第二次スーパーロボッコ大戦
EP09



「うう〜ん、サーニャ………」

 一緒に飛んでいた戦友の名を呟きながら、雪色の髪を無造作に伸ばした少女が目を開く。
 そこで自分を覗き込んでいる紅瞳の三白眼と目が合った。

「うわああぁ!」

 絶叫しながら少女、元ストライクウィッチーズメンバー、エイラ・イルマタル・ユーティライネン中尉は跳ね起きる。

「目が覚めたか」
「なんダお前は! は、サーニャ!」
「それはそいつの事か?」

 跳ね起きたエイラは、色素の薄い金髪を左右で結び、どこか無表情な三白眼に紫のドレス姿、という風変わりな女性が指差した方向、先程まで自分が寝ていた隣に寝ているグレイの髪の少女を確認すると、すぐさま駆け寄る。

「サーニャ、おいサーニャ!」
「エイラ………」

 ゆっくりとグレイの髪の少女、同じく元ストライクウィッチーズメンバー、サーニャ・V・リトヴャク中尉が目を覚まし、エイラは胸を撫で下ろす。

「ここは?」
「私達、奇妙な霧の竜巻ニ巻き込まれテ、その後………どうしタっけ?」
「何かにぶつかったのは覚えてる。けどその後は………」
「そうか、私と同じだな」
「同じ?」

 ドレスの女が言った所で、エイラは彼女の後ろに見える砲塔に気付く。
 そして、自分達が甲板の上に寝ていたという事も。

「私がこの海域に出現した直後、お前達が上から落ちてきた。その奇妙なユニットと一緒にな」
「そうカ。壊れてないヨな?」

 甲板の上に置いてある二人分のストライカーユニットをエイラとサーニャは確認するが、ドレスの女は少しばかり首を傾げていた。

「サーチした限りは、部品の破損は無い。だが、原理が不明だ。外部からの何らかのエネルギーを供給して動くらしい事は分かるが、どうやって供給する?」
「ああ、こうダ」

 そう言うとエイラは魔力を発動、使い魔の黒狐の耳と尻尾を出してみせる。

「私らはウィッチだからな。このストライカーユニットはウィッチの魔力で動くンだ」
「ウィッチ? 魔力? 今お前の体から判別不能なエネルギーが上昇しているのは分かるが」
「詳しくは後でナ。今は現状を把握しないト」
「あれ、前の渦と似たような反応だった。向こうに何も感じない、というか感じられない」
「じゃあここ、また違う世界って事カ!?」
「どういう事だ?」
「その前に、貴女は?」
「つうかこれ戦艦だヨな、他のクルーは?」

 ドレスの女が聞き返した所でサーニャとエイラが逆に問い返す。
 ドレスの女は小さく頷くと同時に、周囲に突然グラフサークルが展開、それに呼応するように、戦艦の各所が動き始める。

「なんダこの船!」
「これは霧の大戦艦コンゴウ、私はそのメンタルモデルだ」

 ドレスの女、コンゴウの名乗りにエイラは唖然とする。
 だがサーニャが魔力を発動、黒猫の耳としっぽが出ると、同時に頭部にアンテナを思わせる光、彼女の固有魔法の魔導針を展開させる。

「エイラ、この人、人間じゃない」
「そうなのカ? そうか、アンドロイドとか言う奴カ」
「違う、メンタルモデルだ。意外と驚かないのだな」
「前ニそういう人間っぽいケド、人間じゃナイって奴らと一緒に戦った事アッテナ」
「どういう事だ?」
「ウ〜ン、どこから説明したら………」
「そもそも、この船は他に誰か乗ってないの?」
「乗っていない、正確にはこの船こそが私だ」
「………カルナとかブレータみたいナ物か」
「みたいだね」
「説明する前ニ、この船、どこに向かってンダ?」
「お前達のいう霧の竜巻とやら、私も巻き込まれた。気付いたらこの海域にいたが、戦術ネットワークから断線し、現在位置不明だ」
「不明って、コンパスとカ海図ハ?」
「だから断線して、不明だ」
「………オイ、マサカお前………」
「この船、漂流してる?」
「そういう事になるな」
「ナンダッテ〜〜〜!!」

 エイラの絶叫が、周辺に何も無い海原に響き渡った………



太正十八年 帝都東京

「市街地の消火活動、順調です」
「避難した市民は順次、緊急避難場所に向かっています」
「海軍の救援部隊の増援が半日以内に到着するそうです」
「やれやれ、後片付けが大変だな………」

 あげられる報告に米田はため息をつきつつ、人的被害こそ最小限に抑えられたが、市街にはかなりの被害が出ている事に肩を落とす。

「翔鯨丸、五分後に帰還します。だいぶオマケがついてるみたいですが………」
「みんな頑張ってくれたからな。風呂くらい準備させとけ」
「分かりました」

 翔鯨丸の甲板に結構な人数がいる事に米田は笑みを浮かべるが、そこでタクミから通信が入る。

『米田中将』
「何だい」
『イー401が艦体の点検のためにどこか使用可能なドッグが欲しいそうなのですが………』
「あ〜、かすみ。海軍に問い合わせてどこか用意させろ」
「了解しました」
『それとソニックダイバーですが、ナノスキンの切れた現状だと、こちらへの帰還が不可能なので、取りに行くまで預かってもらいたいそうです』
「例の活動限界時間ってやつだな。燃料切れか何かか? それくらいなら構わねえ。嬢ちゃん達には汗でも流して待ってもらうさ」
『最後に門脇中将から、今後について話し合いたいそうなので、そちらの手が空いたら知らせてほしいそうです』
「了解、つってもちいとばかり片付けにかかりそうだって伝えといてくれ」
『分かりました。こちらも色々立て込んでまして………』
「かえでがそっち向かってる。入用な物あったらそっちに言ってくんな」
『重ね重ね、ありがとうございます』

 通信が切れた所で、米田は腕組みして小さく唸り声を上げる。

「どうかしましたか司令…じゃなくて米田中将」
「いや、報告書になんて書いたらいいかって思ったらよ。大神に全部書かすか?」
「大神さんも困ると思いますけど………」
「そもそも、何がどうなってるんですか?」
「さあ………」

