第二次スーパーロボッコ大戦
EP42



異なる世界 お好み焼き屋 〈ふらわー〉

「いっただきま〜す♪」

 ふらわーに久しぶりに友人達と来た響は、嬉々として眼の前の豚玉MIXメガに挑みかかる。

「みんなで来るのも久しぶりね」
「特にビッキー忙しいしね〜」
「いや〜、夏休みだからってやれ訓練がどうの実験がこうのでさ〜」
「正義の味方も大変だね〜」

 みんなでお好み焼きをつつきつつ、雑談に興じる。
 年頃の普通の少女となんら変わらない日常を楽しんでいた響だったが、そこで友人の一人が妙な事を言い始める。

「ビッキーがそれだけ忙しいって事は、やっぱり違うのかな?」
「何が?」
「最近ネットで噂が出てるんだ。お金次第でヤバい事を片付けてくれるドリル使いの噂」
「ドリル?」

 響の手が止まり、思わずお好み焼きを頬張ったまま首を傾げる。

「てっきりビッキーが妙なバイトでも始めたのかと………」
「いやあ、そんな事しないって。第一そんな事したら師匠に怒られるし」
「あ、私も都市伝説サイトで読んだ。ヤクザ事務所に一人でカチコミかけたとか、マフィアの裏取引潰したとか。妙なプロテクターをまとった女性らしいって」
「それって………」
「シンフォギア装者?」

 皆の手が止まり、思わず視線が響へと集中する。

「やってない、やってないよ? 確かにこの間の訓練でドリルっぽいの形成出来るようになったけど………」
「だよね、響がそんなお金で危ない事するわけないし」
「ありがと未来〜」

 必死に否定する響に、一番の親友でルームメイトの小日向 未来が頷き、響は思わず抱きつく。

「じゃあ、どこの誰なんだろ?」
「そもそも、シンフォギアってそこいらに有るものじゃないんでしょ?」
「ただのコスプレだったりして?」
「ああ、焦げちゃう!」

 結局、結論は出ないまま、少女達は残ったお好み焼きの処分を優先させる事にした。


翌日 S.O.N.G.本部潜水艦内

「そうか、そこまで噂になっているか………」

 司令官の風鳴 弦十郎は響が聞いてきた謎の装者の存在に、顔をしかめる。

「こちらでも接触を試みたが、かなりの腕を持ってるらしく、失敗に終わっている」
「そいつ、本当に装者なのか?」

 話を聞いたクリスの当然の問いに、弦十郎は技術班のエルフナインに返答を促す。

「未確認の聖遺物の反応は感知されてません。つまりシンフォギア装者でない事は確かです」
「なんだガセかよ」
「けど、シンフォギアでない未知の反応が何度か確認されているのは確かです。そして、私達は一度それに接触しています」
「は?」
「そうか、前回のあの狙撃の主か」

 じっと話を聞いていた翼の導き出した答えに、エルフナインは頷く。

「あれが何なのか、正確な解析は出来ていませんが、未確認の武装による攻撃なのは確かです。そして、その手がかりがこれです」

 そう言いながら、エルフナインは一つの物を見せる。

「なにそれ?」
「ひょっとして薬莢か? かなりデカいが」
「このサイズだと、機銃クラスだが………」
「これは先日の狙撃を行ったと思われる場所から発見された物です。確かにそれっぽく見えますけど、これどうにも薬莢じゃないみたいなんです。既存のどの重火器にも該当するのはありませんし、内部残渣に炸薬以外の未知の物質が含まれてます。今解析してるんですけど………」
「とにかく、今マリア達にもそちらを探ってもらっている。前回援護してくれた事から、敵対しているとは思えないが………」

 弦十郎の判断に、三人の装者はそれぞれ考える。

「敵じゃないなら、何で逃げ回ってんだ?」
「何か後ろ暗い所でもあるのかもしれん」
「お金もらって色々してるって噂だったし」
「何か事情が有るのは確かです。それが何か分かれば、何とかなるかもしれませんけど」

 エルフナインの言葉に、皆が頷くしかなかった。
 その頃………


「ぶえっくしょん!」
「うわっ! 飛んだよ!」

 盛大にくしゃみをしたすぴなに、正面にいたガヴリーヌは飛んできた飛沫を慌てて避ける。

「悪ぃ悪ぃ、どうやらかなり噂になってるみてえだな」
「姉御、あれだけやったら噂になるって」
「ま、当座の資金はなんとかなったが」
「だったら一回で終わらせればいいのに、なんで現場にあるお金少ししか持っていかないの?」
「馬鹿言え、あたしは殺し屋でも強盗でもねーんだから依頼金か懸賞金以上はとれねーよ」
「ガルル、だったらヤクザ事務所相手にするのに、地元商店街からの依頼金たった1万円とか安すぎたんじゃ?」
「その分、懸賞金かかった奴いた分は連中の事務所から戴いていったろ。警察に通報もしたし、懸賞金を自主的に回収した分は警察もかんべんしてくれっだろ」
「そーかなー?」
「そう思っとけ」

 手にした紙幣の束を確認したすぴなだったが、改めてまじまじと手の中の1万円札を見る。

「やっぱ、見た事無い紙幣だな。お前の言う通り、ここが似ているけど違う世界ってのはようやく理解出来てきた」
「情報収集も出来てきたし」

 ガヴリーヌはすぴなの危険なバイトで稼いだ金で購入したばかりの電子端末や情報誌の類を見ながらあれこれ確認する。

「で、これからどうするかだな。どうにも追われてるみたいだし、しばらく身隠すか?」
「ガルル、この間の忍者みたいな人はやばかった………」
「ま、運が良ければ、お前ん所から迎えが来んだろ? その前に何か起きなきゃ」
「今までのパターンだと、何か起きるかも………」

 ガヴリーヌの予感が的中するまで、それ程時間は要しなかった。



AD2301 香坂財団所有無人惑星

「うわ〜………」
「へ〜………」
「さすがにエリカちゃん」

 転移してきた先に広がる光景に、芳佳、音羽、ユナがそれぞれ声を上げていた。
 眼の前には広大なエリアが広がり、市街地、荒野、山岳、海洋なぞ種々の区画に分けられている。
 滑走路も完備され、様々な起動実験を行う事を想定された場所に、次々と種々の世界から転移してきた者達が溢れていた。

