陽だまりの微笑み

第2章 『探し人』

 偶然と必然。
 人と人の出会いはこのどちらか、らしい。
 少なくとも彼女との出会いは偶然の部類だ。
 そして次の日の出会いは必然だった・・・

 気が付いたら、朝だった。
 昨夜一晩、床の上で気絶してたらしい。
「あちこち痛ぇ・・」
 かなり妙な格好で長時間いたせいか、節々(特にデコ)が痛い。
「翔ちゃーん、学校遅れるよー」
 台所からは風のノンキな声がする。
「それが一晩放置プレイした人間の台詞か・・・」
 巫女さんが帰った後にでも、起こしてくれればいい物を。
「うーん、自業自得だからねー」
 悪びれもせずに言いやがった。
 オマケになんだか良い匂いもする。
「フレンチトーストか?」
 痛む体を引きずって台所に行くと、既に制服に着替えてフライパンでフレンチトーストを焼いている風の姿が。
「父さんと母さんは?」
 普段はここでやかましくしてる筈なんだが。
「2人とも仕事にもう行ったよー。今、追い込みだってさ」
 2人して同じ職場に居るからなー。
テーブルの上には風の皿と、メモ2枚。
『なんだか楽しそうなんでほっといた  父より』
『キチンと謝れよ  母より』
 そうか・・・家族でそろって俺を放置プレイしやがったか。
「風、俺の飯は?」
 メモを即効で燃えるゴミ用のゴミ箱に放り込んで(分別は大事だ)、俺はテーブルを見回す。
 皿は風愛用の1枚しか無い。
「冷蔵庫だよー」
 言われて冷蔵庫を開けてみる。

 アンパン 一個。
 瓶牛乳 1本。
 備長炭 1つ(食べられません)
 以上。

「オイ!」
 冷蔵庫の中には空っ風が吹いていた。
「他は全部食べちゃったよ」
 風はそ知らぬ顔で、焼きあがったフレンチトーストを皿に盛ってる。
「晩飯は残ってないのか?」
 俺は昨夜食ってないんだが。
「父さんが酒の肴に食べた。翔ちゃんの珍妙な格好と事の顛末聞きながら」
 あのクソ親父!
「母さんがお昼はパン買えってさ」
 母さんの事だ・・・俺の財布の中身を把握して言ってやがるな。
「じゃあ、朝飯ぐらいお前の分けてくれ・・・」
 そう言った時には、既に風の皿は空だった。
「ゴメン、もう無いや」
「早いよ!っていうかどうやって話しながらそんなに早いんだよ!」
「いや、喋るのと食べるのは別口だから」
「お前は口が二つあるとでも言うのか?」
 畜生、どいつもこいつも。
 仕方なく冷蔵庫の中のアンパンと牛乳を手に取る。
「昼飯もパンなんだよなー。腹減りそうだ・・・」