 司令室で見ていた三人娘も、自分達が見ていた事を理解出来ず、首を傾げる。
 ちょうどその時、翔鯨丸から通信が入る。

『米田中将』
「おお、大神。ご苦労だったな」
『いえ、ただ気になる事が………』
「何だ言ってみな」
『プロキシマ、オレに付いてる武装神姫が、この世界の他の場所にも武装神姫が送られたって………』
「待て。そいつは、まさか………」
『他の場所にも、転移現象が起きてるかもしれない。そして、戦闘も………』
「どこか分からねえのか!?」
『正確な座標までは不明だ。なにせ急な事で、プロフェッサーも次元変動に基づいて、その場所にボクらを急いで送り込んだからな』
「正確じゃなくてもいい、大体の場所は?」

 プロキシマが告げるとんでもない事実に、米田は嫌な予感を感じつつ、詳細を聞く。

『え〜と、ヴァローナ、転移情報持ってたろ?』
『ちょっと待って〜』
『現地の地図情報は…』

 武装神姫達があれやこれやとデータを突き合わせ、大体の転移場所を算出していく。

『大体だが、ニューヨークとパリの辺りかな?』
『紐育と巴里だって!?』「そいつは本当か!」

 武装神姫の算出した予想位置に、大神と米田が同時に声を上げる。

『何かあるんですか?』
『二つとも、華撃団の存在する都市だ! 双方と通信を…』
「無理だ、大電波塔がやられちまってる。通常出力じゃ届かねえ」

 首を傾げる音羽に大神が慌てながら説明、だが現状を確かめる手段が無い事を米田が俯きながら告げる。

『そうだ、追浜の通信機なら…』
『それも無理ね。さすがに中継点無しじゃ届かないわ』
『原始的な通信ね〜』
『この時代じゃ仕方ないわ。重力子通信の概念すら無いでしょうし』
『まずは通信網の確保ね。予備の重力子通信機の在庫は…』
『こちらで用意してますわ。次元間通信はまだ実験段階ですので無理ですけど』
『カルナダインの速度なら、半日もかからず両方回れますが』
『誰か、話を通じさせる人がいないと…』
「やけに慣れてるな、オイ」
『前回の戦いでは、色々有ったので………』

 手際よく話を進めていく面々に、米田が驚くが、ポリリーナが前回の苦労を思い出し、苦笑する。

「翔鯨丸、着艦しました」
「おうよ、大神にはこっち来るように言ってくれ」

 片付いたかと思えば、更なる問題の山積みに、米田は頭を抱え込んだ。



「どうだタカオ?」
『ダメね、規格が違い過ぎるし、太平洋とユーラシア大陸の向こう側の電波なんてさすがに拾えないわ』
「衛星通信なんて無い時代ですからね。電波塔で通信できてたってのもすごいですけど」
「まさしく異世界って奴だな」
「どうにか、電波塔を修復してもらうしかありませんが、この状況では何日掛かるか………」

 話を聞いたイー401のブリッジ内で、クルー達がどうにか他の二箇所の現状を確かめようとするが、難しい事にため息を漏らす。

「ヒュウガに連絡。こちらの点検修理は後回しでいい、大電波塔をどうにか修復出来ないかと。イオナとハルナにも協力させてくれ」
『ヒュウガに? どんな修理されるか分かった物じゃないわよ?』
「通信機能さえ使えればいい、間に合わせでもいいから、速度を再優先にさせてくれ」
『了解艦長。こっちは私がセルフチェックだけでもしておくわ』
「帝国華撃団から連絡、寄港可能なドッグを今検索中だそうです」
「………なんか、本来の仕事からどんどん離れてってね?」

 杏平のボヤキは間違いなく的を射ていた………



AD2301 地球

「それじゃあみんな、今日は本当にありがとう〜〜〜」

 客席から鳴り止まぬ拍手に答えながら、ロングヘアーをポニーテールにまとめ、天真爛漫を絵に描いたような少女がステージから降りていく。

「お疲れ様ですぅ〜」
「ユナ、本当にご苦労様でした」
「いや〜、結構楽しかったし」

 ステージ袖に待機していた赤髪のショートボブの少女がタオルとドリンクを手渡し、宙に浮かぶ機械のような妖精のような、風変わりな形の小型ロボも労をねぎらう。
 ポニーテールの少女、全銀河的お嬢様アイドル・神楽坂ユナの銀河縦断ボランティアコンサートの最終ステージが終わり、ユナも一息ついた。

「ユナちゃんお疲れ〜」
「それじゃあ、しばらくはオフにしておいたから」
「ありがと〜」
「お休みだったら食べ歩き行くですぅ!」
「今回はボランティアだから、ノーギャラですよ」
「大丈夫大丈夫。さっき竹内プロデユーサーから協賛企業さんからの戴き物だって割引チケット貰ってきたから」
「割引対象店を間違えないでくださいね」
「楽しみですぅ〜」

 スタッフ達が声をかけてくる中、楽屋に向かうユナの後ろをショートボブの少女、相棒というか妹分というかのユーリィ・キューブ・神楽坂が呑気に提案し、小型ロボのような存在、正確には《光のマトリクス》と呼ばれるアンドロイドの一体、英知のエルナーが呆れた声を上げる。

「それにしても、今日は一際すごかったね〜」
「ここ、テアトルシャノワールは、ボランティアコンサートの殿堂とも言われてる、由緒正しい所ですからね。由来は20世紀初頭、ある見習いシスターが貧しい人達の救済のため、ダンサーとしてステージに立ったのが始まりだとか」
「へ〜」

