第二次スーパーロボッコ大戦
EP55



異なる世界 横須賀鎮守府


「そろそろ時間だね」
「ビーコンは出してるから問題無い。はず」
「はず?」

 桟橋に立ち、誘導ビーコンを発していたバーゼラルトとスティレットの会話に、一緒にいた長門が首を傾げる。

「FAFだと、ここまでの大質量の次元転移は実例が無くって」
「Gからのデータも有るし、向こうは空間座標も設定してるはずだから、多分大丈夫」
「本当に大丈夫なのかしら?」

 この鎮守府に来訪するはずのNORNの使節団を迎えるために待機していた陸奥も思わず首を傾げる。

「まだ次元転移に使える母船が少ないんだって」
「用意した転移装置だと、往復一回が限度らしいわ。一応単騎で次元転移可能な母船も有るらしいけど」
「なぜそれを使わない?」
「全長12kmの宇宙戦艦だって。すっごい目立つけどいい?」
「………どうやっても誤魔化せないわね」
「この訪問も大本営に知られたらどうなるか」

 そんな事を言う中、鎮守府から少し離れた沖合の海面上に、突然渦のような物が現れる。

「あ、来た来た」
「時間どおりね」

 その渦からゆっくりと巨大な潜水艦が現れる様に、長門と陸奥の口から感嘆の声が漏れる。

「これは………」
「すごいわね」

 その潜水艦、蒼き鋼旗艦 イー401がその全体をさらけ出すと渦は消え去り、そしてイー401から通信、発光信号の両方が入る。

『こちらNORN使節団搭載、蒼き鋼所属潜水艦 イー401、そちらへの着岸を希望します』
「こちら横須賀鎮守府秘書艦 長門、貴艦の着岸を歓迎する」

 通信と用意していた探照灯双方で返答した長門に、了解の返礼を送ったイー401はゆっくりとこちらへと近付いていくる。

「外見は確かに資料に有ったオリジナルのイー401に告示してるな」
「中身は全く別物らしいよ」
「とんでもない兵器のオンパレードだってデータに有るし」
「いいの、そんな事バラして?」
「いいんじゃない? 機密事項に入ってないし」
「私達FAGは民間用からの転用機だからね。戦闘妖精ほど機密事項はきつくないし。その代わりやばいデータは回されてこないわ」
「やばいデータ、ね………」

 何か引っかかるものを陸奥が感じる中、桟橋につけたイー401からタラップが伸び、そこからフライトジャケット姿の女性が姿を表す。

「出迎えご苦労、私はNORNの交渉代表として派遣されたカールスラント空軍ウィッチ隊総監 アドルフィーネ・ガランド少将だ」
「お待ちしておりました。横須賀鎮守府秘書艦、長門です」
「姉妹艦の陸奥です」

 自己紹介しながら敬礼するガランドに、長門と陸奥は返礼する。

「随分と若い少将さんですのね」
「まあ色々有ってな。一応現場からの叩き上げだ」
「お〜、無事戻って来れたネ!」
「あ、長門さん。今帰還しました」
「なんかすごい久しぶり〜」
「間違ってないけど」

 予想外の相手に陸奥が少し驚く中、当のガランドの脇から艦娘達が次々と姿を見せる。

「とりあえずは預かっていた者達を返そう」
「すまない、色々と面倒をかけたらしいな」

 無事に帰ってきた者達を見て安堵した長門だったが、最後に出てきた艦娘を見てさすがに驚く。

「如月!? 沈没したはず………」
「色々有って、なんとか帰ってきました」
「無事で良かったわ。あいにく今睦月さんは哨戒任務に出てるけど」
「無事、と言えるかどうか………」
「あの、その話は後で」

 言葉を濁す如月に、吹雪が慌てて取り繕う。

「事態は恐らくそちらの予想以上に複雑です。
申し遅れました、このイー401艦長の千早 群像です」
「イオナ、401のメンタルモデル」

 艦娘に続けて、群像とイオナも姿を見せて自己紹介する。

「艦長さんもお若いんですのね」
「我々蒼き鋼は公的な軍事組織ではない、特殊な組織なので。明確な階級もありません」
「NORNも半分は軍関係が多いが、もう半分は民間の究極の寄せ集め所帯だからな。そこにそちらも誘おうと来た訳だ」
「聞いてはいたが、随分と率直に来たな」
「今更取り繕っても仕方ない。それはそちらも理解してると思ったがな」

 ガランドの言わんとする事が、前回の襲撃だという事に気付いた長門がしばし沈黙する。

「正式参加は後にしても、互いに協力しなければならない状況だとは思いますよ」

 そこでかけられた声に、長門がそちらを見る。

「失礼、ガランド少将の護衛で同伴した501統合戦闘航空団 隊長のミーナ・ディードリンデ・ヴィルケ中佐です」
「秘書艦の長門だ。どうやらこちらの予想以上にかなり切羽詰まった状況のようだな」
「詳しい事は後で彼女に聞けばいい。こういうケースは初めてではないからな」
「ええ、残念ながら」

 ガランドの指摘に、ミーナが思わずうなだれる。

「まあ前のに比べればいきなり何もないところに放り出されないだけマシな方か。501副隊長の坂本 美緒少佐だ。もっとも今はNORNの特別教官の方が忙しいがな」
「なるほど、そちらでは似たような事が前にも有ったのね」

