第二次スーパーロボッコ大戦
EP30



『………』

 それは、戦場から少し離れた場所で戦況を見つめていた。

『ヤクニタタヌ…イマイマシイ……ガラクタドモメッ!!』

 現状で持てる戦力を全て投入しているにも関わらず、目標の施設を落とせないばかりか、続々と増援まで到着している。
 しかも自分達の知らない、自分達を破壊出来うる戦力も複数いたのを知ったそれは、憤怒をその身に漲らせていく。

『シズメ………ワタシノシタニ……!』

 深き水底から、それは浮上を開始する。
 戦場へと向けて。



「一番二番、徹甲弾装填! 目標測距、ターゲットチェックね!」

 金剛の艤装上で、妖精達が忙しく動き回り、次弾が装填されていく。

「ファイアー!」

 放たれた砲弾が深海棲艦へと直撃し、一撃で爆沈させていく。

「あんなので効くなんて………」
「根幹的に何かが違うみたい………」

 どう見ても旧式としか思えない武装が、深海棲艦に致命傷を与えているのに、更識姉妹は首を傾げる。

「恐らくは対深海棲艦用に特化した武装ね」
「確かに海上戦以外使えそうにありませんし」

 ミサキとサイコもその様子を見ていたが、そこに加賀が近寄ってくる。

「貴方達、ここは私達に任せて防衛の方に回って」
「外縁部にすでに防衛線を構築してるわ」
「私達の役目は機動防御です」
「そう、無理はしないでね」

 それだけ告げると、加賀は矢を番えながらその場を離れる。

「あ………」

 その後姿を見ていたサイコが思わず声を上げる。

「どうかしましたか?」
「いや、今手振ってたので」
「誰が?」
「見えなかった? 彼女の肩」
「「??」」

 サイコのみならず、ミサキからも言われるが更識姉妹はISのセンサーで加賀をチェックするが、何の事か分からず首を傾げる。

「これは………」
「見える人と見えない人がいるとは聞いてたわ。恐らく、見える人は深海棲艦と戦える人ね」

 サイコとミサキは加賀の肩でこちらに手を振っていた妖精を見つめながら呟く。

「ともかく、残敵の警戒に当たるわよ」
「水中にまで探索範囲を拡大します。打鉄弐式のセンサーでどこまで分かるか………」
「まだ行ける?」
「援護がやっとかと………」

 艦娘達が深海棲艦を駆逐しながらその場を去っていくのを見送りつつ、四人は素早く周辺の警戒と自分達の状況を確認する。

(増援は間に合った………けど、これが相手の全戦力だとしたらいいけど、まだ何かいたとしたら?)

 連続の全力射撃で焼き付きかけているリニアレールガンをチェックしつつ、ミサキはある懸念をしていた。

(もし、コレ以上の戦力が投入されたなら………)



「プラトニック・エナジー、チャージ終了。プラトニックブレイク!」

 エスメラルダの駆るRV・ジェイドナイトが、D・バーストの代わりに搭載されたプラトニックブレイクを発動。
 全方位に球状に発射されたレーザーの二連射が周辺の深海棲艦を軒並み破壊していく。

「さっすがエスメ! ポイニーだって! プラトニックブレイク〜!」

 続けてポイニーの駆るRV・ファルシオンから前方に小型の疑似ブラックホールが発生、周辺の深海棲艦を軒並み飲み込んでいく。

「ホントすごい………」
「本部直属だけあって、RVも最新型ね」
「操縦技術もかなり高度ですね」

 増援に来た二人の戦闘力の高さに、亜乃亜、エリュー、エグゼリカですら唖然とする。

『ダー、こちら金剛オーナーの武装神姫エスパディア。増援は必要か?』
「こちらトロン、必要は無さそうね。ここは私達でどうにかするから、他へ回って」
『ダー。ここはいいそうだオーナー』

 エスパディアからの確認に、エリューは増援を断り、それを受けた艦娘達がこちらを横目で見つつ、通過していく。

「あれが艦娘ですか」
「本当にお船みたい」

 エスメラルダとポイニーが興味深そうに過ぎていく艦娘を見るが、そこに残存していた深海棲艦の砲撃を瞬時にかわし、即座に反撃を叩き込む。

「制圧します」
「OK〜」
「私達も!」

 残った深海棲艦へと向けて、全員が一斉に攻撃を開始した。



「そろそろ、カタをつけましょう」

 増援が来たのを通信越しに聞きながら、どりあはブリッドをツールに装填。
 彼女の目の前には、最早満身創痍となった戦艦ル級がいたが、それでもなお、その目はどりあに激しい憎悪を叩きつけてくる。