そして昼休み
「おう、翔、なに死んでいる」
 友人の剛(ゴウ)の言葉がどこか遠くから聞こえる。
「飯だぞ飯」
 陸上部で短距離やってる剛のマッチョな体が、いまや食い物に見える。重傷だ。
 今すぐに何か食わなければ、俺はどうにかなってしまいそうだ。
「今日はパンなんだろ。早く行かんと売り切れるぞ」
 ああ、そうだった。
 283円で今の状況を何とかしなければならない。
「すまん、剛。この金で代りに買ってきてくれ・・・」
 空腹で動く気力すら無くした俺は、なけなしの金を友に預ける。
 剛は財布の中身を確認すると、哀れみの視線を俺に向ける。
「これで何とかしろって言うのか?パン二個か、パン一個と飲み物のどっちかしかできんぞ?」
「それはよく分かってる・・・・・悔しいほどに」
 昨夜の巫女さんの哀れみの視線が脳裏に甦る。
 なんか更なる敗北感を感じる気が。
「とりあえず、パンだけでいいから買ってきてくれ・・・」
 飲むのは水道の水しかないが、仕方が無い。空腹をなんとかするのが先だ。
「しゃあないなぁ。ま、任せておけ」
 俺の財布を握り締めて、剛は県内高校生最速のスピードで購買に走っていった。
・・・・廊下で走ってはいけません。あいつ、ただでさえペース配分が苦手なくせに全力で走るからなぁ。だから遠距離走には出してもらえんのだから。
俺はそれを見送りつつ、机に突っ伏して呆然と廊下を眺めていた。
 なんか脳裏を昨夜の一連の騒動が回っている。
ガレージに立っていた時の巫女さん。
居間でお茶を啜っているときの彼女の表情。
雷に過剰反応した時の出来事。
間違って押し倒した時の、あの感触。
怒った時の顔。
たまたま見てしまった袴の中身(下着までは見てないぞ)。
・・・そして何でか一番最後に、ガレージで心配そうに空を眺めていた時の顔が思い浮かぶ。
人生の走馬灯か?俺はもう駄目なのか?
そういや、結局あの巫女さんの笑った顔を見てなかったな。人生の最後に見えるのが巫女さんだと、俺は死後にどこに行くんだろうか・・・
 ああ、なんかすぐ側にあの怒り顔が見える気がする。
 廊下のすぐそこに、巫女装束じゃなく、うちの制服着てる彼女がこっち睨んでる。
「むぅ」
 なんでか声も聞こえる気がする。
 そんで、そっぽ向いて廊下の向こうに消えた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 って今、ひょっとして実際にそこにいたんじゃないのか?
 ヤバイ、昨日の事を本格的に謝らんと。
 俺は空腹で力の入らない体をむりやり起こして廊下へと飛び出した。
「風見先輩!」
 声をかけるが、すでにそこには姿が見えない。
 探さないと。
 俺は体に鞭打って、廊下を走る。
 教室を次々と覗き込むが、肝心の先輩の姿は見えない。
 そもそも、ここは2年生の教室だ。何で先輩がいたんだろう?
 疑問を浮かべながらも、この階の教室をすべて覗いて回る。
 結果、成果無し。
「自分の教室に戻ったのかもな」
 そう思い、3年生の教室の階へと上がる。
 クラスを忘れたから、片っ端から行くしかない。

3年A組
「風見?このクラスにはいないよ風見っての」

3年B組
「誰それ?」

3年C組
「風見ってお○テ○のヒロイン?いやー君とは気が合いそう・・ってなんで逃げるの!語り合おうよ!」

3連続で外したあげくに、最後のD組まで行った。
「風見さん?あの子ならお昼時間はいつもいないけど」
「そうですか、すいません。ありがとうございました」
 丁寧に教えてくれた先輩に一礼する。
 教室にいないのでは、他に心当たりも無い。
 場当たり的に探す事にした。

図書室
黙々と勉強に励む生徒と、黙々と漫画(ブ○ックジャ○ク)を読む生徒と、黙々と時代小説読んでる教師しかいない。図書委員がうたた寝してたんで、去り際にデコピンかまして逃げる。

屋上
輪になってメシ食ってるグループが数人。その中に探している姿はなかった。なんでか給水塔の上で白衣をはためかせて空を眺めている科学部の部長(同じクラス)がいたが無視。

体育館
早飯食ってバスケに励む男子、プラスそのとりまきが何人かいたが、ここでも姿は見えず。元々そんなガラじゃない気がする。

視聴覚室
管理の先生の趣味でお昼休みに『プロ○ェクトX』が放映されている。無言でそれを見ているやつらがいたが、ここでも姿は見えず。・・・教頭が涙を流して画面を見つめている。なにか思う所があるんだろう。ともかく無視。

