あだち充11
それがおまえのボクシングか!?

      ――あだち充『KATSU』 I巻――
        (「週刊少年サンデー」'03・34号〜44号,第89〜98回まで)

 あだち充は、上手い!
 つくづくそう思う。
 鈍チン“香月”が、否応無く自分の“活樹”への《想い》に気付か される場面だ。
 インターハイ予選の1・2回戦から準決・決勝との間の中休み(と言っても平日だから、学校はある筈 だが…何でみんな、墓参りに行ったり、自宅にいたりするのだ?)の一週間。突然“香月”の処へ訪ねて 来たそれ程親しい訳でもない他のクラスの少女。(如何にもサブキャラ、いや、モブキャラのこの少女が アップになると、何とも形容し難いスゴサがある。)
 で、彼女を部屋に通すと、
   「本当なんですか? 里山くんとつき合ってるって。」
いきなりな質問。
   「正直に言ってください。
   本当だったら、わたしあきらめますから。
   水谷さんはきれいだし、勉強もできるし、
   (中略)スポーツも万能だし、
   わたしなんかとても敵わないのは、
   わかってるんですから。」
慌てて“香月”が言葉を挟む。「あ、いや。ちょっと待って。」
 しかし、彼女は畳み掛ける。
   「里山くんのこと、好きなんですか?」
一瞬の沈黙――。“香月”が言葉を選んだその時――。
 階下から母親の声。
   「香月、里山くんから電話よォ。」
固まるふたり。追い討ちを掛ける母親の声。
   「香月ィ、電話ァ、里山くん!」
彼女の顔が見る見る曇り――。涙――。「おじゃましました!」叫んで彼女は帰って行った。

 上手い!
 この繰り返す母親の電話を告げる台詞は、まるで声が聞こえて来るようだった。

 勿論、前の巻で“活樹”と“香月”が《つき合っている》という噂があり、それは、“香月”が交際を 断る口実に利用していた、という経緯があるからなのだが。更にその前に、中学の頃は“紀本高道”君が、 その役目を担っていた、という経緯があった。
 しかし、蚊取り線香(虫除け)として使うのは、異性に対してであり、同性から「つき合っているのは 本当か」と問われるのは、少し意味合いが違う。更に「里山くんのこと、好きなんですか?」と彼女に 畳み掛けられて――。

 その後の告白と(告白かなぁ?)、デート(デートかなぁ?)は、如何にも な“鈍チン香月”で微笑ましかった。ラーメンの丼をあおって音を立ててスープを 飲む“香月”を横目で見る“活樹”。――合掌(笑)。
 しかし、“半沢みのり”くんでは役不足だったが、逆にこの“モブキャラの少女”は、 “本阿弥さやかお嬢さま”に勝るとも劣らないインパクトが あった。
 多分、それは、鈍チン“香月”にとっても、同じだったのでは あるまいか。

 処で、あだち充さま! 質問です!
 多分、試合会場で初めて会った(見初めた?)筈の“宮川光クン”が、どうして“香月”のフルネーム (ラブレターの宛名)を知っているのでしょうか? ――もしかして、幼い日に、父親の試合をリング サイドで応援する“香月”を見初めてボクシングを始めた…(「小学校低学年からプロボクサーを目差し、 近くのジムに入門――」P.116)…っていう伏線ですか? まあ、ワンウイークゲストにしては(いや、 この巻の最初から最後まで出ているか)あれこれ背景があり過ぎなのだが、“宮川光クン”は。

 さて、そんなこんなで『KATSU』 I巻である。今巻は色々詰っていて楽しかった。

 あっさりとライバルの座と“打倒――岬新一”を譲った“紀本高道”の秘密。
 “怪物――岬新一”と“活樹”のもう一人の父“赤松隆介”との意外な接点。
 緊張してあがりまくりのお茶目な“香月”
 そして、「それがおまえのボクシングか!? 」――そう叫んだ“香月”がいい。(こういう“香 月”を暫く見ていなかった気がする。……何故だろうか?)

 それにしても、多分、あだち充は《プロボクサーになった“活樹”》は描かないだろう。となれば、 インターハイで当たる“怪物――岬新一”は兎も角、“宮川光クン”や、“目付きの悪い少年”(鴉をエサ で呼び集めボクシングの練習台にする、あの少年だ)とは、これから何処で対戦するのだろうか。
 <インターハイまであと1か月ちょい……>。“怪物――岬新一”を倒して“もう一人の父”のビデオを 貰って、メデタシメデタシ…なんて訳も無いだろうし。……あっ、負けるのか? それは、嫌だ なあ……。
 そんなこんなで以下次巻((^^ゞ)。

(2003.12.24)
テキスト:少年サンデーコミックス;2004.01.15 初版発行;本体390円


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