■2022年5月号

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バイオジャーナル

医薬産業を巨大市場に押し上げるmRNAワクチン

 

医薬品業界の2021年度売り上げランキングが発表になった。トップはファイザー社で、他社を大きく引き離し、売上高は前年より94%増の812億8800万ドル(8兆9217億円)。同社の2020年度の売り上げは356億ドルで世界8位だった。2021年度の売り上げのうち、新型コロナワクチンの売り上げは367億8100万ドルに達している。新型コロナ感染症が世界の医薬品産業に追い風をもたらし、各社とも売り上げを伸ばし、巨大市場となった。しかし、乗り損なった日本企業などは苦戦しており、この間ベスト10に入っていた武田薬品が、今回は外れてしまった。

mRNAワクチンを開発したベンチャー企業として、独ビオンテック社と並び脚光を浴びた米国モデルナ社が、3月7日に新たな戦略を発表した。新戦略のトップに挙げたのが、今後のパンデミックに備え、WHO(世界保健機構)とCEPI(感染症流行対策イノベーション連合)が挙げる、最も注目される病原体15に対してのmRNAワクチンを開発し、2025年までに臨床試験を開始する、というものである。 多国籍企業が売り上げを伸ばし、新たな戦略を打ち出すのに対抗して、日本政府も新たなワクチン開発に向けて動きだした。国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の中に、開発の司令塔の役割を担う先進的研究開発戦略センター(SCARDA)を設けた。SCARDAは4月4日、先端的なワクチン開発のための研究開発拠点づくりに向けて戦略推進会議を初開催した。
これとは別に文科省は、感染症研究の拠点校として国立大学6校を指定し、そのうち3校をワクチン開発の研究・開発の拠点校とした。東京大学医科学研究所、大阪大学、そして島根大学である。その島根大学は4月1日、新興感染症ワクチン・治療用抗体研究開発センターを立ち上げた。同大学の研究者はすでに旭化成などと組み新型コロナワクチンを開発中で、2021年12月にはその特許を出願している。

日本企業もこの間の成果を発表している。田辺三菱製薬は2月24日、カナダの子会社メディカゴ社と共同で開発した新型コロナワクチンがカナダで承認されたと発表した。このワクチンは、新型コロナウイルス感染症としては初めて、植物の細胞を用いて生産するウイルス粒子用(VLP)ワクチンである。VLPワクチンには、日本ではHPV(子宮頸がん)ワクチンがあるが、新型コロナワクチンを含めて、これまで開発されてきたVLPワクチンはすべて蛾の細胞を用いてきた。
今回の植物にはたばこの葉が使われているため問題になっている。そもそもメディカゴ社は、田辺三菱製薬が株式の78.68%を保有し、それ以外は米国のたばこ企業大手のフィリプ・モリス社が保有している。WHOは3月16日の記者会見で、われわれはたばこ産業に対して厳しい方針をとっており、このワクチンは承認されない見通しである、と述べた。
NECも4月8日、新型コロナウイルス感染症を含む、コロナウイルス感染症全体に効果を持つmRNAワクチンの開発に着手したと発表した。同社のノルウェーにある子会社NECオンコイミュニティと共同で行うもので、この計画はワクチン開発の国際組織であるCEPIの公募で採択された。コロナウイルスに共通の抗原をAIで探す実験を行う。

3月1日、mRNA医薬品の開発を進める「クラフトンバイオテクノロジー社」が名古屋市内で設立した。同社は名古屋大学大学院の阿部洋教授と京都府立医科大学大学院の内田智士教授が設立したベンチャー企業で、早稲田大学、横浜市立大学、理化学研究所などと共同で研究を進める予定。すでにAMEDの「革新的先端研究開発支援事業」に採択されている。 さらにmRNAワクチンや医薬品の製造拠点となる、アルカリス社の工場建設が3月12日、福島県南相馬市の工業団地で始まった。世界中の製薬会社や創薬ベンチャーなどから受託して製造する予定である。この工業団地は、震災復興を大義名分とした福島イノベーション・コースト構想」に基づくもの。工場の地鎮祭には自民党の大物議員や厚労省の官僚がずらりと並んだという。アルカリス社は、武田薬品がウィズ・パートナーズ社と共同で設立した旗艦投資会社アクセリード社の子会社で、設立には日立製作所も絡んでいる。〔日経バイオテク・オンライン版 2022/3/29ほか〕