「え〜と、私達はA2エリア」
「こっちはE4ですね」
「あっちとそっちだね」

 それぞれ指定されたエリアに向かうホバーカーゴに、人員だけでなく使用する武装その他も積み込まれていく。

「ここまで大規模の演習は初めて………」
「あ、あの、本当に私も加わっていいのでしょうか?」

 軍人となって模擬戦の経験は有っても、類を見ない規模に芳佳は驚く中、一緒に参加するように美緒から言われた静夏が緊張した面持ちで芳佳の後ろに続いた。

「坂本さんがいいって言ってるんだから、いいじゃない?」
「で、でも501統合戦闘航空団と言ったら、世界中のエースが集まっている部隊だと………」
「大丈夫だって。坂本さんから教えられた通りにやれば」

 恐縮する静夏と共に、芳佳は指定されたホバーカーゴに乗り込む。

「芳佳ちゃん!」
「あ、リーネちゃん!」
「お久しぶりですわね、宮藤さん」

 ホバーカーゴに乗り込んだ所で、そこにいるかつての501の仲間のリーネとペリーヌの姿に、芳佳は思わず嬉々としてリーネへと抱きつく。

「ほんとひさしぶり〜!!」
「東京ですごい戦闘が有って、芳佳ちゃんが怪我したらしいって聞いて心配してたんだよ〜」
「見た所、大丈夫そうですわね」
「うん、これのお陰で」

 芳佳がリーネから一旦離れると、腰に指した神剣 白羽鳥を見せる。

「この剣が、助けてくれただけじゃなくて、ウィッチの力も取り戻してくれたんだ」
「へ〜、そんな事もあるんだ………」
「アーティファクト、という奴かもしれませんわ。かつては古代ウィッチ達が作ったアーティファクトも存在したそうですが」
「そんなのがいっぱいあればもっと楽なのにね〜」

 そこで聞こえてきた聞き慣れない声に芳佳がその声がしてきた方向を見ると、ペリーヌの肩にいる武装神姫に気付く。

「あれ、その子………」
「ビックバイパー型MMS・ヴェルヴィエッタ、よろしく」
「この子、Gで作られた武装神姫の試作機だそうなんですの。マドカさんが他の武装神姫のデータを元に作ったとか」
「へ〜、そうなんですか」
「Gの最新テクノロジーで作られたこのあたし、他の武装神姫にも負けないわよ!」

 そう言いながらペリーヌの肩の上で胸を張るヴェルヴィエッタだったが、芳佳はある事を思い出していた。

(確か、プロフェッサーの方のアイーシャちゃんは、未来のマドカさんやエミリーさんと協力して武装神姫を作ったって聞いたような………)
「それで、そちらの方は?」
「はっ! 自分は扶桑皇国海軍、服部 静夏軍曹であります! 坂本少佐より、今回の模擬戦に参加するよう言い渡されました!」

 ペリーヌが芳佳の背後で硬直していた静夏に声を掛けると、静夏は慌てて敬礼しながら自己紹介する。

「まあ坂本少佐の推薦ですの? それは期待できそうですわね」
「いえ、まだまだ未熟者です!」
「静夏ちゃん静夏ちゃん。そんな緊張してたら、持たないよ」

 模擬戦とはいえ、伝説とも言える501統合戦闘航空団のメンバーとして参加する事に静夏はずっと緊張状態で、芳佳がなんとかほぐそうとするが、中々ほぐれない。

「あ、芳佳だ!」
「お〜、みんな久しぶり」
「ルッキーニちゃん! シャーリーさんも!」
「おい、乗るなら早く乗れ」
「わ〜、揃ってるね〜」
「みんな元気そうね」

 更にそこへ501の元隊員達が次々と乗り込んでくる。

「坂本少佐もご一緒ならよかったのですけれど………」
「坂本さんは審判長頼まれてるそうですから」
「それ以前に、引退した彼女には模擬戦も無理よ」

 ため息をつくペリーヌに、芳佳とミーナがたしなめる。

「代わりに、新人の静夏ちゃん連れてきました!」
「服部 静夏軍曹です! 微力を尽くさせてもらいます!」

 芳佳が背後にいる静夏を紹介するが、当の静夏はウィッチのトップエース達を前に、先程以上に緊張していた。

「お、聞いてるぞ。トウキョウで頑張った子だよな」
「よろしくね〜」
「シャルロット・E・イエーガー大尉に、フランチェスカ・ルッキーニ少尉ですね、お噂はかねがね………」

 シャーリーが気さくに静夏の肩を叩き、ルッキーニが手を差し出すが、静夏がぎこちなくその手を握るだけだった。

「そう言えば、エイラとサーニャは? 学園とかいう所にいると聞いていたが」
「それが、あの二人は別件の用が有るとかで、不参加だそうです」
「なんだ〜、せっかく501全員揃うと思ったのに〜」

 バルクホルンが車内にいない二人の事を問いただすと、芳佳が説明してハルトマンが思わず文句を言う。

「どうしても外せない用件らしいわ。これが終わったら、今度こそ501全員集合してお茶会でもしましょう」
「祝勝会も兼ねるよう、奮闘するぞ!」
「お〜!」

 ミーナの提案に重ねるようにバルクホルンが続け、元501ウィッチ達は声を合わせて奮起していた。



「零神、雷神、風神、バッハシュテルツェ、全機オールグリーン」
「いつでも行けるで!」
「まあ気張りや」

 ソニックダイバー隊に割り当てられたブースで、整備班が出撃準備を整えたソニックダイバーの最終チェックを完成させていた。

「それで、本当に他の所と同盟とか組まなくて大丈夫か?」
「私達のフォーメーションも戦闘システムも独自の物です。下手に同盟を組んでバランスを崩す方が問題かと」

 冬后の確認に、瑛花が胸を張って応える。

「それは一理有ります。確かに私達の戦い方は独特ですし」
「大丈夫! 私とバッハがいるんだから!」
「多分行ける!」
「まあ、それでいいってんなら………」

 可憐、エリーゼ、音羽も胸を張り、冬后も一応納得する。

「じゃあ今回の模擬戦の指揮は一条に一任する。オレは新人達と大会サポートにまわらななきゃいかんから」
「ルール上武装神姫も参加出来ないから、そっち手伝うね〜」
「了解」

