BIOHAZARDnew theory
FATE OF EDGE

第十七章「大激戦! 咆哮する戦士達!」(前編)


「死に腐れ! 化けモン風情が!」

 無数のドスが、一斉にスローターに突き刺さる。
 しかし、腹や背中に無数に突き立てられたドスを物ともせず、スローターは力任せにヤクザ達を振り剥がした。

「くそったりゃあ……!」
「どけ健の字!」

 若頭が、親分から借りたダイナマイトの導火線に着火すると、それを口に咥えたままスローターにしがみ付く。

「こうなりゃ地獄に道連れじゃあ!! 極道舐めるな…」

 ダイナマイトが爆発する直前、飛来したスラッグ弾がスローターの頭を吹き飛ばし、飛び散った血しぶきと肉片が導火線の火を鎮火させた。

「生きているの面倒見るだけで忙しいの。原形留めない死体の検死なんてやってる暇ないから」
「ス、スイマセン先生……」

 硝煙が漂っているレミントンM1100・ソードオフ ショットガンの銃口を拭いたミリィが、それだけ言って怪我人の治療を再開する。
 そこへ、外からすさまじい爆発音が響いてくる。

「何だ!?」
「うろたえるんじゃねえ! 手前らは自分の持ち場を守りな!」
「へい組長!」

 部下達を一喝し、組長も血まみれの長ドスを振るう。
 それがすでに役に立たないまでに刃こぼれしてるのを確認した組長は、舌打ち一つしてそれを投げ捨てる。

「先生の旦那や坊は、よくもまああれだけで戦えんな………」
「何本もダメにしてるわよ。普通に買ってたら破産申告ね」
「違いねぇ」

 笑いながら組長は右手で腰の後ろに指しておいた予備のドスを抜き、左手でサラシのダイナマイトを抜いて火を着ける。

「旦那や坊みてえにはできねえが、番犬くらいには役に立って見せまさあ………」
「犬死はだめよ。鉄砲玉も禁止」
「分かってまさあ……」

 ダイナマイトを全力で投じ、吹き抜けてくる爆風にぼろぼろの羽織をそよがせながら組長は苦笑する。

「親分! 牛よりでかい奴が!」
「何っ!」

 子分の声に振り返った組長が、巨体を震わせながら突進してくるベヒモスに気付いて目を剥いた。

「止めろ! なんとしても止めるんじゃあ!」
「チャカが効かねえ!」
「マイトを!」
「間に合わねえ!」
「この野郎!」

 子分が突進してくるベヒモスを力づくで止めようとするが、その体重とパワーの圧倒的過ぎる差に、たやすく弾かれ、突き飛ばされていく。

「がはっ!」
「ぎゃああぁぁ!」
「来てみやがれ! 死んでも先生に手出しさせねえ!!」

 組長がドスを腰だめに構え、吼えた時だった。
 突進するベヒモスの真上を、紅い旋風が突き抜ける。
 その旋風は銀の煌きを持って縦に旋回しながらベヒモスを超え、その前に着地した。

「柳生新陰流、《朧月(ろうげつ)》」

 ベヒモスはそのまま突進し、自分を追い越した旋風の正体、紅いパワードスーツに激突しようとするが、寸前でその体が中央から左右へと分かれ、分かれた体がそのまま壁へとぶつかってしばらく擦りながら走って、ようやく止まった。

「あら、宗千華? 来てたの?」
「はい。助太刀に参りました」

 紅いパワードスーツの太刀筋に見覚えがあったミリィが、それが誰かに気付いて声をかける。

「屋内を突っ切った方が早いかと思ったが……第一駐車場はどちらで? 水沢に渡さねばならない物があるのですが」
「……それならここをまっすぐ行って突き当たりを左に出ればいい」
「かたじけない」

