第二次スーパーロボッコ大戦
EP51



「みんな、準備はいい?」
『お〜!』

 ポリリーナの号令に、準備万端の光の戦士達が答える。
 設置された小型転移装置から続々と転移してきた者達が各々準備を進め、各母艦からも物資が降ろされて臨時前線基地が構築され始めていた。

「下の様子は?」
「かなり深いわ………それになにか妨害のような物があるみたい。私の固有魔法では分からないわ」

 レールガンのチェックをしていたミサキが、着陸して固有魔法で探索を試みているミーナに問うが、大した結果は得られていなかった。

「実際に行ってみるしかないようね」
「場所は確か地下50m、素直には行けないでしょうね」

 ポリリーナが険しい顔をする中、どこか不敵な笑みの香坂 エリカはエレガントソードを手に突入を待っていた。

「それじゃあ行ってくるよ! みんな無事につれてくるから!」
『お願い!』
『屋内で私達では不利ですし』

 臨時前線基地の通信装置で、攻龍とカルナダインの双方に繋げていたユナが音羽やエグゼリカに約束していた。

「では予定通り、先陣は私達で行こう」
「またアイツらが出るかもしれないからな」

 幻夢を先頭に妖機三姉妹とハルナ+キリシマが、島に唯一の建物へと向き直る。

「よ〜し、ガンガン行こう!」
「行くのだ〜!」
「あくまでオレらはサポートだからな? まあ何が出てくるか分からないが」

 今にも突入せんと手のカイザードリルを回しているどりすとその肩でやる気満々のマオチャオをたしなめながら、ねじるもドリルの具合を確かめていた。

「それでは、突入開始!」

 ポリリーナの声と共に、突入部隊が廃墟のような建物へと向かっていく。

「少なくても地上部分にトラップの類は無いようだ」
「何を出してくるか分からんぞ」

 ハルナとキリシマがグラフサークルを展開して終始アナライズをしながら、壊れかけた戸を弾き飛ばしつつ建物へと突入する。

「これは!?」
「また随分ね………」
「これって………」

 一緒に突入した妖機三姉妹も思わず足が止まる。
 建物の中には、あまりに不釣り合い、というか建物とほぼ同じ幅の巨体なシャッターが有った。

「これは………」

 続けて入ったポリリーナも絶句する中、シャッター脇のコンソールにハルナと亜弥乎が駆け寄り、チェックする。

「電源は生きている」
「これって、エレベーター? 搬送用の………」
「だがどう見ても入り口より大きい搬送用エレベーターなんて有り得ないわ」
「設計ミスかな?」

 ポリリーナが違和感しかないエレベーターを見つめる中、ユナはとぼけた事を言って皆が転けそうになる。

「このエレベーターにも問題は無さそうだ」
「なにかあったら、私が止めるから」
「開けるぞ」

 ハルナが操作して重い音を立ててシャッターが開いていき、中には何もないただのエレベーターが現れる。

「すごい大きさね。奥行きから見て、この建物ほぼいっぱいになってるわ」
「全員乗れそうだけど、どうする?」
「多分問題ないゾ、これに乗ってる間は」
「周辺に敵らしき気配も無いみたい」

 乗降を迷う光の戦士達に、タロットを引きながらのエイラと固有魔法で入念に周辺を探ったサーニャが助言する。

「彼女達が言うなら間違いないわ。乗りましょう」
「占いで決めるの?」

 あっさり決断したポリリーナに、ランキング順でパンツァーチームのリーダーになったあかりが懐疑的になる。

「占いだけじゃないわ。彼女の固有魔法は未来予知なの、頼りになるわ」
「へ〜、未来予知………予知!?」

 何気に聞いていたパンツァー達が一斉にエイラの方を見る。

「ウィッチってそんなイカサマまであんのかよ………」
「予知って言ってモ、ごく近いのしか見れないゾ。知る度に妙な事言ってくる連中いるシ」
「宝くじの番号とかは分からないから」

 ねじるが胡乱な目を向けてくるのをエイラが受け流し、サーニャがダメ押ししたのにパンツァー数名から落胆の吐息が漏れるが、前例があるので他の者達は気にせずにエレベーターへと乗り込んでいく。

