■2023年12月号

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バイオジャーナル

ゲノム編集魚をめぐる動きが活発に

 

厚労省は10月24日、リージョナルフィッシュ社によるゲノム編集ヒラメの届け出を受理した。いま同社の活動を軸に、ゲノム編集魚の開発や養殖・販売が活発化している。このヒラメは、ゲノム編集技術で食欲抑制遺伝子・レプチン遺伝子を破壊したもの。まだ農水省が届け出を受理していないため、市場化承認には至っていないが、時間の問題だといえる。これによりゲノム編集魚は、マダイ、トラフグ、ヒラメの3種類となった。

マダイは筋肉の発達を抑制するミオスタチン遺伝子を破壊したものである。ドイツの科学者団体のテストバイオテクは、身長が短く、椎骨が変化した骨格異常になり、アニマルウエルフェアに反する「拷問魚」であると指摘している。

トラフグやヒラメは、食欲を抑制するレプチン遺伝子を破壊し、食欲が旺盛なまま異常な早さで太る。しかしレプチン遺伝子は生命体にとってとても大切なもので、これを破壊するとさまざまな問題が生じる。 ゲノム編集技術は意図的に病気や障害をもたらすが、レプチン遺伝子の破壊の度合いは極めて重症である、と分子生物学者の河田昌東さんは指摘し、ゼブラフィッシュの実験を例に、レプチン遺伝子を破壊した場合何が起きるかを紹介している。それによると、脳の働きや生殖行動、免疫反応に異常が起きる。行動が弱まり、恐怖感が強まり、日周リズムにも変化が起き、色の認識が落ちる、と指摘している。 そのほか、ゲノム編集技術自体、他の遺伝子を破壊するオフターゲットや、DNAの切断箇所で大規模な染色体破砕をもたらす。それらは生命活動に大きな支障を生じさせる可能性がある。このような魚を養殖・販売しようとしているのである。

リージョナルフィッシュ社は、その他にもさまざまな開発を進めている。10月5日には福井県、福井県立大学、ふくい水産振興センター、関西電力と、福井県小浜の特産であるマサバやアカウニなどの陸上養殖の協定を結び、同社はゲノム編集による品種の改良を進めるとしている。 すでに6月27日、リージョナルフィッシュ社はNTTと合弁で、新たな会社NTTグリーン&フード社を立ち上げ、当面、九州エリアでエピゲノム編集の高温耐性ヒラメの養殖を進め、10年後には20拠点で養殖を行うと発表した。宮崎県串間市ですでにゲノム編集トラフグの養殖を行っており、提携する養殖業者を増やすものと見られる。

NTTグリーン&フード社は10月17日、静岡県磐田市とエビの陸上養殖協定を締結した。年間約100トンを生産する予定で、2024年夏ごろの稼働開始を目指す。リージョナルフィッシュ社は、京都府宮津市の京都大学の養殖場、富山県射水市の近畿大学の養殖場を拠点に活動しており、射水市の養殖場では、ゲノム編集バナメイエビの開発を進めている。NTTは魚介類のエサとなる藻の開発を進めてきたことから、それが合体しての取り組みと見られる。