■2024年9月号

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バイオジャーナル

ゲノム編集食品の現状

 

ゲノム編集食品は作物や魚など種類を増やしているものの、消費者は受け入れておらず、広がりを見せていない。開発や市場化で最も先行しているのが日本で、サナテックシード社が2種類の高GABAトマト(ミニと中玉)を、リージョナルフィッシュ社が肉厚のマダイとヒラメ、太ったトラフグの3種類を販売している。日本で届け出されているゲノム編集作物にはもう1つ、コルテバ・アグリサイエンス社が開発し、米国内で栽培し、世界へ売り込むことが予定されているワキシーコーン(もちトウモロコシ)があるが、これはまだ市場化されていないようだ。
そのほか、いま開発中の作物に、農研機構開発のシンク能改変イネと低グルテリン半矮性イネ、理化学研究所などによるアルカロイド低減ジャガイモ、島根大学開発の高ストレス耐性イネがある(バイオジャーナル2024年4月号参照)。イネが中心だが、いずれも市場化の目途はたっていない。 魚では、いずれも養殖しやすいもので、リージョナルフィッシュによってエビが、九州大学と国立研究開発法人水産研究・教育機構によってマサバの開発が進められているが、実用化は遠そうである。また、エピゲノム編集技術を用いた高温耐性のヒラメの開発が、リージョナルフィッシュ社によって進められている。 変わったところではグリラス社がコオロギの改造を進めている。成長が早いもの、低アレルゲン、表皮を白くしたものという3種類のコオロギだが、コオロギ自体が食用として受け入れられていないのが現実である。また、広島大学とキユーピーが共同で、低アレルゲン卵を産む鶏を開発し、現在、相模原病院で臨床試験が進められている。
海外での状況を見ると、開発事例を華々しく宣伝しているケースが多い。資金を調達するために、宣伝だけは華々しいのだ。しかし、ほとんどの国や地域でゲノム編集作物や動物への規制がないため、実際に市場化されたのかどうかはわからず、いまだ成功したという事例はない。かつて米国で栽培し流通したゲノム編集作物に、スルホニルウレア系除草剤耐性ナタネと高オレイン酸大豆があった。ナタネはサイバス社が開発したもので、後に市民団体が資金を集め米国の研究機関で全ゲノムを解析したところ、「ゲノム編集技術で開発したものではなかった」ことが判明した(バイオジャーナル2020年11月号参照)。高オレイン酸大豆を開発したカリクスト社は、この大豆種子や食用大豆油の販売開始直後から株価が暴落し、結局撤退を余儀なくされた。後にサイバス社とカリクスト社は合併した。
次に登場したのが、ペアワイズ社開発の辛味をおさえたカラシナである。このカラシナも市場が広がらず、バイエル社が乗り出して全米で販売を進めることになった。その後ペアワイズ社は、種なしブラックベリーを開発している。そのほかイントレクソン社開発の変色しにくいロメインレタスもすでに市場に登場したか、間近である。米国のイールド10バイオサイエンス社が開発した油糧が増加するキャメリナは、カナダでの栽培が承認された。
欧州では、英国ロザムステッド研究所がアクリルアミド低減小麦を開発。スイスのアグロスコープ社と独ベルリン自由大学は共同で、収量増の大麦の栽培試験を開始した。イタリアでは、いもち病に抵抗性を持たせたイネの試験栽培が北部都市ロンバルディア州パヴィア近郊で行われたが、何者かによってすべて刈り取られた。
オーストラリアでは、国営企業によりゲノム編集小麦の試験栽培が始まった。数百種類の品種を試験し、より栄養価が高く、より丈夫で、より収量が多く、かつ、水や肥料、化学物質の使用量を減らす品種の開発だという。
中国では、華中農業大学で除草剤耐性小麦を開発、中国科学院でうどん粉病抵抗性小麦を開発している。 フィリピンでは、日本のサナテックシード社のトマトの販売が承認された。さらに英国トロピック・バイオサイエンシーズ社が開発した変色しにくいバナナも、フィリピンでの栽培・販売が認められた。 動物では、米国リコンビネティクス社が開発した角のない乳牛は、当初はゲノム編集技術の広告塔としての役割を果たし、ブラジルへの大規模な導入計画があったが、抗生物質耐性遺伝子が3種類見つかり、広告塔の役割から外され、ブラジルへの導入計画も破談となった。同社はその後、毛を薄くして暑さに強い牛を開発している。
ワシントン州立大学が開発し、米国食品医薬品局(FDA)が承認、食品として流通が可能になった豚がある。この豚は、「代理種牡馬」という方法で開発した。ゲノム編集により雄の豚の生殖能力にかかわる遺伝子を破壊、その豚に別の雄の生殖にかかわる幹細胞を移植、「望ましい精子」を作り出す雄の豚を誕生させ、その精子で子豚を誕生させ、その子豚由来の食肉の流通が承認された。 海外での魚の開発では、ティラピアの開発が進んでいる。センター・フォー・アクアカルチャー・テクノロジーズ社は25種類以上の魚の開発を進め、中でも、その強い性格、繁殖力、世代交代の早さから、ティラピアの研究が最も進んでいるという。