 冬后とヴァローナがその場を離れようとした時、ブースに設置された通信ディスプレイからチャイム音と共に映像が映し出される。

『模擬戦開始まであと30分です。開始前に、大会委員長からのルール説明をお願いします』

 総合オペレートを担当するカルナからの放送に続いて、米田の顔が映し出される。

『あ〜、一応今回の模擬戦の大会委員長をやる事になった帝国華撃団相談役の米田ってモンだ。前もって説明は受けてるだろうが、最終確認をするから、みんなよく聞くように。………なあこれどう使うんだ?』
『ここをこうして、こうやって横に』

 そう言いながら、米田は隣にいる副委員長に収まっている発案者の束からタブレットの使い方を聞きながらそこにあるルールを読み上げる。

『基本は非殺傷武装使用による模擬戦形式。それぞれの部隊ごとにブース、本部だな。から開始と同時に出撃する形式とする。部隊ごとに識別のためにリボンを腕部もしくは相当箇所、隊長は頭部に付ける事。
他の部隊に撃墜判定を出す事により、隊員は一点、隊長は五点とする加算方式で勝敗を決める。
 まあ最後一番点集めたとこの勝ちだな。
 基本ブースへの攻撃は禁止、ただし出入りを狙うのは自由。稼働時間短い連中は要注意だ。
 それ以外の戦い方は自由。組んでもいいし、一騎打ちやってもいい。
 細かい裁定は各審判員の判定に従う事。
 他は各自で確認しといてくれ。
 ま、お互いの手の内見せ合うのが目的だから、怪我はしねえように。
 それと…』

 かなり砕けた説明をしていた米田が、懐をまさぐると、何かの券のような物を出す。

『こいつはオイラが個人的に用意した、不二子パーラーのケーキ食い放題券だ。これを最多撃墜判定、MVPって奴だな。そいつがいる部隊と、隊員数平均での最多得点を出した部隊、その二つに賞品として出そう。各自、頑張ってくんな』

 それらを告げると、画面は試合開始までのカウントダウンへと切り替わる。

「ケーキ食べ放題だって」
「つまり、片っ端から落とせばいいのね!」
「そう簡単に行くでしょうか? 瑛花さんはどう…」

 賞品に俄然やる気になった音羽とエリーゼに、可憐は首を傾げて瑛花の方を見るが、そこで瑛花が背後から見ても分かる程、闘志を漲らせていた。

「ケーキ食べ放題………やるわよみんな!」
『お〜!』

 一番やる気になっている瑛花に、音羽とエリーゼも続く。

「他の所も同じ事になってるんでしょうか?」
「多分な」
「どこも似たような物だしね〜」

 可憐の呟きに、冬后とヴァローナは笑っていた。



『開始時刻が近づいて来ました! 前回の交流戦を遥かに上回る、NORN全参加組織による超大規模合同模擬戦! 第一実況はこの私、東方帝都学園一年80組・報道部所属 銀乃つばさがお送りします! なお、模擬戦状況は各世界にリアルタイム配信されておりますが、お手元の操作で各カメラの切り替えが可能になっております! しかし、どれだけの激戦が繰り広げられるかは見当も付きません!』

 試合開始前から興奮が伝わってくるつばさの実況を聞きながら、ISチームのブースでは一夏が作戦の確認を行っていた。

「オレ達の両脇は帝国華撃団と501統合戦闘航空団に囲まれている」
「どちらも歴戦の部隊と聞いている。なにより501は坂本少佐のいた部隊だぞ」

 一夏の指摘に、ラウラは補足を加える。

「けど、機体性能ならISの敵ではありませんわ」
「そのとうり!」

 セシリアと鈴音が己のISの確認を終えて胸を張る。

「そんな簡単にはいくかな〜?」
「どうでしょうか?」

 シャルロットと簪は相手が歴戦と聞いて、半信半疑だった。

「そう簡単には行かないぞ。素の能力もかなり高い人達だった」

 帝都でその両方と唯一接触した箒の断言に、皆が顔を見合わせる。

『試合開始まで、あと一分を切りました!』
「ISがすぐれているのは、スピードだ。速度で撹乱して速攻で行く」

 開始時刻間近の実況を聞きながら、一夏の提案する速攻作戦に専用機持ち達は頷くが、箒だけは不安げな表情だった。

(果たしてそれで………)
『残る5秒! 4、3、2、1、スタートです!』

 開始時刻と共にブースのシャッターが開き、それぞれの機体が一斉に飛び出す。

「イグニッションブースト!」

 自らの作戦を実行すべく、一夏は白式をいきなり加速させる。
 それなりの距離が空いていたはずの隣のブースまでを一気に疾走し、ブースから出てきたばかりの帝国華撃団、その先頭にいる桜色の機体に狙いを定めた一夏は雪片弐型を抜く。

「まずは一点!」


 上空で審判員を示すチェッカーフラッグをつけたミステリアス・レイディで真下を直進していく一夏を見ていた盾無は、一夏が向かっていく機体が相対するように剣を抜くのを見た。

「………アレはダメね」

 双方が激突する直前に、盾無はポツリと呟いた。


 指揮官用に用意された無数のディスプレイで大規模模擬戦の戦況を隈なく映し出すようにされた一室、そこに詰めていた指揮官達が自分の部下達の様子を観察する中、千冬は高速突撃する白式と、それと相対する桜色の光武二式を見ていた。
 互いに剣を抜いて激突する前に、千冬は小さく息を漏らしながら目を伏せる。

「馬鹿が………」


「待て一夏! その人は…」

 白式が向かっているのが、さくら機だと気付いた箒が慌てて制止しようとするが、その言葉は遅く、高速のISと蒸気を吹き上げる霊子甲冑が激突し、すれ違う。
 そして、弾かれた剣が回転しながら宙を舞い、地面へと突き刺さる。
 白式の手から離れた雪片弐型が。

『………え?』

 専用機持ち達の口から、思わず同じ声が出る中、力を失った白式がその場に倒れ込み、撃墜判定を示すコール音が響いた。

『な、なんとISチームリーダー、織斑 一夏選手に撃墜判定! 試合開始からまだ5秒、全選手最短! 帝国華撃団、真宮寺 さくら選手、いきなりの金星です!』

 つばさも驚愕しながら実況する中、当の一夏は完全に目を回していた。

(すれ違う直前、剣を絡め取ってから返しの一撃! しかもあの相対速度で!?)