「危険ね、貴方達は。ここの生徒達に任せられない程に」

 そう言いながらどりあは微笑。
 同時にブリッドをチャージした流体ドリルが、高速回転を開始する。

「殲滅させてもらうわ。念の為にね」

 流体ドリルの回転はスパークを伴うほどに超高速となり、余波だけで周辺に旋風が吹き荒れ始める。

「いくわよ」

 宣言と共に、ドリル・クィーンの姿がその場から掻き消える。
 そして、凄まじい旋風が高速で戦艦ル級へと迫り、ル級が残った砲で迎撃を試みるよりも早く、その旋風がル級を飲み込み、貫く。
 ドリル・クィーンの必殺技、《カイザー・インフェルノ》がル級へと叩き込まれ、凄まじい螺旋回転がル級の体を貫き、千切り、飲み込み、そして文字通り跡形も無く消し飛ばす。
 傍目には旋風が通り過ぎた後にル級の姿が消えたかのようにしか見えない凄まじい必殺技が炸裂し、ドリル・クィーンが姿を再び現す。

「さて、こちらはこんな物かしらね」

 周辺に動く物が全て無くなった事を確認したどりあは、他の増援に行くべきかを考える。

「どりすちゃんも頑張っているようだけど、これ以上の敵となったらちょっと荷が重いでしょうし。そちらにでも…」

 そこでふと、どりあはある考えに思い至る。

(深海棲艦に明らかに知性は有る。包囲戦術を仕掛けてきたという事は、戦術も理解・運用している。だったら、何故あのタイミングでボスが出てきたの?)

 そこまで考えた所で、ある恐ろしい可能性にどりあは辿り着いた。

「織斑先生! 千早艦長!」
『どうした?』『何か有りましたか!?』
「全センサーで周辺を詳細探査を! ひょっとしたら、まだ何かいるのかもしれないわ!」

 自分自身、思い違いであって欲しいという結論に、どりあは唾を飲み込む。

『7時方向、観測不能のエリアがあります! それとこれは成層圏に複数の反応有り! 戦闘中の模様!』
「成層圏!?」

 静の予想外の返信に、どりあは思わずそれを見上げた。


同時刻 太平洋上空 高度 20000m

「見つけた!」
「こんな遠くから………」

 フェインティアは宇宙と大気の境に目標らしき存在をようやく発見するが、学園上空からもかなり離れている場所にムルメルティアが驚く。

「しかも先客がいるわね」
「しっかりと交戦中だ」

 戦闘妖精と思われる影が、複数のJAM機と交戦している所に、フェインティアはためらいなく突っ込んでいく。

「ガルクァード!」

 JAM機が反応するより前に、フェインティアの放ったアンカーが突き刺さる。

「あなた!?」
「話は後で!」

 JAM機と交戦していた褐色の肌に薄紫のツインテールの少女が、参戦してきたフェインティアに驚くが、とりあえずは味方だと判断したのか、JAM機との交戦に戻る。

「小型機と電子戦機と思われる個体を確認。偵察、いや観察部隊と推察出来る」
「あっちもこっちも、覗き見ばかりね!」

 インターメラル 3.5mm主砲を撃ちながら素早くJAMの編成を確認したムルメルティアに、フェインティアも叫びながらガルトゥースの砲口を向ける。

「仕方ないわね………」

 褐色の戦闘妖精は少し顔をしかめつつ、スカート状のプロテクターの下からミサイルをまとめて発射、放たれたミサイルがJAMの小型機に次々炸裂し、破壊しきれなかったのをフェインティアとムルメルティアが次々トドメを刺していく。

「これで、どう!?」

 ついでとばかりにフェインティアがアンカーで小型機をまとめてキャプチャー、スイングして電子戦機へと叩きつける。

「殲滅する!」
「そうね!」

 そこへムルメルティアの砲撃と褐色の戦闘妖精が機銃掃射を叩き込み、電子戦機を完全に破壊、爆発させる。

「残敵は!?」
「確認できない」
「となると………」

 フェインティアとムルメルティアが同時に褐色の戦闘妖精へと視線を向ける。

「今度はすぐに逃げたりしないわよね、戦闘妖精さん?」
「TH44 FAINTEARに、その武装神姫、戦車型MMS・ムルメルティアね」
「マイスターだけでなく、私の事も知っているのか」