PCルーム
怪しげな笑みを浮かべつつキーボードを叩く電脳同好会の連中しかいない。係わり合いを避けるべく、廊下から覗くだけで後はスルー。

校庭
サッカーやってる男子と、プラスそのとりまき(なんでか女子に混じって男子がいたが)が何人かいたが、ここでも姿は見えず。体育館と同じな事に来てから気付く。

裏庭
よく見知った顔が居た。
「あれー翔ちゃん。お昼食べたの」
「翔クンまさか、私達の狙ってるんじゃないでしょうね。あげないわよ。」
バカップルめが・・・
「なぁ昨日の先輩見なかったか?さっき廊下で姿見て探してるんだが?」
 俺の質問に美夏が首を傾げる。
「さっき会ったよ。お金返しに来てくれたから」
「何?」
「だけど翔クン本当に解ったの?先輩、昨日と違って眼鏡かけて髪編んでたから、私声掛けられるまでわかんなかったよ?」
 そうか?
「教室で見えた時には解った気がしたんだけどなぁ。睨まれたし」
 そう言った途端、バカップルの視線が一変に冷たくなる。
「あたりまえだよ。翔ちゃん」
「多分、向こうで見つけても逃げると思うよ。翔クン」
「お前ら、そろって言うか・・・俺だって悪い事したと思ってるよ!謝るのに探してんだから」
 俺の弁明に二人の視線は変わらない。
『本当に?』
「信じてくれぇぇぇぇ!そもそも最後のあれは事故だ!狙ってやったんじゃねぇ!」
 俺の魂の叫びに、バカップルはますます視線を冷たくする。
「わざとじゃなくても、見た事には変わりないよ」
「女の子の下着見て、謝っただけで済むと思ってる?」
 う、痛いなそれ。
「下着までは見てないぞ。太ももまでだ」
「ウソはダメだよ。翔ちゃん」
「言い訳は見苦しいよ」
 信じてくれ・・・・・・
「本当だ・・・本当に見てないんだ・・・」
 俺は濡れ衣に対して滂沱の涙を流す。
「その言葉を先輩が信じてくれればいいんだけどねぇ」
「まだ怒ってたんでしょ?難しいと思うよ」
「ぐぅ・・・・・」
 確かにそうかもしれん。
 唸る俺に、腹からも唸り声が聞こえた。
「翔クンお昼まだなの?」
 そういや忘れていた。時計を見ると時間も残り少ない。
「なぁちょっと飯分けてくれ。あとで返すから」
『もう無いよ』
 そりゃそうか、この時間じゃ。
「そういや、剛にパン頼んでたんだ!あー、くそ謝るのは放課後だ!」
 俺は探索を諦めて、昼飯を食うべく教室へと走る。
「早く謝んだよー」
 美夏の投げやりな叱責が背中から飛んできた。
「うるせー!分かってるよ!」
 でないと後味悪いからなぁ。

教室の俺の机の上には、恐ろしい物が乗っていた。
既に飯を食い終わって、爆睡していた友を蹴り起こす。
「剛〜、なんだこれは〜〜〜」
 寝ぼけ眼で俺の机の上を見た剛はそれを見て、ニヤリと笑う。
「スマン、それしか残ってなかった」
 机の上には大入りコッペパン(250円税別)が一袋。
 それ以外は何も無かった。
「何かの嫌がらせか?俺なにか恨まれる事やったか?」
「まぁ落ち着け。恨みでも何でもない、たまたま一足遅かっただけだって」
 なにか悟ったような口調の剛に俺は違和感を覚える。
「何か隠してないか?」
「いんや、別に」
 俺らのやり取りに側の奴がくすくすと笑いだす。
 それに気付いた剛が、慌てて身振りで黙るようにサインする。
「隠しているな?」
「ソンナ、何モ隠シテマセンヨ」
「その口調はなんだ?」
「気ノセイデスヨ?」
 俺はとぼける剛をはがい締めする。
「大人しく言わないと、ひどい目あわすぞ」
 首をしめる腕に力を込める。
「ま、待て話せばわかる」
「問答無用」
 そのまま締め上げようとした俺の視界に、不審な物が見える。
「しまった!」
 剛の焦りで確信を持つ。
 何気にその不審物を摘み上げる。
「このサンドイッチの袋の欠片はなんだ?お前、弁当だったろ?」
 俺の質問に剛は答えない。自分の机の上にあったという事は、それを剛が知らない訳が無い。
「まさか、食ったのか?俺のパン」
 その一言に剛の顔に無数の冷や汗が浮かぶ。
「食ったんだな?それで買いなおしに行って、これしかなかったんだな?」
 剛の顔からは大量の冷や汗が浮かんでいる。
「罪を認めるんだな?」
 俺の問いかけに剛は開き直ったのか、俺に向かってにこやかな笑顔を返す。
「すまん」
「殺す」
 俺はこの瞬間、殺意が芽生えた。
「まぁ無いより良かろう。早く食わんと昼休み終わるぞ」
 俺はあわてて時計を見る。
 残り5分。はっきりヤバイ。
「おのれ、貴様。放課後覚えていろよ」
 その場に裏切り者を放置して、俺はコッペパンを水もなしで食う事になった・・・