 大型BOWをあっさりと葬った謎のパワードスーツに、苦戦していたヤクザ衆も治療中の医療スタッフも唖然としながら、医療スタッフの一人が彼女の目的地を指差した。

「それでは後ほど」
「無理しないでね。お父さん泣かせたりしないように」
「問題ありません」

 その場をまた疾風のように過ぎ去っていく宗千華を、ミリィ以外の全員が呆然と見送る。

「ひょっとして、ありゃ柳生の嬢か! 勝てる! この勝負勝てるぞ!」

 組長の楽しげな高笑いが、どこまでも響いていた。



「がはっ!」

 床へと叩きつけられた衝撃で足を負傷し、動けなくなった硬気功部隊の一人に向かっていったネロ No2が、左手のレーザー・シザーを振り上げる。

「くっ!」

 狙われた硬気功部隊の一人は、とっさに防御姿勢を取ろうとするが、戦闘による負傷と疲労で呼吸が整わず、気功が発動できずにいた。

「させるか!」

 ネロ No2の左右に、残っていた硬気功部隊の人間が肉薄する。

『はっ!』

 両側から同時に叩き込まれた掌底打に、ネロ No2の動きが僅かに止まる。

「てめえで、最後だああぁぁ!」

 その一瞬の隙に、ウェアウルフの右マニュピレーターがネロ No2の頭部を掴み、バーニアを最大出力で吹かして壁へと叩きつける。

「いい加減死んでろ!!」

 出力がかなり落ちているAPパイルバンカーが連続で叩き付けられ、片刃となったレーザー・シザーがウェアウルフの首の装甲に押し付けられて金属の焦げる匂いが立ち上る。

「うざってえぇぇ!!!」

 ロットは咆哮しながらウェアウルフのリミッターを解除。
 ウェアウルフの右腕が過負荷に耐え切れず、各所からスパークを上げていく中、異音と共にネロ No2の頭部が砕け散った。

「手間かけさせやがって………」

 アクチュエーターがオーバーヒートを起こしてウェアウルフの右腕が完全に機能停止する中、ロットは機内で荒い呼吸をしながら損傷をチェックしていく。

「やったのか…………」
「ああ」

 腕があらぬ方向に曲がったり、体中を鮮血に覆われた気功部隊の隊員達が、互いに肩を貸し合いながら周辺に散らばっているネロの死体を見た。

「我々の技量を持ってしても、サポートがやっととは………」
「普通の兵士では足止めすらできまい。一体何者がこんな恐ろしい怪物を……」
「知るか。オレの仕事はこういう常識外れを潰す事。それ以外のなんでもねえ」
「さすがはSTARS…」

 妙な関心のされ方をしている中、重傷を負っている気功部隊の隊員達が妙な気を感じるのと、ウェアウルフのセンサーがアラートを鳴らすのは同時だった。

「生体反応!?」
「まさか、まだ生きている!?」

 死体となっているはずのネロの方を見た者達は、そこに原型を無くしていくネロの姿を見た。

「融解? いったいこれは……」
「違う! 逃げろ!」

 装甲の隙間から、まるでアメ細工のようになったネロだった物が次々と這い出し、一つにまとまりながら盛り上がっていく。

「融合していく……だと?」
「そんな馬鹿な事が!」
「あるんだよ。まさかこの目で見る事になるとはな…………」

 ロットが呟きながら、ウェアウルフのバッテリー残量をチェック。
 最早ほどんと残っていない事に舌打ちしている最中に、一つにまとまったネロは、まるで粘土細工のような不恰好で巨大な姿へとなった。

「ニュクス細胞か! こいつは周辺の生物を無差別に食って巨大化していく! 生身じゃ相手できない!」
「だが、その状態では!」

 すでに武装は破壊され、右腕もまともに動かないウェアウルフの中でロットが獣の笑みを浮かべる。

「寄せ集め風情が、このロット・クラインを倒せると思ったか!」

 全リミッターを解除したウェアウルフが、高速でネロ・ニュクスに肉薄すると残った左のアームマニュピレーターを振るう。
 見た目よりもモロいネロ・ニュクスの体はその一撃で肉がえぐり飛ぶが、流れるように動いた別の肉がその場所を塞いでいく。

