2020年に開催予定だった生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)は延期が繰り返されてきたが、当初予定の中国・昆明からカナダのモントリオールに場所を変更し、12月5〜17日の開催が決まった。議長国は中国のままである。このCOP15で注目されているのが合成生物学の規制の行方である。規制させまいとする先進国政府や産業界と、規制を求める環境保護団体や農民団体の間での論戦が活発化している。
欧米先進国では合成生物学関連のベンチャー企業への投資が盛んで、米国にある合成生物学の分野で活動する起業家や投資家、企業のネットワークであるシンバイオベータ(SynBioBeta)によれば、2021年の投資額は世界全体で180億ドル(約2兆3000億円)に達したという〔日経バイオテクonline版2022/6/9〕。
まだ端緒についたばかりの学問分野に、なぜこれほど投資が盛んになったのか。最大の理由は、成果に期待が寄せられているからである。この間、バイオテクノロジーの応用では、新型コロナのmRNAワクチンという思いがけない成果があったことが、その背景にある。
合成生物学とは、人工的な生命体を作り出し、生命の謎を解き明かしていく学問である。すでにウイルスの世界では人工合成遺伝子を用いた生命体が誕生し、人工合成DNAを用いたマイコプラズマも誕生している。ゲノム編集技術により遺伝子の組み換えが以前より正確になったため、人工合成微生物の遺伝子の変更も容易になり、今後そのような操作が広がっていくものと思われる。合成生物学の最終目的は、細胞も遺伝子もすべて合成した生命を作り出し、自在に遺伝子を変更して生命現象を解明するところにある。ゲノム編集技術を応用した遺伝子ドライブ技術が登場したことで、特定の遺伝子を改変したこれらの生物の拡散も可能になり、軍事利用が懸念される。
合成生物学が生物多様性条約締約国会議で注目されているのは、規制を急がないと何が起きるかわからない状況だからだ。生物多様性条約の規制の対象は、遺伝子組み換えと細胞融合だけである。ゲノム編集技術もiPS細胞すらも規制の対象になっていない。本来はカルタヘナ議定書締約国会議で議論されるべきであるが、先進国政府や多国籍企業は、そこでの議論から排除してきた。
この点について第三世界ネットワークが声明を発表した。「これまで環境保護団体は、主に遺伝子ドライブ技術の規制に向けて活動してきた。しかし、遺伝子組み換えウイルスの野外散布計画が進行し、ゲノム編集作物の野外栽培が始まるなど、新たな事態に至ったことで、より広い視点での規制が今こそ求められる。合成生物学の可能性が広がり、新たな展開が進むなか、生物多様性を守る国際的な規制が重要になっている」と指摘した。〔Third World Network 2022/6/15〕
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