第二次スーパーロボッコ大戦
EP47



「一番二番、撃て!」
「了解!」

 水中を猛速度で向かってくるCクラスワームに向けて、イー401から魚雷が発射される。

「群像、予想以上に向こうが速い」
「ホーミング間に合うか!?」
「ギリギリ! クソなんだこの動き方!?」
「有効範囲に入ったら起爆させろ! 巻き込めればそれでいい!」

 見た事のない動きで迫ってくるワームの群れに、401クルー達は驚愕しつつも応戦する。

「入った! 起爆!」

 杏平が魚雷の爆発範囲と敵影が重なった瞬間に起爆スイッチを押し、魚雷を起爆。
 水中に爆発音が響き渡り、ワームの群れはそれにまともに突っ込む。

「戦果は!」
「今確認中………数体突破した模様!」
「デコイ発射! 近寄らせるな!」

 群像の問に静がソナーを確認、まだ向かってくる音を即座に報告し、群像は素早く指示を出す。

「デコイ発射」
『デコイに何体か向っていったわ! 区別ついてないみたい!』

 イオナがデコイを発射し、タカオがそれに吊られてワームが分散するのを確認する。

「ワーム二体急接近!」
「迎撃は!?」
「ギリギリまで引き付ける。今攻撃すればこちらが本物だとバレる」
「でもかなりの速度だよ?」
「ふむ、しかもこれは…」

 蒔絵とハルナがワームの詳細解析を進めるが、すでにワームは魚雷の安全距離を割る所まで接近していた。

「群像」
「まだだ。もっと引き寄せる」
「マジか!? もうやばいぞ!」
「変わった形状をしている。これは、魚類か?」
「多分深海魚だね。ワームは生物の姿を真似るって言うし」
「こちらに向かってくるワーム、更に加速!」
「艦長、これ以上は…」
「クラインフィールド展開!」
「展開」

 ギリギリまで惹きつけた所で、イー401がクラインフィールドを展開、予想してなかったのか迫ってきていたワームはフィールドに直撃し、そのまま自らの運動エネルギーとフィールドに挟まれ、自壊する羽目になっていく。

「クラインフィールドを打撃武器にしたのかよ………」
「それほど防御力は高くないし、なによりあの速度なら下手な火器よりも有効だと思ってな」
「しかし二度は使えませんね」
「ああ、残存は?」
「あと三体、今のでデコイから離れてこちらに向かってきます!」
「怪獣映画やってるみてえだ………」
「問題は見る側じゃなくてやる側だという事ですが」
「その通りだ。クラインフィールド解除、魚雷一番から四番、散開して発射!」

 自分達の経験した戦闘とはまるで違う戦いに、401クルー達も戸惑いながらも応戦する。

「魚雷一番から四番、目標に接近」
『だめ、かわされる! なんて速度で動いてるの!?』
「魚ベースですから、根本が違うようですね………」

 イオナとタカオが発射された魚雷に対し、即座にワームが回避行動を取った事に驚き、
僧も霧との戦闘経験が全く役に立たない事を改めて自覚する。

「一番から四番起爆! 次弾の装填は!」
「行けるぜ!」
「一番から四番、二秒おきに発射! 全弾速度を落として誘導精度を上げろ!」
「了解!」

順次発射された魚雷がワームを狙うが、ワームは機敏な動きでそれを避けようとする。

「クソ、小さい上に反応が早え!」
「ギリギリまで追わせて起爆! 急速潜航、キャニスター用意!」
「急速潜航〜」

 杏平が巧みに魚雷の隙間を抜けようとしてくるワームを必死に補足しようするが、予想以上に速い相手に苦戦する中、群像の次の指示が飛び、イオナが艦を急潜航させていく。

「ワーム、こちらを追ってきます!」
「元が深海魚では、限界深度もかなりありそうですし」
「どうだろ? もうちょっと詳しく調べられたらわかるんだけど………」
「後にしろ」

 静の報告に僧と蒔絵が意見を述べる中、群像はこちらの潜航速度を上回る速度で迫ってくるワームとの相対距離を凝視していた。

「魚雷全弾かわされた!」
「ワーム、更に接近!」
「今だ、クラインフィールド展開! 同時にキャニスター放出!」

 潜航しながらワームを惹きつけた所で、イー401のクラインフィールドが展開されるが、先程で学習したのか、ワームは左右に別れてフィールドへの激突を回避する。

「避けられた」
『同じ手は通じないみたいよ!? どうするの艦長!』
「想定済みだ。タカオ、本艦の影から出ないようにキャニスターを誘導、ワームを射程範囲に捉えたら発射!」

 フィールドを回り込もうとするワームに悟られぬよう、艦体を隠れ蓑に自立移動魚雷艇であるキャニスター二機が左右に別れ、ワームが艦体の真横に来た瞬間に内蔵された魚雷を発射。
 予想外の攻撃を回避出来ず、ワーム二体が直撃を食らって爆散する。

「残るワーム一体!」
『一匹逃した!』
「上出来だ。潜航停止、キャニスターを回収!」

 クラインフィールドを展開したまま動きを止めたイー401の周囲を、残ったワームが隙を伺うように旋回する。
 その様を各種センサーで確認した401クルー達はツバを飲み込んだ。

「さて、どうする艦長?」
「フィールドを解除すれば間違いなく向かってきますし、この深度で使える兵装も限られます」
「サイズこそ小さいですが、どんな攻撃力を持っているかは不明ですし………」
「それこそ怪獣に付き合うつもりは無い。いおり、転移装置のエネルギー充填に必要な時間は?」
『は? 距離にもよるらしいけど………』
「座標はそのまま、高度だけ水面上ギリギリに設定する」
『! 今試算するわ!』

 群像の狙いが何かを悟ったタカオが計算を開始する。

「おいおい、まさか………」
『これなら、余剰エネルギーでも行けるわ!』
「転移装置機動準備、対空ミサイル目標に照準!」
「なるほど、そういう手ですか」
「マジでやる気だよ!」