「なんと……」
「これは本当に生き物なのか!? 悪夢の産物としか思えぬ………」

 気功部隊隊員達が絶句する中、ネロ・ニュクスが腕のような物を持ち上げ、横殴りに振るう。
 そのモロさとは裏腹に、強力な一撃がウェアウルフの機体を軽々と吹き飛ばす。

「ぐぁ……」

 壁へと叩きつけられ、装甲越しに衝撃が突き抜け、ロットが苦悶する。
 霞む意識の中、こちらへと迫ってくるネロ・ニュクスの姿をモニターで確認したロットが小さく笑みを浮かべる。

「オレの勝ちだ! アーマー、フルパージ!」

 ロットが叫ぶと、ウェアウルフの堅牢な全装甲が一瞬で弾け飛び、フレームだけとなった奇怪な姿を現す。
 軽量となったウェアウルフが、超高速でネロ・ニュクスの背後に回ると、背中から抱きついて締め上げる。

「聞かせてやるぜ、人狼の咆哮を!《HOWLING Fenrir》! Cry!!」

 コマンドワードを叫ぶと、それを認識したウェアウルフのフレームから、耳鳴りのような音が響き始める。
 瞬く間にその音は大きくなっていき、やがて人間の可聴域を越えて周辺の壁や天井を振るわせていく。
 ウェアウルフのフレーム全てをスピーカーにして、超高音域・高密度に圧縮された高周波が、密着状態でネロ・ニュクスに叩きつけられる。
 全身の細胞が、原子レベルでの振動に耐え切れず崩壊を始め、ネロ・ニュクスの断末魔ですらもかき消され、とうとう限界に達した体は細胞の原型すら残さず、粉々に砕け散って周辺へとぶち撒けられた。

「おお!」
「やったぞ!」

 気功部隊隊員達が歓声を上げる中、バッテリー切れとオーバーヒートとフレーム限界を同時に向かえたウェアウルフが崩れ落ち、パージされたカバーを押しのけて機外へと出たロットが、ネロ・ニュクスが完全に動かないのを確認すると、背中から倒れて大の字に広がった。

「思い知ったか、クソ野郎…………」



『目標、全長41m、重量60t前後と判断されます』
「正真正銘の怪獣ね。とても陸上生物とは思えないわ………」
「火器管制をこっちに回せ!」
「ギガスこれより交戦状態に突入! 巻き添え食いたくなければ下がれ!」

 ギガスのブリッジ内で、次々と戦闘準備が進められていく。
 ブリッジ内メインスクリーンには、ギガスと比較しても引けを取らない巨体が映し出されていた。

「上から見てもでけえな、おい………」
「デカさなら負けてないわよ」
「戦闘力でもな」
「もちろんよ、攻撃開始!」
『イエス、マム!』

 ギガスのエンジン音が高まり、戦闘状態へと移行した事を周辺にまで知らせた。

「目標上空を近接通過! 直上にてホーミングアンカーを射出!」
「了解!」
『1番から4番までの下部近接兵装開放、照準回します♪』
「ツケは倍返しだ! このカメ野郎!」

 キャサリンの指示に従ってフレックが操縦桿を押し込み、カルロスが照準スコープをセットする。
 甲高いジェットの噴射音を立てながら、ギガスの巨体がアクーパーラへと迫る。

「食らいやがれ!」
「『紅朧』、『黄輝』!」

 ギガスがアクーパーラの上へと来る前に、ランの指示に従って紅朧と黄輝が一斉に上空へと舞い上がり、縦列を構成していく。

「《Scorching Volt(灼熱の雷撃)》!」

 ランの右手が放った業火が、紅朧の放出した発火体液を通じて炎の砲塔を形勢し、左手の雷撃が黄輝の放った雷撃を吸収しながら炎の砲塔と融合し、炎雷の「砲撃」がギガスを直撃した。