 陸奥の指摘に、美緒とミーナは同時に頷く。

「ああ。だから同様の被害に有っている組織と一刻も早く同盟関係を結びたい。どうやら今回は前よりも規模が大きいようだからな」
「一理あるわね。もっともここは複数有る鎮守府の一つでしかないけれど」

 陸奥が苦笑するが、ガランドがそれに笑みで返す。

「まずは初めの一歩、という奴だな。それと」
「?」
「そっちの人は先程からなぜこちらを凝視してる?」

 ガランドの指摘に、陸奥がそちらを見ると何故か長門がウィッチ三人、正確にはその肩にいる武装神姫達を瞬きもせずに凝視していた。

「………長門」
「あ、すまない。それはFAGか?」
「違うよ、彼女達が連れてるのは私達のモデルになった武装神姫」
「ゴリゴリの実戦用よ、下手に手出ししない方いいわよ」
「どうも、ウィトゥルースです」「ストラーフだよ」「アーンヴァルです」

 バーゼラルトとスティレットの紹介に、武装神姫達はそれぞれ挨拶する。

「そちらでは各個で彼女達を連れているのか?」
「いえ、たまたまです」
「前回の戦闘で、次元転移反応を持つ戦闘能力者、もしくは最激戦となった世界のウィッチ隊長クラスに派遣されたんだ」
「今回も同様の条件の方に派遣されてます。先程の艦娘の方々にも派遣されてますよ?」

 当の武装神姫達に説明され、長門が首を急旋回させて他の艦娘達に向こうで有った事を報告してる吹雪や金剛の肩にいるランサメントとエスパディアに気付く。
 それを見た長門は少し考えると、格納庫へと向かおうとする。

「すまないが少し出てくる」
「待ちなさい、お客様の相手があるでしょ」

 勝手に出撃しようとする長門を陸奥が肩を掴んで止める。

「何だあれは?」
「さあ………」
「深く考えない方がいいだろう」

 ガランドとミーナは首を傾げるが、なんとなく察した群像が強引に話を中断させる。

「失礼しました、ではこちらに」
「了解した、警備の方は頼むぞ」
「はい少将」
「一応401は待機態勢に」
「出番がなければいいが」

 交渉役のガランドと群像を見送り、ミーナと美緒がその場に残るが、何気に後ろを見たガランドは時を置かずして艦娘たちにイー401が囲まれているのを見る。

「凄ーい!こんな大きい潜水艦がいきなり現れたよ」
「表面装甲は見た事ない素材ね」

 興味本位で船体に触れようとした艦娘たちも出始める。

『ちょっとー! 勝手に触らないでよ!』
「え? え? 何これ。」
「何もない所に映像?」
『ちょ、説明するからなんでもかんでも触ろうとしない』

 タカオが空間映像を出して止めようとするが、かえって艦娘たちの興味を引くだけだった。

「アレなら衝突は起きないか」
「好奇心が旺盛な者達ばかりでな」
「どこもそういう所は変わらないか」
「分解しようとする人がいないのは幸い」
「………いるんですかそんな人?」
「連れては来てない」

 イオナからそれとなく危険な事を聞きながらも、長門と陸奥の案内で鎮守府の提督執務室へと皆が案内される。

「提督、連絡の有ったお客様を連れてきました」
『入ってくれ』

 長門がノックと共に来訪を告げ、扉が開かれる。
 中へと入ったガランドと群像は、執務机越しに中にいた士官服姿の中年軍人へと相対する。

「初めまして、私がこの横須賀 鎮守府を治める提督、冬后 赫人(せきと)、階級は少佐だ」
『あ…』

 その顔を見た群像とイオナが思わず声をあげる。

「どうかしたかな?」
「いや失礼、知っている人物によく似ていた物で」
「名字も同じ」

 冬后提督の顔がソニックダイバー隊の冬后大佐に極めて似ている事に群像は驚き、イオナも頷く。

「どういう事かな?」
「恐らく、パラレル存在です」

 首を傾げる冬后提督に、ガランドの肩にいたウィトゥルースが応える。

「パラレルワールドって似て非なる世界だから、似てる人や物が結構有るらしいよ」
「こちらの冬后提督とそちらの冬后さんはパラレル存在かパラレル血縁者、結構いるらしいわ」

 バーゼラルトとスティレットが補足説明し、思わず長門は冬后提督と顔を見合わせる。

「何だ、それならその人を連れてくれば早かったな。おっと、交渉代表として派遣されたカールスラント空軍ウィッチ隊総監 アドルフィーネ・ガランド少将だ」
「確かに一度会ってはみたいが、とにかく後だ」

 代表として名乗ったガランドの差し出した手を、冬后提督が握り返す。
そこでガランドは相手の手が手袋越しだが義手である事に気付く。

「いささか無作法で済まない。素だと駆逐艦の娘達が怖がる事が有ってね」
「別に構わない。こちらでは珍しくもない」
「つまりそういう世界からの来訪、という事かな」
「そちら同様、こちらもネウロイと言う存在と絶賛戦争中だ。そこにJAMとかいう余計な物がちょっかいを出してきてな。さて、まずはどこから始めようか」
「事情はFAGの二人から聞いてはいる。先日、全組織合同で大規模な作戦が有ったという事も」
「なるほど、ではそちらの現状を確認する所から始めようか」



