されていない。第五に、なにより人間の免疫システムは、さまざまな免疫関連細胞が連絡を取り合い、働いて成り立っている。その複雑な仕組みに介入すれば、アレルギーや過敏症、自己免疫疾患などをもたらす危険性がある。