 他のクルー達も群像のやろうとしている事に気付き、驚きながらも準備に入る。

『転移装置エネルギー充填完了!』
『座標設定OK!』
「転移予定エリアに友軍機無し! 念の為友軍機に注意勧告します!」
「正気かこの男!?」
「何を今更、文字通りこの身で知っているだろう」
「総員対ショック体勢! フィールド解除と同時に転移!」

 キリシマとハルナが異論を述べる中、群像の指示が飛ぶ。
 クラインフィールドが解除されると同時に、ワームが猛然とこちらに突っ込んでくるが、直後に転移装置が起動、周辺の海水諸共、ワームを引き連れてイー401は海面上へといきなり転移する。

「今だ、ミサイル発射!」
「了解!」

 突然海面上に出現したイー401に引きずられて転移したワームだったが、イー401の海面への落下と同時に落ちていく海水に引きずられ、引き剥がされた所に発射されたミサイルが直撃、爆散する。
 同時に海面に着水したイー401が盛大に周辺に水しぶきを巻き上げた。

「こちらは片付いた! 上空の戦況確認! 対空援護用意!」
「初期敵群は半減! ただし先程の大型ワームとソニックダイバー隊、IS隊が交戦中!」
「攻龍とデータリンク! 援護攻撃の用意有りと打診!」

 即座に次の戦闘準備の指示を出す群像が、映像で映し出されるSレベルワームと、その周囲を飛び交いながら応戦する者達を見る。

「あんなのとどう戦うんだよ………」
「忘れてませんか? ソニックダイバー隊は対ワーム戦闘のエキスパートですよ」
「そういう事だ。こちらはサポートに徹する」
「攻龍とのデータリンク確認」
『必要に応じて攻撃箇所を指定するそうよ』

 ブリッジ内でクルー達が援護攻撃を整えながら、上空で行われている戦闘の様子を見守っていた。



「セルの密集箇所の薄い点を確定!」
「そこを集中攻撃!」
「こっちもだ!」「了解マスター!」

 可憐から送られてきたデータを元に、瑛花は雷神の大型ビーム砲で攻撃、一夏とそのそばにいるツガルもそれに続けとばかりに雪羅とホーンスナイパーライフルを連射し、他の専用機もそれに続く。

「そして、こう!」「たあぁぁあ〜!」

 銃撃や砲撃で破損した箇所に音羽の零神がMVソードを突き刺し、思いっきり横薙ぎにして大きく斬り裂き、ヴァローナの投じたWA666アマラジェーニが断面をついでに斬り刻んでいく。

「なるほど!」
「反撃に注意ね!」

 それを見た箒も双刀を構えて続き、MVランスを手にしたエリーゼも続く。

「気をつけてください! まだ相手の攻撃力が未知数です!」

 最初の奇襲以降、あまり積極的に攻撃してこないSクラスワームに可憐は警戒するが、ソニックダイバーもISもここぞとばかりに攻撃していく。

「見掛け倒し? 一気に行くわよ!」

 調子に乗った鈴音が、甲竜の龍咆を速射するが、命中した箇所が突然内側に崩れる。

「!? こいつ、中身空!?」
「何だって!?」
「こちらでも確認した! そう言えば巨大な口だと報告が…」

 瑛花も同様の状態を確認していたが、そこでソニックダイバー、IS双方が突然警告音を鳴り響かせる。

「何!? 何!?」
「内部に高温反応! 摂氏約1000度!?」
「危険です! 離れてください!」

 可憐と簪が双方何らかの攻撃の前兆と判断、退避勧告を出して全機が即座に離れる。
 そこで、先程までの攻撃で穴の空いた箇所から、赤熱した液体がこぼれ落ちてくるのに何人かが気付く。

「何よあれ………」
「液体、まさか! 上空全機にも退避勧告!」

 鈴音が思わず漏らした言葉に、瑛花がある予感に叫ぶ。
 直後、Sクラスワームの天頂部から、赤熱化した超高温の液体が火山がごとく噴出した。

「なんだコレ!? 各機はソニックダイバーをガード! 楯無会長!」
「分かってるわ!」
「簪、こっちだ!」
「あっ!?」

 一瞬呆気に取られた一夏だったが、即座に次に起きる事を予感して防御を指示、同じ事に気付いた楯無はミステリアス・レイディの能力をフルに活用して攻龍の上に水の傘を作り上げ、一夏は解析に気を取られていた簪をその下に引っ張り込む。

「来るぞ…」

 一夏が呟いた直後、噴出した高温の液体はそのまま灼熱の雨となって戦場一体に降り注ぐ。

「何これ!?」
「回避! 回避!」
「RV全機フィールド全開!」

 上空で交戦中だった戦闘妖精、トリガーハート、RVもその灼熱の雨から逃れようとするが、回避しきれなかったスーパーシルフのウイングに当たった瞬間、その箇所が融解する。

「あ…」
「危ない!」

 とっさにエグゼリカがサポートに入り、バランスを崩しそうになったスーパーシルフを灼熱の雨の届かない範囲へと退避させる。

「これ、高温だけじゃありません! 何らかの融解物質の模様!」

 エグゼリカが装甲材が融解するには低すぎる温度のはずなのにスーパーシルフがダメージを負った事に、その灼熱の雨の正体に気付く。
 降り注ぐ灼熱の死の雨は敵味方関係なく降り注ぎ、回避しきれなかったJAMが何機も墜落していく。
 やがて降り終わった頃には戦場は一変していた。

「損害報告!」
「ミステリアス・レイディの援護で艦体への損傷は軽微! ただし詳細は調査中!」
「ソニックダイバー及びISは!」
「全機健在! ただしこちらも損傷少しあり!」

 門脇が即座に損害を確認させ、七恵が報告を上げる。
 対処が早かったため、致命的損傷は免れたが、ダメージは逃れられなかった報告が各所からも送られてきた。

「全員、被害状況を報告!」
『こちら織斑、楯無会長のおかげでオレと盾無会長、簪に被害は無し!』
『こちらオルコット、ビット一機使用不可、一機破損!』
『デュノア、シールド使用不可!』
『凰、龍咆片方破損!』
『こちら篠ノ之、ウイングに損傷あり!』
『ボーデヴィヒ、大型レールカノン損傷により使用不可』