横須賀鎮守府 工廠

「何、これ………」
「とんでもないって事だけは分かるわ」

 如月が帰還した、と聞いた艦娘の開発整備担当の明石と夕張が念の為に如月の体をチェックした所で、その異常さに気付く。

「如月さん、FAFの人達に救出された時はすごい重傷で、こうするしかなかったそうです………」
「なるほど、変質を機械化改造で食い止めた訳ね」
「でも、これ私達の手に負えるかな?」
「あの、一応整備マニュアルがここに。専用整備ポットも準備中だそうです」

 吹雪がFAFで用意された整備マニュアル(下手な辞書顔負けの厚さ)を差し出し、明石と夕張の顔色が変わる。

「一体何者? これをしたのは」
「こんな技術、どこの鎮守府でも到達してないでしょうね」
「それこそ異世界の技術だ。詳しい事は改造した当人にしか分からないが、その人も重傷を無理したのが原因で面会謝絶らしい」

 吹雪の肩にいたランサメントの説明に明石も夕張も顔を見合わせる。

「大丈夫なのよね? どこかおかしい所とかない? 夜中に目が点滅するとか、口から炎吐くとか」
「ひょっとしたら変形合体機構とか」
「そういうのは無いと………」
「あ、でも食事量がすごい増えたみたいです。原因は不明だそうですけど」
「恐らくは改造部分の制御にカロリーを使うのだろう。戦闘力は格段に上がっているが、コストの面から考えるとどうかは不明だ」
「う〜ん、詳しい所は実働データ取ってみないとダメか」
「提督にも話通しておいた方いいかもね。こりゃまったく別の艦種になるかも…」

 明石と夕張が分厚い整備マニュアルに目を通しながら唸っていた時だった。
 突然甲高いシグナル音が工廠に鳴り響く。

「うわ!?」
「何!?」
「ランサメント!?」
「401から緊急通信! そちらの艦隊からの救援信号受信!?」

 それがランサメントから響いてきていると気付いた吹雪だったが、続けての報告に全員の顔色が変わった。



「何事だ!?」
「す、すいません、401から…」
「タカオから緊急通信、救援信号と思わしき通信を受信したらしい」

 提督執務室に突如として鳴り響いたシグナル音にその音源であるウィトゥルースに視線が集中し、続けて同席していたイオナから説明が入る。

「中継する」
『こち………第四艦………強りょ………海棲艦に遭遇………被が…甚大………救援………』
「大変です提督! 第四艦隊から救援信号!」

 そこへ大淀が執務室に慌てて飛び込んでき、救援信号が本当だという事を確信させた。

「位置は…」
「はい、確か…」
「イオナ、タカオと共に発信源を特定出来るか?」
「了解」

 大淀が地図を広げる中、イオナがグラフサークルを展開させる。

「これは…」
「彼女はメンタルモデル、自我と体を持った高性能コンピューターのような物だと思ってもらえばいい」
「つまりこの子達の大きい版?」
「スペックが違いすぎるわよ」

 驚く鎮守府の皆に群像が簡単に説明、陸奥が肩にいたFAGを指差すが、スティレットが微妙に修正する。

「ノイズがひどい、だけど大体の位置は分かった」
「深海棲艦の出る海域はデジタル化した機器ほど影響を受ける。艦娘の艤装が旧世代をベースにしている理由だ」

 イオナが地図を投射し、大淀も大体の位置を地図で確認している事を確認する。

「近隣に他の艦隊は?」
「当鎮守府ではおりません、他の鎮守府にも問い合わせてみます」
「まずいな、今から出撃しても間に合うか?」
「距離的に難しいわ。他の鎮守府への問い合わせを急がせて…」
「待った。救援が必要なのだな?」

 救援を模索する中、ガランドが声を上げる。

「千早艦長、行けるか?」
「バーストモードを使用すれば、左程時間はかかりません。ただ冷却にかかるので往復は無理ですが………」
「あくまで救援要請を出した艦隊の救出を目的とし、501航空団に戦闘を一任、救出の後に全速で離脱すればいい」
「確かに。今回はほぼ空荷なのでペイロードの問題も無い。イオナ」
「タカオに連絡、緊急出撃を」
「いいのか? 来たばかりなのに」
「何、恩は売っておくに限るからな」
「あの、ご主人さま堂々と言わなくても…」

 冬后提督の確認に胸を張るガランドに、ウィトゥルースは恐る恐る釘を刺す。

「では提督」
「背に腹は変えられん。そちらに依頼する」
「了解、これより蒼き鋼旗艦 イー401は救援信号の発信源に急行します」

 長門に促され、冬后提督の依頼に群像は敬礼して執務室から出ようとするのを、大淀が止める。

「待ってください! どうにも相対している深海棲艦は、最近投入したらしい新兵器を使ってる模様です」
「新兵器?」
「はい、何でも異様な力を持った刀らしいのですが………」



 鎮守府内に緊急シグナルが鳴り響く。

「何事ネ!?」
「第四艦隊から救援信号だって!」
「今来た潜水艦が救援に向かうらしいよ!?」
「間に合うの?」
「あの潜水艦、とんでもない物を色々積んでるから大丈夫だとは思うけど………」