「くっ!」
『右側面に被弾! エーテルサーキット破損により、旋回能力2%ダウンしたよ!』
「あの小娘が!」
「緊急回頭及び下部兵装封鎖! 内部に直撃食らったら誘爆を起こして落ちるわ!」
「了解!」

 アクーパーラの、正確にはランを避けるようにギガスの機体が動き、相手を狙っていた兵装が次々と封鎖されていく。

「うかつだったわ。どうやらあのカメと彼女でセットと見た方いいわね………」
「遠距離攻撃も近距離攻撃も使えねえ………どうする?」
「簡単、直接攻撃よ。旋回して再度アクーパーラに接近! 左右ウイングレーザーエッジ展開!」
『イエス、マム!』

 大きく機体を旋回させながら、ギガスの両翼の前縁(翼の全面の縁)カバーが展開、青白いレーザーが噴き出し、それが翼よりも長く伸びて刃を形勢した。

「……これ設計した奴、アホだろ?」
「おかげで大助かりね。両翼レーザーエッジ戦闘出力で安定! 旋回完了と同時に機体をロールさせて直接攻撃!」
「了解!」
「マジか………」

 エーテルクラフトによる姿勢制御と並列してギガスが恐ろしい程小さい半径で旋回すると、機体が90°右へと傾き、右ウイングのレーザーエッジが地面をえぐりながらアクーパーラへと迫る。

「今度こそ撃ち落してあげる!」

 ランが再度両手を上げた時、その周辺に何かが打ち上げられた。
 それはランの周囲で炸裂し、内部に封入されていたアルミ製のチャフをばら撒く。

「しまった………!」

 雷撃の誘導用レーザーがチャフで乱され、拡散していく。
 迫るギガスにランは炎だけでも放つが、紅朧の力で増幅されたそれだけでも威力が足りず、業火を突き抜けたギガスのレーザーエッジがアクーパーラを直撃した。

「きゃああああぁぁ!」

 レーザーエッジがアクーパーラの甲羅にぶつかり、周辺に灼熱の火花を撒き散らす。


「やったか!?」

 最後に残っていたチャフグレネードまで撃ち尽くしたスミスが、火花の向こうを確認しようとヘラクレスの全センサーをフル稼働させていく。
 ギガスが突き抜けた後、そこには甲羅の表面がえぐれただけのアクーパーラの姿があった。

「化け物が………」


『目標、甲羅型キャリーベイ13%破損! 本体ダメージは軽微!』
「旋回して再攻撃! レーザーエッジ出力上昇!」
「首だ! 首を落とせば幾らなんでも…」
『目標、甲羅内に首と四肢と尾を退避。防御体勢に移行と推測』
「引っ込めやがった…………」
「構わねえ! 何度でもぶった斬る!」
「下の連中に連絡! 援護を!」
『イエス、マム!』


『スミスリーダー、目標怪獣攻撃のための援護を』
「……援護しろって言われてもな」
「手持ちの武器がもう無い! チーム・コアラ、これより吶喊を…」
「落ち着け、何か手が…」

