BIOHAZARDnew theory
FATE OF EDGE

第十五章「反撃! 立ち上がりし生者達!」


STARS本部襲撃から30分後 パリICPO本部内

「出せないとはどういう事だ!」

《国際犯罪対策部》のプレートの掛けられたドアの向こう側から、建物全部に響き渡るような怒声が響き渡る。

「対生物災害国際法に順ずる? その際は全面協力が前提のはずだ! 包囲だけを行っているのはどういう、分かった! そういう事か!」

 怒声と共に受話器が叩きつけられる音と何かが砕ける音が響いた。

「あの、クリス部長?」

 ドアをそっと開けながら、若い警官が中を覗き込む。
 室内には、警察の制服に筋肉を押し込んだような、中年の偉丈夫が殺気を放ちながら黙り込んでいた。
 普通の人間ならその時点で回れ右して逃げ出しそうな空気を漂わせているその男性、元STARSのリーダー、現ICPO国際犯罪対策部部長クリス・レッドフィールドは睨みつけるように若い警官を見た。

「状況は?」
「は、はい! 一応ホットラインは繋がってますが、ひどく混乱してます。ECMの影響で無線、レーダー、全て使用不能。新型と思われる生物兵器が多数で襲撃している模様。まだ未確認ですが、全長が40m近い超大型も出現してるとか………」
「こちらからの増援は?」
「SWAT二個小隊、出撃は可能ですが、さすがにSTARS本部までは距離が……」
「構わん、全機動力の使用を許可する。すぐに直行させろ」
「了解しました!」

 若い警官が慌てて部屋を飛び出していくのを見たクリスは、冷静に現状の整理に入る。

「カナダ、アメリカ双方の政府が支援を拒絶、近隣諸国もそれに同意するとはな……余程前の二件が恐怖に映ったか………どうすればいい? この際、ロートルでも構わんか………」

 クリスが席から立ち上がり、デスクの引き出しや備え付けのロッカーから銃火器を取り出し、武装準備を始めようとした時だった。

「あの、クリス部長……」
「何だ、急ぎじゃないなら後にしてくれ」

 ノックの後にドアを開けてきた婦人警官が、ロッカーからロケットランチャーを取り出しているクリスを見て硬直する。

「あ、あの妙な物が届いて」
「後にしろ。オレはこれからSTARS本部に出張だ」
「その……必要がないかもしれません」

 婦人警官がおずおずと手にした書類をクリスに差し出す。
 それを見たクリスの手が止まった。

「こいつは……」

 その書類の上端には、《部署転属受諾書》と印刷されていた。



 風を斬る鋭い音の直後、鍛え上げられた刃同士がかち合う澄んだ金属音が響く。
 その音の中心、STARSとBOWの戦闘が繰り広げられる中でも、さらにレベルの違う死闘が2人のサムライによって繰り広げられていた。

「はぁっ!」

 2人の内の一人、黒装束をまとったサムライが気迫と共に、突きを繰り出す。

「ふっ」

 それをもう一人の白装束をまとったサムライが見切ってかわす。
 が、見切った筈の切っ先が一瞬にして引かれ、更なる速度を持って突き出される。それが一瞬の内に繰り返されて無数の刺突となる。

「やるね」

 それを見た白装束のサムライは逆に不適な笑みを浮かべると、自分の手に握られている刀を同じように構えると、次の瞬間には彼からも無数の刺突が生み出されていた。
 金属同士がぶつかり甲高い衝撃音が響き渡る。
 刹那の攻防の末、お互いが刃を引くと同時に、その場からバックステップ。
 お互いを睨み合う形で距離を取る。

「光背一刀流、《烈光突》。これはお互い互角のようだね」

 楽しげな白装束の言葉に、黒装束の方が苦い表情をする。

「よく言う物だな。そっちの方が後から出したのに、互角の打ち合いに持ち込むとは」

 それだけの会話の後、示し合わせたかの様に、お互いが同時に相手に向かって突っ込んでいく。

「次はこっちからだよ」

 白装束が宣言すると同時、身を沈め、半身を引いて息を吸い、力を蓄える。
 その意図に気付いた黒装束が距離を取ろうとするよりも早く、その体が旋回を始める。

「あああああ!」

 最下段からの抜刀が、旋回によって刃の竜巻となって相手へと襲い掛かる。

「くっ」

 その攻撃から逃れようとする黒装束を追うように、白刃の竜巻は回転と勢いを変化させずに突き進む。
 刃が相手に到達する寸前、その姿が正面から消える。

「上か」

 相手の逃げ道を悟った白装束が回転を上方向へと変化させる。
 その推測どおり、回転の先には上空高くまで飛び上がった黒装束の姿があった。
 両手には上段に構えられた日本刀が掲げられていた。