 紅椿のセンサーでスロー解析して分かるさくらのすさまじい技量に、箒は帝都での手合わせでも彼女の実力を把握しきれていなかった事を悟る。

(白式の生体防護を貫いた、恐らく霊力を伴った一撃。きっちりピンポイントで峰打ちされてるし………)
「よくも一夏を!」
「待て鈴!」

 刹那の攻防で手加減までされていた事に箒は気づいたが、一夏がやられた事に逆上した鈴音が制止も聞かずに甲龍を加速させて華撃団へと迫る。

「隊長、ここはあたいが!」
「任せたぞ!」

 それに対し、一歩前に出たカンナ機が向かってくる甲龍に向けて構え、他の花組隊員達は完全に任せてその場を離れる。

「舐めないで!」
「舐めちゃいねえさ!」

 振りかぶられた双天牙月の一撃を、カンナ機が手甲で受け止める。

「こいつ!」

 鈴音は瞬時に双天牙月を引いて横薙ぎ、斬り上げ、唐竹と斬撃を繰り出すが、カンナはその驚異的な斬撃を次々と受け、さばいていく。

「あんた、空手使い!」
「親父仕込みの琉球空手さ。次はこっちからだ!」

 それが空手の技だと気付いた鈴音に、カンナは一転して攻撃に転ずる。
 突き出された拳を鈴音は半ば直感で体をひねってかわすが、突き抜けていった拳風に冷や汗が吹き出す。

(近接戦はまずい!)

 相手の並ならぬ技量を悟った鈴音は、甲龍を一気に上昇、龍咆の照準を定める。

「悪いけど、こっちのレンジで決めさせてもらうわ!」

 相手の攻撃の届かない距離を取った鈴音は、そこから龍咆を発射。
 だがそこで予想外の事が起きる。

「よっと」

 砲身も砲弾も不可視のはずの龍咆の一撃を、カンナ機は機敏に避けてかわす。

「ウソ! そんなはずは!」

 空間センサーの類もついてないはずの霊子甲冑がこちらの一撃をかわした事を、鈴音は信じられずに更に龍咆を速射。

「ほっ、はっ、おっと」

 次々放たれる不可視の砲撃をカンナ機は次々かわし、鈴音の混乱は更に深まっていく。

「何で!? どうして!?」

 光武二式の中で、カンナは対象的に笑みを浮かべていた。

(飛び道具使いは視線の先を外せ。親父の言ってた通りだ)
「はあっ!」

 視線制御型のFCSの裏をかかれているとは鈴音が気付く間もなく、カンナ機が気合と共に、その鈍重そうな外見からは想像出来ない驚異的な跳躍を見せる。

「え…」
「来留々破 (くるるんふぁ)ー!」

 安全距離を取っていたはずの高度までカンナ機が一息にジャンプしてきた事に、鈴音が前回似たような攻撃を食らったのを思い出し、とっさに双天牙月をかざす。
 だがカンナの必殺の一撃は双天牙月を粉砕し、そのまま甲龍へと叩き込まれた。
 叩き込まれた拳の衝撃と霊力が、ISの生体防護を貫き、鈴音の体まで突き抜ける。

「が、はっ…」

 鈴音は押し上げられた胃液を吐き出しながら、制御を失った甲龍が落下していく。

「やべ、加減間違えたか!?」

 カンナも慌てるが、こちらも落下していき、甲龍は地面に叩きつけられる直前にAIが搭乗者防護のために自動的に落下速度を調整、対してカンナ機は盛大に衝撃と土煙を弾きあげながら着陸する。

「おい、大丈夫か!?」
「か、は………」

 カンナ機が駆け寄る中、鈴音は腹を抑えて呻く。

「大丈夫、バイオデータに異常は無いわ。生体防護で大分軽減されてる。ちょっと強烈なボディブロー食らったような物よ」
「はあ〜、そいつは良かった〜」

 上空から降下してきた盾無が、鈴音のバイオデータをチェックして緊急性が無い事を確認し、それを聞いたカンナが胸を撫で下ろす。

「そういや、紅蘭に出力抑えてもらってたんだった。忘れてたぜ」
「抑えてこれね………」
「すいませんわね、カンナさんは馬鹿力だけが長所でして」

 そこへ、同じく審判員を示すチェッカーフラッグをつけた神埼重工製蒸気甲冑・《杜若(かきつばた)》に乗ったすみれが近寄ってきて申し訳なさそうに頭を下げる。

「救護班、要救護者二名! 収容を!」
「これ、どうやって脱がすんですの?」
「こっちでやるわ。あ、あなたは試合戻っていいわよ」
「そうか? じゃあ頼むぜ」
「あまり怪我人は出さないでほしいですわね」

 盾無とすみれが撃墜判定どころか、完全に戦闘不能になっている二人の収容手続きを取りながら、すみれはカンナに釘を刺す。

「悪ぃ、悪ぃ。でもまあ、隊長の作戦通りだな」
「作…戦?」

 甲龍を解除しながら、鈴音がカンナの言葉に反応する。

「ああ、確かにそっちのISだっけ? と霊子甲冑じゃ間に何百年だか間が有るが、乗ってるのは同じ人間だってさ。だから、相手が油断して突っ込んできたら、落ち着いて対処すれば勝てるって」
「………」