 エルナーの説明にユナが頷きつつ、楽屋に入って腰を下ろす。

「確かに古いけど、随分立派だよね〜ここ」
「数度の大戦を経てもなお、再建され続けた名門ですからね…!?」

 そこで突然エルナーが視線を上に向け、ユナとユーリィも吊られて上を向く。

「これは、次元転移反応!」
「ええ!? また!?」
「でも、前と比べると小さい気がするですぅ?」

 エルナーの言葉に、ユナは思わず前の戦いの始まりを思い出すが、そこで楽屋の天井辺りに小さな漆黒の渦が発生し、そこから人影が落ちてくる。

「きゃああぁ!」

 悲鳴と共に人影はユナの前に落下し、床に激突して目を回す。

「だ、大丈夫? えと、誰?」
「これは………」
「女の人ですぅ」

 三人が恐る恐る目を回している人物、赤を基調とした戦闘服らしき衣服に身を包んだロングヘアの女性に目を向けるが、そこで彼女の上にもう一つ、小さな人影があるのに気付いた。

「みぎぃ………」
「エルナー、この子………」
「武装神姫、ですね」

 少女の上で同じく目を回している黒い翼を持った武装神姫に、ユナは思わずエルナーと目を合わせる。

「あいたたた、ここは………」
「ここは西暦2301年、パリの劇場、テアトルシャノワールです」

 身を起こした黒い武装神姫に、エルナーは説明する。

「あ、データ一致。光の救世主・神楽坂 ユナに相棒ユーリィ・キューブ・神楽坂。それに英知のエルナー」
「ユナ達を知っているって事は………」
「ボクは戦乙女型MMS アルトアイネス、でこっちが………ってマスター! しっかり!」

 そこでようやくアルトアイネスが下で目を回している女性に気付いた。

「えへへ、プリンもっとおかわりです………」
「マスター!」
「あれ? プリンは?」
「………なんだかユナと似たような反応しますね」

 女性が身を起こし、左右を見回す。

「あの〜、ここどこですか?」
「テアトルシャノワールって劇場の楽屋だよ」

 今度はユナが説明するが、少女は再度左右を見回す。

「え〜、違いますよ〜。テアトルシャノワールの楽屋はこんな所じゃありませんよ」
「知ってるの?」
「だって、私そこで踊ってるんです物」
「戦っているの間違いでは?」

 少女の呑気な反論に、エルナーが鋭く聞き返し、少女が驚いた顔でそちらを振り向き、エルナーの姿を見て首を傾げる。

「え〜と、この子も武装神姫?」
「違うよマスター、彼女は英知のエルナー、光のマトリクスの一人」
「そして私は神楽坂 ユナ、こっちはユーリィ」
「あ、エリカ・フォンティーヌです!」


 アルトアイネスの説明に続けるようにユナが自己紹介し、女性も名を名乗る。

「アルトアイネス、彼女はいつから来ました?」
「確か、西暦1929年です」
「今は、西暦2301年です」
「ええ〜? 本当ですか〜?」
「マスターマスター、この人達もマスターが言ってたような、異世界の戦士なんだよ」
「そうだよ、改めまして全銀河的お嬢様アイドル 兼 光の救世主、神楽坂ユナ!」
「シスター 兼 巴里華撃団二代目隊長、エリカ・フォンティーヌです!」

 まったく同じ調子で改めて自己紹介しながら、ユナとエリカが手を握り合う。

「早速ですがシスターエリカ、貴女はどうしてここに?」
「そうでした! エリカ、セーヌ川に現れた怪物達と戦ってたんです!」
「ボクが送られたのは戦闘開始直後だね。相手は前回までのデータに無い、全くの新種だった」
「その怪物達、水の中にしかいれないらしくて、光武F2、あ、巴里華撃団で使ってる霊子甲冑なんですけど、川の中相手じゃ苦戦してたんです。そうしたら…」
「そこに、新たに転移してきた者達がいたんだ。502、ブレイブウィッチーズと一致した」
「ウィッチ!? 確か、芳佳ちゃんがいたのって………」
「彼女がいたのは501、別の部隊のようですが、ウィッチまで転移してきてるとなると………」
「それが、他にもいたんですよ。水の上をスケートみたいに走って、怪物と戦う女の子が」
「ボクも確認したよ、こちらも一致するデータは無し。武装はウィッチの物に似てたみたいなんだけど………」
「それでそれで、その子が怪物の攻撃で吹き飛ばされて怪我しちゃって、エリカ慌ててその子を助けにいったんですけど、その子失神してて、取り敢えず光武F2の中にかくまおうとしたら………」
「今度はマスターが敵の攻撃を食らって、消える直前の転移ホールにボク諸共飛び込んで、気付いたらここにいたって訳」
「へ〜」

 エリカの説明にアルトアイネスが補足する中、ユナとエルナーが熱心に聞き、ユーリィは一人差し入れの菓子をぱくついていた。

「気になる事だらけですね。謎の敵の出現もさる事ながら、ウィッチ達も転移されてきたというのが………」
「ひょっとして、他のウィッチの子達も?」
「なんとも………確かめる術が………」

 そこで楽屋に置いておいたユナの携帯が鳴る。

「あれ、誰だろ」

 ユナが着信ボタンを押すと、香坂 エリカの立体映像が映しだされる。

「あ、エリカちゃんだ」
「エリカはここにいますけど」
「彼女もエリカって名前なんです」

 首を傾げるエリカに、エルナーが説明するが、それよりもエルナーは向こうのエリカの顔がこわばっている事に注意が向く。

『ユナ、そろそろ終わったかと思って』
「うん、大盛況だったよ。エリカちゃんの後援もあったからね」
『それはよかったわ。それで、ちょっと言い難い事なんだけど………』
「また、転移現象が起きている事ですか?」

