BIOHAZARDnew theory
FATE OF EDGE

第十八章「大激戦! 咆哮する戦士達!」(後編)


「命中!」
「効いているか!?」
「ダメだ! HEAT弾(成型炸薬弾)だぞ!」
「敵、落雷攻撃近接!」
「動き続けろ! 止まったら的にされるぞ!」

 バリーの指示の元、M1A1はアクーパーラの周囲を動きながら、120mm砲を叩き込んでいたが、相手の巨体と分厚い甲羅と表皮が攻撃を阻んでいた。

「頭だ! 頭の方に叩き込めば!」
「落雷攻撃、激化! 前進困難!」
「くそっ!」

 先程から幾度となくギガスも攻撃を続け、ケンド親子を中心とした部隊も必死の攻撃を行っているが、甲羅の天頂部にいるランを中心とした炎雷攻撃の前に、大苦戦を強いられていた。

「このおっ!」

 国斬丸をかざし、ムサシが何度目か分からない突撃をかける。
 勢いをつけ、スーツの力も使って一気に甲羅を登頂しようとするが、そこに紅朧と黄輝の力を借りた炎雷が雪崩のように襲い掛かり、ムサシはなす術もなく押し流される。

「ダメだっ……!」
「あいつを、どうにかしないと!」
「これでどうだ!」

 スミスがカドゥケウスのメーザービームをランに向けて照射するが、無数のBOWがその前に盾となって阻み、更にランは自分の周囲を業火で覆って姿を完全に眩ませる。

「ちっ、なんて奴だ………26年前を思い出させやがる………」
「その時は、どうしたんだよ?」
「あいつがいたから勝てた。だが、今回は向こうはそこまで計算してやがる!」

 スミスが歯軋りする程に奥歯をかみ締める。
 力が入りすぎ、軋み音と共に激痛が走るが、それすらスミスは気付いてなかった。

「あれをどうにかしない限り、オレ達は勝てない……!」
「だが……」
「どうするの?」
「あれをどうにかすればいいのだな」

 その場に、凛とした女性の声が響く。
 思わず振り返ったケンド親子の目に、抜き身の刀を手にした紅いパワードスーツの姿が飛び込んできた。

「誰だ!?」
「お前、ジュウベエ!?」
「なんでここに!?」
「あれは私が受け持とう。あの力の前では数で攻めれば余計に不利になる」

 その中身を察したムサシとアニーが驚く中、宗千華はためらいなくアクーパーラへと向かって駆け出す。

「あら、新顔かしら?」

 アクーパーラの甲羅の上で周囲を睥睨していたランが、こちらに向かってくる紅いパワードスーツに気付くと、無造作に右手を振るう。
 そこから飛び散った発火体液が、紅朧の垂らした発火体液に着火して巨大な業火となって宗千華を襲う。
 だが、炎が宗千華を覆ったかと思った瞬間、炎は無数の破片となって砕け散り、霧散した。

「!?」
「柳生新陰流、《乱月》」

 生身なら一瞬で焼死確実の業火を、無数の斬撃で斬り裂いた宗千華は、大きく飛び上がるとアクーパーラの甲羅に乗って走り出す。

「これならどう!?」

 ランが左手を突き出し、そこから放たれた電撃が黄輝の体内電流を帯びて放たれるイオンレーザーでバイパスされて更なる威力を持って宗千華を襲うが、宗千華は軽く体をかたむけるだけであっさりとそれをかわす。

「ならこれで!」

 ランが上空へと発火体液を振りまき、それが紅朧の物と合わさって巨大な火球となり、同時に電撃を放ってそれを黄輝で複雑にバイパスさせて宗千華の背後から襲わせる。

「子供だましだな」

 宗千華は走りながら、その場で旋回してアームガンから小柄を撃ち出してバイパス直前の黄輝を撃ち抜いて電撃の軌道を変え、さらに垂直に飛び上がりながら下段から逆刃に構えた刃を一気に跳ね上げ、頭上の火球を両断した。