 全くその通りだった事に、鈴音は絶句する。

「さすがですわね。大神大尉の指摘通りのようですわ」

 すみれがそう言いながら上空を見る。
 そこでは、残ったIS専用機と501のウィッチ達が空戦の真っ最中だった。



「フォーメーション・ビスケス! 弾幕構成!」

 ミーナの指示の元、501のウィッチ達が陣形を組みながら、ISに一斉射撃を開始する。

「散開しろ! 弾幕を収束させるな!」
「言われなくても!」

 ラウラの言葉にセシリアが言い返しながらも専用機持ち達が散開すると、それに応じたようにウィッチ達も散開する。

「集団ならともかく、少数なら…」
「ウオオオォォ!」

 ラウラが応戦しようとする中、バルクホルンが二丁のMG42を連射しながら突撃してくる。

「その程度!」

 放たれるペイント弾をラウラはシュヴァルツェア・レーゲンのAICで阻む。
 それでも構わず突撃してくるバルクホルンだったが、直前で銃撃を停止、手の中で突然MG42を反転させると、そのまま棍棒のように殴りかかってくる。

「な…」

 銃剣術の類とも違う、力任せの攻撃にラウラは驚きながらもその攻撃をシュヴァルツェア・レーゲンの装甲で受け止める。

(完全に防げない、魔法力という奴か。だが近接戦なら!)

 無造作にラウラはシュヴァルツェア・レーゲンの腕を払い、バルクホルンの片手からMG42を弾き飛ばす。

「くっ!」
「もらった!」

 ラウラはプラズマ手刀(模擬戦出力)でバルクホルンを狙うが、そこで予想外の事が起こる。
 プラズマ手刀(模擬戦出力)を放出しながら放たれるシュヴァルツェア・レーゲンの腕を、なんとバルクホルンがMG42を取り落とした片手で受け止めていた。

「な…」
「ウィッチをなめるな!」

 幾ら何でも生身でISの一撃を受け止めるとは思わなかったラウラが驚愕する中、バルクホルンはそのまま力任せにシュヴァルツェア・レーゲンを空中で投げ飛ばした。
 あなどっていたつもりは無いが、予想以上のウィッチの戦闘力にラウラはここに来る前にエイラから聞いていた事を思い出す。

『ウィッチって言っても、色々いるからナ。そうだな、501だとバルクホルン大尉あたりがやばいカ? 素手でもお前らのISとやり合えるかもナ』

 てっきり冗談の類だと思っていたが、まさか本当に生身でISとやり合えるとは思わず、ラウラは距離を取ろうとする。

「今だハルトマン!」
「シュツルム!」

 そこに向かって、ハルトマンが固有魔法を発動。
 こちらに向かって、旋回しながら竜巻となって向かってくるウィッチにラウラは再度驚愕する。

「そんなのも有るのか!」

 上空に急加速してラウラはその一撃をかわすが、そこで上空にいたシャルロットのラファール・リヴァイヴ・カスタムUに激突しそうになって急停止する。

「何をしているシャルロット!」
「ラウラ、動いちゃダメ!」

 何故か両手に銃を持ったまま動こうとしないシャルロットにラウラが思わず怒鳴るが、逆に怒鳴り返されてしまう。

「何を言って…」
「周り見て!」

 シャルロットに促され、周囲を見たラウラは、そこに浮かぶ青白い鬼火のような物を発見する。

「これは………」
「触ったらダメ! これのせいで動けないんだ!」

 シャルロットが叫ぶ中、よく見れば周囲に幾つも同様の鬼火が浮かんでいる事にラウラは絶句する。

「あら、あのお二人で倒しきれないとは」

 動けないシャルロットとラウラの前に、空中にホバリングしているペリーヌが指先から浮遊している鬼火と同じ物を一つ、また一つと生み出していく。

「故あって、しばらく実戦から離れてましたので、少し付き合っていただきますわ。私の新技・セントエルモの火の練習台に」
「セントエルモ?」

 それが船舶のマストなどに起こる発電現象の事だと思いだしたラウラが僅かに動いた時、シュヴァルツェア・レーゲンの肩が鬼火の一つに触れてしまう。
 直後、鬼火は弾けて電撃となって襲いかかる。

「これは、電撃の浮遊機雷!?」
「固有魔法って奴みたい! ISの速度じゃ逆に引っ掛けちゃう!」
「そうですわね。あなた方の一番の武器は、その驚異的な速度と運動性。だから、こういう手を打たせてもらいましたわ」
「確かに、だがそれなら別の手を使うまで!」

 ペリーヌの作り上げた電撃の檻に、ラウラは大型レールカノンを展開。

「まとめて吹き飛ばす!」

 シュヴァルツェア・レーゲンの大型レールカノンから、模擬戦用ペイント弾が模擬戦に有り得ない高速で発射。
 放たれた高速ペイント弾が周辺を漂う鬼火を巻き込み、電撃で半ば弾けながらペリーヌに迫るが、ペリーヌが身を翻すと、その背後から突撃してきた物が追い抜き、高速ペイント弾に激突、それを弾き返すと盛大に周囲にペイントを撒き散らす。

「何だ!?」
「んじゅ!」
「こっちにだって大口径攻撃はあるぞ!」

 その突撃してきた物、シールドで突撃してきたルッキーニがシールドを解除すると、後方に控えていたシャーリーの元へ戻っていく。

「逃さない!」

 逃すまいとシャルロットが先程の激突で生じた隙間から電撃の檻から抜け出し、ルッキーニへと迫るが、そこでシャーリーはルッキーニの手を掴むと、そこで振り回し始める。

「え?」
「もう一発!」
「てりゃああ!」

予想外の事に思わずシャルロットの動きが鈍った瞬間、シャーリーがルッキーニを発射。
 子供の遊びのような態勢から発射されたルッキーニが予想外の速度で突撃しつつ、前方に固有魔法の多重シールドを展開。

