第一章「見参!異端の継承者!」


BIOHAZARDnew theory
FATE OF EDGE



第一章「見参!異端の継承者!」


2029年 11月 アメリカ インディアナ州インディアナポリス

 爆音と共に、街の一角が吹き飛ぶ。
 吹き付けてくる爆風と吹き飛ばされた残骸を浴びながら、居並ぶパトカーの陰の警官達は歯軋りした。

『早く金とヘリをよこせ!でねえとこの街が廃墟になっちまうぞ!』

 燃え盛る街を見ながら、その破壊をもたらした物、米軍正式採用機動装甲ユニット《ボルテクス》を駆る男が吠える。

「くそ、州軍はまだか!相手が軍用じゃこっちのスーツなんて盾にもならねえ!」
「ダメです!先日の竜巻被害の救援に向かってて、到着まであと30分はかかります!」
「留守番くらい残しておきやがれ!よりにもよってあんな物騒な物盗まれやがって!」

 現場の指揮を取る警部がオペレーターの婦警にどなる中、全高が3mに達する巨大なパワードスーツから再度ミサイルが放たれる。

「くそっ!」
「わあっ!」

 ミサイルはパトカーをかすめ、背後の無人の車を吹き飛ばす。

『ミサイルはまだまだあるぜ!これから5分過ぎる事にパトカーどれか一つずつ吹き飛ばしてやる!逃げたらビルにぶちこんてやるから、それがイヤなら早く要求を飲みな!』
「言いたい放題言いやがって………」
「仕方有りません、あれの装甲は戦車砲でもなければ破れませんし………」
「だからSWATにレールガンを導入しろって言ったんだ!グレネードじゃ歯も立たないし、ECMとレーザージャマーでロケット弾も外れちまう!手が無いじゃねえか!」
『あと二分だ!二階級特進したくねえ奴は逃げるこったな!』
「く………仕方ない、一時撤た……」
「あ、はいはい、え?何ですって?それは一体………」

 撤退を指示しようとした警部に、首を傾げながら婦警が今入った通信内容を告げる。

「あの、今FBIから現状処理のために捜査官が一名向かっているとの連絡が………」
「FBIだ!?今欲しいのはネゴシエーターでもプロファイラーでもねえ!軍隊が必要なんだよ!」
「それが、『もう事件は解決した。撤退の準備をされたし』だそうですが……」
「なんだそりゃ!まだ着いてもいないのにそんな訳ない…」
『時間だ、さて、ど・い・つ・に・し・よ・う・か・な?』

 ボルテクスの左腕にセットされたミサイルランチャーが周囲を取り囲むパトカーに順に向けられる。

「撤退だ!巻き添えを食うぞ!」
『決めた、そい…』

 ミサイルを発射しようとした瞬間、ボルテクスの頭上に一機の高速ヘリが飛来し、そこから強力なサーチライトが当てられる。

『うぜえ!まずは……』

 目的を頭上のヘリに変更しようとしたボルテクスのカメラアイに、そのヘリから飛び降りた人影が映り込む。

『あ?』

 ボルテクスを駆る強奪犯が首を傾げる中、その人影が10m以上はある高度を物ともせずに落下し、平然と地面へと降り立った。

『何だ、てめえ……』

 着地の姿勢から起き上がった人影を確認した強奪犯の疑問は更に深まる。
 そこにいたのは、墨色の小袖袴に身を包み、腰に一振りの日本刀を下げた鳶色の瞳と僅かに伸ばされた同色の髪を持つ若い男だった。

「FBIだ。お前を無差別破壊及び大量殺人未遂の現行犯で逮捕する。おとなしく投降する事を勧告する」

 男は左腕を持ち上げ、そこにある多機能腕時計から身分の証明であるFBIのホログラフロゴを浮かび上がらせながら宣言する。

『ぶ、ぶひゃひゃひゃ!何がFBIだ!ハロウィン気分が抜けてないサムライ野郎じゃねえか!そんなサムライブレードでどうやってこのオレを逮捕するって?』
「投降の意思は無しか」
『ある訳ねえだろ!エセサムライ!』