 艦娘達も騒ぐ中、イー401は大急ぎで出港準備を進めていた。

『さっき来たばかりなのに!』
「仕方有りませんね。艦長が戻ったらすぐ出港します。バーストモードの用意をしていてほしいそうです」
「現地到着と同時に501統合戦闘航空団は第四艦隊救出のために出撃します! 準備を!」

 ブリッジでタカオがかんしゃくを起こしかける中、僧がなだめてブリッジにいたミーナが船内に待機していたウィッチ達に準備をさせる。

「やれやれ、話し合いしている暇も無いな」
「我々の時もそうでしたからね………」

 ブリッジにいた美緒がボヤきながら頭をかくが、僧が一番最初に転移させられた時の事を思い出す。

「相手は深海棲艦だろ? 手持ちじゃあんま効果無いぜ?」
「通常兵器は補充できましたが、侵食兵器はようやく試作の目処が立った所ですしね」
「戦闘はこちらに一任してください。ウィッチならば効果が有るのは実証済みです」
『艦長来たわよ、おまけも』

 兵装をチェックしながら杏平もボヤき、僧も悩む中、ミーナが戦闘を請け負いながらも自らも準備をするためにブリッジを飛び出し、そこへタカオが外の映像にこちらに向かってくる群像とイオナ、そして艤装を装備した如月と吹雪の姿を映し出す。

「考えたら、いきなり知らない人達がいったら向こうも警戒するかもしれませんね」
「ちょうどいい、あの二人にも同行してもらいましょう」
『出港準備完了、艦長も今乗り込んだわ』
「横須賀鎮守府に出港を打電してください」
「了解、イー401、これより救援のために出港します」
「出港だ! 安全域まで通常航行、安全域到達と同時にバーストモードで目標海域に全速!」
「出港〜」

 ブリッジに飛び込んできた群像の指示に従い、イー401が緊急出港する。

「到着時間を逆算、救援に向かっている事を打電!」
「了解、でも信用してくれますかね?」
「誰かが向かってきているという連絡だけでも心構えになる。損は無いだろう」

 群像の指示に静が少し首を傾げるが、美緒の進言にとにかく打電する。

「急いでください! 第四艦隊には睦月ちゃんが!」
「早く!」
「分かってます。バーストモードを使いますので、控室で体の固定を」

 そこに如月と吹雪が艤装を背負ったままブリッジに入ってき、僧がなんとかなだめる。

「急ぐぞ、この作戦に今後の同盟の是非が掛かっている」

 群像の言葉が、違う意味で当たっている事をその時は誰もが知りようもなかった。



「被害状況は!」
「睦月さん最上さんが小破、那珂さんが中破! 戦闘続行は可能だけれど………」

 眼帯に耳飾り状の電探を装備した天龍型軽巡洋艦一番艦《天龍》の問に、リング状の電探を装備した天龍型軽巡洋艦二番艦《龍田》が報告する。

「睦月! 那珂を連れて下がれ! 駆逐の装甲じゃ持たねえ!」
「けど天龍さん!」
「救援は来れるかどうか分からねえ! しかも相手がヤバすぎる!」

 叫びながら、天龍は手にした大刀を見る。
 対深海棲艦用に作られた特殊鋼製のそれは半ばから折れていた。

「次にアレが来たら………」
「天龍ちゃん! あなただって中破してるのよ!」
「分かってる! だがなんとしても退路だけでも…」
「! 何かが急速に接近! は、早い!?」

 那珂に肩を貸していた睦月が、そこで異変に気付く。

「まさか敵の増援!?」
「いえ、深海棲艦でも艦娘でも有りません! もうすぐそばに!」

 睦月の報告を裏付けるように、苦戦する艦娘達の視界の端に、何かが急浮上してくる。

「潜水艦!? 通常艦艇なんて深海棲艦の的にしかならねえぞ!」
「通常、じゃないみたい………」

 天龍が思わず怒鳴るが、龍田はその潜水艦が何か違う事を悟っていた。
 直後、その潜水艦から次々とミサイルが発射、対峙していた深海棲艦に雨あられと降り注ぐ。

「やっぱ通常兵器か! だが今の内に…」

 天龍が後退を指示しようとするが、そこで何かが降り注ぐミサイルを一気に薙ぎ払う。

「ダメか!?」
「あの潜水艦から入電! こちら蒼き鋼旗艦イー401、救援部隊と共に到着、退避されたし!」
「蒼き鋼ってどこの部隊…まさかあの人形が言ってた!」
「天龍ちゃん、あれ!」

 そこでイー401から次々と何かが飛び立つ。
 近付いてきたそれが、足にプロペラ状のユニットを装備した少女達だと艦娘達は気づき驚く。

「飛んでる………」
「飛んでんな………」
「こちら501統合戦闘航空団! これより貴方達を援護します!」

 間近でホバリングしたミーナが宣言しつつ、ウィッチ達が一斉に深海棲艦へと攻撃を開始する。

「フォーメーションはキャンサー! 艦娘の人達の救援を最優先!」
『気をつけろ! 先程何か使ったぞ!』

 ミーナの指示にブリッジからの美緒の警告が重なる。

「大きさこそこちらと左程変わらないが、装甲は大型ネウロイ並だ! 攻撃を集中させるぞ!」
「まずはそこの魚から!」

 バルクホルンとハルトマンが、まず手近にいた単眼の魚類のような姿をした駆逐ハ級に集中砲火。
 とっさに潜航しようとしたハ級だったが、501のエース二人の集中砲火に耐えきれずに爆散轟沈する。