 各専用機からの報告に、千冬が僅かに顔をしかめる。

「一撃でこれか………IS全機、相手の第二射の前にSクラスワームの無力化を」
『千冬姉、またすぐ撃ってくるような事は…』
「考えてみろ、相手は最初の襲撃以降、先程の噴出まで大した攻撃をしてこない。恐らく噴出までにタイムラグが必要なはずだ」
『門脇艦長!』

 とまどう弟に助言を与えていた所で、突然イー401の静が緊急通信を入れてくる。

『先程の攻撃で成分不明の化学兵器により、周辺海域の汚染を確認! 艦体への影響の可能性が高いそうです! これよりイー401は急速潜航して安全圏に離脱します!』
「緊急回頭、汚染海域から離脱」
「了解!」

 イー401からの報告を聞いた門脇が即座に離脱を決断する。

「ソニックダイバー各機、Sクラスワームの第二射の前になんとしてもクアドラロックを発動させろ!」
『了解!』
「楯無は攻龍援護のために攻龍と共に一時離脱。織斑、簪、オルコットは前線に参加を」
『了解!』

 冬后と千冬の指示が各隊に飛ぶ中、ブリッジ内に警報が鳴り響く。

「何事だ」
「目標地点に突然謎の建造物が出現しました!」

 門脇の質問に七恵がカルナダインから送られてきた映像を表示、目標の小島から突然漆黒の塔のような物が突き出してきたかと思うと、その各所から漆黒の小型UFOのような物が無数に飛び出してくる。

「建造物から飛行物体出現! パターン一致、ネウロイです!」
「まだそんな物を隠してたか!」
「上空で交戦中の部隊の状況は!」
「損害が出ている機体有り! 緊急収容の要請が出ています!」
「こちらで受け入れる! 収容の準備を!」
「待ってください! 出現したネウロイが本艦に向かってきます!」
「収容は中断、対空防御」
「了解!」
「織斑、簪、戻れ! すまないが、ワームは向こうだけで対処してもらう!」
『り、了解!』
『あ、大丈夫みたい』

 千冬も急いで援護に向かった二機を呼び戻すが、そこにツガルの通信と共に転移反応を示すアラームがブリッジ内に響く。

「転移確認! 帝国華撃団の翔鯨丸と紐育華撃団のエイハブです! 巴里華撃団、リボルバーカノンの発射体制に入りました!」
『こちら坂本! あのネウロイは対艦攻撃機だ! 我々で対処するので、攻龍は離脱を!』
「了解した、ネウロイの対処は一任する」

 美緒と門脇が応対する中、それぞれの母艦からウィッチとスターが出撃していく。

「第501統合戦闘航空団、ネウロイに攻撃を開始します!」
「第31統合戦闘航空隊、上陸地点の確保を開始!」
「第502統合戦闘航空隊、リボルバーカノンの弾道を確保する!」

 ミーナ、圭子、ラルの指示が飛ぶ中、飛び立ったウィッチ達が一斉に攻撃を開始し、ネウロイとの乱戦状態に入る。

「フォーメーション・ライブラ! ここに防衛線を構築するわ!」
「ワームは向こうに任せろ! こいつらを絶対通すな!」

 ミーナとバルクホルンの声に重なり、一斉銃撃が弾幕となってネウロイへと襲いかかる。

「少しの間お願いします! 全RVは一時攻龍に撤退、機体のダメージ確認を!」
「まだ大丈夫です」
「エスメラルダ、シールドに過負荷が出てるわよ」
「一度全機チェックするから!」

 ジオールの一時撤退にエスメラルダが反目するが、隊長機に機体ダメージは筒抜けで、マドカに促されて強引に撤退させられる。

「こちらも一度撤退しましょう! みんな戻れる!?」
「私は大丈夫! けどファーン2が…」
「…ゴメン」
「損傷は浅いわ!」
「すぐにカルナダインへ!」

 エグゼリカにサポートされながらスーパーシルフが他の戦闘妖精達のダメージを確認するが、そこでウイングに直撃を食らったファーン2がシルフィードとファーン1に支えられているのに気付き、エグゼリカが慌てて撤退を指示する。

「姉さん!」
「こちらは任せて! JAMの掃討に入るわ!」
「無駄に元気なのもいるしね」
「あれ全弾回避したのか………」

 クルエルティアとフェインティアが残ったJAMの掃討戦に移行する中、ムルメルティアは平然と戦闘を続行しているメイヴを見て呆れる。

「ワームの方はどうなってるの!?」
「IS隊のサポートでソニックダイバー隊は損傷軽微、戦闘続行中だマイスター」
「あいつら再生して厄介だからね。こちらを片付けて増援に行くわよ!」
「了解!」

 フェインティアとムルメルティアがダメージを負いながらも向かってくるJAMへと向けて、攻撃を開始した。


「紐育華撃団、レディゴー! 目標はネウロイ発進設備!」

 次々とフライトモードで飛び立ったスターが、防衛戦をウイッチに任せてネウロイの飛び立った塔へと向かっていく。

「アレを破壊しないと、帝国・巴里華撃団は発進出来ません! まだ残存勢力がある可能性もあります!」
『イエスサー!』

 進次郎の指示が飛び、フォーメーションで飛んでいたスターが散開するとネウロイ発進施設へと一斉にミサイルを発射する。

「全弾命中確認!」
「はっ! 動かない建物なんて的ですらないだろ!」
「あれがただの建造物ならな………」

 ダイアナからの報告にサジータが気勢を上げるが、昴はむしろ不審に思っていた。

「シンジロウ! なにか変だ!」
「何か?」
「ちょ、何あれ!?」

 一番最初に異変に気付いたリカが叫んだ所で、続けてジェミニが、そして他の者達も気付く。

「動く!? あんなデカイのが!?」
「これは!? ネウロイの反応! まさか…」
「そのまさかのようだね………」

 サジータが明らかに爆発が止んでも鳴動している発進施設が動き始めた事に驚愕し、ダイアナはそれが何か気付き、昴は最初から疑っていた事を確信する。
 鳴動していたそれは、地面から己が身を抜きながら浮上し、体勢を90度回転させる。
 見た目はSF的デザインの潜水艦のようにも見えるそれの、表面にネウロイの証とも言える赤黒い光が灯る。