「まずい!」

 シャルロットはラファール・リヴァイヴ・カスタムUのシールドをかざすが、激突した瞬間、予想以上の威力に弾き飛ばされる。

「シャルロット!」

 弾き飛ばされたシャルロットを、ラウラはとっさに受け止め、後方の鬼火に激突しそうになるのをかろうじて止める。

「今のも固有魔法か!?」
「みたい………あっちのウサ耳の人が恐らく加速、あっちのちっちゃい子が複層シールド、でもって合体技か」

 相手の固有魔法を予測しつつ、シャルロットはシールドの状態を確認、それが大きく破損している事に思わず血の気が引く。

「考えてみれば、こちらのこれまでの戦闘は向こうにデータを取られていたか」
「でもって対策されてる。かなり念入りに」

 いつの間にか、電撃の檻の周りをバルクホルンやハルトマンも含めた501のウィッチ達が取り囲んでいる。

「さすがは坂本少佐がいた部隊、練度が違うな」
「2対5、いや6………」

 ハイパーセンサーで上空にいるもう一人、固有魔法を発動させながら指示を出しているミーナの事まで確認したラウラとシャルロットが、隙の無い包囲網に歯噛みする。

「チーム対抗戦だ、卑怯とは言うまい? マトモに戦えば、そちらが有利過ぎるからな」
「無論だ。むしろ感心している」

 銃口を向けながら宣言するバルクホルンに、ラウラは率直に返答した。

「こちらがこれだと、多分他も………」

 シャルロットの呟く懸念は、すでに現実となっていた。


「お待ちなさい!」

 ビルが立ち並ぶ市街地エリアを、セシリアが前方を飛ぶ芳佳を追いかけつつ、スターライトmkVを構える。

「ここなら機動性を奪えるとでも思っているのかしら!」

 ビルの隙間を、軽快な動きで飛び交う芳佳に、セシリアは笑みを浮かべながら追従する。

「このブルー・ティアーズからは逃げられませんわよ!」
「ペリーヌさんみたいな人だ………」

 後方から聞こえてくるセシリアの声に、芳佳は何か親近感を感じつつも、放たれるレーザーを機敏にかわす。

「ちょこまかと………避けるのだけが得意なのかしら」

 狙いは定めているのに、芳佳の高い回避力にセシリアが小首を傾げる。

「撃ってくる方向も瞬間も見えるから分かりやすい。坂本さんの言ってた通り………」

 芳佳がネウロイに比べれば分かりやすい攻撃に、背後を確認しながらビルの隙間を縫うように飛んでいく。
 一方、ウィッチがビーム攻撃の類に慣れているという事実にセシリアは至らず、セシリアは方法を変える。

「だったら、こちらの戦法に変えさせてもらいますわ!」

 追撃を止め、ブルー・ティアーズの得意とするロングレンジへと切り替えようとセシリアは機体を上昇させる。
 だがビルの影から上へと出た瞬間、ハイパーセンサーが何かを捉える。

「!?」

 とっさに再度下降しようとするが、放たれたペイント弾がブルー・ティアーズのウイングにヒットする。

「スナイパー! 待ち伏せ!?」

 自分が罠に掛かった事を悟るセシリアだったが、まだ焦ってはいなかった。

「ビルの影を利用したアンブッシュ、分かれば単純な手ですわね。けど」

 セシリアはセンサーの感度を上げ、他にビルの影に隠れているもう一人も見つける。

「分かってさえいればアンブッシュの意味もありませんわ。これは油断しただけ」

 ウイングのペイント痕を見ながら、セシリアは追撃を開始する。
 技術格差から知らず知らずの内に相手を見下している事にセシリア自身は気付いていなかった。
 避けたはずのペイント弾が当たった理由が、リーネの固有魔法による弾道安定により、本来以上の射程から放たれていたという事も。

『ごめん芳佳ちゃん、直撃は出来なかったみたい!』
「大丈夫リーネちゃん、坂本さんの作戦通りにすれば行けるはず。静夏ちゃん、そっちは!?」
『よ、予定の場所に待機中です!』
「落ち着いて、合図を待ってて!」

 リーネから通信を受け取りつつ、芳佳は模擬戦前に美緒から授かった作戦を遂行する。

「ギリギリまで引きつけて、それから…」
「お待ちなさい! 姑息な手はもう通用しませんわ! 本気で行かせてもらいますわよ!」

 最早手加減すら捨て、セシリアはレーザービットを展開して芳佳へと一気に迫る。

「一気に決めさせてもらいますわ!」

 レーザービットによる一斉包囲攻撃を狙うセシリアだったが、そこで芳佳がこちらへと振り向いた。
 そして、包囲を狙っていたレーザービットが一斉に弾かれる。

「な、なな、何ですのそれは!?」

 レーザービットを弾いた物、それが何かに気付くのにセシリアは幾ばくかの時間を要した。
 なぜならそれは、前の交流戦で見た物とは比べ物にならない、とてつもなく巨大なシールドだった。
 それがウィッチのシールドだとようやく気づいたセシリアが、唐突にエイラから聞いていた事を思い出す。

(ウィッチの優劣? まあ技術云々は置いといて、一番分かりやすいのシールドなんダナ。魔法力が高い程シールドがデカい。宮藤のなんかすごいゾ、コンゴウのクラなんとかにも負けないんじゃないカナ?)
「まさか、これが…」
「今です!」

 てっきりエイラの冗談だと思っていた物が眼の前にある事にセシリアの気が逸れた瞬間、芳佳が叫びながら九十九式二号二型改機関銃のトリガーを引いた。
 思わず加速してその場を離れようとしたセシリアだったが、背後に潜んでいた静夏と、上空に来ていたリーネの銃撃も加わり、かわしきれずに瞬く間に機体はペイント弾に染まっていく。

「ま、参りましたわ………」
「ようし、作戦通り!」

 最早弁解しようもない状態に、セシリアががっくりと項垂れ、芳佳が思わず拳を握りしめる。

「う、うまくいった………」
「お疲れ〜」

 気配を殺してずっと待ち伏せしていた静夏がどっと疲労感を感じる中、降下してきたリーネが声をかけてくる。
 リーネの狙撃も静夏の伏兵も、全ては相手を油断させつつ芳佳の桁外れのシールドを隠すための美緒から与えられた作戦の成功に三人は喜ぶ。

