■2002年4月号

今月の潮流
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バイオジャーナル



ニュース


●遺伝子組み換えイネ
ベルギー企業、第三世界で高収量イネ実験へ

 ベルギーのクロップ・デザイン社が、2002年中に高収量イネの野外圃場での実験を開始する。『日経バイオテク』2月11日号によると、品種はジャポニカ種で、南米と東南アジアで実験を行う予定である。同社のイネ開発の特徴は、1年間に2万個の組み換えイネができ、10万個のイネを成育でき、自動的に大量に画像解析できるなど、大規模なシステム化・自動化にある。この方法で新品種を開発し、圃場で実験していく予定だ。

MATベクター使ったイネ温室試験へ

  独立法人・生物資源研究所(元農水省の研究所)のグループは、ヒト・ラクトフェリン遺伝子導入イネの新品種の作付け実験を、閉鎖温室内で始めた。この組み換えイネは、最初、アレルゲンフリー・テクノロジー研究所が開発し、全農(JA)に引き継がれていた。すでにいくつかの品種を、農水省は認可している。
 今回は、日本製紙が開発したMAT(Multi-Auto-Transformation)ベクター・システムを用いている。従来の抗生物質耐性遺伝子をマーカー遺伝子に用いないこのシステムは、組み換え効率もよく、余分なベクター領域を組み換え後に除去することができるので、安全性が高いというふれ込みだ。しかし、ベクターの一部にトウモロコシのトランスポゾンを用いているため、不安定な要因を抱えている。


●ES細胞
ヒト胚の議論でヒアリング始まる

  ヒト胚の取扱いについての議論が進められている生命倫理専門調査会(首相諮問機関、総合科学技術会議)で、2月27日に「有識者ヒアリング」が始まった。最初に登場した有識者は、三菱化学生命科学研究所室長の米本昌平。続いて京大再生医科学研究所教授の笹井芳樹が、最新のES細胞研究について報告した。今後、5月までは月に1〜2回程度会合を開催し、宗教関係者などからのヒアリングを行っていく予定だという。


●予算
総合科学技術会議、バイオテロ対策に6500万

 昨年秋に米国で発生した炭疽菌事件を受け厚労省は、約250万人分の天然痘ワクチンの国家備蓄を決めたが、総合科学技術会議でもバイオテロ対策の緊急研究への取り組みが始まった。今年度の科学技術振興調整費から約6500万円を投じ、@テロに使われるおそれのある病原体の迅速な検出法、A炭疽菌の核酸抽出法、B病原体に汚染された郵便物の放射線滅菌法、C炭疽菌に対する薬剤とワクチンの研究・開発、を行う。実施するのは、国立感染症研究所、東大医科学研究所、阪大微生物研究所の3機関で、米国疾病管理・予防センター(CDC)などとも連携していく予定。


●企業動向
三井化学がイネの種子販売で本格始動

 三井化学が本格的にアグリバイオ・ビジネスに参入する。同社ではこれまで、イネの新品種の開発を進めていたが、種子販売は試験販売にとどまっていた。本年からはハイブリッド・イネの種子を全農を通じて販売する。これまで同社では、アンチセンス技術を用いた低アミロース(味覚改良)イネ、低アレルゲン・イネ、そしてトウモロコシの遺伝子を導入して光合成を活性化した遺伝子組み換えイネを開発している。今回の販売は遺伝子組み換えイネではないが、将来をにらんだ布石と見られる。これまで、高額の特許料が開発のネックになっていたが、その期限が切れ始めたことが要因と思われる。


●遺伝子治療
厚労、文科両省が遺伝子治療3件にゴーサイン

 2月21日、科学技術部会(厚労相諮問機関、厚生科学審議会)が開かれ、遺伝子治療の臨床計画3件が承認された。今回認められた計画は、筑波大学の白血病を対象にしたもの、東大医科学研究所の神経芽腫を対象にしたもの、東京慈恵医大の大腸がん肝転移を対象にしたものである。3件の計画の審議に要した時間はそれぞれ約10分、しかもそのうちの半分は資料の説明で、委員による議論はわずか5分。この議論の短さからも分かるように、すでに審査は非公開の作業委員会で終わっている。つまり、部会の議論は単なる承認のセレモニーでしかなく、実質的な審査は密室の中で行われているのである。またこの日、1月17日にパブリックコメントが締め切られた遺伝子治療の新指針(本誌2002年2月号参照)も、ほとんど議論されないまま妥当だと認められた。
 文科省では、3月5日に遺伝子治療臨床研究専門委員会(文科相諮問機関、科学技術学術審議会)が開かれ、厚労省と同様の手順で上記3件の計画と新指針が承認された。


●安全性論争
第3回コーデックス特別部会閉幕

 横浜で3月4〜8日、コーデックス委員会・バイオテクノロジー応用食品特別部会が開催された。遺伝子組み換え食品の国際規格を決める国際会議で、今年が第3回目にあたる。現在議論されているテーマは4つ、@穀物など植物由来の組み換え食品の安全性評価、Aトレーサビリティ(Traceablity)、Bヨーグルトなど微生物由来の組み換え食品の安全性評価、C豚肉など動物由来の組み換え食品の安全性評価である。
 同特別部会は、来年3月に開かれる第4回の会議で終了し、7月のコーデックス委員会の総会で正式に国際規格となる。今年の会議では、テーマ@に関して、議論は7段階(全部で8段階)に達し、ほぼ結論がまとまった。予防原則が外されたことから、「消費者保護からはほど遠い内容」になってしまった。「それでも抗生物質耐性遺伝子を用いないことが決められ、小さな勝利はあった」(グリーンピースのブルノー・ハインツア)。
 今年の会議で最大の争点となったテーマが、2のトレーサビリティである。これは事件や事故が起きた際に、原因までさかのぼることを可能にして、二度と同じ事を起こさないようにするための方法の検討である。米国が、商品の回収のみを目的とした「トレースバック(Traceback)」という新しい概念を提起し、米国+推進企業と、EU+消費者団体の間で激しいやり取りが交わされた。結局「トレーシング(Tracing)」というあいまいな概念が出され、決着が図られた。内容の詰めは、次回まで持ち越された。
 一方、BとCに関しては、ほとんど議論が行われていない。「微生物を用いた食品や動物由来の食品は、植物とは比べ物にならないほど危険性が大きい。本当に次回で結論がまとまるのだろうか」と、参加者・傍聴者の間から、不安の声が数多く聞かれた。


ことば
*ラクトフェリン
哺乳動物の乳中に含まれるタンパク質で、細菌感染を防ぐ働きがある。

*MATベクター・システム
植物の腫瘍細菌(アグロバクテリウム)のTiプラスミドとトウモロコシ由来のトランスポゾンから成るベクターで、マーカーとして植物ホルモンのひとつ、サイトカイニン合成酵素の遺伝子を用いている。細胞分裂にともないマーカー酵素の働きによって多芽の異常形態をつくることから、目視で遺伝子組み換えの成否を見分けることができる。マーカー遺伝子は、醤油酵母の部位特異的組み換え因子などを用いることで除去でき、その後は正常に成育するという。

*トランスポゾン
動く遺伝子のこと。通常の遺伝子は染色体上の位置が決まっているが、トランスポゾンは染色体上を移動する性質がある。

*アンチセンス技術
相補的な遺伝子を結合させることによって、特定の遺伝子を働かないようにする技術。

*神経芽腫
副腎、または背骨の近くにある交感神経節でできる腫瘍。小児期の固形腫瘍としては、脳腫瘍に次いで多い。