6月2日、従来の健康保険証を廃止し、マイナンバーカードとの一体化をもたらすマイナンバー法等改正案が可決成立した。これにより2024年秋からマイナ保険証が義務化されることとなった。政府がいま、この一体化を通して目指しているのが、全国民の生涯にわたる健康や病気の管理である。出生前診断から始まり、墓場に行きつくまでの全国民の健康や病気の管理を目指したもので、「ライフコースデータ」と呼ばれ、この実現に最も積極的なのが日本経済団体連合会(経団連)である。経団連は、2018年3月20日に提言「Society5.0時代のヘルスケア」を発表し、ライフコースデータの収集・連携・活用を積極的に政府に働きかけ始めた。今年も2月14日に同提言の第4弾を発表している。
このライフコースデータでは、出生から死亡に至る、人の一生すべての健康や医療に関する情報を収集し、それぞれバラバラな情報をつなげて、最終的にはビッグデータを利活用して解析、個々人や集団での未来予測を行うとともに、国の政策、医療や医薬品、健康産業などへ利用しようというものである。それにつなげるのがマイナ保険証である。病院や介護施設、薬局、あるいはスマホなどから入る、健診データ、介護レセプトデータ、遺伝子データ、食事データなどの情報を医療ビッグデータと呼び、マイナ保険証を用いることで全国民の健康・医療情報が一生涯にわたって収集され、つなげられ、分析され、管理され、将来が予測される。
政府や経済界がライフコースデータの取り組みの中で強く求めているのが、遺伝子レベルでの管理と利用である。血液など生体試料を採取し、それとともにその人物の病気や健康、家系に関する情報を加えて、生涯にわたる病気や健康を予測し、管理し、治療しようとしている。すでに遺伝子レベルでの情報収集が進められており、それをゲノムコホート研究という。
2021年3月5日、これまで個々に行われていたゲノムコホート研究が一体化されることが発表された。コホートとは、大規模な集団のことである。岩手医科大学、東北大学、名古屋大学、国立がん研究センター、慶応大学、愛知県がんセンター研究所がそれぞれ中心になり、収集した個々人の遺伝情報を共有する。この時点で36万6000人の病気や健康に関するゲノム情報が集積されている。そのゲノム情報に基づき、病気予測や個別化医療、遺伝子医療といったゲノム医療への応用が進められることになった。
6月9日にゲノム医療法が成立した。究極のプライバシーと呼ばれる遺伝子を利用するにあたり、医学研究や医療への一定の規制が必要だからである。このゲノム情報がライフコースデータと結びつくと、個々人の健康や病気の精密な未来予測が可能になるだけでなく、家系全体の予測や管理までもが可能になる。
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