「じゃあみんなと合流しよう!」
「は、はい!」
「それでは、私達はこれで」

 本隊へと合流しようとする芳佳と慌ててそれを追う静夏、最後にこちらに一礼してリーネが飛び去っていく。

「代表候補生のメンツ丸つぶれですわ………」

 内心、ここがパラレルワールドで良かったと思いつつ、セシリアはブルー・ティアーズの腕のリボンを外しつつ、すごすごと自分達のブースへと戻っていった。



『ああっと、なんとIS学園チーム、セシリア・オルコット選手が撃墜判定! これで3人目です! IS学園チーム、大苦戦か!?』
「セシリアもやられたか………」
「みたいだね………」

 聞こえてくるつばさの実況に、鍔迫り合いをしていた箒と音羽が一緒に呟く。

「どいつもこいつも、ISの性能に頼りすぎだ」
「仕方ないよ、高性能なのは事実だし。けど!」

 刃を弾くと零神をバックさせ一度距離を取った音羽だったが、間髪入れずにエリーゼが横からMVランスで攻撃してくる。

「悪いけど、チーム戦だから!」
「分かっている!」

 バッハシュテルツェの攻撃をかろうじて箒は弾くが、距離を取ろうとした途端、雷神の20mmガトリングがこちらへと放たれる。

「くっ!」

 紅椿の機動性で何とか回避する箒だったが、そこへ風神のロケット弾が放たれ、手にした双刀で撃墜している隙に零神とバッハシュテルツェが迫る。

「これが、ソニックダイバーの本当の戦い方…!」
「ごめんね、瑛花さんがどうしてもケーキ食べ放題に行きたいって言うから」
『言ってないわよ!』
「エリーゼも行きたいから、とっとと倒されなさい!」
『行けるといいですけど………』

 ソニックダイバー四機による隙の無いフォーメーションに、箒は交流戦の時以上に感心していた。

(チームでの運用を基本とし、互いの長所で攻める。どれか一体を捌けば、即座に他の機体が攻めてくる。そうか、この大規模模擬戦のもう一つの目的は………)

 ソニックダイバー四機によるコンビネーション攻撃に、箒は模擬戦の目的が個々の性能だけでなく、チームとしての戦力を見る事にも有った事に気付く。

(こちらはいの一番に一夏がやられ、結果皆が勝手に動いて各個撃破されている………紅椿なら逃げる事は出来るかもしれないが…)

 完全にこちらの動きに対策が立てられている事に、箒は撤退すら考慮し始めた時だった。

「それじゃあ行くよ!」

 零神が急加速し、加速の勢いを載せて刺突を繰り出してくる。
 とっさに箒はその一撃を弾くが、軽く弾いただけのはずなのに、零神の手にしたMVソードが手から離れる。
 その間に、零神は脚部ハードポイントから予備のMVソードを抜いて、逆手で紅椿の片腕の装甲へと突き刺す。
 そして他の三機が零神を頂点に四角形を構成している事に箒は気付くのが遅れた。

『クアドラロック(模擬戦仕様)!』
「しまっ…」

 それがソニックダイバー隊の必殺技だと箒は思い出すが、出力を弱めてあっても紅椿の動きを封じるには十分の人工重力場が形成される。

(やられる!)
「山嵐!」

 敗北を箒が悟ろうとした時、横手から放たれた無数のミサイルがソニックダイバーへと襲いかかり、思わず各自がそれを回避、撃墜してフォーメーションが崩壊、人工重力場も消失する。

「簪! 助かった!」
「離れて戦ったらダメです! 他のチームはISを警戒して、複数以上で対処してます!」

 箒の窮地を救った簪が、紅椿と打鉄二式を背中合わせにして構える。

「こちらはすでに残り四人、しかも完全に分断されたな………」
「これ以上、分断されたら勝てません………」
「4対2。性能差を考えたらそちらが有利かもね………」

 あと一歩の所を邪魔された瑛花が、冷静に体制を立て直していく。

「ソニックダイバーの欠点は稼働時間の短さ。それまでしのげれば………」
「そうですね………」

 すでにISの性能による有意差を箒と簪は意識から除外していた。

「それじゃあ、互いにチーム戦って事で」
「ええ」

 互いに笑みを浮かべた音羽と箒が、再度白刃を手に激突しようとしていた。



「すでにあちこちでドンパチしてるようデ〜ス」

 海洋エリアに布陣している艦娘達が、聞こえてくる戦闘音や実況に耳をすます。

「こちらは試作兵器の使用実験も兼ねてますしね」

 加賀が華撃団とウィッチの協力で試作された艦載機仕様の矢をつがえつつ、周囲を警戒する。

「ねえ、今思ったんだけど………」

 そこで矢の具合を確認していた瑞鶴が口を開く。

「私達って、基本海上戦しか出来ないわよね?」
「何をいきなり当たり前の事を」

 唐突な事に、加賀が顔をしかめる。

「他の部隊って、海上戦慣れてないとこばかりよね?」
「そう言えば、そうね」
「深海棲艦相手に苦戦していた」
「まあ、兵装が向いてなかったようだし」
「なのです」

 更なる指摘に、第六駆逐隊が前の戦闘を思い出す。

「このまま放置されて終わるって事、無いわよね?」
「………え?」

 瑞鶴の言葉に、旗艦としてリーダー用リボンを頭に巻いている吹雪が思わず絶句した。

「そ、そう言えば海上戦出来る人達って他にいないわね?」
「海上に立って戦ってた人達はいたけどね〜」

 大井と北上も前の戦いを思い出し、呟く。

「基本は空戦型か陸戦型、海戦型は私達だけね」
「ええ!? それじゃケーキ食べ放題は!?」
「相手がいないと無理」
「ど、どうにかして相手を探さないと!」
「そうなのです!」
「ノープロブレムね」