 自爆装置のコードを思い出しながら、スミスが舌打ちした時、突然すさまじい砲声が背後から轟く。

「おい、なんだありゃ!?」
「戦車だと!?」
「カナダ軍か!?」
「いや………」

 背後から迫ってくる、かつてのアメリカ軍MBT(メインバトルタンク)M1A1の装甲に、STARSのエンブレムが刻まれてるのにスミスが苦笑する。

「悪い、こいつの準備に手間取った!」
「バリーさん、どこからこんなの………」
「退職金で買った。女房は呆れて何も言わなかったがな」

 ハッチを開けて元STARSメンバー、バリー・バートンが姿を見せる。

「誰か手を貸してくれ! 一人じゃ戦闘運用は無理だ!」
「オレが乗る! 元戦車兵だ!」
「砲手は任せろ!」
「じゃあ装填を!」

 バーバリアンから降りたオーストラリア軍兵士と、弾丸の尽きた銃を放り投げた中国軍兵士とSTARS隊員がM1A1へと乗り込んでいく。

『スミスリーダー、上空衛星《ウヅキ》とのレーザー通信がリンクしました。何かスペアウェポンを降下させます?』
「武器がデリバリーできるのか? 何でそれを早く言わねえ!」

『TINA』からの通信にがなりたてながら、スミスが上空を睨みつける。

『今やっと繋がって……長時間リンクはまだ不可能ですよ?』
「デカくて強烈な奴だ! あいつをぶちまかせる程の!」
『了解♪ 《カドゥケウス》降下します♪』

 コールサインが内部ディスプレイに表示されると、程なくして上空から一機の大型降下ポッドが流星となって降りてくる。

「よし、来た………な……?」

 大きさが確認できるようになったと思った時、ヘラクレスのシステムAIが警告を鳴らした。

「おい!」

 大慌てで機体をバックさせ、直後ちょうど先程までいた地点に降下ポッドが突き刺さる。

「殺す気か!」

 悪態をつくスミスの前で、ポッドが展開していき、中に封入されていた装備が露になっていく。

「だが、こいつで!」

 どんな物かもよく確かめないまま、スミスがポッドからそれを引きずり出す。
 露になったそれは、《タスラム》よりも細いが長大な砲身と、それに付随した大きな機関部を持った奇妙な代物だった。
 しかもそれには銃口が無く、代わりにレンズのような物が先端にセットされている。

「……なんだこりゃ?」
『LINE CONNECT.《カドゥケウス》STAND BY』

 困惑するスミスを尻目に、システムAIが《カドゥケウス》を起動させていく。

「何してる! 先に行くぞ!」

 バリーの声と共に、M1A1が砲塔を旋回させながら轟音を立てて本来の性能速度からは明らかにかけ離れた速度で走り始める。

「あんた、こいつ買っただけでは飽き足らずにエンジン換装しただろ?!」
「先月までこいつで草レースに参加してたからな」
「この際、なんでも構うか!」
「撃てっ!」

 M1A1の主砲120mm砲が火を噴き、砲弾をアクーパーラに叩き込む。
 しかし、甲羅部分に当たった砲弾は、甲羅の破片を僅かに散らしただけだった。

「戦車砲でもダメか!」
「劣化ウラン弾はないのか!?」
「あるか! 頭引っ込めた場所に叩き込むぞ!」
「了解!」

 キャタピラを駆動させて移動するM1A1の周囲に、砲声を聞いたBOW達が一斉に寄ってくる。

「させるか!」

 スミスがセットが終わったカドゥケウスを構え、トリガーを引いた。
 そこから眩い閃光、正確にはビーム化されて放たれたマイクロ波の照射でイオン化した大気分子が光を放ち、その閃光の直撃を受けたBOW達の細胞が瞬時に沸騰、破裂していく。

「あれは!」
「光学兵器か!」
「……よりにもよってビーム砲かよ」
『No、パワードスーツ用携帯メーザー砲《カドゥケウス》です』

 スミスのぼやきをシステムAIが訂正する中、閃光の直線状にいたBOW達を文字通り薙ぎ払い、使い果たしたバッテリーが空薬莢よろしくカドゥケウスの機関部から排莢され、次弾のように別のバッテリーが装填される。

『照射部、放出部、冷却部、問題なし。連射可能です』
「こりゃ本気で怪獣退治だな。できれば巨大ロボに乗ってやりたかったがな!」
『レポートに要望として記載、提出してください』
「後でそうさせてもらうさ。炙り出す! 援護を!」
『了解!』