「まず一体!」
「反撃くるゾ!」

 そこにエイラの警告通り、深海棲艦達が一斉にウィッチ達へと反撃してくる。

「速度を落とさないで! 向こうはこちらの戦い方を知らないはず!」
「だったら、こうだ!」

 ミーナの指示に従い、旋回を続けるウィッチ達だったが、そこでシャーリーが固有魔法の加速を使い、深海棲艦が反応出来ない速度ですれ違いつつ、銃撃を叩き込んでいく。

「手応えは有ったんだけど、硬いな〜」
「ダメージは与えてます、お姉様」

 思ったよりも相手が怯んでいない事にシャーリーは顔をしかめるが、並走している飛鳥が相手の艤装の破損を確認していた。

「ようし、もういっぺんだ!」
「シャーリー、私も!」

 そこへルッキーニも並ぶと、二人同時に突撃を敢行していった。


「すげ、なんだアレ………」
「破損している人達は下がって! どうやら味方よ! 天龍ちゃんも!」

 宙を縦横に飛び交い戦うウィッチ達の戦いに艦娘達は唖然とするが、龍田が後退を促す。
 だがそこでウィッチ達の攻撃をかいくぐり、セーラー服姿の見た目は完全に人型の戦艦タ級が向かってくる。

「やばい! 急げ!」
「アレにこられたら…」

 相手の旗艦に危険を感じる天龍と龍田だったが、そこで飛来した小型ミサイルが次々とタ級に命中、通常兵器が効かないはずのタ級が絶叫した。

「今度は何だ!?」
「睦月ちゃんも那珂ちゃんも下がって!」

 天龍が思わず叫ぶ中、通常ならありえない高速でこちらを追い越していったヘッドバイザーをかぶった艦娘に気付く。

「早っ!?」
「今の、まさか………」
「睦月ちゃん! 天龍さん達もあの潜水艦に!」

 自分の名前を呼ばれた事に睦月が気付く中、遅れて吹雪が辿り着く。

「吹雪ちゃん!? 戻ってきたの!?」
「説明は後!」
「援護します!」
「早く401に!」

さらに上空に芳佳とリーネ、静夏が待機して撤退を援護する。

「よくわかんねえけど、撤退だ!」
「あの潜水艦は大丈夫かしら?」
「結構頑丈だから大丈夫! レ級の攻撃にも少しは持ったし!」
「少しかよ」

 天龍と龍田が先導するのを吹雪がサポートしてるのか不安にしているか判断に困る事を言いつつも、タ級に照準を合わせる。
 だがそこで、銃撃や砲撃を受けながらもタ級が何かを構える。

「刀?」

 それが漆黒の刀身を持つ抜身の刀だという事、本来タ級はそんな物を持っていないという事を思い出した吹雪が訝しむが、それを見た天龍の顔色が変わる。

「やばい、来るぞ!」
「吹雪ちゃん、避けて!」
「え…」

 天龍に続けて睦月も叫ぶ中、タ級が漆黒の刀を大きく横構えする。

「薙ぎ払う気か!」
「その潜水艦の影に!」
「させない!」

 天龍達の様子にただならぬ物を感じた如月が横手に回って腕に装備された小型レールガンを速射するが、明らかにダメージを負いながらタ級は漆黒の刀を後ろへと引き、その刀身から禍々しいオーラが漂い始める。

「固まれ! 来るぞ!」

 もはや回避は不可能と判断した天龍が半ばから折れた刀で放たれる一撃をなんとか受け止めようと構えるが、その彼女の前に立つ者がいた。

「死ネ!」

 怨嗟と共に漆黒の刀が横薙ぎに振り抜かれ、そこから斬撃其の物がエネルギーとなって放たれる。

「させません!」

 艦娘達を守るべく立ちふさがった芳佳が、全開でシールドを展開、放たれた大斬撃波を受け止める。
 大斬撃波とシールドが拮抗し、周辺に盛大にエネルギーが飛び散る。
 僅かな間、だが見ている者達には長時間にも思える拮抗の後、芳佳が弾き飛ばされる。

「芳佳ちゃん!」「宮藤さん!」

 慌ててリーネと静夏が弾き飛ばされた宮藤へと接近してなんとか受け止める。

「芳佳ちゃん大丈夫!?」
「だ、大丈夫だよリーネちゃん………」
「そんな、宮藤さんのシールドで相殺がやっと!?」

 今この場にいるウィッチの中でも最高クラスのシールドを持つ芳佳ですらギリギリのタ級の一撃に、静夏は戦慄する。

「それよりも今の攻撃、見覚えが………」
「え!?」
「私も、どこかで………」


『艦娘の子達、順次回収中よ』
「回収終了と共に撤収準備! 深海棲艦との距離は保ち続けろ!」
「言われなくても!」

 タカオからの報告を聞きつつ、群像が指示を出す。
 そんな中、美緒は映し出されている外の状況に釘付けになっていた。

「今の一撃、まさか…アーンヴァル!」
『はいマスター!』
「あの深海棲艦の持っている刀を精査出来るか!? 戦闘は避けろ!」
『分かりました!』

 艦外でメンタルモデルとは別に戦況をモニターしていたアーンヴァルが、美緒の指示でタ級へと接近、更に美緒は用意していたライドオン用のゴーグルをセットする。
 間近まで迫ってきたアーンヴァルをタ級は訝しむが、アーンヴァルは自慢の高速飛行でタ級の周りを旋回しながら、漆黒の刀をサーチする。