 フェインティアだけでなく、ムルメルティアの事まで知ってる事に、二人とも僅かに表情が固くなる。

「それで、貴女はどこの誰かしら? 自己紹介も無しにこちらだけ知られてるっていうのはいい気しないんだけど?」
「残念だけど、名乗る事は出来ないわ。私達はそう造られているから」
「………なるほどね」

 褐色の戦闘妖精の言葉に、フェインティアは相手がかなりの機密保持プロテクトで構成されている事を悟る。

「本来ならば、接触する事すら禁則事項よ。今は緊急時の対処という事で回避してるけど」
「随分ガチガチなシステムね。貴方達を造った人達は、何をそんなに怖がってるのかしら?」
「………」

 フェインティアの皮肉に、褐色の戦闘妖精は無言。
 それが抗議ではなく、本当に喋れないようにプロテクトされてると判断したフェインティアは、話題を変える。

「あのメイヴって子は色々助けてくれたけれど、それはどういう事?」
「あの子は、特別なの。私が言えるのはここまでよ」
「マイスター、どうやら情報提供は不可能のようだ」
「仕方ないわね。メイヴの件が無かったら、撃墜して持って帰る所なんだけれど、その借りに免じてここまでにしておくわ」

 会話を聞いていたムルメルティアの判断に、フェインティアもため息をつきながら同意する。

「最後に一つだけ、これだけは教えてもらうわ。貴方達は私達の敵? 味方?」
「どちらでもないわ。今の私達は観察者、それだけよ」
「それは一体………」

 フェインティアからの重要な問いに、予想外の返答をした褐色の戦闘妖精はそれだけ言うと、身をひるがえす。
 ムルメルティアが聞き返そうとするが、それより早く相手は加速、そして転移してその場から消える。

「いいのか、マイスター?」
「ま、それなりに色々分かったわ。戦闘妖精ってのは異常なまでにプロテクトが掛けられてる事、そしてメイヴって子はなぜかそれから外れてる事。そして多分彼女達、いえ恐らく彼女達を造った連中は、異常なまでにJAMを恐れてる」
「だから、JAMともその敵対者とも必要以上に接触しようとしないという事だと?」
「多分ね。さてと、遅くなったけど、増援に行きましょう」
「まだ状況は収束していないらしい」
「何やってるのかしらね」

 ぶつくさ言いながらも、フェインティアは学園へと向かって、急加速していった。



同時刻 闘技場実況席兼臨時指揮所

「満を持して到着した対深海棲艦部隊、通称艦娘達の活躍により、戦況は好転してきております! このまま一気に反撃に転じられるのでしょうか!?」
「防衛線を外縁部ギリギリまで引かせろ! 撤退した者達はどうなってる!」
『今補給作業中ですわ!』
『損傷が酷いけど、もう少しならなんとか!』
「補給が済んだら、防衛に回れ! 施設への被害を最小限に食い止めるんだ!」
『了解!』

 つばさの実況の中、美緒の指示が飛び交い、専用機持ち達がそれに応じる。

「機体の損傷や人員の負傷も相次いでいる模様! 皆さん、くれぐれも無茶をしすぎないようにしてください!」
「ISは必要以上前に出るな! アーンヴァル、そっちはどうなっている!」
『こっちはまだ手が空きません! 紅椿と白式の撤退は無理です!』
「場合によっては霧の船に撤退させろ! 少しは持つはずだ!」
『少しとは随分な言い草だな』

 美緒の指示に、いきなりコンゴウが割り込んでくる。

「メンタルモデルの頭脳、演算力という奴か? なら理解できるはずだ。今戦っている相手は、質が違い過ぎる」
『確かに。コレほどの火力を叩き込んでいるが、平然と撃ち返してくる』
「援護に徹するんだ。深海棲艦を倒せる相手が来るまでの間」
『……いいだろう』
『補給終了、再出撃しますわ!』
『武装が半分使用不能! なんて連中よ!』
『どこに回ります!?』

 美緒の指摘にコンゴウがうなずいた所で、専用機持ち達の再出撃可能の報告が届く。

「未だ戦闘が続いている場所の防衛線と、転移装置へと分割するんだ! 遠距離が得意な者は防衛線、そうでない者は転移装置に!」
『では私は防衛線を!』
『私とシャルロットは転移装置に!』
『終わったらオーバーホールだね………』

 セシリア、鈴音、シャルロットがそれぞれ出撃していく中、美緒は戦況を再度確認する。

「このまま持ち堪えれば、何とか………」

 それが淡い期待に過ぎない事を美緒が知るのはすぐ後の事だった。



蒼き鋼旗艦 イー401 ブリッジ

『成層圏での戦闘、収束したようね』
「恐らくは例の戦闘妖精ではないかと思われます艦長」
「群像、そちらではフェインティアの識別信号も確認した、彼女に任せていいと思う」
「そうだな、我々はこちらに集中してよさそうだ」

