■2002年5月号

今月の潮流
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バイオジャーナル



ニュース


●種子汚染
英国自然保護団体が遺伝子複合汚染を警告

  英国の自然保護団体の集まりイングリッシュ・ネイチャーは、除草剤耐性ナタネの収穫の際にこぼれ落ちた種子からできた作物に、新たに作付けされた別の除草剤耐性ナタネの遺伝子が加わり、遺伝子の複合汚染が起きていると指摘した。
 また、カナダでは、異なる遺伝子組み換え品種の作付け間隔を175mとする指針があるが、この距離では遺伝子の複合汚染を防ぐことができないと指摘している。複合汚染が広がれば、別の有毒な除草剤を使う必要があるため、環境悪化はさらに進む。
 今まで、EU委員会では、種子に関して遺伝子組み換えを認めていなかったが、現在、混入率を0.7%まで認めようとの動きがある。もしそうなれば、複合汚染は容認されてしまうと警告している。    〔イングリッシュ・ネーチャー・プレスリリース2002/2/5/nginより〕

米国産飼料用トウモロコシから遺伝子組み換え体続々検出

 農水省は、種苗会社(5品種)と市民団体(3品種)が提供した飼料用トウモロコシの種子の検査を行った。その結果、すべてのサンプルから遺伝子組み換え体の遺伝子が検出され、その分析を行った。
 そのほとんどに2〜4種の組み換え品種を検出しており、すべての組み換え体を合計すると1品種当たり1%を越える可能性もある。いずれも日本では認可されたものであるから問題ないとしているが、遺伝子汚染の深刻な実態の一端を示すものであろう。

●ES細胞
臨床応用の指針作りが進むヒト幹細胞

 3月18日、臓器などのもととなるヒト幹細胞の臨床応用(再生医療)に際しての指針作りを進めている、ヒト幹細胞を用いた臨床研究の在り方に関する専門委員会(厚労相諮問機関、厚生科学審議会)が開かれた。厚労省が実施したアンケート調査が発表され、当面、体性幹細胞のみが対象とされ、ES細胞などは動物実験段階であるため対象外とされたが、体性幹細胞の臨床応用を突破口に、今後の再生医療の中心はES細胞へと移っていくと思われる。また、体性幹細胞の中でも造血幹細胞に関しては、骨髄移植や臍帯血移植といった治療法がすでに行われていることから、別枠の造血幹細胞移植委員会で安全性の確保などが検討される。


●遺伝子治療
北大遺伝子治療終了、その効果は?

 1995年8月に開始され、日本初の遺伝子治療として注目を集めた北海道大学のADA欠損症に対する遺伝子治療の終了報告書がこの度、厚労省に提出された。それによれば、「遺伝子発現細胞は末梢血リンパ球の極、一部の成熟T細胞であることから、得られている治療効果の継続には限りがあり、酵素補充療法の継続も必要と判断される」と結論付けている。当時あれだけマスコミが騒ぎ立てた遺伝子治療は、実はそれ単体での明確な治療効果は得られてなかったのである。また、同研究チームは新たに、造血幹細胞に遺伝子を導入する新手法を用いた、ADA欠損症に対する遺伝子治療の実施計画申請書を厚労省に提出した。患者は同じ男児で、末梢血の細胞に遺伝子を導入してうまくいかなかったので、今度はそのもととなる造血幹細胞に入れようという計画である。もし承認されれば、さらに人体実験が繰り返されることになる。


●市民運動
ブラジルの市民法廷判決――GM作物にNO!

 ブラジルでいま、遺伝子組み換え大豆の作付けが行われようとしている。同国政府はGM作物推進の立場で、政府の安全委員会はモンサント社の除草剤耐性大豆を認めている。またモンサント社による種子企業買収も進み、作付けは時間の問題とみられていた。それを阻んできたのは、主に地方自治体と市民運動の力だった。
 2001年に、同国の2つの市民団体が、北東部のセアラ州フォルタレザで遺伝子組み換え作物導入をめぐって市民法廷を開いた。裁判官、弁護士と検事、抽選で選ばれた11人の陪審員で構成され、推進・反対双方6人の証人が登場した。判決は「現状ではブラジルに遺伝子組み換え作物を導入することには反対」というもので、情報公開や市民の関与が不十分であると勧告を決議した〔モニター誌 2001/9〕。


●遺伝子組み換え樹木
岩手の研究所が遺伝子組み換えリンゴ開発

 盛岡市にある農業技術研究機構果樹研究所が、3月29日に遺伝子組み換えリンゴの花を咲かせたと発表した。リンゴではこれまで、青森県グリーンバイオセンターが「マルバカイドウ」を用いて低木化の実験を行ってきたが、これは接ぎ木の台木として開発したもので、直接遺伝子組み換えの花や実をつけるものではないため、今回が初めての食用リンゴとなる。同研究所が導入したのはソルビトール遺伝子で、糖分を高めることで結果的に光合成が活発になり、病気にも強くなるという。


ことば
*体性幹細胞
特定の組織への分化能を持つ細胞のこと。間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞ほかが見つかっている。

*ADA欠損症 

アデノシンデアミナーゼ欠損症。アデノシンデアミナーゼ酵素が生まれつきつくられないためにおこる重症複合免疫不全症のひとつ。単一遺伝病。

*ソルビトール
糖アルコールの一種。