「はああああっ!」
 
 落下にあわせ、黒装束の握った刀が白刃の竜巻に向かって降り注ぐ。

「おおおっ!」

 甲高い音が再度響き渡る。
 黒装束の一撃の重みに押し切られる形で、白装束が後ろに弾き飛ばされる。
 だがその顔には焦りは微塵もなく、むしろ楽しげな表情が浮かんでいた。
 上空からの一撃の後、その場に着地した黒装束の方が焦りを孕んだ表情を浮かべていた。
 一瞬の静寂の後、お互いが正眼に構える。
 そしてまったく同時に相手に向かって再度突っ込んでいった。

「はああぁっ!」
「あああぁっ!」

 気合と共に、かち合わされた刃がお互いを押し込もうと力が加算されていく。
 鈍い音と共に刃が押され、引かれる。
 その刃を握った者同士が、至近距離で睨みあった。

「まだまだだよね、兄さん」

 白装束に身を包んだ者、アザトース4エレメンツ《刃》のジンが楽しそうに微笑む。

「こちらは、早く終わらせたいがな」

 対照的な黒装束に身を包んだFBI特異事件捜査科捜査官 レン・水沢が口元を歪める。
 その彼の足元、影の部分に、その場には存在しないはずの魚の影が一つ、また一つとレンの影へと潜り込んでいく。
 その影一つ事に、レンの顔は険しくなっていく。

「へえ〜、それも式神って奴かな?」
「ああ。お陰でこんな状況でも周囲の事がよく分かる」

 興味深そうに影を見るジンをレンは睨みつけると、左手が懐へと潜り込む。
 ジンも同じ動作を取ると、互いの懐からサムライソウル2とレイ・ガンが取り出される。
 トリガーが引かれるのは同時。
 放たれた45口径弾と閃光が、刃を引きながら体を捻った互いの袖を焦がし、千切り飛ばす。
 45口径弾は駐車場のアスファルトに深く突き刺さるとそこに火柱が吹き上がり、閃光はそのまま背後に止めてあった恐らくはSTARS隊員の誰かの愛車のドアを左右まとめて貫く。

「危ないなあ、何弾使ってるの?」
「お前の相手をするための、特注45口径指向炸裂弾だ。そちらこそ、なんて出力してやがる……」
「いいでしょ?」

 少し離れた場所で、ジンは微笑を浮かべて刃を下八双に構え、レンは水平に構えてその峰にサムライソウル2を添える。
 レンの目は、ジンの手にした刀の刀身に刻み込まれた鮮やかな倶利伽羅竜に向けられていた。

「その刀、盗難にあった国宝・妙法村正か! 犯人が警備員の首を一刀の元に斬り落としたと聞いた時からまさかとは思っていたが……」
「そこまでバレてた?」
「切り口を見た知人が、オレの切り口に余りに似ているからオレを容疑者だと思って確認をしてきたからな。いい迷惑だ」
「それはゴメン。でも、こいつはいい刀だね」
「国宝だからな」

 ジンの手にした妙法村正が、陽光を浴びて蒼い輝きを放つ。

「イオンコートを施したか。重要美術品指定の大業物だぞ」
「刀は、斬れなきゃ意味がないでしょ?」
「……その通りだ」

 レンは手にした備前景光に視線を移す。幾度となく刃を重ねた折、僅かな刃こぼれが生じているのが見て取れた。

(まずい、刀は向こうの方が上物、しかもコート済みだとすれば、疲弊は歴然。一刻も早く他の応援に行きたいが、こいつ相手にそう簡単に勝負はつかない………どうする?)
「ダメだよ兄さん。余計な事を考えているでしょ? ここはボクと兄さんの勝負の場所だよ?」

 ジンがおどけるように行った時、どこかから電子音が響く。
 それは、レンの懐の携帯電話のコール音だった。

「あれ? アクーパーラの体内ECMで電波なんて通じないんだけどな………」
「生憎、こういう事が出来そうな知り合いは何人かいてな」

 コール音が響く中、ジンは構えを解いて片手を差し出し、電話に出るよう薦める。
 レンは用心して刀は構えたまま、左手のサムライソウル2を懐のホルスターに仕舞って代わりに携帯電話を取り出すと、着信者を見る。
 携帯のディスプレイには、登録した覚えのない番号と〈狂科学者〉のロゴが映し出されていた。
 レンは着信ボタンを押す。すると携帯電話から日本語が流れてきた。

『生きてるか?』
「陸か! こちらは…」
『忙しそうだから要件だけ伝える。こちらも手が離せないが、猫の手の工面がついた。野良の皮を被ったオス猫と、隻眼のメス猫がそちらに向かっている。オス猫にはキーを、メス猫には牙を持たせている。一時間以内には着くだろう』