 吐き捨てると同時にボルテクスの右腕が持ち上がり、そこにセットされている20mmチェーンガンが回転を始める。

「退避だ!なんなんだあの馬鹿は!」
「知りませんよ!」

 突如として現れた謎の男に毒づきながら、警官達が一斉に逃げ出す。
 吐き出された弾丸が、無人となったパトカーを次々と撃ち抜き、炎上させる。
 しかし、その時謎の男はすでにその場にいなかった。

『!?』

 強奪犯が相手の位置を確認しようと頭部のカメラアイを操作しようとした時、突然モニターがブラックアウトした。

「投降の意思を確認出来ず。確保する」

 一瞬にして真横に跳んで弾丸から避けた謎の男の手には、いつの間に抜いたのか一丁のハンドガンが握られていた。
《サムライソウル2》と刻印されたベレッタをモデルとしているハンドメイドカスタムガンから連続して放たれた非貫通性LM(リキッドメタル=流体金属)弾は、正確にカメラアイのカバーを破砕し、カメラアイを貫いていた。

『舐めやがって!』

 各種センサーから相手の位置を割り出した強奪犯は、激怒しながらチェーンガンを再度謎の男に向ける。
 こちらに向かって放たれようとする銃弾を意にも介さず、謎の男はボルテクスとの間合いを詰めつつ、腰の刀に手を伸ばした。
 虚空に、鞘鳴りの音が響く。
 抜き放たれた刃は、的確にチェーンガンの給弾チューブを斬り裂き、切断面から押し出された弾丸がアスファルトの路面へとばら撒かれて甲高い音を立てていく。

『この!』
「遅い」

 強奪犯は脚部の高速移動ギヤを機動させて左腕のミサイルランチャーを向けようとするが、突然ボルテクスの機体が崩れる。

『!右脚がイカれてる!?いつ?』
「二回斬ったのが見えなかったか?」

 謎の男はボルテクスの背後から回り込み、返す刀でミサイルランチャーの給弾チューブと左脚部の動力パイプを切断、ボルテクスは完全にその場に擱座する。

『ふ、ふざけるな!』

 ボルテクスは残った両アームで謎の男を捕らえようとするが、謎の男はその隙間をかいくぐり、ボルテクスの両腕の付け根、装甲の僅かな隙間に鋭い刺突を突き刺す。
 腕部アクチェーター(関節機構)の支点を破壊され、ボルテクスの両アームが力を失う。

『動け!動きやが…』

 強奪犯が何とかボルテクスを動かそうとするが、突然ハッチが開き、そこには自分に向かって銃口を向けている謎の男の姿が有った。

「逮捕する」



「な、なんだありゃ…………」
「すごい、ハンドガンとカタナだけで片付けちゃいましたよ…………」

 戦闘の全てを見ていた警部と婦警が、謎の男の非常識なまでの強さを見て唖然としていた。

「カタナを持った黒尽くめのサムライ……まさか!?」
「知ってるんですか?」
「噂だが、FBIにどんな凶悪犯罪でも解決しちまう凄まじい捜査官がいるらしい。しかも、相手がギャングだろうがテロリストだろうが、ハンドガンとカタナだけで片付けちまうという話だ。てっきり架空の存在だとばかり思っていたが…………確か、名前は」
「この現場の責任者は?」

 いつの間にか間近まで迫ってきていた謎の男に、警部が畏怖と尊敬の篭った視線を向ける。

「私だ。あんた、いったい………」
「FBI特異事件捜査課捜査官、レン・水沢だ。後の処置を頼みたい」
「あ、ああ。分かった」
「一任する」

 それだけ告げると、男=レンは上空に待機していたヘリから下ろされたラダーを掴む。
 レンが登りきる前に、ヘリはその場から飛び上がり、今だ戦闘の余熱が残る現場を後にした。

「あれが、FBI最強の捜査官、またの名をブラックサムライ………」



後日 アメリカ ワシントンDC FBI本部

 雑多な人種が行き交うロビーの中、一人の男が歩いていた。
 スーツ姿の金髪の中年男性、サングラスをかけ、杖をつきながら歩くその姿自体はさほど珍しくもなかった。
 しかし、男の姿は明らかに周囲から浮いている。
 その場にいるのはほとんどがFBIの捜査官や職員、独特の雰囲気をまとった者達の中でも、彼のまとう雰囲気は抜きん出ていた。
 ただ、何気なく歩いているだけにも関わらず、その全身からは猛禽の瞳のような鋭さが滲み出している。
 よく見ると、男の前髪とサングラスによって隠れているが、男の額には何か傷跡のような物もあった。
 凶悪犯の相手なぞ慣れている歴戦の捜査官ですら、思わずその雰囲気の前に彼に道を譲ってしまう。
それを気にする風でもなく、男はロビーを歩いていた。
 やがて、オフィスへと続くゲートの前に立つ新人の監視員が、彼の姿を確認した。