『何て事………大河隊長! それは空母型よ! こちらでも数えるくらいしか確認されてないのに!』

 UFO型ネウロイと交戦していた圭子が、驚愕しつつもそれの正体を新次郎に告げる。

「どう対処すれば!」
『基本は一緒、攻撃しながらコアを探して! この間の陸戦型よりは装甲薄いはず…』

 圭子のアドバイスの途中で、空母型ネウロイの各所に赤い光が灯った事に、それが何かを知っている者達が一斉に青ざめる。

『総員防御!』

 誰が叫んだのか、確認する間もなく無数のビームが戦場に吹き荒れる。
 赤い閃光の嵐が消えた後、それぞれの母艦から状況確認の指示が飛び交う。

「星組全員、生きてるかい?」
『全機確認! ジェミニ機とサジータ機に軽微損傷有り! 前に交戦してなかったら危なかった………そちらは!?』
「真美君と陸戦ウィッチの子達が守ってくれたから問題ないよ」

 サニーサイドからの確認に新次郎が報告する中、サニーサイドもエイハブの被害を確認する。

「どうやら、前のよりは火力は低いようだ。門数は多いようだけどね」
「翔鯨丸と攻龍、カルナダインも無事を確認。攻龍は少し危なかったみたい」

 各母艦の状況を確認したラチェットが改めて戦場の状態を確認する。

「どうやら、JAMはあちこちから戦力を集めているけど、完全にコントロールは出来てないみたいだね」
「確かに。先程のワームの攻撃にあちらは巻き込まれてたし、今のもそう」

 サニーサイドの指摘に、ラチェットはある画像、Sクラスワームの影で空母型ネウロイの攻撃を回避したソニックダイバー達とIS隊を確認する。

「思いっきり当たってるわね。お構いなしに」
「これだけの戦力を小出しにしてくるって事は、統制が取れてないから一遍に出せない、って事かもね」
「こちらも完全に統制が取れてるわけじゃないけど、これなら各個撃破が可能ね。問題は………」
「どこまで戦力を隠しているか、だね」



「妙ですね」

 ダメージコントロールに騒がしい攻龍のブリッジの片隅、戦況解析をしていた緋月が口を開く。

「何がだ?」
「先程のネウロイのあまりに無差別な攻撃、そしてその前のワームの攻撃、あまりに違和感が大きいです」

 冬后が思わず聞いた所に、緋月が丁寧に答える。

「指揮系統が確立されてないようだな。同士討ちばかりだ」
「そもそも、そんな物があるかも謎です。それに…」

 嶋が妥当な結論を出すが、それに緋月が付け足す。

「先程のワームの攻撃、周辺海域を汚染していますが、本来ワームはそのような攻撃はしてきた事実は有りません」
「どういう事だ?」

 それを聞いた千冬も思わず口を挟む。

「ワームは本来地球から人類という有害細胞を排除するために発生した存在です。だから物理攻撃や電子攻撃はしてきても、環境その物を汚染するような化学攻撃はデータに有りません」
「確かに」

 緋月の説明に、門脇も頷く。

「それともう一つ、ワームは発生時にそばにいる生物の姿を模倣するのですが、先程から各組織のデータベースを検索していますが、あのSクラスワームに該当する生物は確認できません」
「どういうこった?」
「あのワーム、ただのコピーではなくJAMによって目的を持って兵器として製造された物ではないかと推測出来ます」
「出来るのかそんな事!?」

 緋月の仮設に、冬后が思わず声を荒げる。

「不可能ではないと思います。JAMの能力については、FAFでもまだ解析出来ていない所が多いようなのですが、それでもなお、かなり高度な各種技術を持っているのは確かです」
「………今はまず、この前線基地を攻略し、捕虜を救出する。それが我々の目的だ」

緋月の仮説にうなずきつつも、門脇はまずは作戦の遂行を重視させる。

「ソニックダイバー隊の現状は」
「全機無事です! ただしナノスキン効果時間は10分を切りました!」
「一条!」
『分かっています! 先程のネウロイの攻撃でワームもダメージを負いました! あと一息です!』
「IS隊各機、Sクラスワームに総攻撃を。クアドラフォーメーションを援護しろ」

 冬后の指示に瑛花が答え、それを聞いた千冬も専用機持ち達に発破をかける。



「さっきのはちょっと危なかったね〜」
「いい盾があって良かったけど………」

 ヴァローナが呟く中、とっさの判断でSクラスワームを盾にした音羽が素早く影から出てくる。

「ビームの着弾点を狙え! そこからなら攻撃が通じるはずだ!」
「どんだけ手勢が居ても、連携できなきゃ無意味ね!」

 瑛花が指示を出しつつ、率先して雷神の弾丸を着弾点へと集弾させ、エリーゼもバッハシュテルツェのMVランスを突き刺して一気に斬り裂いていく。

「クアドラロック発動可能まで、あと12%セルを潰してください!」
「要は、斬り刻んでしまえば!」

 可憐の指示を聞いた箒が、双刀を手に突撃。
 加速の勢いを載せて双刀を深々とSクラスワームに突き刺すと、そのままブーストして大きく斬り裂いていく。

「了解した!」
「こっちの方がよさそうね!」

 そこにラウラと鈴音もプラズマ手刀と双天牙月を展開、箒に続いてSクラスワームに近接攻撃をしかけていく。

「みんな無茶するな〜………」
「対処としては間違ってないよ?」
「さっきのが無かったら攻龍からの援護もあるんだけどね〜」

 デザート・フォックス重機関銃を連射しながら、縦横にSクラスワームを斬りまくる仲間達にシャルロットが少し呆れるが、MVソードを手に突撃のタイミングを図っている音羽とヴァローナがむしろ肯定する。