 それだけ告げると、通話が切れる。そこには、電波状況悪化のために通話不能を告げる携帯電話だけが残された。

「誰から?」
「日本にいる頼りになる奴からだ。多少悪質なジョークがきついがな」
「ふ〜ん、それじゃあ再開しようか!」

 飛び出すような一歩で間合いを詰めたジンが下段から斬り上げる。
携帯電話を仕舞いながらレンは後ろに跳んで斬撃をかわすと、着地と同時に前へと飛び出して白刃を横薙ぎにする。
 ジンは腰を引いて、腹を刃がかすめていく感触を感じながら頭上に上げた刃を返す。
 振り下ろされようとする刃に、レンは更に前へと出て肩からジンへと激突して密着。
 斬撃が不可能と判断したジンは手の中で刀を回し、逆手に持ち替えた白刃を突き降ろそうとするが、跳ね上がったレンの刀が切っ先に鍔を押し当てる形で攻撃を封じる。
 その状態で顔を上げたレンと、顔を下げたジンが至近でお互いを見る。
 レンの顔には鍛え上げられた刃の鋭さが宿った闘志が、ジンの顔には無垢な子供の楽しさが宿った微笑が浮かんでいた。

「さあ、もっともっと楽しもうよ。ボクと兄さんの戦いを」
「それしかないようだな」

 レンの拳がジンの体に軽く当てられ、両足が地面を力強く踏みしめる。
 足から伝わった力が、下半身から上半身へと伝わり、肩から肘を通って拳から爆発的な力となって伝わる。
 だが、ゼロ距離で突き出された拳の衝撃は、ジンの白装束の下に波紋のような動きとなって消え去り、突きつけた拳には白装束の下にある水のような感触だけが残った。

「こいつは!?」
「流体衝撃吸収スーツ。その技は彼がシェリー・バーキンに伝えた技だったね」

 衝撃伝導に横方向のみの指向性を持たせた流体金属を内包する事によって衝撃を「逃す」事を可能としたジンのスーツに、レンは頭上で突き合わせていた刀を弾いて離れる。

「光破断の対策まで用意してたか」
「彼女の技が先代のブラック・サムライから教えられた物だってのは有名な話だからね。兄さんも使えるんじゃないかと思って」
「お前はどうなんだ?」
「そんな無粋な事で決着は付けたくないな」
「……そうか」

 両者は再度己の得物を構える。
 構えは共に正眼。

(恐らく、向かっているのはあいつとあいつ。一時間、持ち応えれば戦況は逆転するはず。だが、果たして持つのか?)

どうやっても自分がこの場から離れられないのを悟りながら、レンは思考を巡らせる。
 ふと、脳裏に夢で聞いた言葉が思い浮かんできた。

『迷うな。お前の迷いは全ての迷いに繋がる』
(そう、だったな。オレが今しなければならない事は、ただ一つ!)

 レンは射抜くような視線でジンを見た。
 それを受けたジンは、口元を嬉しそうにほころばせる。

「来い」
「行くよ」

 二つの白刃が、両者の間で鋭い孤を描いた。



「Goddamn(畜生)!」

 ヘラクレスが脚部ホバーを全開まで吹かし、その場を飛び退く。
 先程までヘラクレスが居た場所に、巨大な肉の柱が突き降ろされる。
 相手はただ足を持ち上げ、ヘラクレスの上まで持ってきて降ろしただけにも関わらず、巨大な地鳴りと地響きが周辺を震わせた。

「あらあら、大丈夫?」

 頭上から、こちらを嘲るような少女の声が掛かる。
 ヘラクレスの状態を素早くチェックしながら、スミスはその声の方を睨みつけた。

「生憎、まだまだ行けるぜ。お嬢ちゃん」
「そう? アクーパーラにはおじさんの攻撃はほどんど効いてないみたいだけど?」

《嵐》のランの言葉が、紛れもない真実である事をスミスは誰よりも理解していた。
 破壊力という点では、現時点STARSにおいて最高を誇るはずのヘラクレスの武装も、相手の巨大なまでの質量と体積の前に絶望的な戦いを挑み続けるしかなかった。

(火力が足りねぇ! あの空中戦艦が動けば………)

 タスラムの弾丸をアクーパーラの喉に叩き込みながら、スミスが歯噛みする。
 先程聞こえてきた放送では、空中戦艦ギガスのドッグは完全に占拠された事を知らせていた。

(オレが行ければ! だが、少しでもこいつの足止めができるのはこのヘラクレスだけだ! 第七小隊のケルベロス程度じゃ……)

 思考に気を取られていた隙に、頭上から業火が降り注ぐ。

「ちぃっ!」

 アラートが鳴り響き、機体が何度目か分からない強制冷却に入った時、こちらに向かって右手を伸ばすランの姿が内部モニターに映し出される。
 とっさにスミスは機体をスライドさせようとするが、そこに警告アラートがもう一つ追加された。

