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this night
暗雲掻き曇る中、外には強風が吹きすさび、滝のような雨が降る。 俺はそれを開け放った部屋の窓から睨みつつ、空に叫ぶ。 「神様のバカヤロー!」 ・・・叫んだ所で何が変わるわけでもないが。 叫ばずにはいられない。 勇気を振り絞って君をデートに誘ったは良かったけど、映画館から出た途端に雨が降り出してきた。 『大変、洗濯物が』 という君の一言で『映画を見ただけ』で結局家に帰ってくる事になった。 昼飯すら食ってない。 映画の内容は殆どギャグの笑えるだけの物でムードなど出る訳も無く。一緒に行った意味は無し。 その上、今の状況は。 君は濡れてしまった洗濯物を乾燥機にかけている。 雨はまったく衰えない。 と、いう事はもはやデートの続行は不能。 「俺の振り絞った勇気を返せぇぇぇ!」 んな事を叫んだ途端に風向きが代わり、部屋の中に白い物が大量に吹き込んでくる。 「これは雪だ!勇気じゃねぇ!くだらない極所神災を起こすなぁ!」 5秒ほど人の部屋を荒らした風はまたもや向きを変えて違う方向に吹く。 人の部屋を半分ほど雪景色に変えた後で。 「おのれ、神め。初詣で五十円もお賽銭に払ってやった義理を忘れ追って。今度は賽銭箱に妙な物入れてやろうか」 今度は白い塊がまっすぐ飛んできて俺のコメカミに直撃。 雹・・? ソフトボールくらいはある雹の直撃を受けた俺はそのまま意識を失った・・・
「・・ター、起きて下さい」 どこか遠くで天使が囁いている・・・ 「こんな所で寝てると風邪引きますよ」 ああ、天国でも病気はあるんだな・・・ 「起きないとパコパコしますよ」 パコパコってなんだろう? などと考えていると金属音。 ヤバイ! とっさにそこから飛退くのと、何かが床に撃ちつけられるのは一瞬の差だった。 飛び散る埃と轟音。 「あ、目が覚めましたか」 そこにいたのは天使、ではなく。 いつものノースリーブのシャツにジーパンとエプロン姿の君だった。 「覚めましたか、じゃなくてその巨大ハンマーは何だ?また姉貴からもらったのか」 君は巨大ハンマーを軽々と作業碗で持ち上げながら、ニコヤカに微笑む。 「いえ、これは奥様からいただいたんです。昔、総長連合にいた頃の物だそうです」 何となく、姉貴が母さんに直系遺伝した、とか親父がこぼしたのを思い出す。 昔、何があったのかは追求しなかったが。 「さすがに旦那様が設計した家は違いますねぇ、50トンぐらいの打撃受けても床が凹みもしません」 「そりゃ、重騎が百体乗っても大丈夫。とかいう設計理念だったからなぁ・・・」 本当に床には傷も残ってない。 何ゆえ、そこまで頑丈な家を作る必要性があったのかも追求しないでおこう。 あえて、この巨大ハンマーとの関連性が頭に浮かんだとしても。 「あ、夕飯出来てますよマスター」 ナヌ? 慌てて時計を見ると時刻はすでに午後7時。 すでに外は真っ暗になっている。 「おのれ、神め・・・」 これ以上言うと今度は何が起こるか分からないので、胸の中で言葉を留めて、とりあえず窓を閉める。 外は今だに暴風雨が吹き荒れている。 「冷めるんで早く来てくださいね」 そう言いながら君は部屋を出て行く。 今朝と何も変わってない、その状況。 「始まるべき新しい一日は何処に行ったんだろう・・」 無論、誰も答えてくれなかった。
「ご馳走様」 「お粗末さまでした」 買出しに行けなかったせいでの(おのれ神め)有り合わせとなった夕飯。 それでも美味いのは君の腕に他ならない。 「じゃ、片付けてしまいますね」 「うん、お願い」 君が鼻歌(何ゆえか銭形平次)混じりに洗物をしてるの横目で見ながらテレビをつけてみる。 『・・・・・以上現場から特攻神風リポーターがお伝えしました。引き続いて今夜の天気をお知らせします』 画面では血刃を片手にしたリポーターがアナウンスを終わる所だった。 何処のリポートなんだろうか・・・ 『・・・ですので今夜は一晩中雨。雨ですよ皆さん!いやー!今夜のデートはどうしてくれるのー!』 お天気お姉さんが俺の心情そのものを叫んでいる。 気持ちはよく分かるぞお姉さん。 『その上、今夜は所により雷を伴うでしょう。全身義体の人は絶縁処理をして下さい』 いきなり立ち直ったお天気お姉さんの言葉に、君の手が止まる。 「雷・・来るんですか・・・」 普段、笑顔しか見せない筈の君の表情は珍しくすぐれない。 「大丈夫だって、所により、だから全部って訳じゃ・・」 とか言ってる間に外から雷鳴が響いてくる。 