「クアドラロック可能まで、あと6%、5%…!? 内部に高温反応!」

 クアドラロックのタイミングを図っていた可憐が、風神のセンサーが捉えた反応に過敏に反応する。

「まずい、また来るぞ!」
「誰か高火力の残ってない!?」
「攻龍に援護を…」
「間に合わない!」
「どけええぇぇ!!」

 先程の噴出攻撃の前兆だと気付いた皆が慌てる中、一夏がイグニッション・ブーストを使用して白式を高加速。
 零落白夜を発動させ、そのままSクラスワームを横薙ぎしながら半周、大きくえぐられたSクラスワームの体の一部が崩れ落ちる。

「クアドラロック可能です!」
「クアドラフォーメーション!」
「行くよゼロ!」

 その隙を逃さず、ソニックダイバー隊が即座にフォーメーションを展開、突撃した零神がMVソードをSクラスワームへと深々と突き刺す。

「座標、固定OKっ!!」
「4!」「3!」「2!」「1!」
『クアドラロック!』

 四機のソニックダイバーがリンクして人工重力場を発生、内部にSクラスワームを完全に封じ込め、ホメロス効果を発動させる。

「セル転移強制固定、確認!」
「一斉攻撃!」
『了解!』

 そこへ瑛花の号令と共にソニックダイバー、IS双方の攻撃が一斉に放たれ、限界に達したSクラスワームが爆散する。

「目標撃破確認!」
「みんな大丈夫か!」

 瑛花が戦果を確認、一夏が皆の状態を素早く確認する。

「皆問題ない! このまま向こうに助太刀に」
『ダメだ。専用機は全機一度攻龍に帰投して機体ダメージを確認する。こんな戦闘は想定されてないだろうからな』

 ネウロイと戦っているウィッチ達の元へと向かおうとする箒を、千冬が止める。

「織斑先生の言う通りです! 軽傷に見えても、どんな影響が出てるか分かりません!」
「対怪獣戦のプリセットなんて入ってないだろうしね」
「オレも千冬姉に賛成だ。全員一度戻るぞ」
「あっちはもう戻ってるしね」

 簪と楯無も千冬の指示に賛同、一夏の指示にツガルはすでに帰艦状態に入っているソニックダイバーを見る。

「全機攻龍に帰艦! 点検と弾薬類の補充を!」
「急いで急いで〜」

 一夏の指示の元、専用機が次々と攻龍に向かう中、一夏は殿で警戒を続ける。

「だいぶらしくなってきたわよ、一夏隊長」
「そうですかね?」

 楯無が声をかけてきた所に一夏が苦笑しつつ、そろって攻龍へと戻っていった。



『もっと距離を取ってください! あのクラスのネウロイだと、攻撃を集中されると戦艦の装甲でも貫きます!』
「だそうだ、後退後退っと」

 直属守備に当たっている真美からの警告に従い、サニーサイドはエイハブを後方へ下がらせる。

「あのサイズならこちらでも何度か相手してるけど、攻撃力が違うね」
「前もってフォーメーションを決めておいたのは正解ね」

 目の前で繰り広げられる空戦を前に、サニーサイドとラチェットが呟く。
 空母型ネウロイのビーム弾幕に対し、シールド防御力を誇るウィッチ達が壁となり、向こうの攻撃の際に紐育華撃団はその背後に隠れるというフォーメーションを予め想定しておいた事が功を奏し、多少の被弾は免れないが紐育華撃団の全機が戦闘を続けていた。

「周辺の小型の掃討率はどれくらいかな?」
「現在65%、今70%になりました。ただ再度空母型からの発進の可能性はあります」
「サーモンの産卵みたいね………」

 杏里の報告に、プラムも思わずぼやく。

「他の部隊の状況は?」
「戦闘妖精隊は一機中破、後は軽傷、トリガーハート隊は全機健在、もう少ししたら再出撃するそうです。天使隊は二機が過負荷で冷却中、残った機体は点検終了しだいこちらも再出撃するそうです!」
「どこも無茶させない程度にね。まだ向こうは何か隠してる気がするし」
「先程ソニックダイバー隊の緋月少尉から来た仮説、JAMは各所から戦力を抽出してはいるがコントロール出来てないって話が本当だとしたら、その可能性は高いわ」
「戦力の順次投入なんて本来は愚策中の愚策だけれど、こちらも無傷とは行ってないからね。もしどこかでこちらの対処能力を上回れば…」

 サニーサイドの懸念を裏付けるがごとく、エイハブのブリッジ内に警報が鳴り響く。

「行った矢先にコレか。今度はどこかな?」
「霊子レーダーに反応有り! これは、水中です! 反応パターンがデータと一致、深海棲艦です! しかもこれは…イー401の間近です!」
「なんですって!?」



「ソナーに反応有り! けどかなり小型の…」
『ちょっと待って! この反応、間違いない、深海棲艦よ!』
「何だと!?」

 静の報告にかぶせるようなタカオの報告に、群像は思わず叫ぶ。

「どこだ!」
『モロ真下!』

報告とほぼ同時に、艦体に衝撃が響き渡る。

『攻撃されてる! 何このダメージ!? 外装が全然役に立たない!』 
「緊急発進! 振り切れ!」
「緊急発進」

 タカオの絶叫を聞いた群像が即座にその場からの離脱を決断、イオナが艦を急発進させる。

「ダメージ報告!」
『艦底部外装に破損! 浸水まではしてないけど、もう一発食らったらまずいわ!』
「クラインフィールド展開! 近寄らせるな!」
「ダメ、近すぎる。もっと離れてからじゃないとむしろ中に閉じ込める」
「確か潜水型で無い限り、水中で艤装は使ってこないはずですが」
「じゃあ先程の攻撃は…」