「じゃあ動かすぞ」
「下にまいりま〜す」

 ハルナが内部のコンソールを操作し、亜弥乎の肩にいたアークがおどけてアナウンスすると大型エレベーターは下降を始める。

「地上があの様子だと、地下も何が出てくるか分かった物じゃねえな」
「言わないで、みんなそう思ってるから」

 ねじるが足元をシールドで小突きながらボヤくのを、ポリリーナも少し表情を曇らせて足元を見る。

「それと聞きたいんだガ」
「何を?」
「こいつ突入班に入ってたカ?」

 エイラが隣を指差し、ポリリーナがそちらを見る。
 そこには大型ナイフを手に完全臨戦態勢のメイヴがいつの間にか紛れていた。

「えと、メイヴちゃんだっけ。いつの間に?」
「メンテナンスと補給で再出撃が遅延した。JAM前線基地中枢は地下に有ると推測、突入部隊に参加する」
「誰か聞いてた?」
「いえ………」
「まさかこの子…」

 ユナの質問に、メイヴが平然と答えていた頃…


カルナダイン メンテナンスルーム

「メイヴちゃんがいない!?」
「さっきまでそこのポッド入ってたわよね!?」
『すいません、外部サーチにリソース取られている間に脱走した模様です!』
『欺瞞情報を流された痕跡が有ります。電子戦機としてもかなり優秀かと』
「地球じゃこういう時首に縄でもつけときなさいって言うんでしょ?」
「それやったら絶対問題になるわね………」



「カルナダインから連絡有ったわ。やはり無断出撃ね」
「彼女はどうやら私達メンタルモデルと真逆に成長しているようだ」
「で、どうする?」

 ミサキが確認を取る中、ハルナとキリシマがメイヴを見つめるが、当人がやる気満々なのだけは見て取れた。

「拠点に戻してもまた此方に戻って来そうだから、連れていきましょう」
「じゃあよろしくね♪」

 ポリリーナが諦めて同行を認める中、ユナがにこやかに手を差し出すが、メイヴは少しだけそちらを見ると興味が無いのか視線を正面へと戻す。

「あれ?」
「ほっておけ。あいつはJAMと戦う事以外全く興味が無いらしい」
「アンドロイドの類はそれなりにいるけど、ここまで無愛想な子は初めてね………」

 無視された事にユナが少し焦るが、キリシマが少し前にメイヴが起こした騒動を思い出し、ポリリーナもそういう個性なのだと理解する。

「ユナ、そろそろ止まるみたい。地下25m前後くらいかな?」
「目的地の半分か〜、やはり直通とは行かないか」

 亜弥乎がエレベーターのシステムにケーブル越しに確認し、アークが予定よりも早い終点に顔をしかめる。

「降りてすぐは大丈夫ダ」
「敵の反応も無し」
「でも注意はして」

 エイラとサーニャの言葉に皆が頷く中、ポリリーナを始めとした用心深い者達は警戒を怠っていなかった。 
 程なくしてエレベーターが止まり、シャッターが開き始める。
 半分も開かない間にミサキが隙間から飛び出してレールガンを左右に向けながら周囲を警戒、シャッターが完全に開いた所で他の者達もそれぞれ得物を手に降りてくる。

「これって………」
「格納庫?」

 そこに広がっていたのは、かなり広い格納庫と思われる所で、各所に工具や整備機械らしき物が有るのが見えた。

「すこし時間が経っているけどそれほど古い物でないようね」
「システム的に21世紀後半か22世紀初頭相当でしょうか?」

 ミサキやエミリーが周辺を調べていく中、他の者達も警戒半分、興味半分で探索を開始する。

「こっから更に下に行く方法があるんだよな?」
「信号はここから更に下部から発信されていた」
「なんか結構ボロボロ〜」
「おやつが見当たらないですぅ」
「あっても悪くなってると思うよ………」

 思い思いに探索する中、どりすが不自然に壁が途切れて岩盤のような物がむき出しになっているそばに、一つのドアを見つける。

「こっち! ドア有ったよ!」
「待て、すぐに開けんなよ!?」
「え?」

ねじるの制止が間に合わず、どりすは無造作にドアを開け、そこにいる人影に気付く。

「え〜と………」

 自分より高い人影にどりすが視線を上げていく。

「ご主人様、これって…」

 どりすと一緒にマオチャオも視線を上げていく中、それが灰褐色のパワードスーツで、手にやたらごついアサルトライフルを握っている事、そしてその銃口が自分へと向けられた事でようやくどりすが我に返る。

