■2020年12月号

今月の潮流
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バイオジャーナル

今月の潮流●新型コロナ治療薬の開発競争

ワクチン同様、新型コロナウイルス感染症の治療薬の開発競争が過熱状態にある。ここでも巨大多国籍企業がバイオベンチャーと組んで開発を進めている。既存薬の新型コロナへの適用には、ギリアド・サイエンシズ社が開発した「レムデシビル」や、富士フイルム富山化学が開発した「アビガン」などがある。抗体医薬では、トランプ大統領が使用したことで有名になったものがある。

既存薬の応用で先行したレムデシビルは、もともとエボラ出血熱の治療薬として承認され、それを新型コロナウイルスにまで用途を拡大した。日本では早々と今年5月7日に、新型コロナウイルス感染症治療薬第1号として承認された。

レムデシビルはRNAポリメラーゼ阻害剤で、エボラ出血熱ウイルスのように遺伝子がRNAであるウイルスの治療薬である。ウイルスが人間の細胞内に侵入し、増殖する際、遺伝子のRNAを合成するが、そのRNAの合成を妨げて効果を発揮するようにしたもので、その原理を同じRNAを遺伝子に持つ新型コロナに応用できると考えたのである。阻害すれば、必然的に遺伝子を合成できず、ウイルスは増殖ができなくなるはずである。しかし、WHO(世界保健機関)は10月16日、1万1266人を対象とした調査で、レムデシビルが入院期間や死亡率において効果が認められなかったと発表した。さらに11月20日には、副作用の可能性と静脈注射が必要なことからくる医療現場への負担を理由に、レムデシビルを使用しないよう勧告している。

富士フイルム富山化学のインフルエンザ治療薬「アビガン」は、10月に承認申請がなされ、認可に向けた動きが活発化している。同じくRNAポリメラーゼ阻害剤であるこの医薬品は、RNAを遺伝子に持つインフルエンザ治療薬として承認されたが、副作用が大きいことからインフルエンザでも使用が限定されている。特に問題なのが、動物実験で赤ちゃんに障害を引き起こす催奇形性をもたらしたことである。ほとんどの生命体はDNAにある遺伝子の情報により、RNAを合成する際、ポリメラーゼ酵素が働く。この酵素を阻害すれば生命現象そのものを脅かしかねず、副作用が深刻になる可能性がある。
開発が進められているもうひとつの医薬品の分野が抗体医薬で、トランプ大統領の使用が後押ししたのか、11月10日に米国食品医薬品局(FDA)が、イーライリリー社の抗体医薬「バムラニビラム」の緊急使用を許可した。しかし、この抗体医薬は経験が浅く、どのような副作用があるかわかっていない。非常時だからという理由で安全性が不確かなまま許可された。

このように開発が過熱するなか、その状況に警告を発する企業や国際機関も出てきた。世界三大医薬品メーカーの米国ファイザー、スイスのロシュ、ノバルティスのうち、スイスの2社はワクチン開発に消極的で、むしろ既存の医薬品の活用を図っている。ロシュの最高経営責任者のセベリン・シュバンはブルームバーグ・テレビのインタヴューで、過熱するワクチン開発に警鐘を鳴らした。さらにはWHOと、日本も含め各国が加盟するICMRA(薬事規制当局国際連携組織)もまた、11月6日、ワクチンや医薬品の拙速な開発を牽制している。