 僧が艦娘達から聞いていた情報を思い出すが、群像が疑問に思うより早く再度衝撃が来る。

「またか!」
「発砲音も魚雷の発射及び推進音も確認出来ません!」
「ひょっとしてこれ、直に攻撃されてね?」

 静がソナーに何も反応が無い事に戸惑うが、杏平の一言に全員が押し黙る。

「映像出せるか?」
『ちょっと待って、確か念の為カメラ付けてたような………』
「ライトも」

 タカオとイオナが用心のためと言われていたがまさか使う事になると思わなかった船外カメラを操作し、後方からこちらを追ってくる相手を発見、画像解析して映し出す。
 最初に見えたのは長い触手のような物で、それが先端に砲塔のついた頭部のような物の有る尾だと分かると、その尾を持つ相手、フード姿の少女のような姿をした深海棲艦の姿を顕にする。

「こいつか!」
「深海棲艦は人形に近ければ近いほど強いと聞いている」
「モロ人間だね〜、尾っぽ以外」
「だがこの水深でなんて速度だ!」

 群像のみならず、ブリッジ内のクルー全員が相手の姿に驚愕する。

「すぐに艦娘達に照会を! 海面の状況は!?」
「拡散して薄まってきてますが、まだ海面浮上は難しいかと」
「だがどうすんだ!? あいつらにこちらの武装は効かねえ!」
「時間は稼げる! 魚雷一番二番、通常弾頭で構わないから装填後発射! 距離を稼いだらキャニスターを発進させろ! 機関最大、魚雷発射限界速度まで上げろ!」
「了解!」

 少しでも距離を取るべく、群像は攻撃を指示しつつも速度を上げさせる。

「一番二番発射! 真後ろだから迂回にかかるぜ!」

 追ってくる相手に向けて誘導魚雷が放たれ、弧を描きつつも深海棲艦へと迫る。
 やがてこちらにまで響く程の爆発音が響き渡るが、そこで杏平が首を傾げる。

「妙だ、近接弾頭反応前に爆発したぞ!?」
「爆発音が小さいです! これは弾頭の爆発ではなく、魚雷が迎撃された模様!」
『………艤装使えなくてこれ?』
「キャニスターは止めた方がよさそうですね」

 どうやら肉弾戦で魚雷が迎撃されたらしい事を悟ったタカオと僧が唖然とする中、艦娘達から通信が入る。

『こちら吹雪、艦種確認しました! それは戦艦レ級、戦艦クラスでも屈指の戦闘力と凶暴さを持つ個体です!』
『早くエスケープするね! そいつは…』

 通信枠で吹雪と金剛が叫ぶ中、ソナーにある反応が入る。

「これって………魚雷発射音確認!」
「艤装使えるじゃねえか!」
「最大加速! 振り切れ! デコイ射出!」
「了解」
『効くかしらね!』

 まさか魚雷を装備しているとは思っていなかった401クルー達が慌てる中、群像の指示にイオナとタカオが即座に反応する。
 加速しつつ複数のデコイがばらまかれるが、レ級の放った魚雷はデコイに反応すらせずにイー401へと向かってくる。

『デコイに無反応! どんな誘導してんのよ!』
「けどなんとかこちらの方が速度が上…再度魚雷発射音! 別方向からです!」
「迂回して発射されましたね」
「クラインフィールド展開!」

 とっさにクラインフィールドが展開されるが、レ級の放った魚雷はフィールドを突き抜け、艦体に直撃する。

「やっぱダメだ! 全然通じねえぞ!」
「ダメージ報告!」
『右舷13ブロックに破孔! 浸水発生! シャッター下ろすわ! なんであんな小さな魚雷一発でこんなに!?』
「これは、まずいですね………」
「でも、海面がこれじゃ艦娘の人達は呼べないよ!?」

 ブリッジ内に動揺が走るが、蒔絵の指摘通り海面が汚染されている状況では艦娘の増援は呼べそうになかった。

「転移装置は使えるか!?」
『さっきの加速で余剰エネルギーが無いよ! チャージに時間がかかる!』

 動力室からのいおりの報告に、群像が必死になって思考する。

(どうする!? 前回の海上戦でも苦戦したが、戦艦級の深海棲艦がここまで厄介とは………せめて他の艦から引き剥がさないと………)
『苦労しているな、千早 群像、401』

 そこでいきなりコンゴウからの通信が入ってくる。

『今そちらに向かう』
「待てコンゴウ、お前はいざという時の切り札…」
『転移反応! コンゴウが来たわ!』

 群像が制止する間もなく、予め準備していたのかコンゴウの転移をタカオが報告する。

「待ってください。退避した攻龍から連絡がありました。修理を受けていた機体に付着していた先程の高温物質を解析したところ、有機物をベースにしている物と判明。攻撃発射時の高温はこの物質の限界維持温度であり、比重もあまり重くない事から海面から一定以上は沈下しないようです」

 僧の報告に群像と蒔絵が反応する。

「それ以上の温度を加えたらどうなるの?」
「熱分解で無毒化するようですが、そこまでの温度となると」
「いや、ちょうどいい。コンゴウに連絡! こちらから指示した海面範囲に攻撃を。熱分解を起こさせるんだ! 同時に深海棲艦への足止めを」
「了解」
 
 群像の指示を受けたイオナが即座にコンゴウへと伝達。

「コンゴウ、この範囲への攻撃を」
『分かった』
『間違って変な所を攻撃するんじゃないわよ』
『分かってる』

 タカオからの忠告が聞こえているのか、転移直後のコンゴウが次々と武装を展開する。

「周辺の味方に連絡。該当範囲からの離脱を」
「了解」

 離脱指示で上空の味方機が離れるや否や、コンゴウの武装が一斉に火を吹く。

「もうちょっとマシな手は無いのかよ!?」

 海中にまで響いてくる閃光や衝撃の凄まじさに杏平が思わず絶叫する。

「いかにもコンゴウらしい」
「海面今頃違う意味ですごい事になってるぞ………」
「温泉状態かな〜?」

 ハルナとキリシマが海面状況を確認しながら呆れ、蒔絵が海面温度を確認して首を傾げる。

『401、邪魔な物は払っておいた。緊急浮上しろ』
「緊急浮上! 海中ではむしろ相手の独壇場だ!」
「緊急浮上〜」

 コンゴウの強引な助力に群像はとにかくレ級の攻撃から退避すべく、艦を浮上させる。

「レ級、追ってきます!」
『任せろ』

 更にコンゴウはありったけの対潜装備を惜しげもなく投下。
 レ級どころか、イー401以外の全ての海中を一斉に爆破していく。

『あのバカ、そこまでする!?』
「いや、これくらいしないと深海棲艦は足止め出来ない。コンゴウも分かっているからやっているんだ」
「でも爆音で相手を補足出来ません」
「とにかく緊急離脱! 急げ!」