 タカオと僧、イオナの報告に未確認の観測データ2つの内、片方が片付いた事に僅かに401のブリッジに安堵が浮かぶ。

「7時方向の観測不能エリアは?」
『こちらはまだ解析できないわ』
「あ〜、今までのよりも観測不能エリアが広いね〜。ヤバイかな?」

 あまり深刻さを感じさせない束の言葉に、先程とは逆に余計に緊張が走った。

「杏平、残りの火力を全てその方向に向けられるように準備」
「既にやってる。けど残弾なんかあまり無いぜ」

 杏平の報告に群像は渋い表情をわずかに浮かべる。

「コンゴウの状況は?」
「コンゴウの火力は、今、彼女の目の前の深海棲艦に集中してるよ」
「正直、状況を見るに余力はあまりないな」
「アイツの火力で、押しきれないのか。本当にこちらの常識を超えているな」

 群像の問いに今度は蒔絵・ハルナ・キリシマが答えるが、こちらの返答も芳しい物では無い。

「それでも我々は出来る事をやるしかない」
『艦長! 観測不能エリアが移動を開始、戦闘エリアに近づいているわ!』
「次の戦闘に備えろ!」


学園中央部 転移装置設置予定場所

「敵の攻撃は弱まってきてます!」
「増援部隊が敵を順次駆逐してるようだからね」
「後少しです! 頑張りましょう!」
「マスター、10時方向から新手!」

 エミリーが転移装置に向けて襲来してくる敵機の変化を確認、加山が戦況を確認する中、シスターエリカが皆を鼓舞しながら、機体頭頂部に陣取っているアルトアイネスの声に手にした十字型機関銃を敵機に向けて乱射する。
 それを見ていた黒ウサギ隊の隊員がポツリと呟いた。