 向こうのエリカが言う前に、エルナーが言った事に向こうの表情が変わる。

『どうしてそれを………』
「こちらにもつい今しがた、明らかにパラレルワールドから転移してきた人がいるんですよ。巴里華撃団のエリカ・フォンティーヌと名乗っています」
「はい! エリカここです!」
『華撃団!? 私達も先程まで、帝国華撃団を名乗る人達と共闘してたんですのよ!?』
「え? 大神さん達とですか!? 東京に何があったんです!?」
『………とてもすぐには説明出来ませんわ。すでに迎えを向かわせてます。それに乗ってこちらに来てください。エルナーに来てほしい、と門脇中将からの依頼がありましたの』
「門脇中将が? まさか………」
『ええ、ソニックダイバー隊も帝都にいますわ、ウィッチやトリガーハートの方々も。今、こちらとGで協力して転移ポートを固定化してますの』
「え、という事は、音羽ちゃんや芳佳ちゃんやエグゼリカちゃんに亜乃亜ちゃんも!?」
「………つまり、事態はそこまで」
『………ユナ、エルナー、そしてユーリィ。あとそちらのエリカさんも、急いで来てください。何かが、とても私達の手だけでは負えない何かが起きようとしてるわ………』
「うん分かった!」

 いつになく深刻な表情をする相手に、ユナは普段通りの明るい顔で返答し、通話が切れる。

「ユナ、すぐに支度を」
「待ってて今着替えるから!」
「え〜と、私も行けば、大神さん達の所に行けるんですか?」
「多分ですが」
「芳佳のご飯食べられるんですか!? ユーリィはりきって行くですぅ!」

 今一状況を理解しているか分からない三者三様に、エルナーはどこか不安を感じつつ、状況を整理する。

「アルトアイネス、他に派遣された武装神姫は?」
「それなんだけど、実はかなり大規模に送られたらしく、他の武装神姫がどうなってるかよく分からないんだ。前回派遣された子全員に、ボクみたいな新型も多数派遣する気だってプロフェッサーは言ってた」
「プロフェッサー、それが武装神姫を送り込んだ人ですか………」
「状況が落ち着いたら、連絡するっても言ってたよ」
「つまり、誰も現状を正確に把握できていない、と」
「多分ね。こうなるなんてプロフェッサーも考えてなくって、民間にロールアウトされる寸前だったし」
「一体、何が起きてるんでしょうか………」



「そろそろカ」

 水平線に日が没しようとするのを見たエイラが、軍備品の懐中時計で時間を確認、その時間を万年筆で甲板に書き記す。

「何をしている?」
「お前ガ場所分からないって言うから、こうやて調べてんダロ」
「六分儀が有ればいいんだけど………」

 コンゴウが聞く中サーニャはその前、影の長さからの大体の南中時間と日没時間から、大体の日照時間を割り出していた。

「長いナ………あとは星の配置カ」
「星?」
「星座の配置と、日照時間から大体の場所が分かるの」
「これ、海軍でモ空軍でも常識ダロ」
「そうなのか。待て、星の配置が知りたいのか」

 そう言うや否や、コンゴウはようやく光り始めた星とまだ見えない星を観測、それを目の前に3D映像として映し出す。

「おわ! お前、こんナ事出来たのかヨ」
「エイラ、これって、南十字星?」
「ゲ、マジかよ………だとしたらここ、赤道にかなり近イ?」
「温かいし、多分そうだよ」
「まずいナ〜、見慣れてるのナラ位置分かるけど、これじゃ………」
「何がまずい?」
「どっちニ向かえばいいカ、これじゃあ判断出来ないんだヨ」
「ひょっとしたら、太平洋か大西洋の真ん中あたりかも………」
「最悪なんダナ」
「まだ他の星じゃないだけ良いと思おうよ」
「先程行ってた話か。正直信じられんが」
「体験したアタシ達でも未だに夢だと想う時がアルからナ」
「それ以前に霧の艦隊の存在を知らない、というのが何よりの証明、か」
「違う世界の事だもの。貴女が人類の敵だった、とは今とても思えない」

 サーニャの言葉にコンゴウは何ともいえない表情を浮かべる。

「コンゴウ、はっきり言って、お前は現在位置よりも自分を見失ってル感じなんダナ」
「アガリを迎えたウィッチに、そんな表情の人がたまにいるよね」
「そうだな、私にはもう人類と敵対する理由が分からなくなった」
「だったら今の間だけでも、このまま協力するんダナ。一人で漂流し続けるよりも、よっぽどマシなんダナ」
「……そうだな」
「分かれば良いんダナ」

 ため息をついた所で、エイラの腹が鳴る。

「………とにかく、ご飯にシヨウ」
「そうだね」

 エイラとサーニャはポーチを弄り、そこから非常時用の戦闘糧食を取り出す。

「定時巡回だったからナ〜持たせて3日カ」
「コンゴウさん、この船に他に食料ってある?」
「無い、そもそも人間が乗っていない」
「ウ〜ン………せめて飲み物だけでも」
「………それなら用意できる」

 エイラが日持ちと栄養以外考えられていないレーションをかじりながらボヤくと、コンゴウは小さく呟き、突然甲板にテーブルとティーセットが現れる。

「おわっ! お前、こんな事も出来たノカ!」
「この船はナノマテリアルで構成されている。自在に変化させられる」
「変化っテ………」

 エイラが恐る恐る出現したティーポットに鼻を近づけるが、漂ってくるのは間違いなく紅茶の匂いだった。

「………飲めるのかコレ?」
「成分は前に飲んだ物と完全に同一にした」
「シタって………」

 ティーポットに手を伸ばそうとしたエイラだったが、そこでサーニャが服の裾を掴み、首を左右に降る。

「やめた方いいと思う」
「………サーニャがそう言うなラ」
「嫌なら無理には薦めない」
「ゴメンナサイ。用意してもらって申し訳ないけど、私にはその紅茶もティーポットも同じ物としか思えない」
「判別が出来るのか? 余程高度な化学分析でないと判別できないと思うが」
「サーニャが感知系ウィッチだからなんダナ。無害とは思うが感覚的に受け入れない物は無理できないんダナ」
「そういう物なのか」
「ケド、飲み水の問題はあるナ〜携行のは残ってないシ」
「下から組めばいい」
「人間は海水そのまま飲めないんダヨ! お前とことん世間知らずだナ!」
「………塩分を抜けばいいのか。それくらいなら簡単だ」
「それと一応煮沸ダナ。このティーポット借りるぞ。それト火は………」
「燃料何かある?」
「燃料………」