「どりす!」
「敵襲!!」

 ねじるが叫ぶのとポリリーナの警告に、銃声が重なる。

「ちいっ!」

 ねじるがシールドをかざしながら、どりすの方を見るが、そこではマオチャオが放ったプチマスィーンズが銃口を弾き、その隙にどりすは小柄な体を利用して相手の足元へと滑り込み、相手の背後に回り込む。

「危ないでしょ!? パンツァーでも撃たれたら痛いし、怪我だってするんだから!」

 立ち上がってカイザードリルを構えながら怒鳴りつけるどりすに、パワードスーツの人影は振り向いて銃口を向けようとするが、その前に突然頭部が吹き飛ぶ。

「え?」

 足元に転がってくる千切れた頭部パーツにどりすが絶句する。

「いきなり頭かよ!?」
「そうよ」

 ねじるが誰かの容赦の無い攻撃に驚くが、初手からヘッドショットを決めたミサキは平然としていた。

「いきなり殺すなんて…」
「よく見なさい」
「これ、空っぽだ」

 どりすがひしゃげた頭部パーツ、そして頭部を失ったパワードスーツ双方の中身が空洞な事に改めて気付く。

「自動起動モードね。単純な動きしか出来ないけど、戦闘は可能よ」
「って事は…」

 頭部を失ったパワードスーツがまだ動こうとしているのに気付いたねじるだったが、次の瞬間どりすのカイザードリルが胴体を貫き、完全に動きを止める。

「これくらいなら、問題ないかな?」
「一体ならね」
「来るゾ!」

 どりすが胴体に風穴が開き、その場に崩れ落ちたパワードスーツを見る中、ミサキはレールガンを構え直し、そこにエイラの警告を合図のように、あちこちから同様のパワードスーツが現れる。

「怪物だの何だのの次はこいつらか!」
「ガードフォーメーション! 防御の硬い者が前衛に!」
『はいエリカ様!』

 ねじるがブリッドを取り出しながら叫び、いち早く香坂 エリカの号令にエリカ7が陣形を組む。

「あっちからも来たよ!」
「全員固まれ! 数で攻められるとまずい!」
「防御は任せろ」

 次々現れるパワードスーツにユナが慌てる中、幻夢とハルナが前へと出て銃撃に備える。

「おい、気付いてるか!?」
「ええ」
「何が?」
「右肩のエンブレム!」

 キリシマの問いかけにそれぞれが反応する中、言われて改めて襲ってくるパワードスーツを見て皆が気付く。

「あれって………」
「そういう事ね」

 そのパワードスーツのエンブレムと、機銃を構えているメイヴに刻まれているエンブレムは同じFAFのエンブレムだった。

「スペックデータの多少の差異が認められるが、アレは確かにFAFの空兵隊正式採用装甲スーツ」
「撤退のどさくさに盗まれたのか、置いていったのをリサイクルか…」
「だとしたら注意。併用運用されている装備が有る」
「併用運用?」

 メイブが淡々と言う中、ポリリーナがバッキンボーを構える手を思わず止める。

「10時方向! ヤバイのが来ル!」

 そこでエイラが指差した方向を皆が見ると、モーター音と共に大きな影がこちらへと向かって来る。
 それが平べったいフォルムに、多少剥げているが迷彩塗装を施された戦闘車両だと気付いた皆が顔色を変える。

「装甲車!?」
「FAF空挺戦車、BAX―4。武装は20mmガトリング、35mmオールレンジマシンガン、突破用グレネードランチャー、ミサイルランチャー2門」

 ミサキも思わす叫ぶ中、メイヴが淡々とそのBAX―4のスペックを述べる中、それが合っている事を示すようにグレネードランチャーと小型ミサイルが一斉に発射される。

「逃ゲロ!」
「どこに!?」

 エイラの警告に、さすがにこんな物の相手をした事のないパンツァー達が慌てるが、実戦慣れしている者達の反応は早かった。

「単発なら」
「手ぬるい」

 ハルナがフィールドを形成してグレネードを阻み、幻夢が複数のメタルボールを呼び出して小型ミサイルを次々撃墜、爆炎が消え去る前に、ポリリーナとミサキが飛び出し、こちらに向けらようとしている20mmガトリングと35mmマシンガンを破壊する。