「こいつ、強い……!」

 宗千華の予想外の戦闘力に、ランは焦りを覚える。

「行きなさい!」

 アクーパーラ内に残されていた全BOWをランは開放させると、宗千華に差し向ける。

「参る」

 宗千華は押し寄せてくるBOWに眉一つ動かさず、更に走る速度を上げてその中央に突撃する。
 両手で構えた刀をやや引いて中段に構え、大きく歩を踏み込みながら真横へ振るう。
 その一撃で胴を両断されたハヌマンが崩れるよりも速くその脇を通り過ぎ、その背後から現れたスローターを斜めに斬り上げる。
 血しぶきが吹き上げる中を突破し、上空から襲い掛かろうとしていたガーゴイルを刺突で串刺しにすると、ガーゴイルを突き刺したまま一気に振り下げて腕を振り上げたハヌマンを脳天から唐竹に斬り裂く。
刃に貫かれたままケイレンしているガーゴイルを前蹴りで乱暴に外し、蹴り飛ばされたガーゴイルが他のBOWへとぶち当たって止まった所で、その背後のBOWごと真横に両断した。
 そこで即座にかがんでランの放った電撃をかわし、宗千華は更にランへと迫る。
 宗千華を狙ってベヒモスや紅朧、黄輝が迫るが、それを下からのメーザービームや超高速弾が迎撃する。

「STARSもやるものだな」

 思わぬ援護に宗千華は賞賛の念を思いつつ、襲い掛かってきたガーゴイルを逆袈裟に斬り捨ててランの目前まで迫る。

「こいつっ!」

 ランは両腕を叩きつけるように合わせると、それを前へと突き出す。
 そこから無数の電撃が放たれ、放射状に広がっていった。

「そんな技もあるのか」

 宗千華は左右に小刻みにステップを踏み、電撃をかわすが、最後の一撃を大きく後ろへと跳んでかわした。
 それを見たランの顔に笑みが浮かぶ。

「なるほど、刀で電気は斬れないわね」
「その通りだ。もっとも雷を切って半身不随になった戦国武将もいたそうだがな」
「あなたもそうなりなさい!」

 ランが右手を振るうと発火体液が孤を描いて飛び散り、着火して炎の三日月と化して宗千華に迫る。
 宗千華が上段からの斬撃でそれを斬ろうとした時、ランの左手から放たれた斬撃は炎の三日月に直撃、電撃を帯びた炎が白刃と接触し、激しいスパークが生じる。
 寸前で宗千華は柄から手を離して電撃の直撃を避けるが、炎は止まらず宗千華を包む。

「ジュウベエ!」

 その様を見たムサシが叫んだ時、紅いパワードスーツが崩れ落ちる。
 だが、炎が消えて残ったのは、中身のないスーツだけだった。

「!?」
「気付くのが遅い」

 ランの背後から宣告と鞘鳴りが同時に響く。
 背後も見ず、ランは宙へと跳び上がるが、背中から灼熱のような激痛が走った。

「うああぁぁぁ!」
「急所を外したか」

 鮮血を撒き散らしつつも、ランは背の羽根を出すとそのまま虚空へと浮かび上がりながら振り返る。
 そこには、全身をボディスーツで包み、血刃を手にした漆黒の髪を持った女性の姿が有った。
 漆黒の髪は肩口でそろえられ、色白の肌に細い目鼻口がそろい、全体的には物静かな雰囲気を持った女性だった。
 しかし、その右目は刀の鍔が眼帯として覆い、手にした血刃と相まってどこから見ても完全な《サムライ》その物だった。

「あなた何者!? あなたみたいなのがいるなんて聞いてないわ!」
「だろうな。先程来たばかりだ」
「その顔、二度と忘れないわ………アザトース4エレメンツ、《嵐》のランが必ず息の根を止める!」
「我は柳生家十九代頭首、柳生十兵衛 宗千華。いつでも相手になろう」

