■2020年11月号

今月の潮流
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バイオジャーナル

今月の潮流●新型コロナウイルス・ワクチンの臨床試験中断相次ぐ

新型コロナウイルス・ワクチンの開発は、従来のワクチンとは異なり、遺伝子を人間の体内に入れ、体内で抗原を作らせ、抗体を誘発する方法がとられている。いわば「人間の遺伝子組み換え」である。バイオテクノロジーの急速な発達と、開発を急がせる各国政府の後押しを受けて、ほとんどの多国籍製薬企業がこの方法で開発競争に参入している。それら製薬企業は、ほとんどのケースでバイオベンチャー企業と組んでいる。

これまでまったく経験のないタイプのワクチンなのに加えて、開発を急ぐあまり深刻な問題が噴出し、そのため相次ぐ中止・中断が起きている。まず、英国アストラゼネカ社とオックスフォード大学が共同で開発を進めている、ウイルスベクター・ワクチンの臨床試験に問題が生じた。英国ジョンソン政権は新型コロナウイルス対策で失態を演じたため、起死回生を狙いほとんど審査を経ずに臨床試験を許可した。このワクチンは、ベクターという遺伝子の運び屋のウイルスに、チンパンジー・アデノウイルスが用いられている点に特徴がある。治験が一時中止に追い込まれたのは、治験者の一人が痛みやしびれをもたらす横断性脊髄炎を発症したことによる。本来ならばここで十分に安全性を確認すべきなのに、横断性脊髄炎とワクチンとの関係が不明なまま、英国での試験は1週間の中断ののち再開され、日本や米国での治験も追って再開された。

米国ジョンソン&ジョンソン社とベルギーヤンセン・ファーマシティカル社が共同開発している、ウイルスベクター・ワクチンも臨床試験で異常が起き、日本も含めすべての治験を中止した。このウイルスにはアデノウイルス26型が用いられている。同社は「説明できない異常」だとして、詳しい説明はしていない。また、米国イノビオ・ファーマシューティカルズ社が開発中のDNAワクチンについても、米国食品医薬品局(FDA)が複数の問題点を指摘し、臨床試験を差し止めている。

ロシアはガマレヤ・リサーチ研究所が開発したウイルスベクター・ワクチン「スプートニクX」に次いで、国立ウイルス学・生物工学研究センターが開発したペプチドワクチン「エピワクコロナ」を承認した。「スプートニクX」は、アデノウイルス26型を接種した後に同5型を接種する、2回接種のものである。両者はいずれもワクチン承認にあたって最終的に必要な大規模での臨床試験が行われておらず、専門家の間でも安全性・有効性ともに疑問視されている。

中国では十数年にわたりSARSワクチンが開発されてきたが、結局、失敗に終わっている。ワクチン接種によってウイルスの感染や増殖が強まる、抗体依存性感染増強(ADE)が起きたためである。本来ウイルスから体を守るはずの抗体が、逆に感染を促進し、感染した免疫細胞を暴走させて症状を悪化させてしまう現象である。この現象は深刻で、新型コロナウイルス・ワクチンでも、大規模な副反応をもたらす危険性がある。中国のSARSワクチン開発が新型コロナウイルスをもたらしたとする説も今なお有力視されており、政治的な要請でワクチン開発や接種が急ぎ進められると、ADEの頻発だけでなく、新たなウイルスの誕生を招く可能性もある。新型コロナウイルス対策をバイオテクノロジー応用ワクチンに求めれば、さらに被害が増す可能性がある。