『脚部ホバー、熱限界。強制冷却に入ります』
「なんだと!?」

 急発進、急停止を連続した脚部ホバーから陽炎が立ち昇り、機体が完全に停止状態に入る。
 動きが止まったヘラクレスに、周辺のBOW達が集まってくる。

「来るなら来い!」

 スミスがタスラムを向けようとした時、向かっていたBOW達の頭部がどこかから飛来したフレシェット(矢型の特殊弾)によって次々と撃ち抜かれ、倒れていく。

「ナイスアシストだぜ、CH」

 スミスはそのフレシェットが飛来した先、本部屋上で他のスナイパー達と並んで必死に援護狙撃をしているケルベロスの姿を認めて笑みを浮かべる。
 しかしそれを見たランが左の指を鳴らすと、彼女の周囲の《黄輝》がヘラクレスまでに縦列を構成し、その中に淡黄の煌きが生じていく。

「まずい……!」

 今までとは比べ物にならない雷撃を予感したスミスは、まだ冷却が終わらないため動かない機体での回避が不可能と判断して緊急イジェクトスイッチを入れようとした。

『後方、高温度熱源多数接近』
「!?」

 スイッチを押し込む寸前、ヘラクレスの背後から頭上を飛び越え、噴煙を上げる物体が黄輝に命中、炸裂して黄輝に内包されていた電撃を爆炎と共に巻き散らかした。

『後方、重機動型パワードスーツ六機。先程の攻撃から友軍と推定。シルエットからGAI社製《バーバリアン》と認識。友軍に電子戦用装備を積んだ武装バイクの存在を確認。オーストラリア陸軍の識別信号の発信も確認』
『すまない、準備に手間取った!』

 システムAIの報告に続いて、武装バイクのECCMによって狭い範囲ながらも復活した回線に英語の通信が割り込んでくる。
 そちらを見たスミスは、そのバーバリアンに幾つか真新しい修理跡を見つけて彼らがこの間の入隊試験に参加していた者達だと悟った。

『コアラ小隊、これよりSTARSの援護に入る!』
「あんたら帰ってなかったのか?」
『ここまで来たついでに観光してたんでな』

 あからさまに嘘と分かるような通信を聞きながら、スミスは冷却の終わったヘラクレスを移動させてバーバリアンと編隊を組んだ。
 更にその背後から、車やバイクに乗ったオーストラリア、中国双方の軍、警察関係者―いずれも先日の試験で失格になった者達―が手にロケットランチャーや無反動砲といった対装甲目標用の重火器を手に続々とこちらに向かってきていた。

「どこからあんな物騒な代物………」
『え? あんたらじゃないのか? さっきオレ達が泊まっていたホテルに〈STARS日本支部〉名義で届いたぞ?』

 日本に支部は無いはず、とスミスが思った所で、ふとレンが日本に応援を頼んでいた事を思い出す。

(人手を送れない代わり、使えそうな連中に武器を送りつけた几帳面で物騒な奴がいた訳か。あいつの知り合いはそんなんばっかかね?)

 自分の事を棚に上げ、スミスは展開を終えた軍勢と一緒に狙いを定める。

「FIRE!!」

 スミスの声と同時に、無数のロケット弾や砲弾が、噴煙を上げて巨大過ぎる敵に向かって発射された。



 盛大な異音を立てて、へし折れたスパイラル・タスクが宙を待った。

「くそったれ!」

 罵声を吐きながら、ロットは相打ちの形で粉砕したネロ No4の装甲の隙間からウェアウルフの左手を突っ込むと、近接戦でクローとして使えるように鋭利かつ硬質で作られているアームマニュピレーターを突き刺す。

「がああぁぁ!」

 それこそ獣のような咆哮を上げながら、ロットはマニュピレーターをネロ No4体内へと強引に突き刺し、そこに有った何かを引っつかむとそれを体外へと引きずり出す。
 鮮血を全身に浴びながら、ウェアウルフはネロ No4の臓物を抉り出していき、ネロ No4は狂ったように右の拳と左のレーザー・シザーを叩きつける。

「うるせぇ! とっとくたばれ!」

 引きずり出した臓物を投げ捨てながら、ロットがハウリング・ロッドをネロ No4の脳天へと叩きつける。
 炸裂した衝撃波が、ネロ No4の頭部にあった脳や眼球をまとめて粉砕し、ひしゃげた頭部の眼科や鼻腔からそれらが入り混じった物を垂れ流しながら床へと倒れた。

(やっと、二匹目かよ………)

 荒い呼吸をしながら、ロットは残るネロの方へと向き直る。
 ウェアウルフの全身は返り血で染まり、幾度となく食らったAPパイルバンカーで装甲もひしゃげている個所が多い。
 何より、主武装のスパイラル・タスクの破損は大きな戦力減だった。
 それに対し、残ったのはネロ No1、No2、及びNo5。相手の被害はNo1はAPパイルバンカーの破損、No5はレーザー・シザー及び装甲の破損、No2にいたってはほとんど無傷の状態だった。

「ちょっとやばい……か?」

 ダメージチェックでまだ動きに支障が無い事をロットが確認した時、残ったネロ三体が同時に動いた。
 一番ダメージの大きいネロ No5を先頭にネロ No1が続き、もっともダメージの少ないネロ No2が最後となって左右交互に並ぶフォーメーションを組んでウェアウルフへと突撃を掛けてくる。