 更に寄ってこようとするBOWを、二つの旋風が斬り捨て、撃ち抜く。
 ヘラクレスの両脇に、国斬丸を構えたムサシと、カオス・メーカーを構えたアニーが並んで立った。

「まだ片付いてなかったのかよ、親父」
「ああ、ちとデカ過ぎてな」
「早く片付けよ、邪魔だから」
「その通りだ、行くぞムサシ、アニー!」

 一筋の閃光に、二つの旋風が続けて繰り出された。



 二つの刃が奏でる澄んだ金属音に、拳がぶつかり合う音が連なる。
 続けて弾丸が吐き出される銃声に、光線が吐き出される照射音が響き、風切り音を立てて蹴りがぶつかり合う。
 それらの音は一切途絶える事無く、あたかも一つの音楽のように戦いを奏でていた。

「はああぁっ!」

 裂帛の気合と共に、レンは高速の刺突を連続で繰り出す。
 切っ先その物が無数に分裂するかのような高速の刺突に、ミラが前へと出るとその両手をマクスウェルが分厚く覆っていき、驚異的な速度で繰り出される刺突全てに反応し、それらを弾き、受け流し、阻んでいく。

「くっ……」
「こちらの番だね」

《烈光突》を完全に防がれたレンが刀を引くと、即座にジンが前へと飛び出し白刃を振りかざす。
 だがそこでレンの背後にいたシェリーがレンを飛び越え、レンの手にした刀の峰を踏み台にして一気に飛び出す。
 至近距離でシャイニング・ウィザード(飛び膝蹴り)がジンの胸に叩き込まれた。

「ぐっ……」
「くっ……!」

 ジンが倒れていく中、膝から伝わる感触が弱い事に、シェリーがうめく。
 ジンの背後、膝が当たる直前にジンの足を払って故意に転ばせる事で威力を相殺させたミラが、カウンターの拳を突き出す。
 シェリーがとっさに両手でガードを固めるが、ミラの拳から伸びたクローがシェリーの両腕に突き刺さる。
 ミラの顔に笑みが浮かぶが、次の瞬間にはレンの繰り出した刃が脇腹を斬り裂く。
 双方離れた所で、シェリーのベルセルク2とミラのマクスウェルが傷を塞いでいく。
 一進一退の攻防が、四人の間で繰り広げられる。
 だが、着実に終焉は近付いてきていた。

「向こうは派手にやってるね」
「ああ、早く終わらせて参加しないとな」
「何をどう終わらせるのかしら?」
「もちろん、あんた達をぶちのめすのよ」
「ふ〜ん……でも、兄さんの得物はあとどれくらい持つかな?」

 ジンの一言が、全てを物語っていた。
 幾度となく打ち合わされた刃には目に見える程の刃こぼれが生じ、残された弾丸は今セットしているマガジン内の物だけだった。

「お前の銃もそろそろ弾切れだろ」
「そうだね、今入ってるのが最後。撃ててあと二発かな? でも、この刀はなんともないよ?」

 ジンの手にした妙法村正は、幾度となく打ち合わせたにも関わらず、その刃の怪しい光は一切損なわれていない。

「一気に片付けるわよ!」
「そうしましょう!」

 シェリーが両腕を広げながら一気に間合いを詰め、レンがその後ろに続く。
 シェリーの攻撃範囲に相手が入った瞬間、突如としてレンが振り返るとシェリーと背中あわせとなった。

「ふっ!」

 シェリーの大ぶりの右フックがミラを狙うが、ミラはわずかに後ろに下がってそれをかわす。
 しかしシェリーの体はフックの勢いのまま旋回し、その後からレンの構えるサムライソウル2が狙いを定めていた。

「!!」

 ミラは身をひるがえして弾丸をからくもかわすが、続けて繰り出される斬撃が胴をかすめる。
 動きが鈍った所に、旋回してレンとまた入れ替わったシェリーのローキックが脛を打つ。

