■2021年11月号

今月の潮流
News
News2


今号の目次へ戻る
ジャーナル目次へ戻る

























バイオジャーナル

ゲノム編集解禁に向けて活発化する欧州

 

 9月24日、欧州委員会はゲノム編集技術などニューGMOと呼ばれる技術の応用食品での「開始影響評価(Inception Impact Assessment)」を公表し、意見募集を行なった。これはニューGMO応用食品に関して、リスク評価や食品表示を行わない方針を進めるための第一歩と考えられ、市民団体などの間で警戒が広まっている。

意見募集に対して、環境保護団体やスローフード協会といった食や農に関する団体が積極的に意見を提出するよう呼びかけている。EUの科学者団体のテストバイオテクは、ニューGMOが規制なしで承認されると、@生物多様性に深刻なダメージをもたらす可能性がある、A食料生産に持ち込まれたリスクが知らない間に蓄積する可能性がある、B独立した専門家や専門機関によるリスクアセスメントに必要なデータの入手が難しくなる、C環境中でのニューGMOの拡散が制御不能になる、DニューGMOやその生産物の追跡ができなくなる、EGMOフリー農家が守られなくなる、と述べている。〔Testbiotech 2021/10/7〕

この動きに関連して生命特許に反対する動きも活発になっている。それはゲノム編集技術に係る知的財産権が伝統的な育種にとって脅威になるからである。「種子に特許は必要ない」という抗議が、ミュンヘンにある欧州特許庁(EPO)に殺到している。〔NO PATENTS ON SEEDS! 2021/10/13〕 EUの動きに先行して事を進めようとしているのが、EUから離脱した英国である。9月28日、同国環境大臣は、ゲノム編集技術などニューGMOの年内の解禁を発表した。 英国のニューGMO解禁の動きに対して英国土壌協会は、英国民の85%は規制解除に反対であり、英国民の意思に反する決定である、との意見を発表し、持続可能な農業の維持を求めた。〔Soil Association 2021/9/29〕

英国政府の動きに、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの各政府の動向が注目されている。それぞれの政府は、独自の決定を行うことができるからである。スコットランドと北アイルランド両政府はともに、EUからの離脱に反対していた経緯がある。またウェールズとスコットランド両政府は、英国政府政権与党と反対の立場にある。しかし、ゲノム編集などのニューGMO推進はグローバルな動きであり、どのように進むかは不透明だ。〔The Scotsman 2021/9/29〕

これらの動きと対照的なのがスイスである。もともとスイスは、国民投票によりGMOモラトリアム(一時停止)を続けてきた。スイス連邦議会下院は、ゲノム編集技術応用作物も加えたモラトリアムの2025年まで延長を可決成立した。144票のうち反対は27票、棄権は19票だった。この時、ゲノム編集技術をモラトリアムから除く提案も出されたが、反対多数で否決された。同時に、4年以内のGMOの交雑混入に関する状況の説明と、共存と責任に関する報告が、国会に義務付けられた。環境大臣のシモネッタ・ソマルガはこの決定を歓迎し、ニューGMOの急速な発達に対抗して、モラトリアムの延長は重要だと述べた。〔GM Watch 2021/10/4〕