 コンゴウが相手している間に、イー401は離脱を図る。
 当のレ級は逃げ場の無い爆発に巻き込まれ、海中を翻弄されるが、やがて爆発が治まると、負傷した体を再生させながら、その目に鬼火が灯る。

「沈メル……」

 狙いを己を攻撃してきたコンゴウへと変えたレ級は、猛速度で海面へと上昇を開始した。



「うわあ、やっぱり霧のコンゴウさんはすごいです………」
「やり過ぎじゃない?」

 コンゴウの甲板上で、あちこち煮立っている海面を見た吹雪が思わず呟き、肩にいるランサメントも呆れる。

「パワフルでグッドで〜す」
「ニエット、こちらの活動範囲が限定されます」

 金剛がド派手な攻撃を賛称するが、頭上のエスパディアはむしろ否定気味だった。

「海中からこちらに向かってくる物体を補足。やはり通常弾頭では効果が薄いか」
「後はこちらでやります。援護を」

 コンゴウが戦果がほとんどなかった事を確認する中、加賀が弓の具合を確かめつつ出撃準備に入る。

「こちら艦娘隊、出撃します!」
「レ級はこちらに任せるネ!」

 吹雪が号令を出して自らコンゴウの甲板に設置されているカタパルトに乗ると、金剛もその後に並ぶ。

「これに乗ればいいの?」
「色々付いてるよね〜」
「結構速いから気をつけて」
「食後だと一段と危ない」

 大井と北上が続こうとするのに、経験済みな暁と響がアドバイスする。

「攻撃機を発艦させておいて」
「相手はレ級、試作機でどこまで通用するか………」

 瑞鶴と翔鶴が他組織との技術協力で試作再生をした矢を甲板上から放ち、それは次々と小型の戦闘機へと姿を変えていく。

「餅は餅屋、と言うのだったか。この混戦状態では必要以上の援護はむしろ危険か。だが…」

 コンゴウは次々と出撃していく艦娘達を見送りながら、視線を上空へと向ける。

「あちらには私の攻撃も効くはず。ならそちらを相手するか」

 コンゴウは上空でウィッチ達と激戦を繰り広げるネウロイ、特に紐育華撃団が相手している空母型に狙いを定めようとする。
 だがそこである通信が飛び込んできた。

『霧のコンゴウさん、FAFのスーパーシルフです。深海棲艦の出現を確認、こちらから増援機が送られてくるので、その援護をお願いします』
「増援? 深海棲艦の相手は生体エネルギーを持つ者達でなくてはならないはずだが」
『はい、FAFでは艦娘を一名保護していました。諸所の理由により、今まで秘匿していたのですが、現在こちらに向かっています』
「秘匿していた理由は?」
『それは………』


「全艦単縦陣! 射程に入ったら一斉攻撃!」

 吹雪を中心に置いて陣形を整えた艦娘達が、海上に浮上してきたレ級へと向けて一斉に砲口を向ける。

「戦闘機隊、攻撃開始…」
『サセルカ…!』

 空母から発進した戦闘機が先陣を切ってレ級へと迫るが、レ級は艤装と一体化している尾を振り回しながら12.5inch連装副砲を発射。
 文字通り戦闘機達を叩き落とす。

「第一次戦闘機隊、壊滅!」
「やはり怪物ね………」

 翔鶴の報告に、加賀は次の矢を番えながら呟き、その頬を汗が伝う。
 戦闘力に置いては姫や鬼クラスに匹敵するとも言われるレ級の戦闘力の一端を目にした艦娘達は、誰もが恐怖を覚えずにはいられなかった。

「今回は私達だけじゃ有りません! 他の人達の援護もあります! 恐れずに攻撃を!」
「そういう事ね! 全艦ファイアー!」

 吹雪が叱咤し、金剛も皆を奮起しながら砲撃を開始。

「撃て、撃っちゃえ!」
「戦闘機隊、第二陣発艦!」

 北上を皮切りに砲を持つ艦娘達は一斉に砲撃を放ち、空母艦娘達は次の矢を放つ。

「甘イナ!」

 それに対し、レ級は尾を正面に構え、艤装を一斉発射。
 放たれた砲弾が金剛の放った砲弾とかすめた双方が爆発、それに巻き込まれた他の砲弾も次々誘爆していく。

「そんな!?」
「まだまだね! 次弾装填ハリーね…」

 予想外のレ級の防御に吹雪は愕然とするが、金剛が妖精達に次弾装填を促すが、そこで観測にあたっていた妖精が上空を指差す。

「オーナー、上空に転移反応あり」
「ワッツ!?」
「増援みたいだよ!」
「どこから!? そんな報告は…」

 エスパディアとランサメントからの報告に金剛と吹雪は驚くが、そこへごく低空に転移ホールが開き、そこからFAFのエンブレムをつけた無人輸送機が飛び出してくる。

「こんな所に輸送機!? 危ない!」
「戦闘機隊、援護を!」

 瑞鶴があまりに近い所に出現した輸送機に驚き、加賀は放った戦闘機を慌てて援護に向かわせるが、そこでその無人輸送機から何かが射出される。

「何か出てきた!?」
「あれって、艦娘!?」

 その射出された物、艤装を背負った独特のシルエットに雷と電は艦娘と判断するが、顕になっていく詳細に皆が首を傾げる。
 艤装なのは間違いないが、それが他の艦娘達の物とは一閃を画し、異様にメタリックで排気筒のような物が見当たらない。
 着ている物こそ駆逐艦型と同じセーラー服だが、その頭部の上半分がヘッドセットバイザーで覆われ、顔の判断も出来なかった。
 ただそのバイザーから溢れるややウェーブがかった長髪に、吹雪はどこかで見覚えのある気がしたが、それはレ級がそちらに狙いを定めた事で中断される。