(何者だ?見た事無い顔だが………)

 監視員が訝しげに顔をしかめ、男を見る。
 男はゲートの手前まで来た所で、ようやくゲートに気付いたのか歩みを止めた。

「IDを」
「分かった」

 男は懐に手を入れると、そこからFBIの物とは違うIDカードを取り出す。
 それを見た監視員の顔色が一瞬で変わった。
 監視員の上部に取り付けられたセンサーがそのカードをオートスキャンし、本物である事を示す電子音が鳴り響く。

「し、失礼しました!どうぞお通り下さい!」
「任務ご苦労」

 その場に直立不動した状態で敬礼する監視員に礼を述べつつ、男はゲートを潜る。

「?ジョン、今の誰だったんだ?」

 男の後ろで順番待ちをしていた捜査官が、半ば石像と化している監視員にIDを見せつつ問う。

「あ、あの人が、ICPO直属特殊機動部隊《STARS》長官、『イーグル・ハート』のレオン・S・ケネディ…………」



 かつて、国際企業《アンブレラ》が世界規模で行っていた非人道的生物兵器の大規模実験・生産を、《STARS》と呼ばれた元特殊部隊から構成された組織が明るみにし、壮絶な死闘の末にアンブレラが壊滅した通称《アンブレラ事件》から26年。
 STARSはその能力を買われ、ICPOにそのまま吸収、アンブレラ事件の残務処理についた。
 しかし、2015年に日本で開発された微低温超伝導物質の開発から端を発する最新鋭技術の異常成長が、世界中の警察組織の有り様を一変させた。
 次々と開発されていくハイパーテクノロジーとそれに付随するあらゆる事件、いかな最新技術もすぐに老朽化していく状態に、世界中の警察組織は後手を踏み続け、STARSはその多用な経験からあらゆるハイテク凶悪犯罪に投入され続けた。
 しかし、世界最高の処理能力を持つにまで至ったSTARSが、渇望する男が存在する。
 かつて、STARS最強とまで呼ばれた男の血と技を受け継いだ者が………



FBI本部 特異事件捜査課オフィス

 多忙を示すかのように程よく散らかっているオフィスの中央、そこだけが整然と片付いているデスクに座ったレンは、この間のパワードスーツ強奪事件の報告書に目を通していた。

「被害は少なく済んだか………」

 詳細に目を通しつつ、読み終えた報告書を一度デスクに置く。
 かつては未解決事件の再捜査が目的で作られた部署であるこの特異事件捜査課も、今ではハイテク及び異常犯罪専門の捜査部署へと変貌を遂げざるを得なかった。
 昔はやったドラマからX―ファイル課と呼ばれる事もある特殊部署随一の捜査官は、手元のファイルに報告書のナンバーと詳細を記して分類すると、報告書を後ろも見ないで書類ボックスに投擲、投じられた報告書は狙いすましたかのようにボックスの余白に納まる。

「レン、ちょっといい〜?」
「なんだ、トモエ」

 レンの背後から白衣を来た金髪黒瞳の少女、若干12歳にしてMIT(マサチューセッツ工科大学)生物学部を主席卒業してFBIの科学捜査班のメンバーとして入隊、現在では特異事件捜査課の鑑識を勤めるトモエ・バーキン・八谷が手にしたファイルを見せつける。

「この間のレンの日本出張の時の報告書、レベル4に指定されてて見れないんだけど、なんで?」
「スクエア・カンパニーが絡んでたからな。アメリカ支社から手を回して封じさせたんだろう。よっぽど外部に失態漏らしたくないと思われる」
「新開発の生物兵器だったって噂もあるわよ?そんなの……」
「そうだったらこちらの管轄だろうな」