 コンゴウはしばし考えると、突然今度はバーベキューコンロが出現する。

「お前、全然加減も出来ないヨナ………」
「すまないが、他に知らん」
「もうちょっと温度低くして」
「分かった」

 コンゴウがろ過した水を煮沸し、それを飲みながらエイラとサーニャは一息つくが、ふとエイラがレーションをコンゴウへと突き出す。

「一応礼。やるヨ」
「私は有機物の摂取は必要ないが………」
「私ラだけ食べてたら、嫌がらせみたいダロ」
「私は構わないが」
「いいから食べて。明日はお魚でも釣ろう」
「そうダナ、サーニャ」

 サーニャも薦め、エイラが頷くのでコンゴウは黙ってレーションを受け取り、それをかじる。

「………これはなんと言えばいいのだ?」
「言うナ、旨くないってのは分かってるシ」
「そうか、これは旨くないという物か」
「そうだね」

 相変わらず無表情のコンゴウにサーニャが笑うと、エイラもそれに吊られて笑いだす。

「………所でこの船、ベッドルームあるカ?」
「ベッドルーム?」
「寝たり休憩するのに使う場所の事」
「………似たような物を造っておく」
「待テ、私ノ見てる前でヤレ」
「分かった」

 しばし後、何故か銀髪の少女のフィギュアが大量に飾られている応接室のような部屋を造ったコンゴウに、エイラは冷め切った視線を向ける事になった。



『直りましたわよ』
「え? もうですか?」

 ヒュウガから届いた大電波塔修復完了の方に、七恵は思わず声を上げた。

『それが本当なのよ、あっという間に直しちゃったわ』
『こちらでも確認しました。まだ三時間と経ってないんですけど………』

 手伝っていた薔薇組の報告に、帝劇の方でも確認したらしく、かすみもどこか驚いた顔をしている。

『使うなら早くした方がいい。長くは持たない』
「………え?」
『壊れた破片を持ってきたナノマテリアルでくっつけただけ。どれ位機能を維持出来るかは不明』
『壊れた模型をごはん粒で貼り付けてるみたいでした………』

 淡々とハルナとイオナが説明する背後で、その様を見ていた雪之丞が呆然と呟くが、折しも吹いた強風に修復したばかりの大電波塔が大きくたわむ。

『ちょ、傾いでるわよ!』
『補強の骨組はまだ届かないの!?』
『早くても明朝みたいです!』
『あの、本当に使えるんでしょうか?』
『だから早くした方がいい』
『分かりました。取り敢えず距離的に近い方から。こちら帝国華撃団、巴里華撃団、応答してください』
「タクミさん、通信繋がりそうです」

 薔薇組が騒ぐ中、かすみが慌てて通信を入れ、七恵も席を離れていたタクミを呼び戻す。

『こちら…里華撃団。帝国…撃団、どうぞ』

 やがてノイズ混じりだが、巴里華撃団のメルが現れ、タクミは追浜の設備で何とかノイズリダクションを試みる。

『こちら帝国華撃団、通信が遅れて申し訳ありませんでした』
『いえ、こちらも。帝都で何かあったんですか?』
『…とんでもなく大規模な敵襲です。なんとか撃破には成功しましたけど、市街地にはかなり被害が出ました』
『…それはひょっとして、未確認の敵による物でですか?』
『ええ、それに…』
『違う世界から来たという人達もいる』

 メルの口から告げられた言葉に、聞いていたタクミと七恵は思わず顔を見合わせる。

「ちょ、ちょっと待って下さい! こちらソニックダイバー隊、帝国華撃団に加勢した者ですが、そちらに現れた人達は何て名乗ってましたか!?」
『502統合戦闘航空団、そう名乗ってました。それに…』
「502!? ちょ、ちょっと待って下さい! ウィッチならこちらにもいます!」
「坂本少佐呼んできます!」
『大神司令! 大神司令! 至急司令室に!』

 七恵が慌てて美緒の居場所を確かめ、かすみも自分だけの手に余ると判断して大急ぎで大神を呼ぶ。
 数分後、エリカが慌てて用意させた空間投影型の通信枠で蒼き鋼の面々等も加わって主な司令官が通信機前に集まった。

『久し振りだね、ムッシュ。改めて帝国華撃団司令就任おめでとう』
『ありがとうございます。グランマ』
『502隊長のグンドュラ・ラル少佐だ。確かに見覚えのある顔ぶれだな』
『それじゃあ、どこから話そうかね………』
『あまりに多過ぎる』
「まずは急を要する物を」
『急を要する………一つあるんだけど、そっちに艦娘ってのはいるかい?』

 グランマが大神に祝いの言葉を送り、ラルが通信枠の顔ぶれを確認した後、思案する二人に門脇が端的に申し出、グランマは一番の懸念事項を告げる。

『いえ、そういうのは聞いてませんが』
「こちらも知りませんね」
『こちらもです』

 皆が首を傾げ、それを見たグランマがため息をつく。

『その艦娘って名乗る子が今こちらにいるんだけど、どうにも人間じゃないらしいんだ。それで、怪我してるんだけど、どう治療すりゃいいんだか分からなくて困ってるんだ』
『こちらに簡易的だが治癒魔法を使えるウィッチが一応応急処置はしたのだが………』
『分かっているだけでも、その艦娘のデータを送ってくれませんか』
『今送るよ』

 送られてきたデータを皆が見るが、何人かが顔をしかめる。

「鉄分量が異常に多いわね。それと重油に似た成分?」
『これに似たデータが有るわ、機械人の機械血液ね。これなら、カルナダインの設備で修復出来るかもしれません』
『本当かい? けどこっちまで来るのに…』
『最大速度なら、二時間もかかりません』
『は? 私を担いでるんじゃないだろうね』