 射殺さんばかりの怨嗟の形相でランは宗千華を睨みつけると、そのまま逃走する。

「逃げたか。まぁいい、でかいのは任せるか」

 宗千華は手にした刀の血油を振るって落とすと、背の隠し鞘へと収め、炎の直撃を受けたパワードスーツを再起動させて装着していく。

「まだいけるな。ではもう少し暴れるか」

 ランがいなくなった事に気付いたらしいアクーパーラが身震いする中、宗千華は転がっていた愛刀を拾って甲羅を一気に降りていった。


「すげえ、Jr以外にもあんな奴が日本にいたのか………」
「自分が行けば互角とは言ってたが、予想以上だ……」
「ちょっと、なんであいつが来てるの?」

 ギガス内で宗千華とランの戦いを見ていたカルロスとフレックがその戦闘力の高さに絶句する。
 が、キャサリンだけは憮然とした顔でそれを見ていた。

「ヤギュウはこの件に関係ないはずよ!」
『プライベートじゃ? マム』
「この際後回しよ、さっさとあの怪獣叩くわよ!」
『了解!』
『イエス・マム!』

 ギガスの巨体が旋回し、アクーパーラへと向かった。


「もう邪魔はいない! 撃て!」
「さっさとその首差し出しやがれ!」

 120mm砲とメーザービームが連射され、アクーパーラの頭部が納まってる個所を攻撃する。
 衝撃と共に分厚い表皮と筋肉の破片が飛び散るが、アクーパーラは首を出そうとしない。

「オオオオォォォォ!」

 ムサシが咆哮と共に国斬丸を胴体下部に突き刺し、一気に薙いでいく。
 だが、その巨体の前には切り傷程度にしかならなかった。

「こいつっ!」

 アニーがバレル・シリンダーを交換した時、轟音を立ててアクーパーラの足だけが突き出される。

「なめやがって!」

 スミスが巨大な足へとカドゥケウスを向けようとしたが、その足が思い切り地面を蹴飛ばした。
 爆音のような音と衝撃と共に、舗装のアスファルトとその下の土塊が盛大に宙へと舞う。
 アクーパーラは何度もそれを繰り返し、その巨体がどんどんと回転していく。

「何を考えてやがる………!まずい離れろ!」

 バリーがアクーパーラの意図に気付いて外部音声を最大にして叫ぶ。
 すでに高速回転に入っていたアクーパーラから、尾がすさまじい勢いで突き出される。
 突き出された尾は旋回の威力を伴い、その軌道上にあった物を人間、パワードスーツ、戦車を問わず吹き飛ばしていく。

「うわあっ!」
「ぎゃっ!」
「がはっ!」
「ぐふっ!」

 人間はまるで木の葉のように舞い、パワードスーツは小石のように飛ばされ、戦車は激しく横転する。

「おわあぁ!?」
「何だ、何が起きた!」
「横転した! 状態回復不能!」
「畜生!」

 激しく揺さぶられたM1A1の車内で、絶叫が響き、やがて動きが止まる。

「おい、真横向いてるぞ!」
「ダメだ! 動かねえ!」

 操縦手のオーストラリア軍兵士が操縦桿とペダルを何度も操作するが、完全に横状態で安定してしまった戦車は無様に妙なダンスを踊るだけだった。

「どうする!? もうこいつは使えねえ!」
「砲はまだ撃てるな!」
「大丈夫、火器管制は問題ない!」
「馬鹿! この体勢で撃ってみろ! 反動でどっちに吹っ飛ぶか分からんぞ!」
「構わん! 弾倉右下、ブルーキャップ特殊弾装填!」
「了解!」