 そして放課後
「友よ・・・・・昼休みの決着つけるぞ」
 俺はあふれる殺意を胸に、剛の机にゆっくりと近づく。
「待て、そもそもお前が人にパン頼んでおきながら勝手に居なくなったのが悪いんだろうが」
 剛は鞄を盾にしつつ弁解する。
「確かに居なくなったのは悪いが・・・」
 その一言でやらねばならん事を思いだす。
「ちょっと野暮用を思い出した。少しここで待っていろ」
「いや、俺部活が」
「言い訳無用だ」
 逃げようとする剛に釘を刺して、俺は教室を出た。

3年D組
「風見さん?もう帰ったわよ、あの子帰るのは早いから」
 昼休みの時と同じ先輩が、呆れ顔で答えてくれた。
「そうですか、度々すんません」

 あー、またすれ違ったか・・・
 参ったな。
 そもそも、なんで俺こんなに一生懸命なんだろ。
頭をかきながら、教室に戻ると剛の姿は案の定無かった。

校庭
「よーし千本ダッシュ開始ぃ!」
陸上の顧問の鬼のようなシゴキに死んだような面した陸上部員のなかで、シゴキをまったく気にせずダッシュかましている剛に俺は問答無用で自転車でアタックをかます。
「おうわ!」
 なんだか見事なまでにすっ飛んでいった。
その姿になんだか晴れやかな物を感じる。
「鷹谷ぁ!お前部活妨害はやめんか!!」
 顧問の怒声を無視して、うつ伏せに倒れたままの剛を摘み上げる。
「待ってろ、と言わなかったか俺は?ええ、飯泥棒!」
「だからって突撃は無いだろうが!突撃は!」
 顔面からいったのか、見事なまでに顔を赤くして喚く剛を、とりあえずもう一撃。
「おぶあ!」
 頭からタイヤの直撃食らって、カエルのように這いつくばっている剛にトドメにタイヤを背中にめり込ませる。
「食い物の恨みの恐ろしさ知ったか」
「はい、分かりました。許してください。申し訳ありません」
 分かればいい。
 俺は寛大な心を持って勘弁してやる。
「なんだ、妙な青春かましてんなぁ。お前ら」
 陸上の顧問が呆れた表情でこっちを見ている。
「こいつが人の昼飯食ったモンで」
「変わりにコッペパン買ってきただろうが!」
「あんなんで飯になるかー!味が無いんでまだ半分残っとるわ!」
「食えよ!」
「水だけで食えるか!」
「なら、水無しで食え!」
「無茶言うなー!」
 白熱するバトルを顧問と陸上部の面々が呆れ顔で見ていた。

「お前ら」
 言い争いが一区切りついた時点で、顧問が口をはさんでくる。
「だいたい話はわかった」
 そう言って剛の両肩をがっちりと掴む。
「剛、お前が全面的に悪い」
「な!先生そりゃないっすよ!」
 剛の抗議に顧問が睨む。
「い・い・か!」
 さり気に両肩を掴む力が増しているような感じがする。腕に血管浮くぐらいに・・・
「頼まれた物を勝手に食ったのはお前だ。証拠隠滅にコッペパンなぞ買ったのもお前だ。なんか反論あるか!ん?」
 口調はおだやかだが両手の力は尋常でない。指が食い込んでいるのが端から見ても分かる。
「無いです。無いですから手を・・・」
 剛の顔には油汗すら浮いてきた。あー、流石に可哀想になってきたなー。
「納得したなら、今日はもう上がっていいから友達つれて何か食いに行って来い。お前のおごりでな!」
「お、押忍」
 なんと大岡裁きな。
「いいんすか、先生こいつ連れてって?」
 その一言に顧問が振り向く。
「解りやすく言ってやろうか?」
・・・顔笑ってるけど目が笑ってないよ。
「部活の邪魔だから失せろー!!!!」
 結局二人そろって追い出された。