 ポリリーナとクルエルティアが血液データを読み取り、治療手段を講じ、しかも早過ぎる所要時間にグランマが不審な顔をする。

『いえ、それ位技術格差が開いているという事でしょう。前回見た事がある』
『どうにも、まだ信じられないね』

 ラルが前に見たトリガーハート達を思い出して助言、未だにグランマは不審な顔をしていた。

『それとエリカが、行方不明なんだ。こちらに現れた奇妙な渦に巻き込まれて…』
「あの、すいませんがそれは巴里華撃団のシスターエリカに間違いありませんね?」

 表情が陰るグランマに恐る恐るポリリーナが問いただす。

『何か心当たりがあるのかい?』
「心当たりというか、ユナの、私達のリーダー的な子の所に、巴里華撃団のエリカを名乗る女性が現れたと連絡が。今大神司令にお知らせしようと思ってたのですけど」
『じゃあエリカは無事なのかい!?』
「今こちらに向かってます。数日中にはそちらに送り届けられるかと」
『良かったよ、これ皆も安心する』
『取り敢えず、カルナダインには至急巴里に向かってもらおう。その艦娘って子の治療と、現状の把握が必要だ』
「重力通信機は用意してあります。ただそちらの設備との変換をどうするか…」
『それだけじゃないよ、紐育華撃団とも連絡が取れないんだ』
「こちらの情報だと、ニューヨークも似たような状況になっている可能性が高いと………」
『一体全体どうなってんだい? こんな状況じゃなきゃ、リボ…ー…ノンで…援』

 矢継ぎ早に幾つかの事が決められていく中、再度通信画像が乱れる。

『あ、ゴメン。やっぱ持ちそうないわ』
『待った、他にも…』

 ヒュウガの無責任な謝罪に大神が慌てた直後、突如として巴里華撃団との通信が途切れ、どこか遠くから何かが崩れ落ちるような音が小さく響いてきた。

「………とにかく、パリに急行する必要があるようね」
『すぐにでも行けます』

 ポリリーナがその件に触れないようにする中、カルナが即答して航路設定を開始する。

「怪我人がいるなら、宮藤を連れて行くといいだろう。もっとも相手が特殊だとどこまで彼女の治癒魔法が通じるかは謎だが」
「それと、もう一つ気になる事が………」

 美緒が芳佳の同伴を申し出る中、ジオールが先程オペレッタから送られてきたあるデータを表示させる。

「これは?」
「次元歪曲率を示したマップです。こちらが通常時の物、そしてこちらが先程計測した、今のこの地球の物」

 ジオールが表示させた二つの地球の立体画像に、片方には綺麗な縞模様を思わせるラインが入っていたが、もう片方には丸で幾何学模様のような不自然なラインが入り乱れ、特に東京、パリ、そしてニューヨークがひどい状態だった。

「丸で違うようだが」
「はい、本来ならこんな事はありえません。今現在、この地球ではいつ何処で転移現象が起きても不思議ではないくらい、次元歪曲現象が起きているんです」
『意味はよく分からねえが、その縞模様、もう一箇所にも集中してんな』
「ええ………」

 米田の指摘に、ジオールも言葉を濁す。
 そのもう一箇所、太平洋に複数の次元歪曲が集中している事、その意味に誰もが薄々気付いてた。

「何かが転移しているか、これから転移してくるのか」
「どちらの可能性も有ります。空間が不安定過ぎて、短距離転移も難しい状態で………」
『ニューヨークに通信が繋がらなかったのもそれが原因かな?』

 ポリリーナとジオールが深刻な顔をする中、大神の問にジオールは小さく頷く。

「この状況では、通常電波ではまず届きません。それと、こちらと同じく電波塔が破壊されている可能性も………」
「………となると、太平洋の偵察とニューヨークの状況確認が必要か。可能な機体は?」

 状況を整理した門脇の問に、皆が顔を見合わせる。

『パリに行った後に、ニューヨークに向かうならば可能ですが………』
「RVだけで太平洋の探索は少し範囲的に無理があります」
「旗艦と成り得る大型艦を用意するべきかしら………」
「すぐには無理、という事か」
「残念ながら」
『翔鯨丸でそこまでの長距離飛行も難しいですし………とにかく、パリとニューヨークに向かうなら、自分が紹介状を書きます』
「頼む。この時代では、我々も彼女達も、異物でしかない」
「ほとぼりが冷めた後の方が問題でしょうな」
『それもまあ………何とかします』

 やらなければならない事が山積みとなる中、今更ながら門脇と嶋が民間人に多数目撃されていた事を思い出し、顔をしかめる。

『面倒事はオレっちの方でどうにかするさ、そんために老いぼれ引っ張りだしてきたんだろうし』
『すいません、米田中将』
『あんたらも余計な事は考えねえで、これからの事に集中しといてくれ。正直、何が何だか聞いてて分かりゃしねえ』
「同感です」

 米田の愚痴に、門脇が賛同した所で皆がそれぞれの作業へと戻っていく。
 そして、作業の続きに入ろうとしていた七恵とタクミが門脇と米田が通信状態のままでいる事に気付く。

「米田中将、どこまで動かせますか?」
『陸軍、ならばある程度動かせる。海軍はちっと畑が違うが、現状だと融通は効きそうだ。だが、はっきり言える事が有る。またあいつらが来たら、華撃団以外の連中は戦力にはならねえ………』
「我々の時代の戦力でも、どこまで相手出来るか、でしょうからな」
『三つの華撃団、そして更なる戦力がいる』
「あるいは、もっと………」



「あちィイ!」

 悲鳴と共に、造ったばかりのシャワールームからエイラが飛び出す。

「コンゴウ! だから温度は40℃位って行ったダロ!」
「すまない、そこまで微妙な温度調整はした事がなかった」
「まったク………サーニャが入ってなくてヨカッタ………」

 そっとシャワーの水温を確認したエイラが再度シャワールームへと入っていく。

「お前サ、もうちょっと物事覚えた方イイゾ」
「そうか、だが機会が無かった」
「こんだけデカいのに、シャワーもトイレも無い船なんて前代未聞ダ」

 ブツブツと文句を垂れ流しつつ、エイラがシャワーを浴び終え、持ってたハンカチを巨大サイズで作らせたナノマテリアル製の代用タオルで体を吹く。

「サーニャは?」
「甲板にいる。周辺状況を調べると言っていたが、私のレーダーにも何も感知出来ないのを、彼女が分かるとは思えないが」
「サーニャは魔導針持ちのナイトウィッチだからナ。機械に分からないのがナニか分かるかモ」
「そういう物なのか………」
「それじゃ私は仮眠取るけど、サーニャに妙な事するナヨ」
「妙な事とは?」
「それくらい自分で考えロ!」