『こ、これは登録されているデータに一致する物あり!』
「やはりか、あれは………私のかつての愛刀、烈風丸だ!」
『え!?』

 美緒の一言に、ブリッジ内の全員が驚く。
 美緒自身、色が完全に変わっているが、忘れようもない愛刀の姿に愕然としていたが、即座にある事を決断する。

「ミーナ、撤退だ! 深海棲艦に烈風丸が渡っている!」
『何ですって!? じゃあさっきの一撃は!』
「間違いない、烈風斬だ! 宮藤のシールドで防ぐのがやっとでは、他の者では持たない!」
『分かったわ、全機順次撤退! 撤退よ!』
「艦娘達の回収は!」
『負傷してたのは全部回収! 後は付いてきた二人とウィッチ達!』

 美緒の進言を即座に汲んだミーナが撤退を指示、群像も危険を察して作業を急がせる。

「あんた、あんなやべえ妖刀使ってたのか………」
「元々は低下する魔法力を補うために打った刀だったが、結果は持ち主の力を根こそぎ吸い取る刀になってしまった。オペレーション・マルスで失われたと思っていたのだが………」

 杏平が下手な兵器以上の攻撃力がありそううな烈風丸に恐怖を覚えるが、それが敵の手に渡っていた事に美緒は思わず拳を強く握りしめる。

『第四艦隊の人達、搭乗しました! あの刀、そう連発は出来ないそうです!』
「だろうな、よく知っている」
『負傷者がいる! 治療準備を!』
「宮藤戻れるか!」

 吹雪からの通信を聞きつつ、美緒がかつての愛刀にどう対処するべきかを悩む。

「いおり、空間転移は可能か?」
『無茶言わないで! バーストモードの冷却だってまだなのに! 通常航行が限度!』
「タカオ! どこまで出せるか割り出せ!」
『聞いてた通りのデータだと、逃げ切れるかギリギリ!』

 群像も各所に指示を出すが、あまりにこちらと質が違いすぎる深海棲艦相手にどう退却すべきか悩む。

『坂本少佐! 殿はお任せください!』
『私も! 私の速度なら逃げられる!』
『だったら私も私も!』

 そこでペリーヌが殿を申し出、シャーリーとルッキーニも立候補する。

「ミーナ」
『分かったわ、501部隊は順次401に撤退! ペリーヌさん達も気を見て脱出を!』

 ミーナも三人の意見を聞き、ウィッチ達も次々401に撤退していく。

『潜航して少しでも離れてくださいまし! 最大出力で行きますので!』
「潜航? 最大出力?」
「なるほど、その手が有ったか」

 ペリーヌの言わんとする事に杏平は首を傾げるが、美緒はすぐに理解する。

『ウィッチ達を回収完了!』
「急速潜航! 現状の最大速度でこの場を離脱!」
「急速潜航〜」

 タカオの報告を聞いた群像は即座に離脱を指示、イオナが艦を一気に潜航させていく。

「念の為レーダーの類の封鎖を。巻き添えを食うかもしれん」
「タカオ、各センサー一時封鎖! 静夏、ソナーのセーフイティー最大!」
「あ、そういえばあの人の固有魔法とかいうの………」

 美緒の進言に群像がうなずいて指示を出す中、静夏はこの間の合同模擬戦の事を思い出していた。



「よし、401は離れたぞ!」
「下からバンバン撃ってくるよ〜」

 シャーリーが401の艦影がもう見えない事を確認、ルッキーニが前に出てシールドを張る中、ペリーヌは一度呼吸を整える。

「ヴェルヴィエッタ、貴方も離れてなさい」
「り、了解マスター」
「飛鳥もこっち! 念の為ここに入ってろ!」
「むご!?」

 ペリーヌが己の武装神姫を遠ざけさせ、シャーリーも飛鳥とまとめてひっつかむと、胸の間へと突っ込む。

「シャーリー! 下のまた構えてる!」

 そこでルッキーニがタ級が再度烈風丸を構えようとしているのに気付くが、ペリーヌはそれに対して憤怒する。

「坂本少佐の刀、奪還したい所ですが後回しにさせてもらいますわ! でも、お仕置きは
せてもらいますわよ!」

 そこでペリーヌは手をかざすと、そこに放電が生じ始める。

「全力で行きますわよ、トネール!!」

 ありったけの魔法力を込め、ペリーヌの固有魔法の電撃がタ級へと向けて放たれる。
 さすがに電撃なぞ食らった事の無いタ級は回避しようもなく、さらに電撃は海面を伝わってそこにいる深海棲艦全てに炸裂する。

「効いてる!」
「よし逃げるぞ!」

 海面上にいる以上、逃れようのない攻撃にルッキーニは喝采をあげるが、シャーリーは詳細を確認もせずにルッキーニとペリーヌを両脇に抱え、固有魔法の超加速を発動させてその場を一気に離脱する。