「ふざけるな! 来るなら来い!」

 相手のフォーメーションが、先頭の破壊覚悟でこちらを仕留めに来る必殺型だと悟ったロットが、ハウリング・ロッドを構えて逆にこちらから突撃を掛ける。

「この野郎!!」

 先頭のネロ No5のどてっ腹にハウリング・ロッドが叩きつけられ、衝撃波がネロ No5の体を突き抜ける。
 だが動きの止まった隙に、ネロ No1が横へと回ってレーザー・シザーを突きつけてくる。

「くそが!」

 突きつけられたレーザーの青白い光が装甲をじわじわ焼いていく音を聞きながら、ロットは空いている右手でネロ No1の腕を掴む。
 そこで背後にいたネロ No2が両手が完全にふさがっているウェアウルフの背後に回りこみ、両手の得物を同時に突き出してくる。

(さばききれねぇ!)
「こおおおぉぉ………」

 APパイルバンカーとレーザー・シザーが突きつけられようとした時、どこかから呼気の音が響く。
 直後、ネロ No2の体が真横へと吹っ飛んだ。

「!?」

 背部カメラからの映像を見たロットの目に、隆々たる筋肉の上から鎧のような白銀のプロテクターをまとった屈強な男達の姿が映る。

「我ら中国人民解放軍・陸軍特殊気功部隊!」
「義によって助太刀する!」
「ば、馬鹿野郎! そんな装備じゃ死ぬぞ!」

 ロットが叫ぶ中、態勢を立て直したネロ No2が硬気功部隊へと襲い掛かる。

「こおおおぉぉ」

 それに対し、硬気功部隊は逃げようともせず、型を構え、独特の呼吸法で息を吸い込む。
 すると、彼らの全身を覆っていたプロテクターが展開、ホールドされ強固な防壁と化した。
 突き出されたAPパイルバンカーに、直撃を食らった隊員は後ろに弾き飛ばされるが、態勢は崩さす気功の態勢のままバックしてその場で止まる。
 ロットはネロ No5とNo1を力任せに振り払うと、機体をスライドさせて硬気功部隊の隣へと並ぶ。

(あの装甲、ウェアウルフと同じ代物? だがなんだあのギミックは?)
「ふ、気功師用の鎧とはSTARSも面白い物を作る物だ」
「ここでそんな物を作ったなんて聞いてないぞ」
「日本支部から先程届いた物だが?」
「日本にゃ支部なんてねえぞ」

 ふとそこで、自分のウェアウルフも日本から送られてきた物だという事にロットは気付く。

(サムライ、いやこれを作ったモリカドとかいう男が手を回したのか?)
「まあどちらでも構わねえ」

 フォーメーションを組みなおしているネロ三体を前に、ロットが歯を剥くような笑みを浮かべる。

「あいつらを潰す。ついでにここを襲ってきている連中も潰す。いいか?」
「無論」

 返り血で朱に染まっているウェアウルフを先頭に、白銀の鎧をまとった硬気功部隊がフォーメーションを組む。

「来な」

 同時に向かってくるネロ三体に、ロットはハウリング・ロッドを突きつけた。



「保護パッドを! 早く!」
「輸血! AのRHプラス200ml!」
「外部搬出ルートはまだ!?」

 次々と運び込まれる負傷者に、医務室内に怒号のような指示が飛び交う。

「まずい! 敵の新手だ!」
「なんとしても通すな! 死守するんだ!」

 負傷者搬送用の通路を残して設けられた防壁をバリケードに、体の各所に包帯や保護パッドがついている隊員達が銃口を向ける。
 押し寄せてくるのは、全身を漆黒の防護服で包み、顔をガスマスクとゴーグルで完全に覆った奇怪な兵士の一団だった。

「撃ちまくれ! 弾幕を張るんだ!」

 双方の銃弾が飛び交い、直撃した弾丸が漆黒の兵士のゴーグルを吹き飛ばす。
 その下にあったのは、虚ろな赤い瞳だった。
 その兵士に銃弾が収束し、顔面が半ば吹き飛んで崩れ落ちる。
 すると、その兵士の体がいきなり融解を始め、残った防護服の中から大きなプラーガが這い出してくる。
 人造人間にプラーガを組み合わせる事によってより高度な運動能力と判断能力を持たせたBOW、ネオ・UTフォースに医務室前の戦線はじわじわと押し込まれていった。

「防ぎきれねぇ!」
「誰かグレネードを!」
「さっきので品切れだ!」
「あっ!」

 這い出したプラーガの一体が、防衛線をすり抜けて医務室へと飛び込んだ。

「邪魔!」

 内部で獲物に飛び掛ろうとしたプラーガに、負傷者の治療を行っていたミリィは片手に治療器具を持ったまま、もう片方の手で懐からレミントンM1100・ソードオフ ショットガンを無造作に引き抜くと襲い掛かってきたプラーガに至近で散弾を叩き込んだ。
 肉片となって飛び散るプラーガに目もくれず、ミリィは再び治療へと取り掛かる。