 何度目か分からない怒声を浴びせつつ、エイラは応接室のソファーに横になる。
 それを確認したコンゴウが甲板に戻り、そこで固有魔法を発動させながら、歌を口ずさんでいるサーニャを見る。

「何か分かったか」
「ううん、何にも。通信電波の類も引っかからない」
「私もだ。感知範囲内でだが、空間湾曲の余波も残っている。これでは感知の類は効きにくいだろう」
「さっき、ガラス瓶が流れていくのを見たから、誰もいない時代とかってわけじゃないと思う」
「そうか」

 コンゴウが頷くと、サーニャはまた歌を口ずさみ始め、コンゴウは黙ってそれを聞いている。
 しばしそのまま波間にサーニャの歌だけが響いていたが、一曲分歌い終えた所でサーニャがコンゴウの方を振り向く。

「歌が好きなの?」
「………好きな知り合いがいた。他の歌というのは聞いた事は無かったが、おそらく下手だったんだろう。だが、歌っている時の彼女は楽しそうだった」
「友達?」
「どう表現したらいいのかは分からない。だが、そう思っていたのは私だけだったようだ」
「………亡くなったの?」
「………それなら、まだマシだったろうな」

 それ以上何も言わないコンゴウに、サーニャはそれ以上聞こうとせず、再度歌を口ずさみ始めた。



「さて、と。一応全員そろったな」
「ええ」

 帝国華撃団指揮所に、指揮官達が勢揃いしていた。
 帝国華撃団から現司令・大神 一郎、副司令・藤枝 かえで、前司令・米田 一基。
 人類統合軍から門脇 曹一郎中将並びに嶋秋嵩少将。
 ウィッチから坂本 美緒少佐、光の戦士からポリリーナ、Gからジオール・トゥイー、トリガーハートからパリに向かったクルエルティアの代理にエグゼリカ、そして蒼き鋼から千早 群像艦長と織部 僧副長とイオナ。
 ついでに大神にはプロキシマが、美緒にはアーンヴァルも付いていた。

「こうして改めて見ると、なかなかすげえ絵だな」
「オレが前に見た異世界の戦士達はもっとすごかったですけど」
「初見の時は我々もそうだった」

 米田がぽつりと呟いた言葉に思わず大神が苦笑するが、門脇も前を思い出して少しばかり遠くを見る。

「軍人半分に、そうじゃないのが半分か。つっかそこのあんた、その鉄仮面苦しくないのかい?」
「このマスクですか? アレルギーなのでお気になさらずにお願いします」
「マスクつけたままのなら他にもいる。気にするような物でもあるまい」
「まさか、それ私の事?」
「おやおやマスク仲間ですね」
「…そうね」
「ともあれ、面倒な自己紹介は予め資料を渡してたはずだが、読んだかい?」
「一応は。ただ、どうにも信じられない事ばかりで………」
「オイらもだよ………」

 米田の確認に、群像はフィクションとしか思えない事ばかり書かれた資料の事を思い出していた。

「オレとさくら君、そして蒼き鋼を除く全員が似たような状況になった事があるが、君達は初めて、という事かな?」
「ええ、そういう事になります。異世界という物が実在するとは考えてもいませんでした」

 大神の問に僧が答えるが、ある意味常識的な答えに皆が僅かに苦笑する。

「誰だって最初はそうだ。だがまたお前達はマシな方だぞ? 私なぞ気付いたら宇宙船の中にいた」
「そもそもマスター、どこかの惑星の雪原で孤軍奮闘した上、遭難しかけてましたよ?」
「こっちは魔界にも行ったな………」
「それはデータに無い世界だな」
「………冗談、ですよね?」

 前回の事を思い出し、遠い目をする美緒と大神にアーンヴァルとプロキシマが一応補足するが、僧は思わず聞き返し、二人共静かに首を左右に降る。

「その件はともかく、君達蒼き鋼は〈霧の艦隊〉と呼ばれる存在と戦っていたと渡された資料には書いてあったが………」
「はい、かつての人類の戦艦に酷似した謎の存在、霧の攻撃により、オレ達の世界は完全に海洋が封鎖されています」
「こちらもワームによって海洋が封鎖されていた事が有った。ある種、似たような状況か」
「違いは、彼女か」

 強引に話題を切り替えた大神の更なる問に群像は答えるが、門脇と嶋が群像の隣にいるイオナへと目を向けた。

「彼女を含め、メンタルモデルと呼ばれる彼女達はなぜ君達に協力している?」
「最初はそういう命令だった。今は、私自身の意思」
「命令? 誰の?」
「不明、何故かは私自身も認識できない。私は兵器、群像の船」
「兵器って………」
「私もですけど」

 イオナの発現に大神を含め、眉を潜める者がいたが、唐突にエグゼリカも手を上げる。

「私は超惑星規模防衛組織チルダ、対ヴァーミス局地戦闘用少女型兵器トリガーハート《TH60 EXELICA》。イオナさんと同じ、造られた存在です」
「………造った連中、何考えてんだ? まあこの際それはどうでもいいとして」

 米田が色々諦めきった顔をしつつ、群像へと視線を戻す。

「他の連中は大なり小なり経験があるみてえだから腹は決まってるみてえだが、あんたらはどうするんだい?」
「どうする、と言われても、我々は大事な仕事の途中なので、元の世界に戻らなくてはなりません」
「次元座標さえ分かれば、元の世界に戻す事は可能です」
「本当ですか?」