 装填手のSTARS隊員が、バリーの指示通りに青いキャップの戦車弾を取り出す。
 弾丸の薬莢部には、日本語と英語で〈周辺の安全を十二分に確認の上、用法・用量を守って正しくぶち込んで下さい〉と書かれたラベルが張られており、何か嫌な物を感じながら装填手はそれを装填した。

「目標、カメ型巨大BOW! 撃て!」
「目標ロック! 発射!」

 砲手の人民軍兵士がトリガーを引いた。
 轟音と共に、特殊弾が発射された。
 反動でM1A1の車体が旋回し、そのまま傾いて完全にひっくり返ってしまう。

「どうだ!?」

 バリーが外部モニターで砲弾の行方を追う。
 発射された砲弾は、目標へと向かう途中で段々輝いていき、最終的には閃光の塊となってアクーパーラへと直撃、大爆発を起こす。

「何撃たせやがった!」

 ひっくり返った車内にまで響いてくる爆風に、トリガーを引いた人民軍兵士が怒声を上げる。

「まさか反応弾!? いや、プラズマ弾か!」
「戦車砲用のプラズマ弾だと! まだどこでも開発されていない!」
「知るか! オレ宛に宅急便で送られてきた!」
「……どうやら、妙な贈り物を贈ってくるのが流行ってるようだな!」

 砲塔部を旋回させ、砲塔下部のハッチをどうにか開閉可能にさせながら搭乗してた者達が外へと這い出していく。
 そこには、甲羅の一部が大きく吹き飛び、回転が止まったアクーパーラの姿が有った。

「こっちはここまでだ。頼むぞ」


「やった、回転が止まったぞ!」
「核弾頭じゃないわよね?」
『No、対大型目標破壊用プラズマ弾試供品です♪』
「だが、首は出さねえな………」

 ギガスのブリッジ内で、アクーパーラの現状解析が進められていく。

「内部構造が分かれば、そこが突けるんだが……」
『カルロスリーダー、先程の攻撃で目標怪獣の甲羅が一部破損、そこにセンサーポッドを打ち込めば可能です♪』
「本当か! すぐにやれ!」
『了解♪ センサーポッド発射!』

 ギガス下部から光学誘導で小型のポッドが射出され、プラズマ弾が命中した個所へと突き刺さる。
 ポッドは即座に各種センサーで情報を収集すると、ギガスへとレーザー通信で送信する。

『信号受信、解析データ写します』

 ギガスのメインスクリーンに、アクーパーラの内部のスキャン画像が映し出される。

「何だよこいつは………生物か機械仕掛けかも分からねえ………」
「運動系は生物系、輸送系は完全に機械式、完全な融合型か………外殻は複合有機装甲?」
「どうする? こんな大型で重装甲じゃ半端な攻撃は…」

 操縦桿を握っていたフレックが、甲羅の一部に出来ている大きな傷、彼自身がホルスを突っ込ませた個所の損傷が内部生体部分近くにまで達しているのに気付いた。

「あったぜ……あいつを倒す方法!」
「どうする気だ? まさかこれを突っ込ませる気じゃねえだろな」
「当たりだ!」

 フレックがギガスの艦体を急上昇させていく。
 艦体の角度が急になりながら、どんどんと速度と高度が上がっていく。

「本気か! こいつを使い捨てるのか!?」
「いや、専用の武装が付いている!」
「なるほどね! 垂直状態に移行後、反転しながら急降下! 同時に艦首展開、レーザードリルスタンバイ!」
『了解♪ 降下と同時にクラッシャーモードに移行します』

 とうとうギガスの角度が垂直状態にまでなった所で、エンジンが一時停止、姿勢制御用バーニアを吹かせ、その巨体がその場で反転を始める。

「今やっと分かったぜ。フレック、手前は両親のやばいとこ両方遺伝してっだろ!」
「何を今更!」

 反転が終わった所で、フレックが一気にエンジンをフル出力。
 ギガスが急降下を始めながら、艦首が展開、そこに内蔵されていた突撃用のレーザードリルが露となる。
 交互型の旋回盤がレーザー出力の青い光を発しながら、猛回転を始めた。