「! タイヤを狙って!」

 そこでようやく我に帰ったあかりが自らのツールを構えながらBAX―4のタイヤを狙い撃ち、はさみが反対側のタイヤをシザーで斬り裂く。

「硬い! さすが軍用!」
「どけ! ならドリルで…」

 はさみが異様な手応えに悪態をつく中、ねじるが自らのドリルでタイヤの完全破壊を試みるが、突然タイヤが目の前で浮かび上がり、その一撃は空を切る。

「は?」
「ねじる! 戦車飛んでる!」

 予想外の事にねじるが思わず止まるが、どりすが指摘した通り、BAX―4は宙を飛んだかと思うと、驚く者達の頭上を飛び越えて着地、加速しながら反転してくる。

「下部にスラスター装備、短距離なら滑空可能」
「そういう事は先に言え!」
「来たぁ!」

 取ってつけたように説明するメイヴにねじるがおもわず怒鳴るが、どりすがこちらに向かってどんどん加速してくるBAX―4から回避しようとする。

「轢き殺す気!? なんて品性の無い!」
「機械にそんなの無いわよ」
「失礼ね」

 香坂 エリカが向こうの目的に気付き、ミサキがレールガンを構えながらボヤくが、狂花が一部否定する。

「エイラ、私達も」
「いや、大丈夫みたいダ」

 幾らシールドを持っていても戦車との正面衝突は回避するべきとサーニャが声をかける中、エイラはなぜか向かって来るBAX―4に背中を向ける。
 そして、それを証明するように向かって来るBAX―4の前へと出る小柄な影が有った。

「ちょ、逃げなさい!」

 あかりのみならずパンツァー達が驚く中、その影が轢かれると思った瞬間、凄まじい異音が響き渡る。
 それがタイヤのスリップ音だという事、そしてその小さな人影が他でもない突っ込んできたBAX―4を受け止めているという事実を、パンツァー達が理解するのにしばしの時間が必要だった。

「え?」「ウソ………」「何あの赤毛の子………」

 あかり、はさみ、のずるのパンツァー3トップですら理解出来ない中、BAX―4は更に出力を上げるが、人影はびくともしない。

「知らないですか!? 車は人のいる所走ったらいけないんですぅ!」

 その人影、ユーリィはかなり場違いな事を言いながら、ひっつかんだバンパーごとBAX―4を持ち上げていく。

「ユーリィ!」
「そんな危ない車はこうですぅ!」
「みんな伏せロ!」

 ユナが声をかける中、ユーリィは身を翻そうとし、エイラが慌ててサーニャと一緒にその場に伏せ、皆もそれに続く。
 その頭上を、今度はスラスターも無しにBAX―4が横切る。
 正確には、バンパーを掴んだユーリィがすさまじい怪力でその車体を振り回していた。

「デタラメだ………」
「ユーリィはいつもあんな感じだよ」
「ええ〜い!」

 キリシマが呆然と呟くのを、隣にいた亜弥乎が訂正するが、ユーリィに文字通りぶん回されたBAX―4が迫力に欠ける声と共に放り投げられ、そのまま天井へと直撃、無数の瓦礫と共に落ちてきたかと思うと、完全に埋まってしまう。

「よくやったわユーリィ!」
「ユナさん、はいですぅ!」
「え〜と………」
「戦車は一両だけか?」
「これ以上、この狭い所に出られても困るのだ! 大型の反応は他にはないのだ」
「油断しないで! まだスーツは残ってるわよ!」

 歓声を上げるユナとユーリィに何か言いたいどりすだったが、素早く周辺を警戒したねじると、それに応じたマオチャオの言葉と、ポリリーナの警告に慌てて残ったパワードスーツへとカイザードリルを向ける。