「これは…!」

 シェリーとレンの体が合わさったまま旋回を続け、拳、銃撃、斬撃、蹴り、肘、膝、都合四つの腕と四つの足が、絶え間ない攻撃を繰り出していく。

「ミラ!」

 ジンも前に出て二人がかりでその旋回しながらの同時攻撃、光背流 双門技《双陽螺旋撃陣そうようらせんげきじん》を捌き続けるが、レンとシェリーの回転速度は上がり続け、攻撃も更に早くなっていく。
 叩き付けられようとするサムライソウル2のグリップを捌いた所で、撃ち出された弾丸がミラの額をかすめる。
 その一瞬に狙って、白刃が脳天へとミラの額へと向かって突き出された。
 だが、拍手の音がそれを止める。
 突き出された白刃は、ミラの両手で完全に挟まれ、止まっていた。

「白刃取り!?」

 二人の回転が止まり、レンがためらいなく柄から手を離す。
 そこで、ミラの両腕が一瞬膨張する。
 次の瞬間、ミラの手の中で刀は粉々に砕け、輝く破片と僅かに残った刃が付いた柄が地面へと落ちた。

「今のは!」
「《双光掌破撃そうこうしょうはげき》か!」
「そう、ボクは使えなくても、ミラなら使えると思ってね。教えておいといんだ」
「さて、どうするの?」

 背中合わせの状態を解き、シェリーは構える。
 だが、レンの右手は何も掴んでおらず、左手のサムライソウル2もスライドが後退したたまま停止、最後の弾丸が尽きた事を知らせていた。

「どうするも、戦うのみだ。武器が尽きても、オレはまだ生きている」
「そうだね。ダメだよミラ、兄さんに変な事言っちゃ」

 子供を嗜めるようにジンは言いながら、右手の妙法村正を正眼に構え、左手のレイ・ガンを峰に添える。
 対するレンは、両手を開き気味にして右手をやや下に突き出し、左手を引き気味に中段で構える。
 かすかに両者の間が詰まると、同時に動き出す。
 ジンの斬撃が半身を引いたレンの脇をかすめ、その状態から白刃が跳ね上がろうとするのを前に出たレンの左抜き手が腕ごと払う。
 ジンのレイ・ガンが閃光を撃ち出すのをわずかにかがんでかわし、頭髪が焼ける匂いを嗅ぎながら伸ばしたレンの右手がレイ・ガンを構えたままのジンの左手首を掴む。
 それを引きながら、レンは体を反転させながらジンの懐へと潜り込み、左手でジンの右手を抑えながら一気に投げた。
 投げられる直前に自ら飛んだジンが宙で反転しながら、レンの左手を振り切り、着地すると同時に横薙ぎに白刃を振るう。
 思わず掴んでいた腕を放し、レンは後ろに避けるが白刃はレンの袖を斬り飛ばし、それに紅い飛沫が混じる。

「レン君!」
「おっと、おばさんの相手はこっち」

 明らかに劣勢なレンに助けようとするシェリーの前に、ミラが立ち塞がる。

「邪魔よ!」
「お互い様」

 両手にスパイク付き生体装甲をまとった拳どうしが、すさまじい速さで打ち合わされる。
 速度はどんどん上がっていき、打ち合わさらる音も更に大きくなっていく。

「このっ!」

 全力を込めて拳を突き出そうとした瞬間、右腕に激痛が走った。

(こんな時に!)