「最大出力! 目標怪獣に突撃!」
『総員、対ショック体勢を取ってね♪』
「どうだよ!」

 カルロスが怒鳴りながらも、下の状況を確認。
 何が起こるかを理解したらしい下の人間達が避難を始めてるのを確認してほくそ笑んだ。

「食らいやがれええェェェ!!」

 地面とそこに鎮座するアクーパーラが急激的に大きくなっていく中、フレックが狙う場所、ホルスの直撃点に狙いを確実に定めていく。
 狙いたがわず、ギガスのレーザードリルが艦体の大質量による加速を伴ってその場所に直撃する。
 すさまじい轟音と共に甲羅が砕け散り、ドリルが旋回しながら更に内部へと潜り込む。
 爆発のような勢いで土煙が吹き上げ、甲羅の破片や格納部の金属片、そして肉片が周辺とぶち撒けられる。
 吹き上がったオイルと血がギガスの艦体を染め上げる中、艦首を完全に埋没させてようやくギガスの動きが止まった。

「やったか!」

 カルロスが声を上げる中、アクーパーラの四肢と尻尾が伸ばされ、最後の力で立ち上がろうとするが、やがて力尽きて四肢が投げ出される。

「目標怪獣の生体反応確認!」
『生体反応、急速的に低下。いえ、内部で活性化してる部位を確認!』
「まさか覚醒か!?」
『No、目標内部を移動中! 全長約7m!』
「何だ、何がいる!?」

 現状で使える武装を操作しようとしていたカルロスとフレックが、それまで動かなかったアクーパーラの頭部がいきなり動いたのに気付いた。
 その頭部を内部から弾き飛ばしながら、巨大な異形が姿を現す。

「あれは!」
「プラーガか! デカい!」

 それは、象ほどの大きさにまで巨大化した寄生生命体プラーガだった。
 それに向かって、三つの影が走り出す。

「行くぞムサシ、アニー!」
『了解!!』

 ケンド親子が、それぞれの得物を持って、巨大プラーガへと突撃していく。

「SHOOT!」

 まず先に出たアニーがカオス・メーカーを構えて連射。
 迫ってくる巨大プラーガの足を超高速弾で全て撃ち抜き、そこにムサシが国斬丸を納刀状態で接近、間合いに入ると同時に一気に抜刀した。

「ハアアアァァァ!!」

 巨大な刃が超音速で巨大プラーガの胴を斬り裂き、突き抜ける。
 盛大に血しぶきを噴き出し、巨大プラーガが絶叫を上げる中、スミスがカドゥケウスの出力を最大にセット。
 出力が高まっていき、使い果たされたバッテリーが次々と排莢されていく中、スミスは血しぶきをあげて悶える巨大プラーガに照準をセット。

「くたばりやがれ! FIRE!!」

 眩いばかりの閃光と共に、最大出力のメーザービームが照射。
 直撃した巨大プラーガは断末魔の絶叫を上げながら、数秒間閃光に耐えたが、その体が一気に沸騰、大きな気泡と共にその体が膨れていき、限界を迎えたその体は無数の肉片となって跡形もなく吹き飛んだ。

「ざまあ見やがれ………」



 大口径特有の轟音と共に、狭い通路に銃火が交錯する。
 一発ごとにFは目まぐるしくその位置を変え、床、壁、天井を問わず高速にその体が動く。
 それに対し、レオンはまったく違う動きをしていた。
 その場からあくまでゆっくりと動く。
 体の動きはゆるやかで、それでいて相手が狙うであろう急所は留まる事が無い。
 両者に共通しているのは、お互い構えた銃の銃口は相手から0コンマ足りとて外される事はない事だった。