「全部無人機だな。生体反応の有るのは一つもない」
「有ったら少し困るけどね」

 ハルナが残ったパワードスーツを解析しつつ、フィールドで銃弾を防ぐそばで、ポリリーナがバッキンボーを繰り出す。

「使える物なら怪物でもガラクタでも拾ってくるとは、JAMという連中は呆れた貧乏性ですのね」
「それらまとめて相手させられてんだぞ! いい迷惑だ!」

 香坂 エリカがサイコキネシスで弾道を捻じ曲げつつの一撃を繰り出し、ねじるがシールド突撃からドリル突破でそれぞれ撃破していく。

「これで…」
「最後!」

 ユナがマトリクスディバィダーPlusで、どりすがカイザードリルでそれぞれ残ったパワードスーツを撃破する。

「残敵は!?」
「周囲にはいないみたい」
「負傷者は報告して!」
「マミが軽傷!」
「はさみがツール一部損壊、戦闘は可能よ」

 全員が状況を確認し、問題が無い事を知ると胸を撫で下ろす。

「大した相手じゃなくてよかった〜」
「そうね、てっきりもっと危険なのが出てくるかと思ったけど………」
「あ〜、油断しない方いいト思うゾ」

 ユナが思わずため息をもらし、ポリリーナが首を傾げるのをエイラが首を指す。

「何か有るっての?」
「多分」

 ミサキの確認に、エイラは先程引いたタロットを見せる。
 出てきたアルカナは死神、そして悪魔の2枚だった。

「縁起の悪そうなカードね………」
「いい意味じゃ無いのハ確かなんダナ」
「要注意か」

 アルカナの詳細までは知らないあかりが顔をしかめる中、幻夢が最初にパワードスーツが出てきた扉の向こうに続く通路を見つめる。

「じゃあ、次の段階に」
「予定通り、私とエリカ7は退路確保のため、ここに残りますわ」
「十分注意して。異常が起きたら双方に連絡を」
「亜弥乎、貴方もここに。エレベーターを随時稼働状態にしておきなさい」
「はい幻夢姉さま」

人員を一部残し、中間拠点を設置して一行は更に先へと進んでいく。

「先程の格納庫といい、何かの施設を転移させたっぽいわね」
「何かはこれではっきりする」

 一見普通の通路を警戒しつつ、先頭を歩くポリリーナと幻夢だったが、壁にFAFのエンブレムと通路番号が刻まれたプレートを見つけて立ち止まる。

「つまりここは………」
「データと一致。惑星フェアリィ撤退の際、破棄されたFAF本部基地と照合。ただし、配置は一致しない」
「既存の建築物を転移させつつ組み直した訳か。学園で同様の現象が確認されたな」
「つまりマップを出してもらってもアテにならないか」

 メイヴからの説明にハルナとキリシマが収集している現在地データに付属事項として記録していく。

「デタラメなツギハギなのに、設備の類は動いているのも一緒ね」
「自動販売機あるですぅ!」
「ダメだってユーリィ!」

 ミサキが通路のあちこちの設備を用心深く見る中、通路の向こうにあるスナック菓子の自動販売機にユーリィが突撃していき、ユナが慌てて止めようとする。

「ポテチにチョコレート、グミもあるですぅ!」
「すごい食い意地………」
「財布持ってきてるのかな?」
「!? これって…」
「止まレ、危ない!」

 脇目も振らず突撃していくユーリィにパンツァー達が呆れる中、突然サーニャとエイラが同時に警告を発する。

「それじゃあ、まずは…」

 ユーリィが嬉々として自動販売機に手を伸ばそうとした時、並ぶスナック菓子をすり抜けて現れる影が有った。

「ユーリィ!!」
「伏せなさい! バッキンボー!」

 ユナが叫ぶ中、ポリリーナの投じたバッキンボーが自動販売機を透過して現れたノイズに直撃、霧散させる。

「あいつ、地上で出てきた!」
「他にも来るゾ!」
「あああ、もったいないですぅ!」

 突如現れたノイズに皆が一気に臨戦体勢になる中、ユーリィは攻撃の巻き添えで壊れた自動販売機からこぼれたスナック菓子を拾い始める。

「ユーリィ、後にして!」
「あっちからも来たぞ!」
「上下左右どこから来るか分からないぞ!」
「上下はこちらで感知する!」
「そのかわり、攻撃はそちらでやってくれ!」
「私達光の戦士の攻撃は有効よ!」
「問題は…」

 先程の一撃が効いた事でポリリーナは自分達でも対処可能と判断するが、ミサキがパンツァー達の方を見る。

「のずる!」
「任せて!」

 あかりの声にのずるが掃除機型のツールを向け、得意の旋風攻撃を繰り出す。
 吹き付ける旋風に、ノイズの動きが鈍るが飛ばされるまではしない事に、のずるがブリッドをツールに叩き込み、更に出力を上げると流石に吹き飛ばされ、壁に激突して霧散していく。