 険しい顔をする群像だったが、ジオールの提案に僧が一番に反応する。

「だが、正直に帰れるとは思わない方がいい。前はそうだった」
「ああ、その通りだ」

 厳しい顔をする大神に、門脇も賛同する。

「また呼び戻される可能性がある、と?」
「状況から見て、その可能性は高いわ。敵の動きも明らかにおかしかったし」

 僧の確認の問に、ポリリーナも険しい顔をして答える。

「そもそも、あいつらは何なんだ? 無人の機械ってのは確かだが、それ以外何も分からねえ」
「Gのデータバンクで酷似した存在らしき物は一応有ったんですが、詳細は全く不明で………」
「分からない事尽くし、か。前回も分かったのは最後の決戦の時だったからな」

 米田の一番の疑問にジオールは顔を伏せながら呟き、嶋もため息を漏らす。

「ポリリーナ君、エルナーが来るのは何時頃になりそうかな?」
「今ユナと一緒に全速で向かってますから、明日中には何とか………」
「我らの頭脳では、現状対処が精一杯だろう。現状を把握出来る可能性がある者の到着を待ってから、今後の事を話し合うのが妥当かと思うのだが」
「賛成だ、もうオレっちの頭は煮こぼれちまってる………」
「同感です。こちらも幾つか考えたい事があるので」

 門脇の提案に、米田と群像が揃って賛成、会議は一時お開きとなった。



「どう思う」
「少なくても、こちらの軍上層部よりは信用出来ますね」

 帝国劇場の廊下を歩きながら、群像と僧が会議で感じた率直な意見を交換する。

「こちらでは霧相手にあれだけ窮地に陥りながらも、内部闘争に利用しようとする人達ばかりでしたからね」
「見習ってもらいたい物だな、話の分かる人間ばかりがたまたま集まっただけかもしれんが」
「エグゼリカは初めて会った私を信用して全データを渡してくれた。だから私も信じる」
「私も兵器、か」
「似た者同士、という奴でしょうか?」
「うわあああぁぁ! あ、401助けてくれぇ!」

 イオナも意見を述べるが、そこで通路の向こうから悲鳴と共に何故かゴシック調の服を着たキリシマが駆けてくる。

「どうしたの?」
「どうしたもこうしたも…」
「いた!」
「ダメだよヨタロウ!」

 後を追ってきたアイリスと蒔絵がキリシマを指差した時、突然キリシマの体が宙を浮く。

「ま、またか!」
「ほらほらこっちこっち! お洋服はまだまだいっぱいあるんだから!」
「あれやそれも似合うと思うよヨタロウ」
「あ〜れ〜〜〜………」

 時代劇の連れさらわれる町娘のような声を出しながら、宙に浮いたままのキリシマが二人に引っ張られるように元来た通路を戻っていく。

「………余計な心配はいらないようだな」
「まあ、確かに」
「今、妙な力でキリシマは連れて行かれた。解析出来ない」
「念動力だな、複数の固有魔法持ちらしい」

 背後からその光景を見ていたらしい美緒に、三人は振り向く。

「そう言えば、貴女方は特殊な能力を持ってる人がいるんでしたね」
「魔法なんて信じられなかったが、実際に体験した以上、信じるしかないからな」

 群像がそう言いながら己の右腕、つい半日前まで固定していたはずが、パリに向かう前にと芳佳の治癒魔法で治してもらったそれを見つめる。

「私から見れば、そちらの方が不思議だ。船体を自由に組み替えられる船なぞ、とても信じられん」
「ナノマテリアルだから出来る芸当です。ただ、おそらく今回の修復で底をつくでしょう」
「補給の問題は重要だぞ。技術格差がある分、使い回しが効かない可能性もある。前回苦労した事の一つだ」
「ウィッチ専用銃器を、一から作ったそうです」
「どう有っても、互いに協力せざるを得ない状況、という事かな」
「無理にとは言わない。なんなら、こちらを利用すればいい。こちらもそちらを利用する。そういう事にすればいい」

 思案する群像に、美緒が変わった提案をしてくる。

「ご経験が?」
「私達の世界では、ネウロイと呼ばれる存在と人類の戦争が行われているが、特にネウロイの勢力が強い所には、各国の派遣ウィッチからなる統合戦闘航空団が配置される。各国の精鋭抽出、と言えば聞こえはいいが、ようは国力と国威を誇示するためにどの国もこぞって送り込んでいるだけにすぎん。現場ではそんなの気にしてるウィッチはほとんどおらんがな」
「どこも一皮むけば同じ、か」
「そのようだ」

 群像がため息を漏らし、美緒も思わず苦笑する。

「4、401………助けて………」

 そこに十二単のような衣装を着せられたハルナがよろよろとした足取りで現れるが、突然その場から消えたかと思うと、同じ体勢のまま180度反転した状態で現れ、正面に向き合う形となった蒔絵とアイリスに強引に手を引かれていく。

「ダメだよハルハル。ファッションショーはまだまだこれからなんだから」
「そうそう、ヨタロウはどっか行っちゃったし」
「あうう………」

 少女二人に連れ去られていくメンタルモデルを無言で見送った四人と一体は、思わず顔を見合わせる。

「まあ、蒔絵に同年代の友達が出来たのはいい事としましょう」
「メンタルモデルを手玉に取るとは、空恐ろしい友達のようだが」
「楽しそうでいいじゃないか」
「やられてる当人達は悲鳴上げてましたが………」
「いつもの事」
「そうなんですか?」

 アーンヴァルだけが釈然としない中、四人はその場を離れていく。

「今の内に聞いておきたいんですが、明日来るエルナーさんとかいう人は、本当にこのデタラメな現状を整理出来るんですか?」
「多分大丈夫だろう、前回も大分世話になったからな。それともう一人、神楽坂 ユナという人物が来る。彼女ならば皆をまとめられるだろう」

 僧の疑問に美緒が答えるが、後半の言葉に僧と群像が首を傾げる。

「まとめられるという事は、それだけの大人物という事か?」
「いや全く。私も最初理解出来なかったからな。だが、前回は彼女がいたから、皆が結束出来た」
「意味が不明」
「段々分かるようになるさ」
「だいぶかかりそうですけどね」

 小首を傾げるイオナに、美緒は含みをもたせ呟き、アーンヴァルはむしろ更に首を傾げていた。

「さて、そろそろ宮藤達は着いたろうか………」





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