「どーしてくれんだよ。これじゃ明日に俺しごかれるよ」
「あー、ソレハスマナカッタ」
「おい」
「マア、ナルヨウニナルサ」
「人事だと思ってるな」
「当たり前だろ」
「それでも友達かー!」
「飯の恨みを思い知れ!」
 あー、くそ。こいつにからんでも仕方ない。
 教室で剛の着替えを待ちながら、空しくコッペパンを齧る。
「あ、一個くれ」
「いいぞ、別におごってくれるなら」
 剛は遠慮無しにコッペパンを口に放り込む。
 一口で食うなよ。
「やっぱ、コッペパンだけってなつらいなー」
「貴様が買ってきたんだろが」
 まだ残ってるが、これ以上は食う気にならん。
 残りを袋ごと適当に鞄に突っ込む。
「それでだが」
「ん?」
 着替え終わった剛が、いきなり俺に深々と土下座する。
「すまんが、ああは言われたが俺にゃ金が無い」
 まぁ、予想できた答えだが。
「それじゃあ体で返してもらおうか」
 剛がその場で凍りつく。
「お前、まさか・・・」
 何考えてる、オイ。
「違ぇって。お前、風見神社って知ってるか?」


「ハァハァハァ。こ、ここが風見神社だ・・・・」
「ここか」
「す、少なくとも他に風見神社ってのは俺は知らん」
「それなら間違いないだろう」
「しかし、お前なんだって神社なんか・・・にっ!」
 酸欠でも起こしたのか、剛はその場にひっくり返った。
「おーい、大丈夫か?だから自転車のハイペースにあわせて5キロも走れる訳無い言うたろ。ぺ―ス考えないから原子力エンジン言われてんだぞ、お前」
 まぁ徒歩の剛に自転車の俺が道案内頼んだのも悪かったが。
「う、うるへぇ。自主練だ」
 口は強がっているが、石段の前で大の字になってへばっていると、かなり邪魔だ。
 と、いうかこのまま先輩に謝りに行くのにも邪魔だ。余計な追求されそうだし。
 追い払わなければなるまい。
「なぁ、これからこの石段登れるか?」
 ちょっとした町外れの山、目的地の神社ははるかな石段のかなたに見える。
 はっきり言って、これを歩いていくと考えただけでもツライ。
「勘弁・・・」
 こっちで策を労する事も無く、あっさり剛は降参した。
「んじゃ、道案内ここまででいいぞ、これでパンの件は、チャラにすっから」
「もう2度と頼まれてもパンは買ってやんねぇ・・・」
「食った方が問題だろが、馬鹿。とりあえずそこで死んでろ。俺は用事あるから」
 まだ何か文句言ってる剛と自転車をその場に置いて(自転車は鍵かけたが)、俺は石段を登り始めた。

今度こそ、会えるといいんだがな・・・
なんでただ一言謝るのに、こんなに苦労すんだろ。
 放って置いても良いような気がするが、なんでかそうしようとは思えない。
 なんでだろ。
 延々と続く石段を登りながら、最初になんて言って謝るか考えてみる。

案その1『土下座』
問答無用でいきなり土下座。
だが、昨日はこの手で失敗したので危険性高し。

案その2『フレンドリーに』
昨日の事は、さも大した事で無いように振舞う。
・・・・・向こうが、まだ怒ってたら逆効果間違い無し。

案その3『切腹』
漢としての責任を見せる。
いや、無理だって。痛そうだし。

案その4『プレゼント』
誠意を形にする。
・・・・・残金30円足らず・・・何も買えん。

案その5『シリアス』
あくまで真面目に紳士的に謝る。
やはり、これしか無いか?

 単調な石段がようやく終わりを見せた頃、俺の腹は決まった。
 あくまで真面目に謝ろう。それしかない。
 他になにも思い浮かばないしな・・・
 石段の向こうに古びた鳥居が姿を現し、段数が減るごとに注連縄を撒きつけた大きな御神木が、鳥居を挟んだ反対側に社務所が見えてくる。
 最後の一段を登りきった時に、正面に大きな社が見える。
 その社の縁台の角、御神木の枝から漏れる木漏れ日のあたる陽だまりに、探し人はいた・・・



 後になって思うと、こんな出来すぎたシチュエーションは偶然なんだと思う。
だが、わざわざ神社にまで行ったのは俺の必然で、彼女がそこにいるのは、その神社の娘としての必然。
 そして、この後の出来事は・・・・・・

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