「すげぇ………」
「あんな怖い医者見た事ねえな…………」
「後だ! 次が来やがった!」
「弾がもう無ぇ!」
「オレが着剣して突撃する!」
「馬鹿言うな!」
「来るぞ!」

 残弾の尽きた銃に銃剣を着けて突撃しようとした隊員の目前で、突然横手から跳んできた細長い何かが爆発し、ネオ・UTフォースを吹き飛ばす。

「増援か!?」
「今のはダイナマイトだぞ!」
「どこから!」
「死にさらせええぇぇ!」
「くたばれぇぇ!」

 驚くSTARS隊員達の前に、着流しやスーツの上から防弾チョッキを着たガラの悪いヤクザ衆がドスを手に、爆発によって動けなくなっているがまだ生きているネオ・UTフォースを突き刺していく。

「先生は無事か!」

 そのヤクザ衆の中から、かすりの羽織をまとい、胸には包帯と骨折治療用の保護パッドが、腹にはサラシとそこに大量のダイナマイトを突っ込んでいる組長が医務室へと飛び込んでいく。

「先生!」
「無事よ。まだ日本に帰ってなかったの?」
「ちょっと観光で逗留してたんでさあ」

 ミリィの無事な姿を見て胸を撫で下ろした組長が、医務室の外にいる子分達に向き直る。

「野郎共! 命に代えても先生をお守りしろ!」
『承知!!』
「無茶はしないでね。こっちの仕事が増えるから」

 外からの威勢のいい返事に、ミリィは僅かに顔をしかめる。

「また物騒な増援が来たモンだ……」
「この際、ヤクザでもマフィアでも構わんけど」
「アドバイスをお願いしやす。こんだけ派手な出入りは初めてでしてね」

 親分が流麗な英語で話すのを聞いた隊員達が、ネオ・UTフォースをなんとか駆逐していくヤクザ達を見ながら戦列の構築を練り始めた時、更なる新手が姿を見せ始める。

「一度引かせろ! こちらの援護で弱らせてからだ!」
「承知しやした! 村瀬、若いのを連れてこっちに回れ! ぶっ込んだ程度じゃ死にはしないそうだ!」

 指示を出しながら、組長は右手で腰に指しておいた長ドスを引き抜き、左手で懐からジッポライターを取り出すとそれに火をつけて口に咥える。

「来やがれ化け物が!」

 押し寄せるBOWを睨みながら、組長は腹から引き抜いたダイナマイトに着火した。



「く、あ………」
「トモエちゃん!」

 壁へと叩きつけられ、崩れ落ちたトモエにリンルゥがそちらを向こうとするが、銃口がこちらに向いたのを感じて反対側へと跳んだ。
 リンルゥの髪を数本飛ばし、頬に灼熱感が走る。
 かすめただけで頬を裂く程の大口径の銃を、まるでプラスチックのおもちゃのように軽々と扱い、異常なまでの高速で動き回る《鋼》のFを前に、二人は戦うどころか致命傷を防ぐのに精一杯だった。
 相手が指揮管制室に向かうのを防ぐはずが、すでに指揮管制室目前まで戦闘の場は移っている。

「食らえ、『トモエダイナミック』!」

 呼吸を整えて跳ね起きたトモエが、跳ね起きた勢いを乗せた蹴りを始めに、左右の連続キックをFの全身に叩きつけていく。

「とどめ!」

 跳ね上がりながら、十二分な勢いを乗せたトモエのハイキックがFの側頭部に叩き込まれる。
 しかし、無造作に上げたFの左腕にそれは阻まれた。
 同時に上げられたS&W M500がトモエに狙いを定めるが、リンルゥがP90で殴りつけて強引に狙いを外す。

「私の攻撃が………全然効かない………」
「ボクじゃ、攻撃してる暇もない……」

 距離を取って、悠然とM500の弾丸を交換しているFに、二人は歯噛みした。
 今だダメージらしいダメージは何一つ与えられず、こちらの疲弊ばかりが積もっていっていた。

(こんな時、彼だったら……)

 リンルゥは脛の護刀・《玲姫》に手を伸ばそうとする。

『そいつを抜くのは、最後の手段にしろ』

 レンの言葉が、リンルゥの脳内に浮かび上がる。
 それを抜いた所で、劇的に状況が変わる可能性はまったくと言っていい程無かった。

「当該目標、危険度をDからCへ移行。戦闘レベルを〈MARCH(行軍)〉から〈SEMI BATTLE(準戦闘)〉に変更」

 Fの言葉に、二人の顔から血の気が一気に引いた。

「い、今まで戦ってたつもりすらなかったの!?」
「来るよ!」

 先程よりさらに速度を増し、トモエの反応を上回る速度でFの手が突き出される。
 トモエの首を狙っていた魔手は、とっさに横から突き飛ばしたリンルゥの肩を掴み、まるで綿の詰まったぬいぐるみのようにリンルゥを軽々と横へと放り投げる。