「次は絶対返してもらいますわよ〜………」

 ペリーヌの捨て台詞も音速近くで置き去りにする中、烈風丸をかろうじて持ったまま、大破状態のタ級がすでに見えなくなっているウィッチ達を睨みつけていた。



「負傷者はこちらに! 手当てします!」
「艦娘の傷は普通の手当てじゃ…」
「大丈夫です、宮藤少尉は治癒魔法が使えるんです」
「治癒、魔法?」
「艤装はこっちに外して! 着火してるのとかはない!?」
「あ〜、ウルスラ連れてくるんだった………」

 急行でその場を離れる401の艦内で、吹雪やウィッチ達によって負傷した艦娘達の応急処置が行われていた。

「ともあれ、助かった。あの刀のせいであちこちの艦隊が壊滅してんだ」
「あちこち? 烈風丸は早々使える刀では…」
「それが、どうにも深海棲艦の中で使いまわしてるらしいの。見る度に使い手が違うらしいわ」
「なるほど、その手が有ったか」

 天龍と龍田の説明に、ミーナが首を傾げるがブリッジから訪れた美緒が頷く。

「迷惑をかけたようだ。あれは本来、私が自分用に鍛えた刀だったのだが………」
「お前のかよ! つうかなんちゅう妖刀作ってんだ!」
「はいはい、とにかく天龍ちゃんも応急処置ね」

 思わず怒声を上げる天龍だったが、龍田がなだめて艤装を外していく。

「睦月ちゃん、無事で良かった」
「まさか………」

 同じく艤装を外していた睦月に、如月が近寄ってヘッドバイザーを外す。

「き、如月ちゃん!? 本当に如月ちゃんなの!」
「うん、そうだよ。ただいま」

 驚く睦月に如月が頷き、睦月は思わず如月を抱きしめる。

「お帰り………お帰り如月ちゃん………」
「ごめんね、心配させたね睦月ちゃん………」

 そのまま二人は人目もはばからず泣き始める。
 皆はそれを静かに見守っていた。

「さて、あなた方といい、如月ちゃんの事といい、聞きたい事がたくさんあるわね」
「どこから話したらいいのか、悩む所ね………」
『こちらブリッジ、殿の三名のウィッチ達の無事離脱を確認しました。ランデブーポイントを認識、そちらに向かいます』
「これで全員無事に帰れたか。問題が更に増えたがな」

 艦内放送に美緒も胸をなでおろす中、新たなる問題に頭を悩ませる。

「どいてどいて〜」
「回復ドリンク持ってきました〜」
「まずは本部に報告、それと増援ね」

 ストラーフとアーンヴァルが倉庫から用意してきた回復ドリンクを持ってきて配るのを見ながら、ミーナも思わず唸る。

「提督になんて説明すればいいんでしょうか………」
「戦闘データはリアルタイムで向こうに送ってる。ウィトゥルースを介してあちらでも見てたはず」
「あの刀の事は今じゃ有名だからな。提督もライブで見たのは初めてだろうが」
「見た子はほとんど大破で入渠送りになってるわよ。私達もそうなる所だったけど…」

 吹雪とランサメントが説明を考える中、天龍と龍田も改めて深海棲艦に烈風丸が渡った事の深刻さを悩んでいた。
 しかし、そこで小さな音が響いて全員の会話が中断、その音源へと視線が集中する。

「えと、その………お腹すいちゃった」

 睦月と抱き合って泣いていた如月が、お腹を抑えて照れ笑いするが、再度彼女のお腹から空腹を知らせる音が鳴り響く。
 それを聞いて深刻な顔をしていた美緒が思わず苦笑する。

「食料は一応積んでいたな?」
「はい、有事に備えてそれなりに」
「宮藤、は治療で手が離せないな。何かすぐ食べられそうな物でも…」
「あ、どうせなら急いで戻って鳳翔さんに何か作ってもらおうよ。無事に帰還出来たお祝いも兼ねて」
「間宮さんにも頼みましょう! 豪勢にデザート大盛りで!」
「そうだね。久しぶりに鎮守府のご飯食べれるし」

 美緒がアーンヴァルに確認していた所で、睦月と吹雪の提案に如月も頷く。

「………ま、いなくなってた連中が無事帰ってきたのはヨシとするか」
「無事だとは聞いていたけれどね。そう言えば、知らせてくれたやたらと早い黒い翼の子は?」
「メイヴか、別任務中だ。気をつけろ、アレは誰の手にも負えない唯我独尊らしい」
「模擬戦でサーモバリック使って失格になるような子だからね。冗談は一切通じないと覚えてた方いいわよ?」

 天龍と龍田も苦笑する中、美緒とミーナはメイヴはこっちで何をしたのかを密かに心配する。

「どうやら、協力交渉している暇も無さそうだな………」

 予想以上に事態は深刻度を増しているらしい事を、美緒はひしひしと感じ始めていた………



その頃 学園 女子更衣室

「確か今日だよね、交渉団の出発」
「サムライ少佐も行ったって話だから、
また向こうの人達ノしてたりして………」
「艦娘の人達の所行ったんでしょ? さすがに実戦経験してる所はそう行かないんじゃ?」