「効いた!」
「ブリッドを使用すれば、パンツァーの攻撃も有効よ! 私とのずるで相手するから、念の為に近接攻撃は控えて!」
「え〜? ダメなの?」
「触られたら炭になるって言われたろ!」

 パンツァーでも条件次第では十分対処可能と判断し、全員が戦闘へと参加していく。

「向こう側、四体」
「一体は右の壁、一体は天井から来るゾ!」
「壁からも距離を取って! 奇襲の可能性もあり得るわ!」
「ユーリィの攻撃効かないですぅ!」
「危ないから下がってて! お菓子はこの後で!」

 サーニャとエイラを中心として感知を主軸に、現れるノイズが次々と撃破され、程なく戦闘は終了する。

「これで終わりかな?」
「反応ありません」
「意外と少なかったわね………」
「上に出した分の余りダロ」
「じゃあおやつにするですぅ!」

 他に反応が無いかが念入りに調べられる中、ユーリィは自動販売機からこぼれ落ちたスナック菓子を貪り始める。

「悪くなってねえのかそれ?」
「あの子のお腹は特別だから、反物質でも食べない限りは大丈夫よ」
「ちょっと失礼」

 ミサキが戦闘の余波で床にぶち撒けられたスナック菓子の一つを拾って観察する。

「それほど古い物ではないわね」
「食べていいかは不明だけど………」
「これがFAF基地に有った物なら、ギリギリ賞味期限内。ただし、ここの時間経過がこちらと同じ場合に限る」

 ミサキとポリリーナがしげしげとスナック菓子を見つめる中、メイヴが袋を拾って賞味期限を確認していた。

「もうちょっと狭い所なら危なかったな」
「物質を透過できるという事は、壁も何も関係ないという事か」
「霧以上にデタラメな連中だ………」

 幻夢とキリシマが半ばもぐら叩きの攻撃で破壊された壁や天井を見て呟き、キリシマはなんとかノイズの残留データが無いかと探るが、何も見つけられなかった。

「後出て来ないよね?」
「大丈夫、だと思う」
「あいつらは出て来なイ、他にまだ何か出そうだけド」

 ユナが念の為に壁を小突いてみるが、サーニャとエイラが魔導針と占いで一応の安全を確認する。

「取り敢えず、更に警戒して進みましょう」
「だってさ、行くよユーリィ!」
「ああ、まだ食べかけですぅ!」
「すごい食い意地………」

 皆が先に進もうとする中、ユーリィが半壊した自動販売機に残ったスナック菓子に手を伸ばそうとするのをユナが止め、パンツァー達はその光景に呆れていた。

「じゃあこっちだね」
「おい待テ…」

 勝手に先に進もうとしたどりすが、ドアを開けて中に入ろうとするのにエイラが止めるが、突然中へと入ったどりすの姿が消える。

「な…どりす!?」
「あ〜〜れ〜〜〜………」

 慌ててパンツァー達がドアへと向かうと、僅かに聞こえてくるどりすの声にねじるが中へと一歩入った瞬間、その一歩が空を切る。

「え?」
「危ない!」
「あんたも!」

 慌ててはさみが手を掴んだ瞬間、ねじるの体が落下しそうになり、他のパンツァー達がはさみの体を掴んで引き止める。

「な、何だぁ〜!?」

 体が完全に虚空にぶら下がっている事にねじるが気付く。
 ドアの向こうは、広大な空間が広がっており、僅かになにかの明かりのような物が見えるが、あとは漆黒の状態だった。