 寄生装甲の使用限界に古傷が耐えられなかった事に、シェリーの動きが一瞬止まる。
 そこに、ミラの拳がモロに胴体へと突き刺さった。

「が、はっ………」

 弾き飛ばされたシェリーが、血反吐を吐きながら倒れる。

「シェリー隊長!」
「どっちを見てるんだい?」

 レンが気を取られた時、ジンの刀は大上段に上がり、ミラの体が宙を舞いながら旋回し、必殺の威力を込めた浴びせ蹴りの構えを取る。

『はあっ!』

 どちらも同じ大上段から必殺の攻撃が、同時に繰り出される。
 だが、それが相手に命中する直前、動きが止まった。
 ジンが振り下ろされるはずの刃が僅かにずれて飛来した何かを弾き、浴びせ蹴りの体勢を解いたミラが空中で飛来した何かを捌く。
 それはレンが使う物とは違う小柄だった。

「水沢っ!」

 女性の声と共に、こちらへと向かってくる紅のパワードスーツが左腕を伸ばす。
 そこにセットされたアームガンから小柄が次々と撃ち出されるが、ジンとミラはそれを軽く弾いていく。

「野暮な人だな、いい所だったのに…」
「使え!」

 小柄に気を取られてた隙に、宗千華は背のバックパックから一振りの日本刀を取り出すと、レンへと向かって全力で投じる。

「させな…」

 受け取りを阻止しようとミラが動くが、その足にシェリーのベルセルク2から伸びた触手が絡み、強引に引き倒す。
 レンの手がその刀へと伸び、それに向かってジンの白刃が振り下ろされる。
 わずかに早く、レンの手が柄を握り締め、中空でそれを抜いた。
 その場に、刃がかちあったとは思えない程の、どこまでも澄んだ音が響く。

「それは!」
「こいつは!」

 ジンとレン、二人がレンの手にした刀を目にした時、互いの目が驚きに見開かれる。
 それは、古刀独自の細身で反りが入った刀で、その切っ先から刀身の半ばまでが諸刃となっている、風変わりな代物だった。

大通連だいつうれん!!」
「彼が最後まで握っていた刀だね」

 その諸刃の古刀、陰陽寮五大宗家の一つ、御神渡家に代々伝わる稀代の妖刀、そして水沢 練が最後の戦いの時に使っていた刀が、今レンの手に握り締められている。
 よく見れば、その刀身の表面に無数のラインが走り、イオン・コーティングの淡い光が刀身に宿っている。

「剣魂に影響しないようにカスタムされたか………さしずめ《大通連・改》と言うべきか?」
「そうだね、面白くなってきたよ」
「そうは思えんがな」

 お互い剣を弾いて距離を取ったレンの隣に、己の刀を抜いた宗千華が並ぶ。

「妙法村正、やはりここにあったか」
「……宗千華、なんでお前がここにいる?」
「助太刀に来てやったのだ。その言い草はないだろう」
「お前がその程度で動くか。ここはいいから、向こうに回ってくれ」
「心得た」

 どこか呆れているレンが暴れているアクーパーラの方を指差すと、宗千華があっさりと構えを解いてそちらへと向かう。

「誰今の?」
「オレの学生時代のライバルだ。オレの事を調べたのなら知ってるだろ?」
「ああ彼女。なんかすごく強そうだね」
「日本最強のサムライの一族の生まれだ。オレみたいな亜流とは出来が違う」
「ふうん、そうなんだ………」

 それ以上の関心もないのか、ジンはゆっくりと刀を下ろし、それを鞘へと収めて半身を引く。
 居合の構えを取るジンに、レンも同じく刀を鞘に収め、同じ構えを取っていく。

「あいつっ!」

 触手を振り解いて立ち上がったミラが、宗千華の後を追おうとするが、その横っ面に強力な蹴りが叩き込まれ、そのまま横へと吹っ飛んで地面に叩きつけらる。

「どこに行くの? あなたの相手は私でしょう?」

 気を取られたミラに蹴りを叩き込んだシェリーが、口の端から血がたれるのもかまわず片手でまねいて挑発する。

「この………!」
「来なさい」
「いざ」
「参る」

 二つの足が強く踏みしめられるのと、二つの刃が鞘走るのは同時だった。



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