おのれ神め、ことごとく。 雷鳴が響いてきた途端に君の手が震え始める。 「大丈夫?」 「はい、まだ大丈夫です」 そういう君の顔は完全に蒼白になっている、どうみても大丈夫じゃない。 「洗物はあとでいいから、少し休んでた方がいいよ」 もはや、何も手につかなくなっている。 「ええ、すいません。少し・・」 雷光! 雷鳴! 振動! 停電! 一瞬の内にそれらがきた。 「きゃああああ!」 君の悲鳴が響き渡る。 俺は何も考える暇もなく、真っ暗になったキッチンを駆け抜ける。 君の元に。 「あああああ」 言葉も無く、体を震わせ涙を流す君を抱きしめる。 「大丈夫、大丈夫だから」 君はなにも答える事が出来ずにただ俺にしがみつく。 まるで、子供のように。
『進化途上精神障害』 以前に、君を見た整備業者のおっさんはそう言っていた。 君が来たばかりの時に、近所の電柱に落雷して家の家電品が残さず吹っ飛んだ事があった。 その時に君は、その壊れた家電品といまだ機械である自分とを結びつけて考えてしまったんだろう、段々と感情が生まれ始めた君は、極度に『落雷』と『停電』を恐れるようになっていた。 『人間のトラウマと同じさ、こればっかりは自分で克服してもらうしか無い』 そう言いきったおっさんを俺は殴り飛ばしそうになった。 君の恐がり方があまりにも可哀想だったから。
10分もそうしていただろうか・・・ 部屋の電気がともる。 「もう、大丈夫みたいだよ」 そう言っても、君はまだ嗚咽しながら俺に抱きついたまま動けなくなっている。 無理も無い、遠くはなったとはいえ雷鳴はまだ響いてる。 一度混乱した頭はなかなか戻らないもんだ。 「俺がついてるから、大丈夫だって。また停電なっても心配ないから」 我ながら、気休めだとは思う言葉に、君はやっと泣き止む。 「すいません、マスター」 顔をうずめたまま君はつぶやく。 「もう少し、こうしてて良いですか?」 「俺でよけりゃあね」 「ありがとうございます」 まだ震えの残る君の頭をそっと撫でる。 首の後ろで切りそろえられた黒髪がかすかに揺れる。 こんな状況で無いと恥ずかしくて出来ない事だけど、君は嫌がる風でもなくされるがままになっている。 君は、恥ずかしいとかそういう状況じゃあ無いだろう。 そもそも、『恥ずかしい』という事を君はまだ覚えていない。 ・・・・弟の前で平気でタオル一丁で歩く姉貴のせいだな。
さらに10分も過ぎた頃。 「もう、大丈夫です。マスター」 君はそっと俺から離れる。 ・・・なんか名残おしい・・・ 「じゃ、残ってる洗物片付けてしまいますね」 なんとなく空元気だけど、なんとか大丈夫って所か。 「ああ、じゃお願いするけども、無理しないでね」 「はい」 よく見ると君の目が、かなり赤い。 「なんかあったら、俺でよければ手伝うから」 「いえ、もう大丈夫ですから」 「本当に?」 「本当です」 「本当の本当?」 「本当の本当です」 「本当の本当の本当?」 「ぷっ!」 いきなり君が吹き出す。 「古いですよ、そのネタ」 「そう?」 やっと、笑ってくれたなぁ。 それならくだらないネタかました意味がある。 「うん、笑えるなら大丈夫だ。じゃ、俺部屋にいってるから」 「ええ、すいませんマスタ―。心配していただいて」 「いいよ、別に」 ・・・ああ、良い人で終わってるなぁ、俺。
もう、次の日になってしまってるなぁ。 夜間発光の時計は直に1時を指す所。 外では未だに雷鳴が遠くに響いている。 君の事が心配だけど、さすがに夜中はなぁ・・・・ などと考えているとノックの音。 誰?って君しかいないか。 躊躇う事無くドアを開ける。 「夜中にすいません、マスター」 予想通り、ギアマークの入ったパジャマを着た君。 ・・・・色気無いけどいいなぁ、こういうの。 って、何を考えてる!俺! 「いや、どしたの」 内心の葛藤を押さえ込んで、なるたく平静な声で喋る。 「あの、外でまだ雷鳴ってますよね」 「嫌になるくらいにね」 君は腕の中の枕を抱きしめたまま、しばらく考え込む。 「えと、その、寝付けなくて・・・・」 あ、やっぱりそうなってたか。 「妙なお願いなんですけど・・・」 「何?」 珍しく君は悩んだ後、衝撃的な言葉を言った。 「よければ、マスターの隣で寝かせてもらっていいでしょうか?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?
(続く・・・・・・多分)
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