「ISが盾代わりにもならないなんて………」
「仕方がないわね。これは完全にオカルトの領域よ」
「ど、どうにか対処出来ないんですか!?」

 副隊長のクラリッサですら己達の無力さを痛感するが、隊員達は納得する事が出来ないでいた。

「方法はある、けどそれには必要な物が二つ有る。とても今は…」
「それは一体!?」
「銀と、聖職者が必要だったはず。そう簡単には…」
「銀なら、あるよ」

 その話に、補給の後に転移装置防衛に回ったシャルロットが口を開く。

「本当ですか!? しかし、それだけでは………流石にここに聖職者は」
「はい! エリカ、シスターです!」
「一応ね………」

 更にそこで、エリカ機が勢い良く手を挙げ、アルトアイネスが苦笑を浮かべる。
 それらを聞いたクラリッサは、目を見開く。

「すぐに万能工作機の用意! 炸裂弾頭の準備を!」
「は、はい!」
「それで、銀はどこに!?」
「それは………」

 シャルロットが銀の場所を教える中、鈴音はあまりの都合の良さに小首をかしげる。

「そんなのであいつらに対抗出来るの?」
「それが、艦娘の人達に言われたんだ。聖職者なら必要になるかもしれないから一緒に来てくれって」
「あいつらに?」

 思わず口を出た呟きに、それを聞いたアルトアイネスが応える。

「深海棲艦の持つ瘴気を浄化とか言ってたけど、詳しい事はさっぱり分かんない」
「完全にオカルトね………次は桃剣と御札でも用意しとくわ」

 昔見たキョンシー映画と、今戦っている相手を脳内でダブらせつつ、鈴音は向かってくる敵に龍咆の照準を向けた。



「戦艦棲姫はコンゴウさんに任せて、私達は他のを!」
「ヲ級に攻撃を集中よ!」

 吹雪と暁を先頭に、第六駆逐隊が残ったヲ級へと砲撃を集中させる。

「ヲ………!」

 次々放たれる砲撃をなんとかかわしながら、ヲ級が怪物の頭部から次々小型機を発進させるが、小型機が攻撃するよりも早く、上空からの銃撃が小型機を撃墜する。

「その小さいのは任せとケ!」
「空中戦ならこちらの管轄」
「ヲ…!」

 エイラとサーニャに上空を抑えられ、ヲ級はウィッチと艦娘を交互に睨みつける。

「私が動きを止める! その間にトドメを!」
「どうやってです?」
「さあ?」

 ランサメントが飛び出しながらの言葉に、電と雷が首を傾げるが、ランサメントは両肩のアトラスユニットと両手のコーカサス機関銃を構える。

「コレでも喰らえ! ファイアフライシュート!!」

 ランサメントの一斉射撃が、ヲ級の頭部に炸裂。
 そのサイズからは考えられない破壊力が、ヲ級の怪物型の頭部と人間型の頭部を両方吹き飛ばす。

「アイツ、けっこうエグいナ………」
「今!」
「照準補正! 目標ヲ級!」
「一斉砲撃!」

 エイラが流石にちょっと引く中、サーニャの声に我に返った艦娘達が一斉に砲口を定め、ウィッチ達も合わさっての一斉攻撃がヲ級へと炸裂していく。
 頭部を再生させつつあったヲ級は、その一斉攻撃には耐えきれず、体を半ば以上吹き飛ばしながら沈んでいく。

「敵艦撃沈確認!」
「残るは…」

 吹雪がヲ級の撃沈を確認し、暁が戦艦棲姫とコンゴウの戦闘の方へと振り返る。

「ふむ、まだ足りないか」
「効カヌ………!」

 そこでは、飽和攻撃という言葉すら生温いコンゴウの過剰過ぎる攻撃と、それに体を再生させながらも平然と撃ち返してくる戦艦棲姫の姿が有った。

「………アレに参加する?」
「近寄ったら巻き添え食いそうなのです………」
「かといって、参戦しない訳にも………」

 響の一言に、電は顔色を変え、雷も思わず手を出しあぐねる。

「ありゃやめトケ。怪我じゃすまナイ。コンゴウの奴、ホント加減知らないヨナ………」
「でも、彼女の火力だからなんとか足止め出来てる」
「もう直、こちらの金剛さん達も到着します! それまで私達でなんとか…!」

 吹雪が叫びながら12.7mm連装砲を構えるが、その前をコンゴウから放たれたロケット弾が横切り、戦艦棲姫へと命中して大爆発を起こす。

「………え〜と」
「オーナー、ここは彼女に任せて一時退避をした方が………」
「ぜ、全艦一時退避〜!」

 火力の桁が違いすぎる戦闘に、吹雪はランサメントの警告にしたがって大人しく退避を指示する。

「流石にあの火力には飛び込めんぞ………」
「すごいの来ちゃったな〜………」
「でも、効いてないし」

 箒と一夏も手を出しあぐねるが、それだけの火力をもってしても相手が平然と撃ち返してくるのにどりすが顔をしかめる。

「もう直、艦娘の増援部隊が到着するよ!」
「それまで、持ちこたえるにはこれしかないのだ!」

 ツガルとマオチャオも吹きすさぶ爆風に吹き飛ばされそうになる中、マスターにしがみついてなんとか堪えていた。

「ラウラが特殊武装を用意しているから一度戻るとか言っていたが、何を用意しているんだ?」
「さあ………あの副官さんの発案らしいけど………」
「そもそもあれに効くの?」

 先程部下に呼ばれて急に撤退したラウラの事を言いながら、箒、一夏、どりすは戦艦棲姫の隙を待ち続ける。

「コンゴウ! もうちょっと加減シロ!」
『生憎だが、これ以上は不可能だ』
「エイラ、あれ………」

 エイラも思わず文句を言うが、通信越しのコンゴウの反応と、サーニャの指摘に改めてコンゴウの艦体を見る。

『原因は不明だが、相手の攻撃はクラインフィールドを透過している。多少減衰はしているが、ダメージの蓄積は今後の支障になる可能性がある』
「じゃあ私らのシールドで………」
「ダメ。あの砲撃、下手したらネウロイのビームより強力かもしれない。私達のシールドが持たないかも」
「じゃあどうする…あ、大丈夫カ」

 手を出しあぐねるエイラだったが、そこでぽつりと呟く。
 コンゴウの苛烈な攻撃にも平然としていた戦艦棲姫だったが、横合いから飛んできた砲撃が直撃、そこで初めて絶叫を上げる。