「どりす、無事か!」
「いった〜い………」
「何とか無事なのだ! 早く来てほしいのだ!」

 ねじるが真下に叫ぶと、どりすの情けない声と共に、マオチャオの助けを呼ぶ声と共に小さな光が灯る。

「取り敢えず無事みてえだな………」
「誰か明り!」
「あ、ここに」
「どいて」

 なんとかよじ登ったねじるが胸を撫で下ろし、他のパンツァー達がほとんどドアの向こうが見えない中、あかりがツールで暗闇を照らす。

「なにこれ、とんでもなく広いわ………とても照らしきれない」
「こっちだよこっち〜」

 ライト型ツールでも端まで届かない広さに、真下から響くどりすの声も小さい事から、予想以上に広い空間が有る事にパンツァー達がつばを飲み込む。

「照明弾を使うわ、離れて」

 そこへミサキがレールガンに用意しておいた照明弾を装填し、ドアの向こうへと構えると発射する。
 発射された照明弾が一定の距離を飛ぶと、眩いばかりの光を発した。

「眩し!?」
「ちょっと強烈過ぎない!?」
「閉鎖空間探査用の永続照明弾よ。これなら活動に支障無いわ。それよりも見て」

 あまりの光量にクレームが出る中、自分だけちゃっかりゴーグルを閃光防御にしていたミサキだったが、照らし出された先にある物を見てさすがに顔色を変える。

「何だよ、これ………」
「何が何が?」
「ちょっと見えない!」

 光源から目を反らして下を見たねじるが絶句し、他の者達も覗き込もうとしてドアへと押し寄せる。

「お〜い」
「そこ動くな〜、今行くから」

 真下で手を降っているどりすに声をかけながら、ねじるは改めてそこに広がる物を見た。
 それは、無数の建物が並ぶちょっとした市街地だった。

「ジオフロントね。元は相当な規模のようだけど」
「ここからは詳細は確認出来ないが、一部だけを転移させたようだな」
「これもFAFの?」

 構造から見て、それがジオフロント=地下都市だと判断したミサキに、幻夢やハルナも頷く。

「該当データと一致。FAF本部地下市街地と判断」

 背の小ささを利用して隙間から覗き込んだメイヴのサーチ結果に、皆がメイヴの方を見る。

「だが、疑問が有る」
「なんで、ここまで破損してるんだ?」

 そこでハルナとキリシマが同時にある問題点を指摘する。
 よくよく見れば、並ぶ建物はあちこち破損しており、火災でも有ったのか焦げている物も珍しくない。
 さらにあちこちに先程戦ったパワードスーツや装甲車も転がっているが、遠目に見てもかなり派手に破損していた。

「惑星フェアリィ脱出作戦の際、ここでJAMとの戦闘が有った」
「ああ、派手な戦いが有ったって聞いてるが………」
「これがそうなんだ」
「これでも極一部だけどね」

 フェアリィ脱出作戦の詳細までは知らされていない者達が壊れた町並みを見ながら頷くが、その激戦の詳細を知るポリリーナは言葉を濁す。

「早く〜」
「さてどうやって降りっかな………」
「こうしよう」

 下からのどりすの声に、ねじるはいっそ飛び降りるかを悩むが、そこでハルナがフィールドで階段を作っていく。

「じゃあ順番に降りましょう」
「注意して、敵がいないとも限らないわ」

 ポリリーナとミサキが先導する中、皆が廃墟となっている地下市街地へと降りていく。

「やっと来た〜」
「遅いのだ」
「わりぃわりぃ、怪我は無いか?」
「それは大丈夫。飛び降りならどりあ姉さまから叩き込まれてるから」
「どういう訓練してるのかしら?」

 それなりの高さから落ちた割にはピンピンしているどりすを確認した皆は、改めて廃墟を見回す。

「間近で見ると一際ひどいな」
「ぼろぼろ〜」
「崩れそうな所も有るわ、気をつけて」
「で、どっちに向かう? かなり広いが………」

 皆がひどい有様なのを見つつ、幻夢が目的地を探す。

「サーニャ」
「待って、弱いけど反応が有る………多分こっち」
「ちょっと待っタ。念の為…」

 エイラがそこで銃を背負うと、用意しておいたダウジングロッドを前へと構える。

「これなら何か有ったラ、すぐ分かるんダナ」
「本当かよ」
「彼女はウィッチの中でも有数の感知能力を持ってるわ。頼りになるわよ」

 まさかのダウジング頼りにねじるが胡乱な視線を向けるが、ポリリーナはむしろ頼る事にする。

「この反応、間違いない。アイーシャがこの先にいる」
「こんなひどい所に?」
「私達はまだ感知してないな。更に先のブロックかもしれない」
「とても長期間人を幽閉するのに向いてるとは思えないしな」

