■2025年6月号

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バイオジャーナル

米国FDAが食品として2つめのゲノム編集豚を承認

 

米国食品医薬品局(FDA)は、英国企業のジーナス(Genus)社が開発したゲノム編集豚を食品として承認した。日本では、リージョナルフィッシュ社が開発した魚のトラフグ、マダイ、ヒラメの3種類がすでに出回っているが、家畜の食品はまだない。米国では、先にワシントン州立大学が開発したゲノム編集豚由来の食肉などが承認されているが、ジーナス社の豚のほうが商品化は早いと言われている。
ジーナス社のゲノム編集豚は、主に子豚を死に至らせる「豚繁殖・呼吸器障害症候群(PFRS)」に対して抵抗性を持たせるよう、ゲノム編集技術を用いてPFRSを引き起こすウイルスに受容体を作る遺伝子を破壊し、ウイルスが感染できないようにしている。かつて中国の研究者によって、人間の受精卵に対してゲノム編集技術でエイズウイルスの受容体を破壊して、エイズウイルスに感染しない赤ちゃんを誕生させたことがあるが、それに類似した遺伝子操作である。

これまで米国ではゲノム編集を施した牛と豚が開発され、市場化が図られてきた。牛では、リコンビネティックス社が角のない牛と、滑らかな薄い毛の牛を開発した。角のない牛は量産態勢に入り、ブラジルが大量に購入する計画があった。しかし、FDAがこの牛を解析したところ、抗生物質耐性遺伝子が3種類見つかったためゲノム編集とは認められず、承認を取り消した経緯がある。滑らかな薄い毛の牛は、熱によるストレスを受け難く体重を増やすのが容易で、効率のいい食肉生産をもたらすといい、FDAはこのゲノム編集牛を食品として承認した。しかし、ゲノム編集で大きな問題になっている、予想外の遺伝子を破壊するオフターゲットやモザイクの可能性が十分に調べられておらず、問題を残したままである。

すでに承認されたゲノム編集由来の豚は、ワシントン州立大学獣医学部分子生物学科教授のジョン・オートリー等の研究チームのよって開発され、馬で言う「代理種牡馬」という方法を用いたものである。ゲノム編集により雄の豚の生殖能力にかかわる遺伝子を破壊して不妊にし、その豚に別の雄の生殖にかかわる幹細胞を移植して、「望ましい精子」を作り出す雄の豚を誕生させ、その精子で子豚を誕生させたもの。その子豚由来の食肉が、食品として流通が認められた。こちらよりジーナス社のほうが市場化が早いと言われている。
ジーナス社によると、PFRSウイルスには多くの変異体があるが、その99%に対して効果があるという。しかし、ごくまれに感染をもたらす変異体もあるという。今後、同社はメキシコ、カナダ、日本、中国などでも届け出を行うとみられている。しかし、エイズウイルスの受容体遺伝子を壊した赤ちゃんのケースでは、西ナイルウイルスに感染しやすくなるなど、多くの問題点が指摘されたが、それと類似した問題点が明らかになる可能性もある。〔MIT Technology Review 2025/5/8〕