『来たか』
「ヘ〜イ、ミストコンゴウね? 足留めサンクス!」
「あとはこちらで!」

 砲撃してきた金剛に続き、空母艦娘達も次々と矢をつがえる。

「金剛さん達だ!」
「ブッキー! お待たせネ!」

 金剛達の姿を確認した吹雪達がそちらへと合流、隊列を組み直す。

「金剛さんを中心に輪形陣! 戦艦棲姫に一斉砲撃!」
「そっちのコンゴウは一時砲撃中止ダ! サーニャ!」
「分かったエイラ」

 艦娘達が陣形を組む中、上空にエイラとサーニャも加わり、共に狙いを戦艦棲姫へと向ける。

「一斉砲撃!」「ファイアー!」

 吹雪の号令と同時に、金剛の35.6cm連装砲を皮切りに、艦娘達の砲撃とウィッチ達の攻撃が戦艦棲姫に放たれる。

「ミナソコニ…シズミナサイ……!」

 それに相対するように、戦艦棲姫も16inch三連装砲と12.5inch連想副砲を一斉発射。
 砲弾同士が至近でかちあい、凄まじい爆風が他の砲撃をも飲み込み、吹き飛ばす。

「シット! 中々の火力デ〜ス! 次弾装填急ぐネ!」
「加賀さん! 翔鶴さんと瑞鶴さんも艦載機発進! 金剛さんの次弾装填まで時間を稼いでください!」
「了解」「雷撃機、全機発進」「ありったけ出すわよ!」

 空母艦娘達が放った矢が次々と爆撃機へと変化、戦艦棲姫へと迫るが、異常な早さで次弾を装填した副砲がそれらを次々と撃ち落としていく。

「向こう、何かイカサマしてないカ?」
「エイラ、私達が」
「分かったサーニャ!」

 何か明らかにスペックが違う戦艦棲姫にエイラが疑問を呟くが、サーニャに促されて艦載機の代わりに向かっていく。

「一夏!」
「分かってる!」

 更に紅椿と白式も加わり、戦艦棲姫に矢継ぎ早に攻撃を加えていく。

「ウットオシイ………シズミナサイ!」

 連続で叩き込まれる攻撃だったが、ウィッチの攻撃は有効ではあるが、致命傷には遠く、ISの攻撃は相変わらず全く効いていない。

「コイツ、硬すぎるゾ!」
「もっと近くに! このカイザードリルなら!」

 大型ネウロイ並に厄介な相手だとエイラが判断して叫ぶが、白式の背でどりすが叫ぶ。

「よし、なんとか懐に…」
「危なイ!」

 戦艦棲姫の懐に飛び込もうとした一夏に、エイラが叫ぶ。
 直後、砲塔が白式に向けられ、砲弾を吐き出した。

「うわっ!?」
「危な!」

 一夏はかろうじて砲弾を避け、どりすは思わず白式にしがみついて急機動に耐える。

「お待たせネ! ファイアー!」

 そこでようやく装弾が終わった金剛が次弾を発射。
 こちらに気を取られていた戦艦棲姫は慌てて反応するが、斉射が間に合わず、直撃弾を食らう。

「ギャアアアァ!」
「やったか!?」

 砲弾爆発の向こう側から聞こえる戦艦棲姫の絶叫に、箒は致命傷を期待するが、爆炎が晴れると、そこにはダメージを追いながらも、まだ十二分なほどに戦闘可能な戦艦棲姫の姿が現れる。

「シズメ………シズミナサイ………」
「あれでもダメか!」
「けど効いてる!」
「もっとなのだ!」

 直撃したはずなのに、その目に凄まじい憎悪をたぎらせて臨戦態勢の戦艦棲姫に、箒は改めて驚愕するが、ツガルとマオチャオが確実にダメージを与えている事を確認、更なる攻撃を促す。

「ダー。オーナー、更なる追撃を」
「少し待つね!」
「北上さん、大井さん!」
「分かってるって」「これでも食らいなさい!」

 金剛の肩のエスパディアが追撃を促すが、装填に時間がかかる金剛に、吹雪の指示で北上と大井が一斉に魚雷を発射する。

「ソウヤスヤスト…!」

 戦艦棲姫は副砲で迫る魚雷を迎撃するが、全ては破壊しきれず、数本食らう。
 だが、爆発の後、それでもなお戦闘状態を保っている戦艦棲姫に、箒だけでなく一夏やどりすですら戦慄を覚えずにはいられなかった。

「もっとだ! こちらも出来る限り助勢する!」
「お願いします!」

 箒があとどれくらい持ちこたえられるかを懸念しつつ、艦娘達に攻撃を促し、吹雪もそれに答えながら砲塔を構える。

「サーニャ、私達も…」
「待って、何かが………」

 そんな中、サーニャは何かを感じ取る。
 今目の前にいる敵よりも深い闇を持つ、何かを。



「艦娘達の合流により、戦況は更に一変! 深海棲艦に拮抗しております!」
「これなら、なんとか………」

 つばさの実況にも力がこもる中、美緒はなんとか五分に持ち込めているらしい事に僅かに安堵する。

『坂本少佐! 大変です! 今交戦中のよりも更に強い反応が接近中! ちょうど反対側です!』
「何だと!?」

 静からの報告に、美緒の僅かな安堵は完全に吹き飛ぶ。

「ミサキ! そちらに大物が行くらしいぞ! 状況を報告!」
『………確認したわ。手の空いた連中を全員こっちに回して。早く! どこまで持ちこたえられるか分からない!』