 皆が慌てる中、金剛が虚空の一点を見ながら笑みを浮かべる。
 そして、その方向から甲高い推進音がみるみる近づいてくるのに皆も気付いた。

「全艦輪形陣! 対空戦闘用意!」

 吹雪が慌てて指示を出す中、相手は目前まで迫っていた。

「紐育華撃団、レディ・ゴー!」

 フライトモードのスター六機が、編隊飛行をしながら艦娘達へと向かってくる。

「全機海上試作兵器装填! 攻撃開始!」
「艦載機発進! 対空砲火始め!」

 進次郎と吹雪の号令が同時に響き、試作型霊子爆雷と対空砲がすれ違うように双方へと放たれた。



太正十八年 帝都 ある社殿

「今頃、皆頑張ってるんダナ」
「501の皆だったら、大丈夫だよ」
「坂本少佐の代わりに新人いれたのが不安だけどナ」

 周囲を木々に囲まれ、静かな社殿の中をある理由で大規模模擬戦に参加しなかったエイラとサーニャが歩いていた。

「この奥なのです」

 二人を案内していた長い黒髪の巫女服のような装束の少女、術的サポートを目的としている帝国華撃団 夢組の隊員が二人をある一室へと案内する。
 扉を開けると、ろうそくだけで照らされた仄暗い室内に案内の少女と色違いの装束に身を包んだ夢組の少女達が車座に座り、その中央に大判の世界地図が広げられていた。

「来たわね」

 二人を待っていたかえでが二人を世界地図の前へと促す。

「準備出来てる。あとアイーシャ見つけるだけ」

 先に来て待っていたティタが世界地図の前にうずくまりながら、地図をじっと見つめていた。
 目をこらしてみれば、車座に座る夢組の少女達の周囲に複数の機械が設置され、小さくだが稼働音を立てていた。

「ESP増幅装置、順調に稼働中です」
「準備は万端ね」

 機械の準備をしていたエミリーの報告に、かえでは頷く。

「なんともまあ………こちらの世界でやったら笑い者か正気を疑われるでしょうね」
「私も少し前まではそうでしたね」

 立会に来た僧と緋月が、目の前で進んでいく準備に互いの見解を述べる。

「占いでJAMの前線基地を探そうとは………」
「帝都で見たはずです。ウィッチや華撃団には特殊な能力を持つ者達が多く、我々の見解の外にある技術と言えなくもない」
「科学的に探せないなら、霊的に探す。華撃団はその両方をするのが普通よ」

 僧と緋月に説明しながら、かえでは最終チェックを始める。

「ではエイラさん、これでいいでしょうか」
「お、こんな感じダ。………まさか銀製?」
「いえ、ESP波を通しやすくするため、内部にスペースミスリルを主成分とする…」
「あ、そこまででいいカラ」

 エミリーはエイラに頼まれて用意した物、鎖の先に重りの付いたダウンジングチェーン、しかもかなり長めの物を手渡す。

「模擬戦で戦闘人員がほとんど出払っていますから、誤認の可能性は低いはずですが………」
「篠ノ之博士がそこまで考えていたか不明ですがね」
「どうでしょうか。まあ好都合では有りましたが」

 機械のチェックをしながら呟くエミリーに、僧と緋月は首を傾げながらも、これから始まる事を注視する。

「それでは、いいかしら?」

 かえでに促され、エイラは特注のダウンジングチェーンを手に大判の世界地図の上に立ち、その手にサーニャとティタが手を重ねる。

「確認します。まずこの場をESP増幅装置と夢組の祈祷で感知能力を増大、サーニャさんとティタさんでその増大された感知能力でアイーシャさんの気配を探査し、エイラさんにその場所を特定してもらいます」
「アイーシャさんがそこにいればの話ですがね………」
「戦闘妖精の方々は、その可能性は極めて高いと言ってましたから、あながち的外れではないでしょう」
「はいそこ。始まるから静かに」

 エミリーの説明に僧と緋月が余計な茶々を入れるが、かえでに促され黙る。

「では始めて」

 かえでの合図と同時に夢組隊員達が詠唱を始め、エイラとサーニャは魔法力を発動、同時にサーニャは固有魔法も発動させる。
 機械の起動音と夢組の詠唱が響く中、しばらく中央の三人は動かない。
 だが、サーニャの頭部に浮かぶ魔導針が僅かに明滅したかと思うと、少しずつ三人は動き出す。

「感知したようですね」
「しっ」

 ぽつりと呟いた緋月にかえでが釘を刺す中、三人は世界地図の上をダウジングチェーンを垂らしたまま動く。
 やがて動きが止まったかと思うと、エイラが静かにチェーンを持った手を動かし、有る一点でサーニャの魔導針が激しく明滅、同時にダウジングチェーンの先端の重りがその一点を中心に回転を始める。

「ここダ!」

 思わず叫びながら、エイラは開いている手でその一点を指差した。



「!!」

 感じた気配に、アイーシャは大きく目を見開く。

「今のは………」
「どうかしましたか?」

 思わず呟いた所で、ちょうど部屋を訪れた看護婦が声を掛けてくる。

「………」

 それに対しアイーシャは無言。
 彼女には、それが看護婦の形をした人でない何か、だと分かっていた。

「点滴替えますね」

 口調だけはやさしく、その看護婦の形をした何かは空になった点滴袋を交換していく。
 だが、替えた点滴もいつも同じ分量、正確にはここに来た時に投与されていた点滴と同じ量だけ減っている物と交換すると看護婦の形をした何かは部屋を出ていく。
 それが遠ざかったのを確認すると、アイーシャはナノマシンを介して隣室にいる者達に意思を送る。

(今、サーニャとティタの気配を感じた。向こうもここに気付いた)
(それは………)
(近い内に助けが来るって事?)
(間違いない。あと少し、あと少し我慢すればきっと皆が来てくれる)
(信頼してるんですね)
(サーニャとティタも必死に探しているのを感じた。二人だけじゃない、音羽や他のソニックダイバー隊の皆、前に戦った者達、みんな仲間だから)
(それは認めるわ。もう少し、もう少しの辛抱)
(分かりました………)

 救出が来るのを疑わず、虜囚となった者達はその時を待っていた………





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