■2021年1月号

今月の潮流
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バイオジャーナル

今月の潮流●日本初のゲノム編集食品「トマト」が流通可能に

12月11日、日本で初めてゲノム編集食品の国内販売が可能になった。筑波大学教授の江面浩らが開発したGABA高蓄積トマト「シシリアンルージュ・ハイギャバ」である。この日、同大学発のベンチャー企業サナテックシード社が、トマトの商品化に必要な手続きである農水省への情報提供と届け出、厚労省への届け出を行ない、受理されたことによる。ゲノム編集食品は、環境影響評価や食品や飼料としての安全審査も必要としないため、このまま流通が可能になり、表示もないまま私たちの食卓に登場することが現実となった。

これまで市場に登場したゲノム編集作物は、米国のカリクスト社が開発した高オレイン酸大豆と、サイバス社のスルホニルウレア系除草剤耐性ナタネの2種類だけである。そのうち除草剤耐性ナタネは、開発したサイバス社がゲノム編集技術で開発していないと言いだし(本誌2020年11月号参照)、これが事実だとすると、米国で栽培されている高オレイン酸大豆のみになる。これに日本で開発されたゲノム編集トマトが加わった。ただしサナテックシード社によると、まだ知的財産権の手続きが終わっていないため、種子の販売や商業栽培はできない。そのため同社は、2021年から種子の無償提供を行うと発表した。各家庭でゲノム編集作物の栽培が行われ、それが無秩序に拡大する危険性が高まることになる。

承認されたゲノム編集トマトは、人間の血圧の上昇を抑える働きがあるといわれている物質「GABA」を多く含むようにゲノム編集したものである。具体的にはグルタミン酸脱炭酸酵素遺伝子の一部を改変しGABA含有量を高めている。同社は、通常のトマトより5〜6倍多いと報告している。もともとシシリアントマトは調理用の品種であるが、開発したゲノム編集トマトは、品種改良のための親系統として利用し、作出したF1系統を食用として種子や苗で販売する予定である。

だが、このトマトには問題が多い。アグロバクテリウムをベクター(遺伝子をトマトの細胞に導入するもの)に用い、その細菌のプラスミド(核外遺伝子)にDNAを切断するCas9遺伝子、マーカー遺伝子に抗生物質のカナマイシン耐性遺伝子、さらにこれらの遺伝子を起動するカリフラワーモザイクウイルスの遺伝子を入れた「CRISPR-Cas9発現カセット」を挿入している。これはどう見ても遺伝子組み換え技術そのものである。
しかし、厚労省の審議会は「ゲノム編集は遺伝子組み換えと異なる」として安全審査を求めなかった。また、このトマトは国家プロジェクトで開発されたものでありながら、審議は非公開で行われた。

ゲノム編集技術の問題点として指摘されてきた、目的以外のDNAを切断してしまうオフターゲットについては、全ゲノムを調査したものではなく、まったく不十分である。またエピジェネティックな変異については調べられていない。安全性は確認されたとは言い難い。食品表示もないため、消費者は選ぶことができない。日本で初めて市場に出現するゲノム編集食品には、問題があまりにも多すぎる。