「うぁっ!」

 衝撃が体を突き抜け、リンルゥの動きが止まる。
 そこにM500が突きつけられるが、トモエがFの腕に飛びついて狙いを必死になってずらす。

「このっ! 離さないもん!」

 Fは無造作に腕を振るってトモエを振り払おうとするが、トモエは更に力を込めてしがみ付く。
 Fは腕を止めると、片手にトモエをしがみ付かせたまま、もう片方の手でいきなりトモエの首を掴み、力任せに引き剥がす。

「ぁ………かっ………」
「離せっ!!」

 リンルゥがなんとか己の上半身を持ち上げ、P90の銃口をFに向けてトリガーを引いた。
 連射された5.7mm弾がFの体を穿っていくが、Fは避けようともしない。
 貫通性を重視して製作された5.7mmフルメタルジャケット弾頭が、Fのボディスーツにほとんど阻まれ、運良く突破した弾頭が穿った弾痕から、血とオイルの入り混じった赤黒い液体が滲み出す。
 乾いた音を立てて、リンルゥの持つP90の弾丸が尽きる。
 そちらに一瞥もくれず、Fはトモエの首を握り潰そうとするが、トモエの肘と膝が同時にFの手首を上下から打ち、僅かに拘束が緩んだ隙に首を外して距離を取った。

「この距離で効かない……」
「つ、強いよこいつ………」

 少女二人が、恐怖の顔でFを見る。
 リンルゥの銃撃で開いた弾痕から流れ出す液体はもう止まり始めており、周囲の皮膚が膨張するように傷跡その物を塞いでき始めていた。

「二人とも伏せて!」

 突然響いた智弘の声に、二人が通路に倒れ込む。
 Fがその方向に銃口を向けた時、その周辺をいきなり無数の電撃が襲った。

「スプレッド・サンダーガン(拡散型電撃銃)だ! これなら少しは…」

 智弘が自分が開発した対サイボーグ用兵器の効果を確認しようとするが、電撃が晴れた直後、飛来したM500弾が智弘が担いでいたスプレッド・サンダーガンを撃ち抜き、破砕していく。

「うわあぁ!」

 情けない悲鳴を上げながら、スクラップとなっていくスプレッド・サンダーガンを智弘は投げ捨てる。
 ついでに、白衣の裾から円筒形の奇妙な塊が転げ落ちていく。
 残弾の尽きたM500から空薬莢を排出したFの間近で、謎の塊はいきなり破裂する。
 手榴弾にも似たそれは、破裂音と共に破片を巻き散らかすが、本来の手榴弾よりは比べ物にならない程破壊力が小さかった。
 しかし、なぜかそれを間近で受けたFの動きが鈍くなる。

「MW(電磁波)グレネードが効いてる! 二人ともこっちに!」

 爆発による電磁コイル圧縮によって生じる高磁力で周辺のメカを一気に狂わせる特殊グレネードの影響が及んでいる隙に、三人はその場から逃げ出す。

「多分持って数分だ! それまでに何か対処方法を………」
「なんなのあいつ! サイボーグじゃないの!?」
「《マシーナリー・ニューマン》、生体神経と人工筋肉をトランスミッター(変圧)もカリキュレート(演算処置)も無しに直接接続した完全な機械と生物の融合体だ! 生身の弱点もサイボーグの弱点も持ってない! まさか完成体があったなんて!」
「でも、さっきのは効いて……」
「一時的に人工筋肉が混線してるだけだ! すぐに整流化する!」
「! 来たっ!」

 背後からすでに重い足音が追ってくるのに気付いたトモエが、足を止めて振り向いた。

「ダメだ! シェリーかレン君でもないと、勝てない!」
「私にだって、切り札くらいあるもん!」

 叫びながら、トモエは腰の隠しポケットから、アンプルケースを取り出す。
 表面に某魔法少女の絵柄がプリントされた、いかにも子供の持ち物らしいアンプルケースを開けると、トモエはそこから異様に長い注射針と真っ赤なアンプルの入った注射器を取り出す。

「トモエちゃん!」
「止めるんだトモエ!」
「もうこれしかないの! これしか、あいつを止める手段はない!」

 二人が止めようとするのを振り払い、トモエはプロテクターを外すと、注射針を付けた注射器を思いっきり自らの胸に突き刺し、真っ赤なアンプルを一気に注入する。
 その時、逃げた三人の元に猛烈な速度で追ってきたFが姿を現す。
 空になった注射器を投げ捨て、トモエがFを睨む。
 その双眸は、父親譲りの黒瞳から紅に変わっていた。
 最初に変化が現れたのは髪だった。
 ざわめくようにトモエの髪が蠢くと、それが猛烈な勢いで伸びていく。
 それに続くように、身長が、手足が、まるで植物の成長を高速再生するかのように伸びていく。
 十秒とかからずに変化は終わり、トモエの瞳がまた黒へと戻っていく。
 その時、そこにいたのは12歳の少女ではなく、外見上は母親のシェリーと左程変わらない、20代くらいの女性の姿だった。