 ミサキの狼狽した声は、只ならぬ状況だというのを、何よりも如実に表わしていた。



「あれは一体、何?」

 己の呟いた言葉が、震えている事に楯無は遅れて気付く。
 それは、海面に立つ黒いドレスを纏い、左の額に角を持つ一人の美女だった。
 だがその背後には異形の双頭に筋骨隆々たる四肢、そして巨砲を持った恐ろしい艤装を携えている。
 それらが放つ、あまりに禍々しい瘴気に、その場にいる誰もが体に走る震えを抑えられずにいた。

「恐らく、いえ間違いなく、あれが深海棲艦のリーダーです………」
「だ、ダメです………私達ではとても手に負えません………」

 震える声で簪とサイコが呟く。
 ただ目の前に相手がいるだけで、それが放つ雰囲気に、二人は完全に飲まれていた。

『ノー!! すぐにエスケープするネ!』
『せ、戦艦水鬼!? なぜそれがそこにいるんですか!?』

 送られてきた映像を武装神姫越しに確認した金剛と吹雪が絶叫する。
 その相手、戦艦水鬼の砲塔がこちらへと向けられるのを見た楯無とミサキがなんとか反応する。

「ミストルティンの槍!!」
「コレでも食らえぇ!!」

 楯無はミステリアス・レイディのアクア・ナノマシンを一点に集中、防御を捨てた最大出力の必殺技を繰り出し、ミサキは残ったサイキックエナジーを全て注ぎ込んだ一撃を撃ち出す。
 気化爆弾四発分に相当するミストルティンの槍の一撃と、最大出力のオーバーレイが戦艦水鬼へと炸裂し、すさまじい大爆発を起こす。

「うわっ!」
「くっ!」

 吹きすさぶ爆風に吹き飛ばされそうになり、簪はかろうじて打鉄弐式を制御し、サイコは必死になってしがみつく。

「きゃあっ!」
「あうっ!」
「姉さん!」
「一乗院さん!」

 捨て身の一撃を放った楯無とミサキは爆風に抗えず、バランスを失って吹き飛ばされそうになるのを簪は何とか受け止め、サイコはツールの音で衝撃を緩和してやる。

「ありがと、簪ちゃん」
「助かったわ」
「姉さん、なんて無茶を………」
「大丈夫ですか?」

 動けなかった自分達を差し置き、攻撃に出た二人を気遣う簪とサイコだったが、それは未だ晴れぬ爆煙の向こうから聞こえる、砲塔の装弾音に掻き消える。

「逃げて!」

 楯無は妹を突き飛ばし、残ったナノクリスタルを全て使って、最大レベルの水の防壁を張り巡らせる。
 直後、放たれた砲弾はその防壁を安々吹き飛ばし、爆炎がミステリアス・レイディを飲み込んでいく。

「姉さん!!」
「はあい」

 簪が絶叫するが、なぜか背後から聞こえた声にそちらを振り向くと、ミサキに抱えられた楯無が手を振っていた。

「え?」
「今、どうやって?」
「ミサキさんの奥の手よ。お陰で助かっちゃった」
「これでハッキリしたわ。私達では、アレの足留めも出来ない」

 サイコも首を傾げる中、ミサキが断言する。

「残念ながら、事実ね。IS学園在校生最強のこの私が、この体たらくじゃね………」
「美緒、撤退許可を」
『了解した。他の者達がそちらに向かって…』

 通信の途中で、二度目の砲撃が四人を襲う。
 発射と同時に、楯無はミサキを、簪はサイコを抱えるようにして己達のISの全速力で後退し、なんとかかわすが、水面に落ちた砲弾は先程の楯無とミサキの一撃に匹敵する爆発を起こし、凄まじい水柱が湧き上がる。