 先頭で微かな反応を追うサーニャに、狂花が廃墟と残骸ばかりの町並みを見回し、ハルナが演算力を上げながら探索する中、幻夢も顔を険しい物にしていた。
 あちこちに転がる戦闘の跡に慣れていないパンツァー達は暗い顔をしていたが、そこでどりすが何かを蹴飛ばす。

「あれ? 何だろ?」
「拳銃だね、ここで使われた…」

 それが焦げた拳銃である事にマオチャオが気づくが、グリップに付いている黒い物がかろうじて原型を残した手で有る事に気付いて絶句する。

「きゃあぁぁ!! 手、手が落ちてる〜!」
「声に出すな! 見ちまったじゃねえか!」
「ナンマンダブナンマンダブ」
「神と子と、なんだっけ? 取り敢えずアーメン」

 モロの遺体に何人かが絶叫し、念仏や祈祷を始める。

「後にしときなさい。下手したら拝まれる側になりかねないから」
「この作戦が終わったら、慰霊祭が必要かもね」

 ミサキがたしなめ、ポリリーナが呟く中、二人は近づいて耳打ちする。

「気付いた?」
「ええ。あれ以外、遺体が無い。スーツの中身も空ね」
「一体、ここで本当は何が………」

 他にも何人かが違和感を感じ始めた時だった。
 エイラの手にしたダウジングロッドが、僅かに何かに反応する。

「ん? 何か有るノカ?」

 エイラが立ち止まって精査しようとした瞬間、そこで手にしたダウジングロッドが突然激しく左右に動き回り、挙げ句にねじ曲がってエイラの手から弾き飛ばされる。

「ア痛!? 何だァ!?」
「エイラ?」
「気をつけろ! 何か来るゾ!」

 あまりに激しい反応に、エイラが背負っていた銃を引き抜き、周囲を警戒。
 サーニャもそれに応じて銃口を向けながら周囲を探索する。

「全員集まって! 何か来るみたいよ!」
「何かって何!?」
「こちらにはまだ何の反応も…」

 ポリリーナが叫びながら自らも構え、他の者達も戸惑いつつ円陣を組む。

「どこから!?」
「待っタ、今………」

 ミサキがレールガンをチャージしながらエイラに問うが、そこでサーニャの魔導針が反応する。

「向こうの建物の影、何かいる」

 サーニャの指摘した方向を全員が一斉に警戒する。
 物陰になってよく見えないが、そこにある物がゆっくりと動き始める。

「また無人スーツか?」
「待った、これは、生体反応有り! さっきまで無かったはず!」

 幻夢が先陣を切ろうと待ち構えるが、そこでハルナも突然発生した反応に驚く。
 そして、その影から異質な咆哮が轟いた。

「何、何!?」
「生き物なのか!?」

 明らかに生物の咆哮に全員が驚く中、固有魔法でいち早く何が来るのが見えたエイラの顔色が一気に青くなる。

「あ、悪魔?」
「え………」
「来るわよ!」

 エイラの呟いた言葉に、サーニャが戸惑う中、ポリリーナが動く影が宙に浮かんだままの照明弾の明りの下に現れる。

「え………」
「何だあいつ!?」
「エイリアン!?」
「モンスターだ!」

 それは、紫色の体躯にコウモリのような翼を持ち、鋭い爪の生えた四肢と牙の生えた口を持った文字通り悪魔のような外見を持った異形の怪物だった。

「どの道、敵だ」
「一気に潰せば…」

 予想外の敵におののく者達を差し置き、幻夢とハルナが攻撃をしようとした時だった。

「他にもいる! 反応多数、囲まれてる!」
「いつの間ニ!」

 サーニャが警告を発し、エイラが周囲を見回す。
 その言葉通り、残骸の影から這い出し、瓦礫の上に舞い降り、幾つもの異形に彼女達は取り囲まれていた。

「どうやら、これがここのガーディアンのようね………」
「どこの星から連れてきたエイリアン!?」
「それは後から分かるだろう」
「来るぞ!」

 全く予想外の敵に皆が恐怖を感じつつも、構える。

「行くよみんな!」
『お〜!』

 気せずしてユナが上げた号令に皆が一斉に答え、襲ってくる怪物へと向かっていった。





感想、その他あればお願いします。


NEXT
小説トップへ
INDEX


Copyright(c) 2004 all rights reserved.