「すごい………」

 神経電子工学者として、人間の動きは徹底的に研究したはずの智弘だったが、両者の対極的な動きにはどちらも絶句していた。
 機械改造の機動力を最大限に生かし、目まぐるしく動く事で相手を霍乱しつつ、銃撃の正確さをまったく失わないF、無駄を一切排した動きで、相手がどこを狙うかを完全に予測し、それを留まらせない事で銃撃をかわし続けるレオン。
 S&W M500とデザートイーグル 50AE、どちらもその圧倒的な破壊力で一発でも相手に叩き込めば終わる。
 戦闘スタイルはまるで同じで、まるで違う。
 M500弾がレオンのコメカミをかすめ、皮と肉がわずかに千切れ飛ぶ。
 50AE弾がFの頬をかすめ、血が滲み出す。
 双方至近弾での負傷はおびただしいが、その動きによどみはまったく無かった。

「あ……」
「動かない方がいい」

 意識がはっきりしないまでも、容態は安定したらしいトモエが身じろぎしたのを智弘はたしなめる。
 隣にはCZ75を構えたリンルゥが震える手で何とか援護を試みようとしていたが、二人のレベルが違いすぎる戦いに手を出せずにいた。

「信じられない………ボクはかわすのがやっとだったのに………」
「経験が違いすぎるんだよ。長官は君が生まれるよりもずっと前からあんな連中を相手にしてきたんだ………」

 戦いは硬直状態で、足元に膨大な空薬莢と空のマガジンが転がっている。
 最後の一発を残し、レオンがマガジンを交換しようとした時だった。
 突然、大きな衝撃が本部全体を襲った。

「きゃあっ!」
「うわあぁ!」

 直下型地震でも起きたかのような衝撃に、レオンの手からマガジンが滑り落ちる。
 それを隙と見たFが一気に間合いを詰めながら、M500を向けた。
 しかしレオンが放った最後の一発が、Fの手からM500を弾き飛ばす。

「長官!」
「あっ! ダメだ…」

 思わずリンルゥが飛び出し、こちらへと転がってくるデザートイーグルのマガジンを拾ってレオンへと投げようとした時だった。
 Fが左手を捻ると、ガントレットに内臓されていたスペアのハンドガンが排出される。
 Fの左手がそれを握り、銃口がリンルゥへと向けられた。

「あ…」

 反応する暇も無く、トリガーが引かれる。
 銃弾が撃ち出され、リンルゥへと向かう寸前、その間に入り込んだ者がいた。
 銃弾は、目標との間に割り込んだ者、レオンの背中に突き刺さる。

「え……」

 ゆっくりと倒れるレオンの姿に、とっさに状況が理解出来ないリンルゥだったが、その手からマガジンが素早く抜き取られる。
 床へと倒れこんだレオンが即座に裏返ると装弾を終えたデザートイーグルがFへと向けられる。
 銃声は二つ。
 放たれた銃弾は、互いの右肩を撃ち抜いた。

「く………」
「ち、長官!」

 床へと広がっていく血溜まりに、リンルゥの顔色が変わる。
 レオンの手からデザートイーグルがこぼれ落ち、即座にレオンは左手に持ち替えようとするが、その腹に再度銃弾が叩き込まれる。

「がはっ!」
「い、いやああぁぁ!」
「長官!」

 いつの間にかM500を拾っていたFは、防弾チョッキをも貫通する大口径弾をレオンへと撃ち込んでいた。

「最優先目標、消去」

 血反吐を吐いたレオンに、止めを刺そうとするFをリンルゥは見た。

「あ、ああああぁぁぁぁ!」

 絶叫しながら、無意識にリンルゥの手は脛の護刀《玲姫》へと伸びていた。
 レンに叩き込まれた動きが、予想もしない正確さで出てきた。
 意識すらせずに認識できたFの行動の〈死角〉に一瞬で飛び込み、前へと大きく歩を踏み込みながら、体を捻る。
 バネのような動きで体が螺旋を描き、全身の力を乗せた刃が、下段から一気に上へと振るわれた。
 引き抜かれた刃はFの頬を下から斬り裂き、頭の上部を覆っていたヘルムを弾き飛ばしていた。

