■2022年6月号

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バイオジャーナル

進む動物へのゲノム編集の簡易化

 

動物へのゲノム編集を簡易化する研究・開発が活発化している。ゲノム編集では標的とする遺伝子を壊すために「DNA切断カセット」と呼ばれる遺伝子群を導入する。動物へは一般にマイクロインジェクション法と呼ばれる方法で細い針を用い、直接受精卵にこのカセットを導入するが、顕微鏡をのぞいての作業は効率が悪いうえにモザイクの危険性を免れない。モザイクとは、通常の細胞と遺伝子操作された細胞が入り乱れて分裂を繰り返し成長していくことである。そこで取り組まれているのが、精子や卵子の基となる始原生殖細胞を用いる試みである。

広島大学大学院統合生命科学研究科教授堀内浩幸が進めているのが、オスにかかわる遺伝子を壊すDNA切断カセットを始原生殖細胞へ導入し、メスしか誕生できないようにする試みである。 産業技術総合研究所(産総研)のバイオメディカル研究部門大石勲らは、鶏の始原生殖細胞にDNA切断カセットを導入し、卵白にオボムコイドというアレルゲンタンパク質ができないようにした。さらに、鶏の始原生殖細胞にヒトインターフェロンを産生する遺伝子をDNA切断カセットとともに導入して、ヒトインターフェロンを大量生産する鶏も開発している。広島大学および産総研の前者の鶏の開発にはCRISPR-Cas9が使われているが、産総研の後者のゲノム編集には国内特許のCRISPR-Cas3を用いており、産業化に向けた動きを作り出している。

このような始原生殖細胞を用いたゲノム編集の簡易化は、昆虫でも進められている。京都大学の研究チームはチャバネゴキブリを用いて、眼に関連する遺伝子を壊し白く変色させる実験を試みた。産卵前のチャバネゴキブリのメスの卵巣近くにDNA切断カセットを導入したところ、生まれてきた子どもの約2割の眼が白かったという。導入された遺伝子群が卵子の基となる細胞に取り込まれたため、とされている。〔Cell Reports Methods 2022/5/26ほか〕