「危ない!」
「大丈夫だ」

 それを防がんと、コンゴウから放たれたレーザー砲が強引に狙いを外し、謎の艦娘は無事に海面へと着水する。

「目標戦艦レ級、攻撃を開始します」

 謎の艦娘は着水と同時に、機関を全開。
 駆逐艦クラスを軽く上回る加速で海面を疾走する。

「速い!」
「島風以上………」

 ぐんぐん速度を増しながらレ級の周囲を旋回し始める謎の艦娘に暁と響は絶句する。
 そのままの高速状態で謎の艦娘は右手にセットされている小型砲を照準、その方から砲弾が速射され、高速移動状態にも関わらずその全弾がレ級に命中、レ級の口から咆哮が漏れる。

「何あの命中率………」
「全弾命中!? ウソでしょ!?」

 あまりに正確過ぎる砲撃に北上と大井が愕然とする。

「目標にダメージ確認、追加攻撃を開始」

 謎の艦娘は小型砲を下げると、僅かに頷くように頭を下げると、背の艤装から噴煙を上げてミサイルが放たれる。

「誘導兵器!?」
「深海棲艦相手に誘導兵器の類は…」
「いえ、大丈夫かも………」

 電子機器が効きにくい深海棲艦相手のミサイル攻撃に加賀と瑞鶴は仰天するが、翔鶴は謎の艦娘の肩にいる妖精が、小さなコントローラーで巧みにミサイルを操作しているのに気付く。

「ソンナ物!」

 レ級は艤装からの砲撃でミサイルを迎撃しようとするが、砲弾より早くミサイルは空中で分解、内部から更に無数の小型ミサイルが放たれ、半分近くは砲撃により迎撃されるが、残った小型ミサイルはそれぞれが独自の軌道を描いて砲撃を回避し、レ級へと炸裂していく。

「ガハッ!」
「効いてる!」
「あんな艤装、どこから?」

 浅からぬダメージをレ級に与えた事で吹雪が喝采を上げるが、加賀は明らかに自分達の物より数世代以上先の物と思われる艤装に疑問を感じていた。

「吹雪ちゃん、今の内に!」
「! 全艦一斉砲撃!」

 謎の艦娘が自分の名前を呼んだ事に疑問を感じる暇も無く、吹雪の号令と共に全艦が一斉にレ級に砲撃を叩き込む。
 謎の艦娘の攻撃で損傷していたレ級は今度はかわしきれず、次々と砲撃を食らっていく。

「このまま一気に押し切ります!」
「艦載機、全部出すわよ!」

 一気に方を付けるべく、砲撃艦は距離を詰めながら砲撃を続け、空母艦はありったけの矢を放っていく。

「サセ、ルカ!」

 だがレ級は傷だらけとなった尾を振るい、ありったけの艤装を一斉発射する。

「うわっ!」
「きゃあっ!」
「大井、翔鶴被弾!」
「魚雷接近!」
「全艦散開!」
「間に合わない!」

 一斉攻撃にかわしきれなかった艦娘達の動きが止まり、そこへ高速魚雷が迫る。

「危ない!」
「むしろ動くな」

 謎の艦娘が魚雷を狙おうと速射砲を構えた所で、コンゴウの声と共に突然海面、どころか海そのものが割れていき、割れ目に飛び出した魚雷が勢いを失った所で速射砲が次々と魚雷を撃破していく。

「グ、ガ!?」
「超重力砲!?」
「ミストコンゴウ! ウェイトウエイト!」

 割れていく海とそこで固定されたレ級に、それが超重力砲の発射体勢だと悟った吹雪と金剛が自分達が巻き込まれる距離に慌てて制止しようとする。

「必要なら撃つが、まだ必要はないようだ」

 ロックビームでレ級を完全に捉えたコンゴウだったが、視線を上へと向ける。

「援護するよ!」
「戦艦級はさすがに初めてだな!」

 千載一遇のチャンスと見たリカとマルセイユが、上空から急降下しながら同時に攻撃をレ級へと叩き込む。
 放たれたミサイルと精密射撃が頭上からレ級に直撃し、特に尾に収束して放たれた精密射撃が艤装を兼ねた尾を半ばか千切り飛ばす。

「ミストコンゴウ!」
「いいだろう」
「バ〜ニング、ラ〜ブ!!」

 上空からの援護攻撃の間に超重力砲の影響範囲から艦娘達が退避した事を感知したコンゴウが、超重力砲をチャージ。
 その間に金剛からの一斉砲撃が傷だらけのレ級に炸裂し、そこへダメ押しの超重力砲が直撃。
 W金剛のコンビネーション攻撃に、限界に達したレ級が跡形もなく吹き飛ぶ。

「マスター、目標消滅を確認!」
「な、なんとかなった………」

 ランサメントからの報告に吹雪は思わず力が抜ける。

「ナイスね、ミストコンゴウ!」
「なるほど、そちらの攻撃の後に叩き込めば有効なようだな」

 サムズアップする金剛にコンゴウは小さく笑う。

「損傷艦は下がりなさい! 残弾数の確認を!」
「あ………」
「あの人………」

 残った艦載機を収容しながら加賀が他の艦娘達に声をかけるが、そこへ謎の艦娘がこちらへと来るのに暁と響が気付く。

「あ、さっきは…」
「久しぶり、吹雪ちゃん」
「え?」

 吹雪が礼を述べるより早く、その謎の艦娘は口元に笑みを浮かべると、顔の上半分を隠す形のバイザーに手をかけ、小さな機械音が響くとそれを上へと持ち上げて外す。

「え!?」
「ええ!?」
「貴方………」
「如月ちゃん!!」

 バイザーの下から現れた顔に、艦娘達は全員仰天する。
 それは、かつて深海棲艦との戦いで沈没したと思われていた睦月型 2番艦・如月だった………







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