 オフィス入り口から聞こえた声に二人が振り向く。

「レオンおじさん!」
「久しぶりだな、二人とも元気でやっているようだ」
「お久しぶりです、レオン長官」
「噂は聞いている。軍用パワードスーツ強奪犯を3分で確保したそうだな」
「相変わらず耳が早い」
「無論だ、是非とも欲しい人材の動向だからな」

 冗談とも本気とも取れないレオンの口調に、レンとトモエの二人が苦笑しながら肩をすくめる。

「あげませんよ」

 そんな中、3人のやり取りとは違う、非好意的な女性の口調が混じる。

「いつも同じ事を言われるな、ここに来ると」

 レオンは苦笑しながら背後へと振り向く。
 レオンの背後にいきなり現れた三十代半ばのブロンドで眼鏡を掛けた知的そうな雰囲気の女性、特異事件捜査課課長キャサリン・レイルズがにこやかにレオンを睨みつける。

「ただでさえ人手不足なんです。ヘッドハンティングなら別の部署にしてくださいません?」
「いくらFBIでも、こちらの要望に応えられる人材は少なくてな」

 おだやかにドスを効かせるFBI有数の才媛にして随一の変人と言われているキャサリンの言葉に、レオンは口調を変えず応える。

「オレの知らない間にいつのまにかSTARSのPA扱いになっているのは………」
「それはオレも知らない間にだ。オレ以外全員認可してた可能性も高いがな」
「勝手に人の部下を取るな!!」
「課長、落ち着いて………」

 火でも吐きかねないキャサリンをトモエが慌てて押さえる。

「で、何しに来たのかしら?」
「たまたま会議のついでに寄ってみただけだ。別に勧誘に来た訳じゃあない」
「そう言えば、パパとママは元気ですか?」
「みんな相変わらずだ。カルロスはそろそろ引退すると言っていたな」
「カルロスおじさんはまだ充分現役だと思うけどな〜」
「必要以上に衰える前に身を引いておきたいんだろう。部下にあの二人がいるんじゃ、苦労倍増だろうしな」
「ケンド兄妹はよくやってくれている、暴走しやすいのがやや難点だがな。二人そろって父親似だな」
「カルロス隊長もそう言ってたな。『スミスの奴、どこで育て方間違えやがった?』って」
「だが、使える。上品なだけのエリートなぞ、STARSでは使い物にならないからな」

 ふとそこで、レオンの電話機能内蔵型の腕時計がコール音を鳴らした。

「私だ」
『長官、コードDの報告がありました。10分以内にそちらに迎えが参ります、至急お戻りください』
「そうか、分かった」

 電話口からの秘書の言葉に返答したレオンは、おもむろに踵を返す。

「急用だ、また今度」
「いつも忙しいね〜、もう年なんだから無理しないようにね♪」
「ああ、そうだな」

 部屋を出ようとするレオンに、レンは口を開く。

「コードD、最危険事件の可能性ですか………」
「また、手を借りるかもしれない。その時は頼む」
「ええ………」

 レンの返事を確かめつつ、レオンが部屋を出て行く。

「あくまで貸すだけですからね、レンもトモエもあげませんよ!その辺は理解してるんでしょうね?」

 ドアから遠ざかるレオンの背中にキャサリンの声がかかるが、当人は軽く手を振るだけで相手にもしなかった。

「課長〜、いつもの事なんですから何もそこまで………」

 トモエの言葉に、キャサリンが視線で応える。充分な怒気を孕んだ視線で。

「あ、はい。お塩ですね、いつものとおり!」

 トモエが自分のデスクの下から、塩の入ったガラス瓶を取り出して、キャサリンへと渡す。

「分かればよろしい」

 手荒くガラス瓶を受け取ったキャサリンは、手で掴み取れるだけの塩を、勢いよく床にばら撒く。

「課長、掃除のステアおばさんにまた怒られ……」

 レンの言葉に、同じくキャサリンは視線で応える。先ほどと同じように。

「いえ、日本の正しい風習です、どうぞご存分に」

 視線を課長から、机の書類へと逃げたレンは彼女の事を放っておいて、思案にふける。

「さて………」

 レオンの出て行ったドアに塩を撒きつづける課長を呆れた顔で見つつ、レンはイスの脇に置かれた自らの愛刀に手を伸ばす。

「手を借りる、か………」

 僅かに抜いた刃に、何か影が差したように見えるのに、レンは静かに息を吐いた…………



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