 IS学園一年二組の生徒達が、IS実習のために着替えながら噂話に華を咲かせる。

「どっちにしろ、話まとめてきてもらわないと困るわよ。あの深海棲艦とかいう連中と戦うのは二度とゴメンだし」

 鈴音がISの攻撃が全く効かなかった事を思い出しつつ、苦い顔をする。

「そっち準備出来た?」
「はい、こうでいいですか?」

 鈴音が顔を向けた先、IS適性が確認されたので試しに参加する事になったニナがISスーツの具合を確かめていた。

「それにしてもIS適性まであるなんてね〜マイスターオトメって本当に何でも出来るんじゃない?」
「必ずそうという訳でも………」
「貴方が言うと説得力皆無よ。ま、使えるかどうかは別問題だけど」

 ニナの脳裏に、ふと体力特化の親友の顔が浮かぶが、鈴音の言葉に僅かに微笑んだ。

「そうね、お手柔らかに」
「貴方次第よ」



「それじゃあみなさん準備いいですね? ウォンさんはどうです?」

 二組の担任が確認する中、教習用IS・打鉄をまとったウォンが手足を軽く動かしてみる。

「少し硬い感じがしますが、大丈夫です」
「少し動いてみて。無理が無い程度に」

 言われてニナは打鉄を動かしてみる。
 最初数歩歩みを確かめ、腕を持ち上げたりしてみるが、やがてそれはステップに変わり、徐々に練習用の剣を持つと、見事な型を舞ってみせる。
 それを見ていたクラスメート達は全員が唖然としていた。

「あ、あれで初めて?」
「私達と全然違う………」
「マイスターオトメの訓練はしてたそうだから、それかな?」

 一通り動いてみせた後、ニナは動きを止める。

「も、問題は一切ないようね………」
「少し感覚が違いますが、動かす分には問題有りません」
「じゃあ、次行ってみる?」

 担任も呆然とする中、甲龍をまとった鈴音がニナの前へと出る。

「先生、ちょっと組み手してみていいですか?」
「え〜と、ウォンさんは…」
「構いません」

 鈴音の提案に、ニナも頷いて剣を構える。

「そ、それじゃあ双方構えて、始め!」

 担任の号令と共に、双方が飛び出す。
 刃同士がぶつかる甲高い音が響き、派手に火花が飛び散った。

「ちょ、もう少し穏やかに…」

 担任の声も聞いてないのか、双方が矢継ぎ早に剣を繰り出し、弾き、さばく。
 だがパワーの違いでニナの打鉄が押し負けるかと思った瞬間、ニナは一歩下がったかと思うと機体を旋回、遠心力を上乗せする事でパワーを補う。

(この子、とんでもなく慣れてる!)

 相手の実力が予想以上だという事に鈴音は少し焦りつつ、舞うような剣戟を繰り出してくるニナをどう相手するか考える。

「だったら!」

 そこで鈴音は甲龍を急上昇、ニナもそれを追って打鉄を上昇させる。

「空中戦まで!?」
「絶対素人じゃない!」
「どっちも頑張れ!」
「ちょっと鳳さん!? ウォンさんもあくまで授業ですよ!?」

 クラスメートや驚愕や歓声をあげる中、担任の慌てた制止も二人には届いていなかった。

「手加減はいらないわよね!」
「どうぞ」

 鈴音は甲龍のパワーを生かした機動と双刀の連撃を矢継ぎ早に繰り出すが、ニナはそれをぎりぎりで見切り、受け流し、時には反撃してくる。

「この、やるわね!」
「少しは」

 剣を振るった僅かな隙にカウンターで蹴りを食らいそうになり、かろうじて防ぎながら鈴音とニナは視線を鋭くする。

「じゃあ全開で!」

 もう授業という事も忘れたのか、鈴音が一気に急降下しながら大斬撃を繰り出し、ニナがそれをなんとか剣で受け止めながら二機はそのまま急降下、鍔迫り合い状態で地面に激突するように着地する。

「うわ!?」
「どうなった!?」
「膠着してる!」

 巻き上がる衝撃とホコリにクラスメート達が驚きながらも、二人の状態に視線が集中する。

「自ら降下して威力を殺すなんて、やるじゃない」
「パワーだと負けるから、他の手で補ってみたわ」

 双方の顔に不敵な笑みが浮かんだ時だった。
 ニナの打鉄の一部に、不意にスパークが散る。

「ん?」

 やりすぎたか? と鈴音が思った次の瞬間、打鉄の各所から一気にスパークが飛び散る。

「な、何? 何?」
「え、これは…」

 打鉄の一部どころかほぼ全身からのスパークに鈴音が驚き、ニナもその事に気付いた時、打鉄の安全装置が起動、ニナが強制的に打鉄から排出された直後、打鉄が瞬時に発火する。

「きゃああぁ!」
「火!? なんで!?」
「誰か消火!」

 全くの予想外の事態にクラスメートがパニックになる中、鈴音はいち早く我に帰ると甲龍の緊急消火装置を機動、消火剤を炎上する打鉄へと吹きかけ、なんとか消化する。

「き、消えた………」
「ISが燃えるなんて………」
「大丈夫!?」
「え、ええ………」

 皆が呆然とする中、鈴音は甲龍を解除しながら慌ててニナの安全を確認する。

「じ、授業は中止! 織斑先生を呼んできて! 保険委員はウォンさんを保健室に!」

 そこでようやく我に帰った担任が叫ぶ中、
ニナは呆然と黒焦げになった打鉄を見つめていた………





感想、その他あればお願いします。


NEXT
小説トップへ
INDEX


Copyright(c) 2004 all rights reserved.