「変身完了!」
「と、トモエ!?」
「トモエちゃん!?」

 あまりに予想外の事に、智弘もリンルゥも唖然とする中、Fは無言でM500の銃口をトモエへと向けた。

「反撃開始!」

 姿勢を低くしたトモエが、一気に前へと駆け出す。
 Fの放った弾丸が低くした背をかすめる中、トモエの足が強く床を踏みしめ、拳を突き出す。
 急成長した体から繰り出された拳は、Fの腹に突き刺さり、今まで微動だにしなかったFの体が初めて揺らぐ。

「目標危険度、Bに修正」
「食らえ!」

 冷静に状況を解析するFに、トモエのコンビネーションコンボが炸裂する。
 左右の拳が連続で叩き込まれ、膝蹴りから続けてのハイキックがFの頭部に放たれる。
 完全に決まったかと思った時、渾身の蹴りはFの片腕で防がれていた。

「消去する」
「危ない!」

 FのM500が上げられる時、リンルゥが腰のホルスターからCZ75を抜いてFに向かって連射する。
 その内の一発が、偶然M500に当たり、射撃体勢が崩れる。
 その一瞬にトモエは後ろへと跳ぶが、Fは平然とそれに着いてくると、トモエ以上の速さの拳をその胸に叩き込んだ。

「が……」
「トモエ!」

 半ば弾き飛ばされながら、トモエは力任せのバックブローをFの横っ面に叩き込む。
 これは効いたのか、Fの動きがわずかに止まる中、トモエは咳をしながらなんとか呼吸を整えようとする。

「まだ、まだ足りない……それじゃあ!」

 トモエは腰のアンプルケースを再度取り出し、先程のより小型の無針注射器を幾つも取り出す。

「やめろ! それ以上は危険だ!」

 父親の言葉に耳を貸さず、トモエは無針注射器を両足、両腕、そして首筋へと突き刺す。
 トモエの両手両足が一回り膨張して血管が浮かび上がり、両目の毛細血管が急激活性化の影響で膨れて目が血走っていく。

「行くよっ!」

 トモエの体が、Fのスピードに匹敵する速度で動く。
 迎撃しようと振りかざされたFの手刀をトモエは弾き、懐へと飛び込んだ。
 そのまま、力強く踏み込み、Fの足ごと床を踏み込む。
 その勢いを乗せ、トモエの拳がほとんどゼロ距離の状態でFの腹に突き刺さる。
 続けて足を踏みしめたまま、トモエのアッパーがFの顎を打ち抜き、Fの体が揺らいだ所で左右の横蹴りが交互にFのボデイに叩きつけられる。

「倒れろぉっ!」

 Fの脇の下をすくうように掴むと、トモエの体が跳ね上がる。
 バク転しながら、一気にFの頭を床に叩きつけようとした時、動きが止まった。
 二人分の体重が叩きつけられる寸前、Fは片手だけでそれを完全に止めていた。

「トモエハリケーンが!」

 自分で編み出した必殺技が、簡単に破られた事にトモエが愕然とする。
 さらに片手でその状態から跳ね上がるFからトモエは慌てて離れて床を転がってから肩膝をついて止まる。

「もう一度…」

 立とうとしたトモエの鼻から、一筋の血が流れ出す。

「あれ……」

 それを拭おうとしたトモエの手が、振るえて顔まで持ち上がらない。
 どころか、震えは全身にまで及んでいった。

「あれれ………」

 そのまま、トモエは白目を剥いてその場に崩れ落ちる。

「トモエ!」
「トモエちゃん!」

 智弘とリンルゥが慌てて駆け寄るが、トモエはピクリとも反応しない。

「目標沈黙、消去する」
「させないよ!」

 リンルゥがCZ75をFに向けようとするが、FのM500がリンルゥの額にポイントする方が速かった。

「あ……」

 自分がまず狙われている事を悟ったリンルゥが、それでも抵抗しようとトリガーを引こうとした時だった。

「それがお前の目標ではないだろう」

 Fの背後から、冷静な男性の声が響く。
 全員が振り向くと、そこにはデザートイーグルを片手に構えたレオンの姿があった。

「長官!」
「どうしてここに!」
「最優先目標、発見」

 智弘とリンルゥの問いに答える間もなく、Fの狙いがレオンへと向けられる。

「やはりか」

 それだけ言うと、レオンはデザートイーグルをFへと向ける。
 二つのトリガーが、同時に引き絞られた………



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