「え……」
「……やっぱりか」

 ヘルムが弾き飛ばされ、その下に隠されていたFの素顔が露になる。
 それを見たリンルゥは思わず倒れているレオンの顔を見、再度Fの顔を見た。
 そこには、年齢を除けばレオンとまったく同じ顔が有った。
 若い頃のレオンその物の顔を持ったFは、リンルゥの一撃で斬り割かれた顔に手をやる。
 頬の下から入った斬撃は、そのままFの左眼までもえぐっていた。

「まさか、あなたは………」
「………」

 無言のFがリンルゥに銃口を向けようとするが、そこで彼の首筋に付けられていた通信機が短い電子音を鳴らした。

「ケースCにて作戦終了。帰還する」

 何かの暗号だったのか、それを聞いたFは即座に踵を返すと、高速でその場から立ち去っていく。

『通信網回復を確認! STARS総員現状を報告せよ! 繰り返す! 現状を報告せよ!』

 呆然としていたリンルゥの耳にセットされた通信機から、アークの声が響く。

「アークおじさん! 長官が、長官が………」
『リンルゥか! 落ち着け、レオンがどうかしたのか!?』

 現状を正確に報告しようとするが、自分の口が上手く動かない事にリンルゥは焦りを感じる。
 それでも、何とか報告をしようとするリンルゥの声には、嗚咽が混じっていた。



「はあぁぁ!」

 レンの振り下ろした刃が、ジンの白装束の一部をかすめ、斬り割かれた特殊防弾繊維の破片が宙を舞う。
 大業物の妖刀はそのまま路面までをも斬り裂き、急速度で跳ね上がると刺突となってジンを狙う。

「さすが」

 ジンは刺突を刃で横へと受け流し、至近でレイ・ガンをレンへと向ける。

「おおおぉぉ!」

 レンは避けるどころか、刺突の体勢のまま前へと踏み込み、刀を横へと傾けながら左手だけの片手持ちに変え、大通連の峰へと右の拳を叩き込んで強烈な横薙ぎを繰り出す。

「ふっ………」

 片手でそれを支えきれないと悟ったジンはレイ・ガンを構えたまま、左手で切っ先の峰を抑え、かろうじてレンの斬撃を押さえ込む。

「やっぱ、刀の性能ってあるよね。兄さんさっきとまるで戦い方が違うよ」
「そうだな。もっともこいつを折ったりしたら御神渡門派の人間に殺されるが」

 妖刀として名高い刀の、研ぎ澄まされ、妖艶ささえ漂う刃が拮抗する。
 それを使う二人の剣士は、まるで談笑するような口調だが、その手の刀には目に見えない微妙な力加減での死闘が繰り広げている。
 だがそこで、ジンの襟に付けられた通信機が短い電子音を鳴らした。

「おっと、どうやら時間切れみたい」
「時間?」

 レンがその言葉に僅かに反応した瞬間、ジンが踵を数度踏み込む。
 するとジンの靴から突如としてガスが噴出した。

「これは!」

 レンは刃を引いてとっさに後ろへと飛び退りながら、懐から緊急用の小型ボンベを取り出して口に咥えた。

「大丈夫、吸い込んでも少し動けなくなるだけだから。またね、兄さん」

 ガスが更に吹き上げ、ジンの姿どころか周辺の様子すら見えなくなっていく。
 そこでレンは構えを解き、目を閉じ、周辺の気配を探っていく。
 遠近双方から響いてくる銃声や爆音を意識して遠ざけ、心を止水のように鎮めていく。
 そして自分から遠ざかる気配を捕らえると同時に、間合いを一気に詰めて高速の動きで刃を振るった。
 確かな手ごたえと共に、余波で斬れたガスの向こうの光景が見えた。