「さっきまでの連中と、桁が違いすぎる………」
「もしこれが、敷地内に一発でも着弾したら………」
「ナキサケンデ…シズンデイケ!」

 圧倒的過ぎる戦艦水鬼の戦力に、楯無とミサキは最悪の結果を予想する。
 戦艦水鬼は美しい顔に笑みを浮かべ、異形の艤装が驚異的な速度で再装填を開始する。

「また…!」
「増援は!?」
「到着まで、あと一分!」
「せめてその一分、持ちこたえないと!」
「………」

 戦艦水鬼の砲門がこちらへと向けられる寸前、戦艦水鬼に幾つものミサイルが降り注ぐ。

『こちらイー401、撤退を援護します!』

 静からの通信と共に、さらなる攻撃が戦艦水姫へと続いていた。

「これなら!」

 サイコがその援護攻撃に喜色を浮かべる。

「いえ…ダメね」
「ウソでしょ……」

 が、即座に更識姉妹の言葉がそれを否定する。

「ムダ、ダ」

 401の攻撃を受けながら、殆どダメージを受けていない戦艦水姫が爆煙の向こうから、こちらへと砲口を向け直す。

『先程までの深海棲艦よりも防御力が遥かに高いわ! 貴方達、早く逃げなさい!』
「言われなくても!」
「………401クルー、一時砲撃中止を」
「ミサキさん?! 何を?」

 タカオからの通信に、最悪の結果を回避すべく、更識姉妹とサイコは何か手はないかと考えるが、そこでミサキが飛び出す。

「ミサキさん!」

 楯無が慌ててミサキを追うが、ミサキが懐から何かを取り出すのが見える。
 その取り出した物、無針注射器をミサキは首筋にためらいなく注射し、リニアレールガンを戦艦水鬼へと向ける。

「シズメ………!」
「そっちがね!! いっけええぇ!!」

 戦艦水鬼の砲撃と、ミサキがトリガーを引くのは同時。
 だが、ミサキのリニアレールガンからは今までの倍はあろうかと思われるエネルギーが放たれ、放たれた砲弾を消し飛ばし、戦艦水鬼へと直撃。
 あまりの威力に、リニアレールガン自体が耐えきれず粉砕、ミサキ自身も半ば失神して落下していくのを、楯無がなんとか受け止める。

「ミサキさん!」
「大丈夫………生きてるわ………」

 楯無が声をかけるが、返すミサキの声は弱々しい。
 素早く楯無はISのセンサーでミサキの状態を確認するが、脳波や心拍の異常数値に仰天する。

「まさか、ドラッグ!? なんて事を! 保健委員、緊急受け入れ体制を!」
「私の、正真正銘の奥の手よ………」
『サイキックブースターを使ったのか! 急いで救護を!』

 それが何か知っていた美緒すら慌てるが、退こうとする楯無の目に、ミサキの限界以上の一撃を食らい、ダメージを追いながらも笑みを浮かべたままの戦艦水鬼の姿が入る。

「ナカナカ……ヤルジャナイカ……」
「あの一撃でもダメ!?」
「姉さん!」
「なんとか撤退を…」

 簪とサイコも駆けつけ、何とか撤退しようとするが、そこに戦艦水鬼の砲口が狙いを定める。

「あ………」
「全力後退!」
「間に合わ…」
「ディアフェンド!」
「ドラマチック・バースト!」

 今にも砲撃が放たれようとした時、飛来したアンカーが砲口をずらし、横手からの攻撃が戦艦水鬼へと直撃、砲撃が中断させられる。

「間に合った!」
「後は任せて!」

 エグゼリカに続けて、亜乃亜を先頭に、全速力で駆けつけたGの天使達が、戦艦水鬼へと向けて攻撃を開始する。

「ジャマダ…」
「貴方がね」

 そちらに向こうとした戦艦水鬼の艤装を、流体ドリルが抉る。

「瑠璃堂先生!」
「………ですよね?」
「さあ、早く退きなさい。私がここから一発も通さないわ」

 駆けつけたどりあの姿に、若干面食らいながらも、更識姉妹は頷いて学園へと撤退していく。

「敵データ分析、これは………」
「すごいね〜、サイズは人間サイズなのに、エネルギー数値は宇宙戦艦並」
「下手なバクテリアンのボスが可愛く思えるわ………」

 エスメラルダとボイニーの分析結果に、エリューが思わず唾を飲み込む。

「で、あのすごい格好した人は?」
「この学園の特別教官の瑠璃堂 どりあ先生」
「見た目も腕もすっごいデンジャーそう」
「理解出来ないメガバースに来たという事は理解した」
「それじゃあ、行きましょうか」
「ガラクタドモメ………!」

 どりあの一言を合図に、戦艦水鬼との第二ラウンドが幕を上げた。




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