「やっぱり、そう来るよね………」

 そこには、手近のBOWの死体を引き寄せて盾にしていたジンの姿が有った。
 死体は両断されて地面へと落ち、防ぎきれなかった斬撃がジンの胸を斜めに割いた。

「危ない危ない」

 その懐から、両断されたレイ・ガンの残骸が零れ落ちる。

(あれの分、浅かったか………)

 再度レンは刀を構えようとするが、噴出を続けるガスが肌や鼻腔から僅かに吸収されたのか、その動きが鈍る。

「危ない!」

 横から響いたシェリーの声に、レンは思わずその場に伏せる。
 背を鋭い何かがかすめるのを感じながら、レンは横へと転がってガスの範囲から逃れた。

「じゃあね、おばさん」
「逃がさないわよ!」

 ミラの背から、巨大な翼が生えてはためく。
 シェリーは追撃しようとするが、ミラが手を前に差し出すと、手足の生体装甲から次々とスパイクが撃ち出され、防御に従事しなくてはならなくなる。

「それじゃあ!」

 ジンの腕を掴むと、ミラの体が宙へと浮いた。
 そのまま二つの影は遠くへと飛び去っていく。

「逃がしたか………」
『通信網回復を確認! STARS総員現状を報告せよ! 繰り返す! 現状を報告せよ!』

 通信機から響いたアークの声に、レンは遠ざかっていく影を見ながら報告を入れる。

「こちらレン、シェリー隊長とジン及びミラと名乗る4エレメンツと戦闘、双方取り逃がしました」
『リンルゥか! 落ち着け、レオンがどうかしたのか!?』

 だがその報告以外の物に反応したらしいアークの声に、ただならぬ物を感じたレンとシェリーは顔を見合わせ、唾を飲み込んだ。



「大物は片付いた! 残りを掃討する!」
「この状態で?」

 艦首をアクーパーラへと突き刺し、倒立状態になっているギガスの内部でミステルテインを手にしたフレックが出ようとするのを見たキャサリンが呆れ顔でため息を漏らす。

『外部BOWに異変! 自己融解が始まってる!』
「何だと!?」
「詳細報告!」

『TINA』の報告に二人の顔色が変わる。

『生体センサーに感知できる全BOWの生体反応が急変! 戦闘状態を停止、融解が始まっています! 恐らくは人為的アポトーシスが発動した物だと思われます!』
「どういう事だ!」
「……使い捨てだったんだわ、全部」
「ばかな! この規模のBOWを!」
『下部怪獣にも融解を確認! バランス喪失の可能性により艦体制御必要!』
「くそ、どうなってるんだ!」

 操縦桿を握りしめたフレックは、副操縦席に座っているカルロスがコンソールに突っ伏したまま動かないのに気付いた。
 その足元には、腹から滲み出した血が下半身を真っ赤に染めて血溜まりとなっていた。

『!! カルロスリーダー、生体パターン・レッド! 緊急救命措置必要!』
『通信網回復を確認! STARS総員現状を報告せよ! 繰り返す! 現状を報告せよ!』

『TINA』の報告に、アークの声が重なる。

「こちらギガスブリッジ! 外部にて大型BOWの撃退に成功! ただしカルロス隊長が重傷! BOW達の自己融解も確認した! 早く救護班を!」
『リンルゥか! 落ち着け、レオンがどうかしたのか!?』

 アークのただならぬ声に、フレックは全身の血の気が引いていくのを感じた。

「まさか、長官まで!?」


 戦闘が急に終了した困惑を感じる者達の元に、もっとも恐れていた事態が伝播していく。
 それは聞いた者達すべてに驚愕と不安、そして恐怖を小波のように広げていった。

 STARS長官、レオン・S・ケネディ 重態
 生還の可能性、不明…………



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